46 (外伝)ヤバイ奴と2泊3日の地獄旅 後編
普段俺達は人間より強いモンスターに対して武器や戦術、人数差や一部の性能の差で勝つ。
しかし今回は逆で、相手の戦術や性能を活かした戦いになってしまっている。
暗闇の中でもハンニンジャは昼間のように動けるのに対し、俺達は明かりの無い夜よりもさらに深い闇の中。
大人数であれば全員で光魔法を矢継ぎ早に唱えて漆黒の棺の中で最低限の視界を確保して戦うのだが、少人数の光魔法ではあっという間に漆黒の棺の暗闇に消されてしまう。
視界無き状況で勝つのは普通の人間には不可能に限りなく近いが彼はどうする。
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さぁやってまいりました、今回のモンスター討伐のクライマックスを飾るのはこの男、殺人24時間営業、純黒の悪夢、ハンニンジャであります!
一体今まで何人の冒険者の命の灯火を闇に葬ってきたことでありましょうか。
本日その瞳の中に映るのは今年14番目の標的、今日も華麗な一撃で勝利を飾る、そんな期待感が充満しています!
対するは人間、動物、モンスターが奏でる三重奏、遺伝子のテーマパーク、フィヨルド=ボレオ!
神に選ばれし肉体と人の心を併せ持つ合成獣、住む星が違えば神話の生物と呼ばれていたかもしれない男。
まさにドリームマッチ、夢の競演といっていいでしょう。
その歴史の目撃者に私は今なろうとしております!
ハンニンジャとフィヨルド、互いがゆっくりと近づいていきます。
戦いのリングはハンニンジャが出す闇魔法、漆黒の棺の中で行われます。
フィヨルドが歩いていく、一歩が未知の領域への一歩に繋がっていく!
非常に勇気のいるところだ、後退は許されない。
フィヨルドが歩く道の先にあるのは栄光への花道か、それとも三途の川か!
出たっ、ここからは選ばれた挑戦者だけに許された闇の領域、漆黒の棺だっ!
ハンニンジャの漆黒の棺は太陽光も通さぬ絶対の闇、黒よりも黒、突如姿を現した巨大な魔城のようであります!
フィヨルドの身体と視界にも闇が舞い降りてきました。
目の前にかざした掌すら見えぬ闇は何層にも積み重ねられた新月の夜を連想させます。
そのような闇の中を自由に動き回る魔人ハンニンジャ。
流させた血の数だけ技を磨いてきた実力者、果たしてこの魔人を超えることができるのか。
闇を自由に動くハンニンジャ、それとは対象的に、フィヨルドは槍を構えたままピクリとも動かない。
これは正直驚きです、普通の人間は漆黒の棺の中にいれば慌てて光を得ようとし、恐怖が五臓六腑を突き抜けるこの場面、非常に落ち着いております。
ハンニンジャは静かにフィヨルドの背後に回った。
だがフィヨルドは動かない、ハンニンジャも一旦動きを止めて様子を見ます
ハンニンジャ少し苦しい展開になったか、フィヨルドの行動を予測することが出来ない。
ここでの選択が致命的な結果を招いてしまうこともあります。
しかしハンニンジャ、笑みを浮かべております。
得難い難敵を目の前にして、着実に決めるために集中力を高めていきます。
ハンニンジャ動いた、音を立てず大きな跳躍、非常に軽やか、綺麗な放物線を描きフィヨルドのがら空きの背中に剣を突き刺そうとして、どうだっ!
ああっと、これはどうしたっ、ハンニンジャが空中で突如動きが止まってしまった!
何が起こった、まるで時が凍り付いてしまったかのようだっ!
その原因は一本の槍、ハンニンジャが飛び掛かった瞬間フィヨルドは突如反転。
槍の一閃が猛然とハンニンジャの胸部に襲い掛かり一気に貫いたっ、まさに芸術的なカウンターであります!
