57 エリザが教えてあげる 後編
エリザ様から見た目に似合わぬ暴言が飛び出した昼食が終わり、引き続き先行して護衛のため索敵をするが普通に雑談したりもする。
そんな中で話題に当然の如く上がったのは先ほどのエリザ様の変貌振りについてである。
エリザ様に心酔していた中年は、ああ言っても許されるよねと寛容なのか盲目なのかよく分からないが俺含め他の面々はドン引きしていた。
それでもたくさん仕事をしていれば性格がアレな人というものは出会うもので、過去にこんな人がいたよと道中盛り上がった。
なおこの日も特に何事も無く宿泊予定の小さい村に到着した。
エリザ様御一行を本日の宿まで連れて行ったところで本日のお仕事終了。
この村は昨日宿泊した街より更に小規模な村で、当然宿屋も昨日の宿よりレベルが落ちる。
明日も多分不満爆発するんだろうなぁ、と内心ため息をつきながら俺達が宿泊する宿で食事の時間になったがエリザ様に心酔していた男がいない。
もしかしてエリザ様にこっそり会いに行った可能性が?
一抹の不安を覚え他の面々に彼の所在を訪ねたところ、ここは彼の故郷で実家に土産を届けに行ったそうだ。
業務外だが護衛依頼中で何かあればすぐ対応しなければならない状況である。
行くなとは言わないが一言リーダーの俺に伝えてくれよと思わざるを得ない。
まあ野暮なことは言うまい、パーティーメンバーには伝えていたし積もる話もある中1時間もしない内に帰って来たので彼も一定の配慮をしていたのが分かったのだから。
それよりも問題は、明日からの護衛の打ち合わせの確認でエリザ様のいる宿に来たところ、エリザ様の金切り声が聞こえてきたことだろうか。
私の家のベッドが小鳥が休まるオアシスだとしたらこのベッドは泥沼ね、などと本日の宿にご立腹な模様。
こりゃ明日も機嫌が悪そうだ、護衛の皆さんもあんな声のする宿では心安らかに疲れを取ることはできまい。
安宿に帰ってきたら出発するときよりも3割増しで居心地良く感じる。
飲んでる連中は五月蝿いけどあっちよりは全然マシ。
翌日も出発後からエリザ様は不機嫌で、予想はしていたが用意された弁当の中身に文句を言っていた。
ついでに昨日の街のこともボロクソに言っていたので彼女に心酔していた男もようやく目が覚めたようであった。
さすがに自分の故郷のことをこき下ろされれば思うところがあったのであろう。
あの様子を見ていれば百年の恋も冷めるわ。
にしてもよく周囲の人達はよく耐えられるなと感心する、暴言我慢手当でも支給されているのだろうか?
気になった俺はそれとなく護衛の人に尋ねて見たところ、エリザ様付きの人は辞める人が多いので給料が割り増しされているそうだ。
ということはその割り増し分が事実上の暴言我慢手当なのだろう。
しかし我々に支払われる給料は通常のBランク護衛と同額。
つまり我々には暴言我慢手当は支給されていないのである。
なので我々は暴言を我慢する必要がないといっていい。
というわけで何らかの形で怒りをあらわにしたり報復、復讐をしたいところであるがそれはできない。
普通に苦情が来るだろうし、今はギルド長の信用を元に依頼をしているため何かあればギルド長に迷惑がかかってしまう。
絶対に駄目ってわけじゃないので迷惑かけてもいいけど、その後が怖い。
なのでバレないような形でやるべきだ。
どのようにすべきだろうかと考えながら残りの護衛活動を行い、何事も無くガタシンまで到着して護衛依頼は終了した。
ガタシンに到着後エリザ様御一行と別れ、ギルドに報告した後中年パーティーとは今度はもっとマシな依頼主の仕事をしたいですね、などと言いながら別れた。
さてここからは俺の仕事だ。
俺達の暴言我慢手当未払いの恨み、晴らさせてもらおうか。
未払いの責任は本来は依頼主である大富豪に取ってもらうべきなのだが、支払い事実を発生させた本人に責任があるので彼女に責任を取ってもらおう。
ま、なんだかんだ取り繕っても所詮身勝手な私怨だからね。
この数日のストレスをぶつけてスカッとする相手にお礼参りしたかった、ただその言い訳にすぎない。
ではエリザ様は明日お見合いなのでそのタイミングでストレスを晴らさせて頂きたく思いまして候。
エリザ様のお見合い相手はガタシンのとある財閥の重鎮の息子である。
お見合い相手から分かるように政略結婚であるが、お互いに結婚相手候補が複数いて選べる立場なのでお見合いをしてお互い良ければというところ。
お見合いは三ツ星料亭の一番良い席でお食事会兼懇親会という形で行われており警備もバッチリ、ネズミ1匹入る隙も見当たらない。
俺は鳥に扮して中庭の木の脇から様子を伺ったり池に浮かんだりしながら好機を伺っているが中々難しい。
当然のことながらお見合いの会場を把握していなかったし、この後の流れも分からないので作戦はその場次第になる。
日中の扉が閉められた屋内、周囲に護衛が何人もいる状況下では打つ手が無い。
しかし食事が終われば何らかの動きがあるはずと根気強く待っていると、扉が開いてエリザ様とお見合い相手が出てきた。
2人は簡素な靴を履いて中庭に出てきたことからどうやら中庭内を軽く散歩をするようだ。
中庭は歩ける庭園風になっており、庭師の手入れした植物が贅沢に並び、小さな池には色鮮やかな魚がいるので狭い室内からの軽いリフレッシュにはちょうど良い。
速攻で仕掛けるのはまだ早い。
まずは観察、もしエリザ様がお見合い相手を快く思っていない場合俺がお断りをアシストしてしまう。
しかしそれは杞憂でお見合い相手は高身長高収入高学歴(多分)を兼ね備えた爽やか風イケメンであった。
これにはエリザ様も大満足なのか、この数日間見ることの無かった笑みを見せている。
しかしお見合い相手にまだ見せていない顔があるでしょう?
