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52 Bランク昇格試験ってこんな変化球なの? 後編

 さて、Bランク昇格試験を受けに来たら憲兵に囲まれてしまったこの状況、なんとか上手いこと切り抜けなければならない。

 完全に不審者を見つめる表情の若手中堅ベテラン憲兵3人組、そして俺は人に話せない事情満載の不審者。

 何をしているのかという質問に詰まる俺を怪しむ若手の憲兵が、とりあえず名前と職業を教えろ、と言われたがこれは素直に答えよう。

 名前はフィヨルド=ボレオ、職業は総合ランクCの冒険者、ここにいた理由は今考え中。


 ベテランの憲兵が俺の冒険者証が盗品じゃないか、偽造されたものじゃないかを確認しながら、さらに質問は続く。

 なんでここに何時間もいるの、と言われたがそんなに長くいないっすよ、精々30分くらいです。

 ふぅーん、そんな30分もさ、この公園で何してたんだ、って聞いてくるがそんなに悪いことか?

 人が深夜に公園に居たら駄目なんですか? と不機嫌気味に言うがこれで押し切れないかな。

 まあまあ落ち着いて、と中堅の憲兵が俺の横に座って肩に手を回してくる。

 肩に手を回された後、正面の若手の憲兵から駄目じゃないけど、何してたの? 駄目じゃないことしてたら言えるよね、何してたの? とカウンターを投げてきた。

 しつこいタイプの憲兵だな、仕事しているともいうが今だと邪魔で仕方ない。


 多分何をしていたのか憲兵が納得いく返答をしなければ状況は好転しないだろう。

 考え事をしていたで乗り切るのは厳しい。

 普通の公園なら良かったがここは高級住宅街の公園だ。

 帰り道に寄ったとすれば不自然な場所だし、散歩にしてもこの辺りは冒険者が泊まるような宿は無い。

 何故この公園まで散歩をしたのか、何故深夜に長時間滞在しているのかの言い訳にはちょっと苦しく思える。


 待ち合わせはどうだろうか。

 待ち合わせの場所として公園のベンチを指定しているのは不自然ではない。

 問題はなんでこんな深夜に誰と待ち合わせなのかということだ。

 高級住宅街で深夜の人気の無い公園で密会、十分に怪しい、怪しいどころではない。


 人目を忍んでセレブな女性と密会する予定だったと言い訳すれば乗り切れるかもしれない、と思うのは甘過ぎる。

 何故なら今の俺は女性と密会するときに着るようなデート向きな服装ではなく、依頼を受ける冒険者スタイルの服装だからだ。

 この服装でこの周辺に住む女性と密かに待ち合わせしていた、通らんわこんな言い分。

 むしろ服装的に深夜に泥棒や悪事を企てに来ましたというほうがよっぽどしっくりくる。

 というか憲兵達からそういう風に見られているのだろう。


 公園の茂みからうるせえなぁと言わんばかりに猫が1匹ニャアニャアと鳴く。

 今は猫の手も借りたい状況だが、見知らぬ人間に手を貸してくれる訳はない。

 いや、ここは猫の手を借りるのもアリか。

 考える時間が無い、これで勝負するしかない。

 俺は憲兵にここで何をしていたか話すことにした。


 実は得意先から飼い猫がしばらく帰ってこないと言われまして、それで猫を探しに来たんです。

 このクロガネ公園、野良猫も家から抜け出してきた飼い猫も多い。

 ペット探しの依頼は冒険者ギルドでも珍しくないメジャーな依頼である。

 高級住宅街の住民はペットを飼っている人も多く、ペット探しの依頼がこの周辺住民から入ることはなんら不自然ではない。


 ベテランの憲兵からその割にランク高いな、討伐や配達Bランクの冒険者が受けるような依頼じゃないだろう、と突っ込まれる。

 そりゃそうだ、高くても雑用D程度の依頼だからな、でもその質問には答えられる。

 そのペットの主が普段から指名依頼をくれる商社の人なんですよ、だから恩を売ってもっと指名依頼を貰いたいんですよ。


 息を吐く様に重ねる嘘、急場を凌ぐためにミルフィーユのように嘘を積み重ねていく。

 若手の憲兵はその割りにはベンチにいて猫を探している様子はなかったがな、と痛いところを突いてくるがここまで来たら引き返せない。

 休憩くらいはするでしょう、そんなに変ですか、と聞き返すが、ランク高いくせに体力ねえなと思ったんだ、とベテランの憲兵に軽く笑いながら言われた。


 んなことないですよ、何時間も探していれば休憩を挟んでも変じゃないでしょ。

 そう言うとベテランの憲兵がすかさず質問してくる。

 あれ、さっき公園に来て30分って言ってなかった?

