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53 SランクだけどBランクに詐称するSSって昔流行ったよね

 ギルド長にこれから君にはSランク冒険者として働いてもらうと言われたが意味が分からない。

 冒険者のランクはA~Fに分類されておりSランクというランクは無いからだ。

 俺が前世で生きている間に読んだ小説の中には確かにSランクというランクがある小説はあった。

 でも実際問題Aの次にSに分けるメリットがあまり無いので、この世界の冒険者ギルドは一番上はAなんだなと勝手に納得していた。


 それ以外にも分からないところはある。

 俺は今さっきまでCランクだったが、Sランクなんて飛び級にしろ飛びすぎじゃないだろうか。

 飛ばすならもっと他に飛ばすランクがあっただろと思わずにはいられない。



 事態が飲み込めず戸惑う俺にギルド長からそこに座れと言われ、応接用の椅子に座った。

 Sランクは聞いたことがあるか、とギルド長から聞かれたが本当に初耳だ。

 ここからギルド長からSランクについて説明を受けたのだが、俺が思っていたのとは全く違っていた。


 普段冒険者は掲示板に貼られている依頼を見て依頼を受けるが、掲示板には全ての依頼が貼られているわけではない。

 指名依頼は本人以外に知らされないし、一定以上のランク、総合Bランク以上にのみ知らされる依頼がある。

 ここまでは冒険者なら誰でも知っているのだが、総合Bランク以上でさらに限られた人物のみが知っている依頼があるのだ。


 例えばこんな依頼があるぞ、とギルド長はSランクの依頼を見せてくれた。

 軽い感じだと貴族の浮気や隠し子の調査、自国内で捕まえることができない悪徳商人や大物盗賊の成敗など。

 重いのだと外国の要所に関する内部調査や外国の要人の暗殺、あと自国内貴族絡みの暗殺依頼なんかもあったりする。


 SランクのSというのはスーパーとかスペシャルという意味ではない。

 間者(スパイ)、暗殺(サイレントキル)、掃除屋(スイーパー)など表に出せない秘密の(シークレット)ランクという意味である。


 この依頼を見ていれば分かるがSランクになるためにはただ冒険者の実力があるだけでは駄目だ。

 出目がはっきりとしている人物であり、かつ秘密を保持できる人物でなければならない。

 出目、つまり出身がはっきりしない人物は本人がどれだけ信用できてもリスクがある。

 外国のスパイや裏に何かある人物である可能性があるので、そのリスクは出来る限り減らしたいのだ。


 そして冒険者の実力と秘密の保持は全く別の能力である。

 口が軽い堅いは本人の資質によるものであり、秘密やルールを守れない奴は一生守ることはできない。

 秘密やルールを厳守する意識は人によって大きく違う。

 前世で例えると飲酒運転が駄目だと皆知っているが、やらない人は一生やらないけど、やる人は平気でやるような感じ。


 実力と信用、口の堅さを兼ね備えたエリートだけがなることが出来るランク、それがSランクだ。

 どうしてこんなことになってしまったのか、訳が分からないよ。

 正直今、この依頼を見ている時点でかなりヤバイ。

 報酬が時価とか書いてある依頼なんて初めて見たぞ。

 時価っていくらだよ、マグロじゃないんだぞ。

 知ることすら危険な依頼を目にして、ギルド長からもう逃げられないからな、という圧をひしひしと感じて冷や汗が出る。


 大体の事情が飲み込めたところでギルド長から更に説明があった。

 当然のことだがこのSランク絡みの件は全て口外禁止、示唆させるような発言も全て禁止。

 受ける分にはどれだけ受けても構わないが、あまり無視すると強制指名依頼のように入るとのこと。

 Sランクになると面倒な依頼等が多くなるのだが、冒険者ギルドとして破格の支援をするのは約束してくれた。

 例えば生涯命を狙われるような状況になっても、別人のギルド証を発行してくれるとか、依頼中に死んでも家族に多額の保険金が支払われるとか。

 とはいっても俺は顔を変えれるし、保険金を残すべき家族もいないからデメリットしかないけどね。


 景気づけに1個受けてみたらどうだ、というギルド長の提案を丁重に断り、今日のところは帰宅することにした。

 新しい冒険者証を見ると総合ランクはBになっていた、対外的には俺はBランクである。

