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55 金がモノを言う世界

 上級オークションは3ヶ月に1度首都にて行われる。

 首都とアズールはかなりの距離があるので首都に頻繁に来ることはない。

 というか依頼関係以外で来たことは一度も無い。

 普通の人間ならアズールから片道1週間以上かかる道のりになってしまうからである。

 そんな道を1泊2日で来れるから合成獣の能力は素晴らしい。

 皆がまだ車も持っていないのに1人だけプライベートジェット機を使っているようなものである。

 

 さて首都に来たのはいいが服装が明らかに上級オークション向きではない。

 正装であるスーツみたいな服を購入してからオークション会場へ向かうことにしよう。

 以前行った洋服店は奇抜なファッションを薦められたが、正装を売る店では無難な品揃えが大半なので似合う似合わないはほぼ関係ない。

 吊るしてある安目のスーツを購入して履き慣れない靴を履いてオークション会場へ向かった。


 オークション会場では何箇所かの会場があるが、上級オークション会場は一番奥にある。

 受付で冒険者証を見せて登録作業を行い、出品される商品が掲載されているカタログを入手した。

 このカタログがあれば当日スムーズな出入りが可能になるし、過去の落札情報も載っているので落札金額の目安にもなる。

 カタログをめくり出品される商品を確認していると、狙っているお目当ての品が目に入った。


 俺のお目当ては防具、かつて伝説の騎士アーサーも使用していたマジックアイテムの防具である。

 その名前は三度防ぐ黄金の鎧、略して黄金鎧だ。

 この鎧の最大の特徴は3回までならどんな強力な物理攻撃も魔法攻撃も防ぐことにある。

 最初は黄金色をしているが、1度攻撃を受けると深緑色に変わり、更に攻撃を受けると白銀色になって、3度目の攻撃を受けると完全に破壊されてしまう。

 ただ生涯3回までしか防げないというわけではなく、色が変わってから1時間経って鎧に魔力を注ぐことにより1段階色が戻るのだ。

 つまり短時間で3度の致命傷を負わない限り破壊されることはなく、装備者を守ってくれる。

 俺が知る限り最高の性能を持った防具の1つである。


 過去の落札額は1億イディ前後、今回も同額程度の落札価格になるといいな。

 現在の俺の財産は約1億1000万イディなので順調に行けば落札できるのだが、競合する人がいればその分値段は上がる。

 過去に沈没船から入手した金も依頼で高価買取していたので売却してしまった。

 せめてあと1年、いや半年あればもっと金を用意できそうだが時間がないものは仕方がない。

 この黄金鎧は5年に1度出品されればというくらいのレア商品。

 今回を逃せば次に入手できる機会が何時になるか分かったものではない。

 何が何でも手に入れる、最悪誰かに落札されたら羅生門のような展開になるかもしれない。



 迎えた上級オークション当日、会場には多くのセレブリティ感溢れる人々で賑わっていた。

 顔見知りが多いのかオークションが始まる直前まで顔繋ぎの挨拶を行う貴族や豪商が多く、黙って座っている俺のほうが浮いていた。

 そしてついにオークションスタート、最初の出品はアースドラゴンハンドというマジックアイテムだ。

 不可思議なダンジョンから出たアイテムで、簡単に土が掘れる手袋である。

 アースドラゴンなんて大層な名前付いているが、土竜(モグラ)のように土が掘れるだけだしドラゴン要素は全く無い。

 それでも300万イディで落札されるのだからダンジョンには夢と希望と金が埋まっている。

 思わぬ高騰をして観客からおぉーという声が上がったりして、参加者も別の品物を落札する予定の観客も会場全体の熱気が上がってくる。


 そしてついに最後3品、当然目玉商品が残っている。

 まずは魔力増幅の指輪、杖の効果がある指輪で武器を手放さず杖を実質持っているようになる非常に便利な逸品。

 相場は5000万イディなのだが、会場の熱気が上がっているのか5800万で落札となった。

 全体的に相場が前回より高い、黄金鎧だけは普通の相場で願いたいが。


 ラスト2で過度な照明を当てられながら、満を持して俺の目当ての三度防ぐ黄金の鎧が出てきた。

 見た目が派手なこともあり、黄金鎧が会場に運ばれただけでおおっと歓声が上がる。

 司会の黄金鎧の紹介の紹介も終わり、俺は背筋を伸ばして立ち上がった。

 落札希望者は立ち上がり、降りるならば座るシステムだ。

 最初の入札ラッシュは誰が何を言っているのか分からないので、最初は司会が値段を吊り上げて人数が減ったら参加者が入札になる。


 魚市場の競りのように参加者が値段を上げていく。

 8400、8600と勢いよく値段が上昇し、9500万まで上がったところで残り3名。

 貴族っぽい燕尾服を来た男とそれとやり手の商人風の初老男性、そして安物スーツで場違いな雰囲気を醸し出す俺。

 俺が1億を宣言すると会場から声援が上がり、他の2人が200万ずつ上積みして1億600万、これやばくない?