 あーいや、この公園に来て30分ってだけで、他の場所も捜してたから、ここに来たのは30分前ってだけだから。

 怖ええ、こっちは話が矛盾しないように作るだけで脳が精一杯なんだから細かいところ突っ込むの止めてくれ。


 この公園の前に来るまで詳しく教えてほしいな、どこを捜してからここに来たの?

 やたらしつこいっすね、何かあったんですか、と愚痴をつぶやきつつ頭の中で偽装ルートを考える。

 すると横にいる中堅の憲兵から最近この近くで深夜に泥棒被害があったんだよね、と最悪の情報を知ってしまった。

 そりゃあしつこくなるのも仕方ないわ、俺が憲兵でもこんな奴絶対に質問責めするもん。

 中堅の憲兵が俺の肩に手を回しているのって、ベンチから立ちあがって逃げないように防止してるんだよなこれ。

 いつでも襟掴んで後ろに引っ張れるように準備してるのは手の位置で分かるぞ。

 前世でもやられた経験あるからな。



 どうにか偽装ルートを考えて矛盾しない程度の道筋を説明することはできた。

 しかし疑惑はまだ収まらないようで、ベテラン憲兵から一応手荷物見せてもらっていいか、と要求された。

 さっきも言ったけど泥棒が最近多くてなと説明されてしまうと拒否するのは難しい、さっき理由を聞いたのが仇になった。

 単に手荷物見せろと言われれば嫌だと言いやすく、拒否できるかもしれない。

 だが最近泥棒が多い地域に深夜長時間公園にいる不審者だから手荷物見せろと言われて拒否すれば、詰め所直行は必死。


 何もやましいものを持っていなければ問題ないのだが、ギルド職員から試験に必要だと言われたナイフを1本所持している。

 見つかれば詰め所行きの可能性が急上昇してしまう、なんとしても隠し通さねば。


 まずは素直に分かりましたと言い、ポケットから小物を出している隙にこっそりナイフを腹部のほうへ移動させる。

 これで全部です、と告げたあと、上着見せて欲しいんだけど、と言われて上着を脱いで渡す。

 今の俺は上半身はシャツだけ、下半身は下着とズボンである。

 中堅の憲兵にちょっと立って体触らせてね、とズボンのポケットや腰周りを中心に手でもみもみされた。

 

 腰周りをもみもみされたがなんとかナイフは見つからなかった。

 何故なら今の俺のお腹はヤポック。

 カンガルーのように腹にポケットが付いている有袋類の動物だ。

 ほとんどの有袋類のオスはお腹に袋がなかったり閉じたりするが、ヤポックはオスだがお腹に袋を持つ数少ない動物である。

 今の俺のお腹には袋があるので、ナイフはそちらに収納した。

 触るタイプの身体検査は不自然な膨らみや腹巻きでもしていない限り腹を触ってくることは少ない。

 普通の人間ならばお腹に収納スペースなんか無いので物を隠すことが出来ないから逮捕でもされない限りあまり触られない。

 最近は器用になって体の一部だけ別の動物に変えることも出来るようになったが、まさかこんな使い道があるとは思わなかった。

 シャツまで脱がされていたら一巻の終わりだったが、流石にこの状況で裸になれとは言わないでしょ。


 手荷物検査と言いながら身体検査された俺は上着を取り戻して黙って憲兵の動きを待つ。

 3人の憲兵は互いの顔を見て軽く頷いたあと、最近泥棒が多いからまた疑われないうちに帰れよ、と言い残して公園から去っていった。



 公園から離れる憲兵を見て俺はベンチに座り大きく息を吐いた。

 勝った、乗り切った、やりきったぞ。

 物陰から見ていたかのようにタイミング良くギルド職員が走ってやってきて、試験終了です、お疲れ様でしたと告げられた。

 合否については午後ギルド長から告げられるらしい。

 これで不合格だったら暴動を起こしたい。

 

 午後にギルドへ行きギルド長の部屋に入った。

 ギルド長は試験についてはよくやった、想像以上の優秀さを見せてもらったと上機嫌だった。

 これで念願の総合ランクBだ、と喜ぼうとしたらギルド長から予想外の言葉を告げられた。


 試験合格おめでとう、これから君にはSランク冒険者として働いてもらう。

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