 Sランクの件は家族にも教えてはいけないのでこの事実を知っているのはほんの僅かだ。

 冒険者ギルド内部ですら極一部のギルド職員しかSランクの存在は知らない。

 各ギルドのギルド長、副長、それと冒険者の管理に関わる上層部のほんの数名だけである。

 なんだかとんでもないことに巻き込まれてしまった気がする、助けて神様。



 宿の部屋に戻り一息ついたところで1人で冷静に考えてみた。

 情報を整理すると、スパイのような依頼を任せられるのはそこまで変な話では無い気がしてきた。


 総合Bランクになると変化する点は3つ。

 正式に外国に行ける、上級オークションに参加できるようになる、社会的身分や信用が格段に上がりCランク以下では手に入らない情報が入手できる、この3つだ。


 まずスパイは外国に入る必要がある。

 違法に入ることも時には必要だが、合法的に入る手段があればなお良い。

 総合Bランクになれば外国に入ることが出来るということは、そういう依頼を受ける可能性があるということだ。


 そしてスパイだけではなく暗殺や密偵などを行うには高級装備やマジックアイテムが必要になるときがある。

 特にマジックアイテムの中にはSランクが行う機密性の高い依頼を遂行する際に便利な物が数多くある。

 ではそれらアイテムはどこから仕入れるのか?

 総合Bランク以上になると参加できる上級オークションである。

 いや、必ずしも仕入れる必要はない。

 冒険者ギルドから借りることができるかもしれない。

 重要なのは総合ランクがB以上の冒険者は、高級装備やマジックアイテムを持っていてもおかしくない状況が国内で作られていることだ。

 それは何故か、Sランクの仕事を円滑に行わせるためではないだろうか?


 総合Bランクに上がると社会的な身分や信用が上がり、普通では会えない身分や立場の人物と会えるようになる。

 Sランクの依頼はこういった人物から出されることもあるだろう。

 つまりそういった人物からSランク依頼を受ける場合があり、その件に関して会うこともある。

 だから普段から会ってもおかしくない社会的立場ということにしているのではないだろうか。


 うーん、ただの妄想にしてはやけにピースが繋がるんだよな。

 他にも総合ランクB以上の冒険者は必要があれば直ちに副長に会うことができるシステムがある。

 その理由は重要な依頼や危険な依頼の多い高ランクは、何かあればすぐに上層部に報告できるようにするためとギルドは公式に言っている。

 だがこれは早い報告が必要なSランク冒険者のカモフラージュも兼ねているのでは無いだろうか?


 もちろん公式での意味合いもあるのだろう。

 だが普通のBランク冒険者と実はSランクのBランク冒険者がいたとして、後者だけすぐ副長に会えるようにすると、前者から見れば不自然に見える。

 副長にすぐ会える対象を全てのBランク冒険者にすることで、誰かが特別扱いを受けていることを分かりにくくしているのでは?

 

 考えれば考えるほど沼が深くなっていく感覚に陥ってしまう。

 Sランクは想像以上に重要な役割を担っているのではないだろうか。

 それはつまり、簡単にSランクから足抜けできないことを意味している。


 だが逆にチャンスでもある。

 Sランクの情報収集や暗殺依頼の報酬は、普通の依頼が馬鹿らしくなるくらい高額なものだ。

 そして情報収集や暗殺は、合成獣である俺が最も特性を活かすことが出来る分野なのだ。

 上手いことやればターゲットを殺すための装備を整えるだけの金を入手する速度は飛躍的に加速させることが可能になる。

 早期に装備を整えればそれだけターゲットを殺す計画に費やす時間も、不可能ならば別のターゲットに切り替える時間も出来る。

 つまりSランク依頼により俺が生き延びる可能性が広がるのだ。


 Sランクになったことは悪いことばかりではない。

 ターゲットを殺す準備の選択肢が増えたと前向きに考えていきたい。

 普通の依頼もSランク依頼も生きるための道に繋がっているんだから迷わず行けよ、と夢の中でアントニオイノシシが応援してくれた。

 俺の道はどこに続いているか分からないけれど、イノシシのように猛進するしかない。

 覚悟を決めて、俺はSランク依頼を受けることにした。

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