ハンニンジャこれは悔しい、耐え難い屈辱、現実と呼ぶにはあまりにも厳しい事実。
誰もこんな展開を想像することはできなかったっ!
残念、これは残念、ハンニンジャの下がらぬ腕からこんなところでは終われない、もう1回やらせてくれ、そんな気持ちが伝わってまいります。
ですが鈍い呻き声と抜けていく力、彼の意思とは裏腹に去り行く漆黒の棺が、彼を現実に叩きつける。
見た者全てを死と恐怖のどん底に叩き落とす闇の支配人ハンニンジャ、ここで無念の敗北。
勝ったのは遺伝子のテーマパーク、フィヨルド=ボレオだっー!
さて今のバトルを振り返ってみましょう。
何故フィヨルドは暗闇の中ハンニンジャを正確無比に捉えることが出来たのか、そこには3つの要因があります。
1つ目は梟の聴力、ハンニンジャの動きは見事に音を消した沈黙の羊を彷彿とさせるものでした。
しかし自らの心臓の鼓動、空気を切り裂き移動する音まで捉えられてしまってはどうしようもありません。
2つ目は熱、蛇のピット器官はまさに天然のサーモグラフィー。
音がなくても熱があればその姿は裸の王様同然、見えてないと思っているのは自分だけ、後悔先に立たずとはこのことか。
そして3つ目はハンニンジャが犯した最大の失策、跳躍してしまったことです。
梟の耳から蛇の器官へと変化させるには僅かながら時間が必要、合成獣が肉体の回転寿司を行う瞬間こそ絶対的弱点。
その決定的な隙を時間のかかる高い跳躍をしたことでむざむざと逃してしまうという致命的悪手。
その高い跳躍を選択させたのはフィヨルドの見事な制止!
普段の獲物と違う動きをされたことで生まれた心の天秤の揺れがこの結果を生み出してしまったのでしょう。
闇が完全に晴れて観客から歓声とどよめきが起こります。
槍でハンニンジャを貫き止まるその姿は、民衆を導く自由の女神と錯覚させるような圧倒的存在感、神秘という言葉すら陳腐に映る輝かしい瞬間。
この勝利が導く先は栄光の架け橋か、これからの活躍がますます期待される。
勝者は合成獣フィヨルド、遺伝子のテーマパークが見事な勝利の花火を打ち上げましたぁーっ!
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静かに暗闇を見守る時間は20秒にも満たない時間だったが、何分にも感じられた。
ぐっ、と小さなうめき声と共に緩やかに闇が晴れた先には、ハンニンジャの胸を槍で一刺しに貫いたフィヨルドの姿があった。
おおっと俺達が歓声を上げ、ドサリと地面に倒れるハンニンジャ。
肉体は人間と同程度の物なので即死だろう。
ふぅと一息つく暇も無くハンニンジャの魔石を回収し、速やかにこの場から離れなければならない。
ハンニンジャがいるということは近くに連続殺人事件を引き起こすモンスター、メイジタンテイがいるかもしれないからだ。
とはいえ今回は人間が死んでいないのでメイジタンテイは出ないはずだが、それでも警戒することに越したことは無い。
俺達は念のため10分ほど現場から離れるように歩いて、ようやく一息つくことが出来た。
するとフィヨルドがここで食事休憩しませんか、と唐突に提案してきた。
別に構わないが今日は突然だな。
特段反対する理由も無いのでこの場で昼食を取ることになり座りやすい場所に座った。
だがフィヨルドは立ったまま服のポケットを漁って、さっきの戦いで物を落としたかもしれないと言い出した。
1人で取りに行くのでそのまま食事していてくれ、と彼は言うが危険では?
