49 真珠には呪いが宿っている
貯蓄は進んでいるがまだまだお金が足りない。
まだまだ稼がなければ、何か金になる話はないかと考えながら過ごしていた。
そんなある日、巷で宝石が流行して高値で取引されているという話を聞いた。
宝石か、宝石はどうやって捜すか知らないんだよなぁ。
岩や土の中に眠っているとか聞いたことはあるが、その辺りを掘ったところで出るわけないし。
だから別の儲け話がいいなぁと思いながら買い物に出かけたところ、ある宝石が店頭に並んでいるのを見つけた。
……この宝石なら俺でも見つけること出来るのでは?
そう思った俺は早速この宝石の名産地として有名なワウーへと急行した。
舞台は海、リヴァイアサン様に迷惑かけない程度に活動したいと思います。
ワウー近郊の岩場に辿り着いた俺はまず手頃な石を探した。
何個か候補を見つけた俺は早速ある動物に姿を変えて海に入って、目当ての宝石を持っている貝を捜し始めた。
今回目当ての宝石は海の宝石の代表格、真珠だ。
真珠は貝の体内で作られる古来から愛される天然の宝石。
真珠を作る貝は真珠貝と呼ばれ、前世ではアコヤガイが有名であるが、この世界ではモンスターも真珠を作る奴もいる。
そしてここワウーは真珠貝が多く生息する場所、今日も稼がせてもらいましょう。
水中にダイブして真珠貝を探すが、近くにホタテ貝がいたのでそちらに吸い寄せられてしまう。
まずはお腹を満たしてからだな、焦らない焦らない。
俺はホタテ貝を腹の上に乗せ先ほど入手した石を脇の下から取り出して、ガンガンとホタテ貝の殻を叩いて割り始めた。
そう、今の俺は水族館で大人気のラッコ、好物はカニ、エビ、アワビ、二枚貝、ウニ、イカなどグルメなんだ。
ホタテを食べ終わったら今度こそ真珠貝を探そうと決意してホタテを食べたが思ったよりも小さい。
もう1個食べてからでもいいかな?
結局あと3個食べてから本格的な真珠貝探しを始めた。
次は焼いて食べよう、バターや醤油があれば最高なんだけどなぁ。
真珠を何個かゲットしたのだが、あまり状況はよろしくない。
ワウーの街で聞いたのだが、最近アコヤガイのいる海域に二枚貝モンスターのパールシェルが多く出現し、真珠の素潜り漁が出来ないと聞いていた。
潜りながら調査したところ確かにアコヤガイよりもパールシェルが多く、人間が素潜りをすればパールシェルに襲われること必死である。
幸いラッコはパールシェルの敵対対象になっていないようだが、万が一襲われれば貝に挟まれて痛い目を見てしまうだろう。
パールシェルは名前の通り真珠が取れるモンスター、アコヤガイとパールシェル両方から真珠を頂くのが最も良い。
というわけでまずは近くのパールシェルを駆除してしまおう。
俺はラッコという海のスターから別の海のスターへと姿を変えてパールシェルから真珠を狙うこととした。
どんな世界でも嫌われる奴がいるように、海でも嫌われる奴がいる。
今の俺は海のモンスターの中のスター、名前はヒトデスター、でも皆から嫌われています。
理由は多分普通の魚介類はもちろん他のモンスターを食べてしまうからでしょうか。
マーマンなどに見つかると、浜や港に投げられて干からびて死んでしまいます。
一応俺も魔石はあるのですが、冒険者ギルドでも買い取ってもらえないので冒険者からも漁師からもモンスターからも嫌われている悲しき存在。
日頃の恨みを考えたら、パールシェル襲って真珠貰ってもいいんじゃないかな、そう思います。
というわけで覚悟しろパールシェル。
まずはパールシェルに近づいて逃げられないように身体をがっしりキープします。
パールシェルは殻を全力で閉じますが、全力なんて長時間持たないので力が弱まった隙に殻をこじ開けて中身を捕食します。
貝柱の部分が魔石、身の中に真珠があるのでこれら以外は残して食べてみたけど、大味だけどけっこう美味しい。
何匹か捕食して驚いたことに、パールシェルは個体ごとに中身の味が違う、ホタテ、カキ、ムール貝、シャコ貝、ハマグリなどバリエーションが豊富だ。
パールシェルを上手く捕獲できれば街で売れるんじゃないか?