 過去5回の落札金額は最高で1億500万イディなのだがすでに突破してしまった。

 不幸中の幸いは初老男性は降りたことだが、貴族っぽい男はどうやら本気で買いに来ているようだ。

 神様に祈りながら俺が1億800万まで上げるも、男に1億1000万まで上げられてしまった。


 オークションの支払いは現金即日その場決済が絶対である。

 過去に吊り上げ工作をした人が落札してしまったが支払いが出来ず、逃亡した結果悪質な行為として牢獄に入れられた事件もある。

 これはもう無理か、相手の方を見たが何やら横の女性と落ち着かない様子で会話をしている。

 何を話しているのかは会場のざわめきで分からないが、相手も余裕は無いようだ。


 そうか、予想していた落札価格を超えているのはお互いに変わらないのだ。

 自分が苦しいとき相手も苦しいとスポーツをしているときによく言われたものだが、今まさにそのような状況である。

 司会から1億1000万でよろしいですか、と催促を促されている。

 ここは虎の子を使うべきだ。

 意を決して俺は会場の全員に届くような大きな声で、1億1500万と力強く叫んだ。


 今日一番の歓声と同時にざわつく会場。

 いいぞっと言う赤の他人の無責任な声と、アイツ誰だという困惑のひそひそ声。

 心臓が大きくバクバクと鼓動する、本来使う予定ではなかった虎の子を出してしまった。

 俺の虎の子、それはアズールのギルド長から借りた1000万イディである。

 この金はギルド長から指定された依頼を受ける約束で借りた金。

 だから今日の俺の所持金は実は全部で1億2000万イディ。

 俺が冒険者として命懸けで8年かけ貯め、積み重ねた信用により借りることが出来た俺の冒険者人生の集大成である。


 司会が1億1500万と連呼し、言葉に詰まる男の反応を待つ。

 下を向いていた男が顔を正面に戻し、まだ出せるのかと思ったが横の女性が袖を引っ張っている。

 あの男の妻か秘書かな、だがあの動きならば……。

 男は悔しさを極力顔に出さず椅子に座った。

 そんな隠さなくても態度と金額で悔しいのはバレバレなのだがそれは意地であろう。


 司会から1億1500万で落札、おめでとうございます、と言われて会場から拍手が起きる。

 俺は片手を少しだけあげて拍手に答えてすぐに座る。

 落札したのはBランク冒険者のフィヨルド=ボレオであります、と司会が発表したがあまり発表して欲しくは無かった。

 Bランク冒険者に競り負けたのが不満なのか、鬼のような形相であの男が俺を睨んでいたからである。

 そんな睨まれても困るんだけどね、文句は手持ちの金が足りなかった自分に言ってください。


 オークションを最後まで見届けて別室で順番に落札品を受け取る。

 今まで貯めてきた金をアイテムボックスから名残惜しそうに取り出して従業員に渡した。

 金を稼ぐのに時間はかかったが、無くなるときはあっという間だ。

 三度防ぐ黄金の鎧をアイテムボックスに入れて足早に宿へ帰った。

 早く試着したかったし、俺が思っているようになるのか試してみたかったからだ。



 宿屋に戻り、扉と窓の施錠を確認し、カーテンを全て閉める。

 そして黄金鎧をアイテムボックスから取り出し鎧を着込んだ。

 とはいっても来いと念じるだけで鎧がバラバラになり、大きさも俺ぴったりに伸縮するので手間も何もかからない。

 ここまではほぼ想像通りだ。

 そしてここからが俺が黄金鎧を、マジックアイテムの鎧を買いたかった狙いである。


 黄金鎧を着たまま、俺自身をモンスターに変化するのだ。

 人間からレッドウォーリアーになったが、黄金鎧はレッドウォーリアーのサイズに形を変え、背中の羽も外に出るように最小限の穴が開いている。

 次にサンドワーム、黄金鎧が薄く伸びて目と口以外の全身を覆っている。

 スライムは浮浪者鎧というモンスターの見た目のように空洞の鎧が動き回るようになった。


 成功だ、最高の結果である。

 俺がマジックアイテムの鎧にこだわった理由、それは人間の時以外でも鎧を使うことができるからだ。

 モンスターは人間より強いのだが、人間の作った鎧を装備できないという弱点があった。

 武器は手の使えるモンスターならばある程度流用できる。

 しかし鎧はモンスターごとにサイズが違うし、誰かに採寸したものを作らせることも出来ない。


 だがマジックアイテムであれば勝手にサイズや部位を変えて装備できるのでは?

 そう考えたのだが、そのきっかけはハラヘリーの腕輪にあった。

 ハラヘリーの腕輪を人間から腕のないアナコンダに変わったとき、腕ではない場所に、大きさを変えて装備されていた。

 つまりマジックアイテムならば人間以外になっても装備された状態になる、その予感があったのだ。


 そしてそれは今実証された。

 俺はモンスターでありながら強力な装備を使えることが証明された。

 俺の狙うターゲットはまず人間のままでは勝てない。

 だが、ただモンスターを捕食していっても勝率はミクロ程度でしか動かない。


 理由はターゲットの次に強いモンスターとの力量の開きである。

 例えるとターゲットがライオンならば、次に強いモンスターでもネズミ程度の力量しかない。

 モンスターのピラミッドを頂点まで捕食したとしても、ターゲットとはそのくらいの違いがある。

 だからマジックアイテムで下駄を履いて、最大のネズミであるアフリカオニネズミくらいにならなければ勝負にならない。

 なんとか窮鼠猫を噛むくらいまで持っていきたい。

 とはいっても、まだネズミほどの力もないんですけどね。


 では心強い防具も手に入れたことだしまずは身の周りの地雷を除去しなければならない。

 最優先はギルドマスターへの借金返済、依頼も1つ受けなきゃいけないし。

 あと黄金鎧は見た目が派手過ぎて賊に襲われそうで危ない、地味な色に塗装してしまおう。

 そういえばアフリカオニネズミは前世では地雷撤去作業に使われていたらしい。

 俺も身の回りの地雷以外にもターゲット討伐依頼という特大の地雷を撤去しなければならぬ。

 ネズミのようにこそこそしながら生きて、いつか地雷を撤去できればいいな。

 意外と俺はネズミに似ているかもしれない、そう思いながらアズールにこそこそと帰った。

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