だがハンニンジャを1人で倒せるほどの実力があるのだから杞憂か。
気をつけていけよと彼を見送って3人で食事を取った。
話題はもっぱら彼の事だったが、ラウラもようやく彼への警戒心が薄れたようで、彼女の中では強いけど変人というポジションに収まったようだ。
シドニスはあれくらい強くなりたいと言っているが、止めておけと諌めておいた。
あれは選ばれし人間だけが辿り着ける領域に足を踏み入れている。
目標にするのはいいが目指すのは賛成できない。
しかし遅いな、何かあったのかもしれない。
探しに行ったほうがいいだろうか、そう思って探しに行く準備をしているとフィヨルドがようやく戻ってきた。
探し物は結局見つからなかったそうで、リザードマンと戦っているときに落としたかもしれないがもう見つからないだろうと諦めたそうだ。
じゃあそろそろアズールへ帰りましょうかとフィヨルドは言うが、食事はいらないのか?
ああ……探しながら食べたんですよ、と答えるが本当だろうか、遠慮する必要はないのだが。
かなり緊張する戦いだったのであまりお腹が減ってなかったですから、と聞けば確かに心当たりはある。
本人が良いならそれでいいのだろう。
途中でまた夜営をしたが、ハンニンジャ以降モンスターに出会うことなく昼前にはアズールへ到着した。
冒険者ギルドに試験終了の報告の手続きをしてハンニンジャ以外の魔石を売り払ったが、1人ならすごい金額になるなと少しうらやましく思った。
ハンニンジャの魔石は記念に取っておくらしい。
俺も思い出のある魔石などは大事に取ってあるから気持ちは分かる。
フィヨルドが冒険者ギルドから出て行くのを見送って、俺は副長の部屋に報告へ行った。
副長から彼はどうだった、と聞かれて見たこと感じたことを正直に答えた。
冒険者として必要な武術、魔法、モンスターの探索能力全てに優れているが、特筆すべきは魔力の多さと1人で戦う能力であること。
変なところもあって樹の上で寝たりするが、あれは1人で夜営するのが危険なのでああいう風になったと考えれば不自然ではない。
銅鑼の効果は私にはよく分からないが、実際に奇襲一つ受けずモンスターを探せるのだから問題ない。
フィヨルドはどんなパーティーにでも重宝される人物に違いないのだが、1人で戦えるから今のように1人で戦い続けているのだろう。
モンスターとは全て1人で戦ったこと、討伐ランクをBに相応しい実力は有していること、不正は無かったこと、全て間違いないと報告した。
副長はそうか、長旅ご苦労だったな、と俺をねぎらったが、うーんと腕を組んでまた何か考えているようだ。
まさか俺を疑っているのかと思ったが、どうやら副長は本当にフィヨルドを討伐Bに上げていいものか迷っているようだ。
何の問題があるのかと聞けば、討伐ランクB以上に出す依頼の中には大人数の指揮を執る依頼もあるが、彼は大人数の指揮を取れるのか? という点が引っかかっているようだ。
討伐Cの依頼ならこの場所のこのモンスターを討伐してこいという依頼なので問題なかった。
討伐Bになると彼がそのような依頼を受けるか否かはともかく、受けることが出来るようになってしまうが問題はないのか。
さすがにそこまでは俺には判断できないし、今回の試験でも当然分からないで答えようが無い。
副長からどう思うかと聞かれても困る。
俺には分かりませんので副長やギルド長の判断でいいと思います、そう答えて俺は退室した。
結果を後から聞いたが合格させたらしい。
あの討伐結果で落とすなら最初から試験するなとギルド長に怒られたそうですよ、と知り合いのギルド職員から聞いたがその通りだと思った。
それにどうせ彼は大人数の指揮を執る依頼なんて受けないだろうけどな、要らない心配だろう。
後日、俺の知り合いが冒険者ギルド内でフィヨルドをパーティーに誘ったところ、彼が不機嫌だったせいか銅鑼を鳴らされたそうだ。
怒ると吠える動物のような奴だなぁ、俺はそう思った。




