↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/77

45 (外伝)ヤバイ奴と2泊3日の地獄旅 中編②

 翌朝、野営地を出発してモンスターを探していると、小さな川があった。

 フィヨルドは1人川に近づいて川の水を手で掬った。

 飲むのかと思えば臭いを嗅いでいる。

 俺はここによく来るのでこの川を知っているし、この川の水はそのまま飲めることを知っている。

 1人だからこの辺りまでは来ないのか、と思っていたら上流に何かいるので川を上りましょうと言う。

 俺も川に近づいて水を見れば若干水に濁りがあり、臭いも無臭ではなくわずかに嫌な臭いがする。

 上流へと登っていくと、そこにはトカゲと人間を合体させたような風体の、リザードマンというモンスターが15匹が川の中や近くの岩場にたむろしていた。


 リザードマンか、かなり危険な相手だな。

 人型で一般成人と変わらない体格をしていて、剣や槍などの武器と盾で武装しており、知能は人間と比べても遜色が無いくらい高い。

 魔法は水魔法しか使わないが、相性なのか使う魔法が少ないせいか詠唱が短い割に威力の高い魔法を使うことができる。

 このため遠距離から弓や魔法で奇襲しようにも、咄嗟の反応から繰り出される水魔法で大多数が防がれてしまう。

 もし討伐するのであれば最低でも討伐Cの冒険者がリザードマンの半数、8人は欲しいと考えるところだ。


 リザードマンの群れを見たフィヨルドは、ちょっと数が多いですね、離れましょうか、とリザードマンから見えにくい場所に移動した。

 俺はここから離れて別のモンスターを探すと思っていたが、どうやら彼はあのリザードマンの群れと戦う気らしい。


 たまらずラウラが無茶だ、死ぬ気かお前、と彼に静かに怒りをぶつけたが、まあ見ててくださいな奥様と気楽な表情だ。

 ラウラが俺を睨む、止めさせろと言葉にしなくても言っているのが分かる。

 だが俺は止めさせるつもりはなかった。

 彼のことは正直よく分からないが、モンスターとの戦いにおける実力は俺と互角かそれ以上なのは間違いない。

 戦いに関してだけは信用できると思っている。

 その彼が戦えると考えているのならば、それなりの戦い方があるのだろう、それを見てみたかった。


 そのまま時間だけが過ぎた、1時間経ってもリザードマン達に変化はなく、俺達もそこで待機しているだけだ。

 さらに30分ほど経って、ようやくリザードマン達に動きがあった、川を下り始めたのだ。

 追いかけます、とリザードマンが見えないくらい十分に距離を離しながらリザードマンの後を追う。

 40分ほど川を下った先にあったのは小さな沢のようになっている場所だった。

 そこでリザードマンは川魚を捕まえているようだ。


 んじゃやりますかね、と俺達に伝えて杖を手に1人迂回して沢の上流の方に向かっていった。

 正直川の中のリザードマン相手ではタイマンでも分が悪いと思うのだが、彼はどうするつもりなのだろうか。


 静かに待つこと数分、変化は突然訪れた。

 リザードマンのいる沢の水が突如ガチガチに凍ってしまったのだ。

 驚き戸惑うリザードマンだが動くことができない、リザードマンの足は沢の水の中にあったがその水が凍って足を抜くことができないからだ。

 なんとか足を抜こうとするリザードマンは足元を見ていたが、丸い影が近づいてくるのが見えた。

 顔を上げたリザードマンの目の前に飛び込んできたのは、自分に向かって飛翔する身長以上の岩。

 フィヨルドの魔法で打ち出された大岩である。


 次々飛ばされれる大岩、1匹、または2匹まとめて潰され倒されていく。

 逃げることは出来ず、魔法や盾で防ごうとしてもそのまま押し潰されてぺちゃんこになってしまう。

 なるほど、ああやって倒すのか。

 魔法に相当秀でていなければ出来ない芸当だが、岩を水魔法で防ぐのは相性が悪いからな。

 飛んでくる岩を防ぐため魔法で盾を作るなら、俺なら砂の盾を作って防ぐのだがリザードマンは渦を巻いた流水の盾しか作れない。

 もしフィヨルドが使ったのが火魔法や風魔法ならその盾で防げるだろうし、土魔法の中でも砂で出来たものであれば盾を厚くするか、放水系の魔法を使えば砂の塊を砕くことが出来たかもしれない。