この数日間俺達が見てきた顔もお見合い相手に見せたほうがよろしいのでは?
ではフィヨルド、動きます。
中庭に不審者がいないことは護衛が事前調査を済ませてあるが、まさか木に留まる鳥が刺客とは思うまい。
とはいえ鳥でフンを落とすわけではない。
飛びながら歩く人間をピンポイントに狙って着弾させるのは高等テクニック。
それに最悪の場合、落ちてくるフンをお見合い相手が庇って素敵っ! なんて展開になりかねない。
なので鳥ではなく別の動物で行きたいと思います。
茂みに隠れて別の動物に変更、積年の恨みを思い知れ!
というわけで茂みの中からこんにちは。
今の俺は体長約50センチメートル、黒い毛を基調にしながら頭から尻尾まで白い毛を適度に伸ばしてふさふさの尻尾もある。
ネコ科らしくつぶらな瞳で外見はとても可愛らしい。
アレさえなければきっと人間の皆さんにも好かれていたでしょう。
ひょっこり茂みから出てきて動物らしく2人に近づくが、即座に護衛の人達が走ってきて手であっさりと捕獲されてしまった。
これが醜いネズミならば命を刈り取られていたでしょうが、可愛らしい外見をしている珍しい動物にエリザ様は興味津々。
可愛らしいですねと微笑みながらお見合い相手に言っているが、可愛らしさと危険さは関係ないんだぜ、動物も、人間も。
俺達の恨みを思い知れ!
俺は腹に力を入れてブッと大きくオナラをこいて肛門から液体を放出した。
小動物から放出された突然の悪臭に周囲は大混乱、小動物を見つめる若い男女の微笑ましい光景が一瞬で地獄に落とされた。
俺のオナラ、正確には肛門から出る分泌液は人間のオナラとは比較にならないほどの悪臭を放つ。
肉食獣すら追い払う悪臭の持ち主、見た目は可愛いが危険な臭いを放出する小動物、その名はスカンクという。
俺の放った悪臭はどうだいエリザ様?
普段はエリザ様から見て家畜の餌以下の食事を食べてるんでオナラが臭いのは許しておくれ。
あまりの臭いに俺を捕まえていた護衛も思わず手を離して目を覆い鼻をつまんでいるため俺は自由の身になった。
ちなみに俺の分泌液は衣服に付着したらもう臭いが落ちなくなってしまい今後使用することはできない。
君には恨みは無いのだがすまないね、俺を捕まえていた護衛の人は暴言我慢手当で新しい服を仕立ててもらって下さい。
護衛の人にちょっと悪いことしたかな、と思っていたらパニックになっていたエリザ様が中庭の池に落ちた。
小鳥の休まるオアシスに不法侵入しないで下さい、そこはどちらかというと泥沼ですよ。
早く助けなさいグズとか荒々しい言葉が聞こえますが、お得意の暴言をお見合いの場で言ってよろしいんでしょうか?
お相手の男性が引いてますよ、見た目の可愛らしさは内面を現していないとバレてしまったこの縁談はどうなるんでしょう。
エリザ様は例えると薔薇、綺麗ですけど近づくと暴言に刺されて危険ですよ。
じゃあ盛大にオナラしてスッキリしたし、俺帰るから。
これ以上罵声を聞いてると暴言我慢手当がまた発生しちゃうからね。




