58 人質救出アンダーグラウンド 前編
Sランクの仕事は見入りが良いのでギルド長への500万の借金は1ヵ月以内に返すことが出来た。
鎧の次は武器が欲しいが、借金を返し終わったばかりで手持ちのお金が乏しい。
今日の気分はSランクの仕事を請ける感じじゃなかったのでギルドで普通の依頼を見ていたら背後から声をかけられた。
嫌々振り返ったところ、そこにはアズールでそこそこ仕事をこなしているエリアンテのパーティーが揃っている。
パーティーで依頼の確認か、真面目に働いているねぇと感心したのも束の間、リーダーのスポンジが一緒にこの依頼受けようぜ、などと迷惑な勧誘をしてきた。
悪質な勧誘やセールスはお断り、依頼の中身を見ることなく却下したところ、そう言わず考えてくれと迷惑でしつこい。
何の依頼をそんなに受けたいのかと依頼書を見てみれば、オークの上位種であるハイオークとその手下のオークの群れの討伐及び捕まっている人質の救出という討伐B及び救出Cの高額依頼であった。
ふーん、じゃあ勝手に受ければいいじゃないと思ったが、スポンジらのパーティーではランクが足りない、だから俺を誘っているわけですね。
答えはNO、やりたいなら自分達だけで依頼を受けずに勝手にやってくれ。
なんでよと聞いてくるが、まず前提として君達の実力が足りていない。
何故ならこの依頼を完遂するためにはハイオークを速やかに討伐する討伐能力と人質に被害を出さずに行動する救出能力が求められるからだ。
ハイオークは自分達が殺されると感じると人質を殺してしまう特徴があるため、突撃後人質が殺されないために速やかにオークの数を減らさなければならない。
だが俺以外のメンバーに必要な討伐能力があるかどうか不明、予想だけどきっとそんな能力は無い。
一応フォローしておくが別にコイツらを貶しているわけではなく、ハイオークとオークの群れ相手にそれができる人材があまりいないのだ。
ではどうするのか、というと人海戦術となる。
ハイオークとオークの群れを速やかに討伐できるだけの人数を集めて一気に粉砕、数と火力は大きいに限る。
というかギルドでその人数を現在集めている所で、人の集まりが早ければ3日以内に出発する予定。
だから少人数でちょっかい出すよりは皆で一緒にハイオーク達をボコりに行ったほうがいいと思うよ。
そのほうが我々の身は安全確実、ちょっと実入りは減るけどね。
ということを説明したのだが、彼女らの話を聞くと、どうやら彼女らの友人が捕らわれているので一刻も早く救助に行きたいようだ。
早ければ3日と言っているが、裏を返せばどれだけ遅くなるか分からない。
その間に人質がレンタルビデオショップの垂れ幕の向こう側にある企画物映像作品のような目に遭うかもしれないのだ。
うんうん、気持ちは非常に良く分かる、オークの群れに捕まった友人らが心配なのはとてもよく分かる、その気持ちは本当に大事だよ。
でも実際無理だからね、ギルドでは現在討伐Dランク以上の戦闘要員募集中。
お金もそこそこ、更にギルド付きの討伐Bランク冒険者アネルが付いて来る、この依頼書にサインしよう!
俺の冷静で知的な説得によりある程度の納得はしたのでこれにて一件落着、めでたしめでたし。
となるところだったのだが、せめて様子だけでも見る方法は無いかとこれまた面倒なことを言ってくる。
オーク系は鼻が効くので近づいたらバレるからそれはちょっと無理な話。
特に見た目に関わらず生物学的に女性に分類されている人間はもう絶対無理。
じゃあフィヨルドなら行けるのかと聞いてくる。
まあ俺なら行けるけど様子見ても状況変わらないんだから見に行くだけ無駄じゃない?
それでも気になるというのは分かるけど、俺が行くの? ロハで?
俺に支払う金が惜しいのか無いのか分からないが、友人のためにお願いしたいとは言うが金を払うと一言も言わない。
そんな貴方たちに俺は問いたい。
君達は友人のために俺にタダ働きしろと、まあいい、それならお前らは友人の救出のためなら無償で働くのかね? と。
そう尋ねたところ彼女らは全員もちろんだと答える。
大変優しい人柄だな、その優しさを少しばかり俺に金という表現で物質化する優しさとかはないものかね。
……今日は暇だったし、受けたい依頼も無いから近くに行ったら見とくわ、ということでこの話は終わった。
全く面倒事しか持ってこない連中だ、そう愚痴りながらハイオークらの集団のいると思われる場所に向かうことにした。
ハイオークらの集団はいとも簡単に見つかった。
ギルドからこの周辺にいるので危険だよ、という情報も出ていた地点からあまり動いていなかったこともあるし、強い豚臭で遠くから分かったというのもある。
街道から外れた山の中にいるハイオークらの集団を確認し、猿になって樹の上から人質の女性達を確認したところ、斜面の一部が凹んで洞窟状になっているところに捕まっているようだ。
人質が逃げないように洞窟の出入り口には門番がいるほか、木で頑丈に作られた檻のような柵がはめられているので、簡単に逃げることは出来ない。
人質は7人、全員生きてはいるが手と足を紐状の物で縛られているうえ、口には魔法を唱えることが出来ないように猿轡がされている。
よし生存確認、初期から捕まっていそうな若干名の人質が目から生気を失っているが、今の俺にどうにかできることじゃない。
とはいえ捕らえられている姿を見てしまったら本当に早く助けたいなという心情もあるといえばある。
だがどうしたものか、今は日中で食糧などを確保しに行ったオークもいるので人数は少なめだが、さすがに1人でどうにかできる数ではない。
人命を無視すれば全滅させることは可能なのだが、依頼出して助け出す予定の人達を虐殺してしまってはギルドから苦情が来るだろうしなぁ。
となると人質をどうにかしたいが、オークたちにバレずに人質を奪還するのは正攻法では無理無理。
まあ俺に正攻法なんて向いてない、俺には俺なりのやり方ってもんがある。
だがそれでも俺1人じゃ無理だから……アイツ等の力を借りるとするか。
ちょっと細工をしてアズールに戻りギルドで依頼を受けたりした日暮れ時、エリアンテらのパーティーが住む部屋を訪ねた。
今日仕事をしたのかしていないのかは知らないが雁首揃えて全員居たので話が早い。
貴様らに告げる、今日の深夜に人質救出ミッションを行うので指定された場所に集合せよ。
エリアンテらはえっ、今日? と驚いた様子だが、今朝の一刻も早く助けに行きたいという崇高な精神は何処に行ったんだ?
そう言われてしまうとなんとも言えない彼女らにハイオークらの巣まで30分ほどの地点に月が真上になるタイミングで現地集合と伝えて一旦帰宅。
アズールから徒歩3時間ほどの場所なので街中集合でもいいのだが、俺は人間と違い飛行30分で着くので一緒に行くメリットが無い。
というわけでゆっくりと夕食を済ませ深夜の行動に備えて仮眠を取ってから待ち合わせ場所へ。
移動が楽なだけで冒険者生活はガラリと変わるね。




