59 人質救出アンダーグラウンド 中編
俺が待ち合わせ場所に到着して15分ほどしてからエリアンテらも若干息を切らしながらも無事に合流した。
ここから更にハイオークらの巣まで歩く必要があるのだが、彼女達からどうやって人質を助けるのかを問われてそういえば説明していなかった。
じゃあ歩きながら説明するわ、と目的の場所に向かいながら今日偵察した状況について話した。
昼間にはハイオークが1匹とオークが40匹ほどだったが、食糧を狩りに行っていたオークが戻ってきたので今は80匹ほどが拠点にいる。
それはちょっと無理では、と彼女達は弱気であるが、40匹でも80匹でも正面からは無理だ。
じゃあどうするのかというと、オーク達に気付かれないように人質を救出するというプランになる。
そのために必要なアイテムは昼間のうちに用意しておいた。
ここでストップ、ここはオークや人質達のいる洞窟から裏側に約500メートルほど離れた場所だ。
ここに何があるのかと聞かれて見せたのは、地面に掘られた人一人が入れそうな一つの穴、これが救出の要となる。
この穴は俺が昼間にサンドワームとなって掘った穴で、人質のいる牢屋の地面の真下まで掘られている。
あとは上に向かって掘れば牢屋の中に直通の穴が完成、外への逃げ道が出来るのでその穴から人質達を脱出させるという寸法よ。
エリアンテ達の役割は俺ともう2人ほどで人質の足だけを自由にして牢屋から脱出させること、その後のアズールまでの護衛となる。
救出プランを説明して質問があるか尋ねたところ、どうやってこんな穴掘ったんですか、とムンクから救出に何一つ意味のなさない質問をしてくる。
救出プランにそれ何か関係あるの、最後にしろと却下したがこれ以外質問がなかったので答えるが、ただ単純に土魔法と手で掘ったと説明した。
しかし彼女達はええっ、と本気で信じているか疑わしい様子。
実際嘘だから仕方ないが。
普通土魔法で地面を掘れる速度は人がスコップを使用して地面を掘る速度に毛が生えたようなものである。
1人で1日足らずで500メートル地面を掘り進んだと言われても俄かには信じがたいであろう。
だが現実に不可能かと問われればそうでは無い。
この世界にはマジックアイテムがあるからだ。
例えばこの間参加したオークションに出品されていたアースドラゴンハンド。
あのマジックアイテムがあれば同等の穴を掘ることは不可能ではない、と思う、使ったこと無いから知らないけど。
じゃあ他に質問ないなら夜が更けている間にやってしまうぞ、救出人員は俺とリーダーのスポンジ、それとムンク。
エリアンテと今日初めて会った新メンバー、変な果物臭がするのでアルチンと命名した2人はこの穴の出入り口で待機。
人質が穴から出てきたら手と口を自由にして、静かに待たせておくのが役割だ。
自由になった人質はその場でどんな行動を起こすか分からんからな、素人は何をするか予測がつかない。
下手に騒いでオークらに見つかってはいけないから黙らせておけよ、と2人に十分言い聞かせて俺達救出チームは穴に潜っていった。
穴の中は当然のように真っ暗である。
サンドワームならば何の問題も無かったが普通の人間はもちろん今の俺にも大きな支障がある。
ボブネとムンクに命令して20メートルほどの感覚で灯かりの魔法を唱えさせて退路を分かりやすくしておく。
これで俺達の案内が無くても助けられた人質は無事エリアンテらが待機している穴の出口まで辿り着けるだろう。
道中の明かりを確保しつつ、俺が掘った穴の終着点まで到着することが出来た。
「土よ、道を作れ。我が手の先の土を避け、人の行き先を示せ! アースドーザー!」
手を上に向けて魔法を唱えると、土がぼろぼろと落ちてくる、地表まで約50センチメートル、15分ほどで人がギリギリ通れる穴を開通させることが出来た。
穴から頭をひょいと出して状況確認。
人質7人は床に寝させられて就寝中、見張りのオークは……一応檻の外に2匹いることにはいるが両方寝ているようだ。
普通は檻の外への脱走を防止するためにいるからな、いきなりここに敵が現れるなんてことが無いから完全に油断しているようだ。
スポンジとムンクに合図を出して3人とも地上に進出、やるぞと指で合図をして人質を運び出す作業を開始した。
役割は俺がオークの警戒兼穴の位置へ手招きでの誘導、スポンジとムンクが人質を起こして足の束縛を解くという分業制だ。
全員で人質を起こしたほうが良いかもしれないが、このような分業制になったのはいくつか理由がある。
まず穴の位置が予想よりも牢屋の出入り口に近かった。
もしかしたら救出作業中に見張りのオークや起きているオークに気付かれるかもしれない。
そのようなことが起きた場合、牢屋の出入り口を魔法で丸ごと塞ぎ時間稼ぎをするのだが、そのような魔法が出来るのは俺しかいない。
もう一つの理由は俺が男でありスポンジとムンクが女だからである。
捕らわれているのは皆女性、しかもオークに襲われているため男性への忌避感が強くなっている可能性がある。
助けが来るはずの無い場所、そこで突如起こされて目の前に見知らぬ人が居れば猿轡があるとはいえ悲鳴をあげてオークに気付かれるかもしれない。
ただし助けに来たのが女ならば男より精神的動揺は少ないのではないだろうか。
それに服装も街中を歩けないような格好になっているので見られるなら男より女のほうがいいだろう。
まあ近くに俺という男がいるのだが、助けられた後に手招きしている人物が男か女かよりもここから無事逃げられるのかで頭が一杯なので心配ないだろう。
人質は音がバレにくい牢屋の奥の方から解放する手立てとなっている。
突入して数分後1人目の女がこちらのほうに歩いてきた。
指で穴を指差すと会釈をして穴に下りていった、会釈している時間も惜しいから早く行けと言いたい心情ではあるが相手の気持ちも分からんではない。
2人目も来たが何故か足だけではなく手の拘束も解かれていた。
手の拘束を解くと救助に来た安心のあまり救助者であるスポンジやムンクに抱きついたりして余計に時間がかかる可能性があったので止めろと言ったのだがなぁ。
でも穴に下りるときは便利か、俺の指示を無視しているのは気に食わないが今は責める時間も無い。
1人また1人と人質が穴の中に入っていき、7人全員のプリズンブレイクが成功したので俺達も撤収。
さらばオーク、次会うときはドタマをブレイクしてやるよ。
俺達が脱出用の穴を塞いで出てきたとき、捕まっていた女性陣の大半は声を極力抑えて泣いていた。
でもオークに聞こえるかもしれないから黙ってね。
それにまだ俺達の仕事は終わっていない。
街に帰るまでは救出任務、この先モンスターに襲われて殺されてしまえば全てが台無しだ。
とりあえずまずは……着替えからかな。
エリアンテらに服がひどいことになっているから着替えさせろと命令したところ、着替えなんてないと言ってくる。
つまりコイツ等だけで救出に来たら、女性をこの半裸に近い状態で街まで送り届けるつもりだったようだ。
さすがにそれは同じ女性としてどうなのか、心無いエリアンテ達に俺が持ってきた袋を渡した。
中に入っているのは簡素な服とサンダル、これに着替えさせろと命令する。
この配慮には救出された女性達もエリアンテらもニッコリ。
この服とサンダルの費用は後で救出費用とは別枠の経費として購入額の数倍の値段で買い取ってもらう算段なので俺もニッコリ。
じゃあさっさと着替えて出発するぞ、もたもたしていたらオークが気付いてこっちに来るかもしれないよ。