 だが岩は無理だ、水の盾では防げないし、放水型の魔法でも岩を切り裂くとなれば相当の大魔法を必要とするが、リザードマンには使えない。


 リザードマンを潰しながらフィヨルドは、ぐはっはっは、面白いようによく倒れる、まるで射的の景品でも倒しているようだな、と上機嫌に笑っている。

 それにしてもよくMPが持つな、杖を使っているとはいえ川を凍らせるだけでかなりのMPを消費しているはずだが。

 魔力の強さとMPの多さが彼が1人で戦える切り札なのかもしれないな。

 余計にパーティーを組めばいいのにと思ってしまう。


 即死しなかったリザードマンの息の根を止め、現在彼はナイフでリザードマンの両手の爪を剥いでいる。

 リザードマンの爪は精力剤の材料になるので持って帰るつもりなのだろう。

 数が多かったので俺達もその作業を手伝った。

 彼は爪要りますか? ああ賄賂とかそんなんじゃないですよ、と軽口を叩きながら手早く爪を剥ぎ取った。

 簡単に剥ぎ取ることができるとはいえ、かなり手慣れているようだ。

 俺達としては爪剥ぎの練習をシドニスにさせたかっただけで、タイミングが良かっただけなのだがな。

 彼はそんな中、本当に爪いらないんですか、別に受け取らせて脅そうとかそんなのじゃないですよ、と評価を下げている。

 彼が悪い人間ではないのは分かるのだが、言動で評価を下がるのは……やはり顔のせいかもしれない。


 この時点で倒したモンスターがアントニオイノシシ3匹、カジリソウ4体、キイロオオヤマネコ2匹、リザードマン15匹とすでに討伐ランクBに昇格させるには十分すぎる実績だ。

 1人ならもちろん、4人パーティーでも合格させて問題ない討伐数と言えるだろう。

 そろそろ帰りコースに入ってもいいくらいだ。

 にも関わらず彼は、もうちょっと狩りたいなあ、なんて言うのだから驚きだ。

 どこまで戦う気なのだろうか。

 とはいえ彼は1人で戦う変わり者なので、一般的な冒険者の常識で考えてはいけないのだろう、

 


 軽く休憩した後、森の中を歩いているとフィヨルドの歩みが止まった。

 何かいるのかと探してみれば、森の奥に人だろうか、真っ黒な人のような姿がありこちらを見ている。

 だがあれは人ではない、モンスターだ、それもとてつもなく危険なモンスターだ。

 昼間だが黒く見えるのは肌が黒いからではない。

 頭の先から足のつま先まで闇の衣をまとっているような、目と口以外完全な黒なのだ。

 あのモンスターの名前はハンニンジャ。

 その恐ろしさから純黒の悪夢という異名を持つモンスターだ。


 何がそんなに恐ろしいか、まず殺人能力が極めて高い。

 その手口は至ってシンプルだ。

 ハンニンジャが人間に近づき漆黒の棺(ブラックボックス)と呼ばれるハンニンジャ専用の闇魔法を使って周囲を闇に包む。

 その闇に乗じてハンニンジャの持つ凶器で誰か1人を殺して姿を潜ませる。

 闇が明けて誰が殺されたか見せてからまた漆黒の棺で闇に包んでまた1人殺す、これを全滅するまで繰り返す。

 単純だがこれがとても防ぎにくく、少人数パーティーならば最初で仕留められなければ全滅を覚悟しろと言われている。

 大人数パーティーですら対処を誤れば壊滅的な被害が出ることがある。

 唯一の救いは滅多に出会うことの無いモンスターということで、俺も見たのは2回目だ。

 あの時は10人と大人数だったので戦闘では被害を出さずに終わったが、この人数ではまずい。

 実は戦闘が終わった後も問題なのだが、まずこの状況を切り抜けれなければそれ以前の問題だ。


 どうする、ハンニンジャからは逃げられない、4人で戦うしかないか?

 ラウラは俺と一緒に戦った経験があるが、シドニスとフィヨルドはどうだ。

 そもそもハンニンジャについて知っているのか?

 フィヨルド、と俺は声をかけたが、離れていてくれと返事が静かに返ってきて1人でハンニンジャに向かって歩いていった。


 後ろのラウラからどうするんだと声がするが、本来なら助けに入るべきだ。

 だがハンニンジャに向かっていく彼の後ろ姿は、勝算無く向かっているようには見えないのだ。

 それに今無理に加勢したところで有利になるのか?

 ならば今は彼がハンニンジャにやられた時に備えることが大事ではないか。

 すぐに戦える用意をしておけ、そう言った瞬間、ハンニンジャからの漆黒の棺がハンニンジャとフィヨルドの周囲を覆った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。