新たなビジネスチャンスがここに眠っている可能性がある、今はやらないけど。
真珠って1個の値段いくらくらいなんだろう?
そんなことを考えながら約10日間かけパールシェルを退治し、節操無く真珠を集めてこの辺りの真珠貝をおおよそ一掃した。
これでこの近辺の漁師はパールシェルに悩むことは無いだろう。
アコヤガイがいないという新たな問題に直面するかもしれないが……そこまでは知ったことではない。
さて、では最後に人間形態でパールシェルを色々と調理してみようと思う。
酒蒸し、バター焼き、フライなど色々試してみたが、どれも美味い。
パールシェルって真珠が取れて魔石も売れて中身も美味しいとか完璧なモンスターじゃね?
どんな味なのかは食べるまで分からないのがなお良い、これからパールシェルは貝の宝箱と呼ぶことにしよう。
最後にちょっと挑戦してみようか、生食。
食べやすい大きさに切り海水でよく洗って酢で消毒してそのまま口の中に持っていく。
……美味い!
この世界では刺身で食べるという文化が根付いていないため生食用という保存方法がほとんど無い。
でもやっぱり、魚介類は刺身もいいよね、生食は1個の予定だったけれど3個も食べてしまった。
パールシェルも堪能したところで、真珠を売りさばくとしましょうか。
翌日ココヤマのいる工房を訪ねて大量の真珠を見せたところ、盗品かと疑われてしまった。
なんて失礼な、アコヤガイやパールシェルから自然の恵みとして体内にある真珠と可食部の中身を頂いただけで、盗んでなんかいない。
ココヤマからは分かっていますよ、傷と穴見れば分かりますからと笑って返事をされたが、絶対に一瞬は盗品だと疑っていたと思う。
真珠はなかなかの値段で買い取ってもらった、これからも継続して恵みを分けに貰いに行くのでよろしくね。
今日は部屋で良いお酒でも飲もう、この時の俺は上気分だった。
しかしそれは突然訪れた。
俺は違和感を覚えて慌てて宿のベッドから飛び出した。
違和感は腹にやってきた、前触れ無くグルグルと締め付けてかつてない苦しみを生む。
トイレに駆け込みマグマのように焼けるような熱さが尻から出て行く。
出て行くのは腹からだけではない、喉から飛び出すのは言葉ではなく胃液だ。
激しい嘔吐、突発的な吐き気で幾度となく吐き出してしまい、何回吐けば終わるのか分かったものではない。
これは何だ、呪いか? かつて体験したことの無い吐き気と下痢が俺を襲う。
この数日間での行動と前世での記憶を呼び覚まし、恐るべき呪いの正体に一つ心当たりがあった。
二枚貝の呪い!
潜伏期間は24時間から48時間、猛烈な吐き気と下痢を引き起こす非常に危険なウィルス。
二枚貝は体内にノロウィルスを蓄えるが、高温で1分半~2分加熱することにより死滅させることが出来る。
しかし思い起こされる新鮮な海鮮物の記憶、加熱せずに食べたパールシェルが俺を時間差で襲う。
奴は虎視眈々とノロウィルスを体内に蓄えて俺を狙っていた、奴もまた極悪非道なモンスターの一員だったのだ。
モンスターを侮ってはいけない、大事なことを思い出させられた。
一瞬の油断が大きな後悔のきっかけになる、この経験は大事に覚えておこう。
だからそんなにドンドンとトイレのドアをノックしないでください、そんなに激しくノックされても出れませんから。
俺もパールシェルのように固く、全力でトイレのドアを閉ざした。




