43 (外伝)ヤバイ奴と2泊3日の地獄旅 前編
俺の名前はアネル、アズールの冒険者ギルド付きのBランク冒険者だ。
昔は大所帯のパーティーを組み色々な地域に行ってモンスターと戦ったり、希少な薬草を入手したりしていた。
だがパーティーメンバーであり妻でもあるラウラが子供を授かったことからパーティーを解散し、妻の実家のあるアズールに根を下ろすことにした。
アズールに長く滞在していたので冒険者ギルドにも友人や知り合いは多かった。
そのうちの1人とアズールで根を下ろすと話したところ、ギルド付きにならないかと言われ、安定していた生活を望んでいた俺はすぐにその話に飛びついた。
妻も出産して数年で冒険者に復帰した。
子供の面倒は妻の実家が見てくれたので、アズールに根を下ろして良かったと思う。
今は俺と妻、それと俺の元で勉強したいというシドニスという斧士と3人で活動することが多い。
ギルド付きの冒険者には冒険者ギルドから依頼が入ることがよくある。
ある日、依頼を頼みたいというのでギルドの副長に呼び出された。
副長から話を聞いたところ、フィヨルドという新進気鋭の冒険者がおり、討伐Bランクに上げる用件を十分に満たしているのだが不審な点があるらしい。
明らかに冒険者ギルドに納入してくる魔石の数が多いのだ。
それだけ聞けば、またパーティーの魔石を1人に集めて報告するタイプの不正か、と思うのだがどうやら事情が違うらしい。
このフィヨルドは過去にほぼパーティーを組んでおらず、また冒険者の友人もほとんどいる形跡が無く、人と係わらないタイプなのだとか。
他の冒険者ギルドに過去のデータをあるだけ漁ってもらった結果、何回かだけ臨時のパーティーを組んだことはあるようだがそれ以外は無い。
確かにパーティーを組まない冒険者もいることはいる。
だがそれは街中での雑用を主に行うルンペンのようにモンスターや盗賊に襲われることの無い冒険者、若しくは戦闘を避けるタイプの冒険者だ。
フィヨルドのようにモンスターとバリバリ戦うタイプにも関わらず、1人でモンスター討伐を続ける者がそもそも珍しい。
しかも1人で討伐しているにも関わらず納入した魔石が不自然に多く、倒したモンスターにはなかなかの難易度のモンスターが混じっている。
直近でマーマンの魔石を数十個収めているが、マーマンの討伐には船を使う必要があり、船を沈められないため最低6人ほどで戦うのが一般的だ。
魔石の個数もそうだが、どうやって1人で戦ったのだろうか、探せば探すほど疑問が出てくる。
確かに不審と言われても仕方の無い人物だ。
副長の考えを聞いたところ、他のパーティーから魔石をイディで購入しているのではないか、と疑っているらしい。
確かにそれならば1人で魔石を多く納入することが出来るが……仲間もいないのにそこまでして上げるランクか?
それにそんなことをするにはかなりの資産が必要になる。
そんな資産があれば冒険者などやらなくていいだろう。
また副長から依頼の達成率などのデータを見せてもらったが、他の依頼系統の配達や捜索も極めて達成率が高くとても優秀に見える。
だが不自然だ、不自然なくらいに成功率が高い。
どんな熟練の冒険者でももう少し失敗がありそうに思えるほど失敗が無い。
まるで自作自演しているのではないか、そう思えるほどだった。
だがあくまで疑いである、不正をした証拠など何一つ無い。
それに副長の魔石を購入するという考えは間違っていると思う。
そこまでの数を集めれば必ず何処かで魔石を高額で買う冒険者がいると耳に入るはずだ。
一応残りの可能性を考えるならば、そのような魔石集めを専属で行う集団を雇っていることくらいだが、さすがに考えすぎだろう。
それに討伐の昇格試験はギルドからの同行者付きの実戦形式だ、さすがにそこでは誤魔化せない。
副長にそう伝えると、やはりそうかね、だがうーむ、と言い唸っている。
それで結局何の用事だったかというと、結局このフィヨルドに討伐の昇格試験を受けさせることにしたので、その同行者を俺がやれという話だ。
フィヨルドが拒否する可能性もあるが、それなら別にそれでいい。
日程は話をした翌日から試験開始にするそうだ。
何らかの不正や細工をしているならその時間を失くすという魂胆なのだろう。
この話をした日、フィヨルドと副長が討伐試験の話をした。
俺は副長に頼んでラゴウサムチの魔法をかけさせてもらって、副長とフィヨルドの会話を隣の部屋で盗み聞きした。
モンスター討伐の方法については何一つ語ることはなかったが、俺だって聞かれても簡単に答えたりはしない。
副長はまだ不正を疑っているようで、実は仲間がいるのではないか、今なら白状するチャンスだ、とさりげなくアピールしていた。
そのアピールに気づいているのか分からないが、討伐試験を明日行うことについてはあっさりと承諾した。
お互いその条件で昇格試験を行うことを合意した以上俺からは何も言えない。
明日から何も問題が起こらないことを祈るのみだ。
シドニスに明日からの予定を伝えてから家に帰り、ラウラと今日の出来事を話した。
ラウラもフィヨルドという冒険者のことは知らないらしい。
シドニスは歳が近いので知っていることを期待したのだが、知り合いがパーティーに誘ったら断られた男にそんな名前の男がいたようないなかったような。
その程度の情報しか分からなかったので実質本人については何も分かっていない。
ラウラからは、変だったら捕まえればいいだけだ、と言われ実際それしかないので考えるだけ無駄か。
息子にはまた数日会うことができない、一抹の寂しさを寝顔を見て胸に感じた。
何があっても俺とラウラだけは無事に帰らなければならない……無論シドニスも。
危険を感じたらすぐに中止させよう、そう心に決めて深い眠りについた。
翌日集合場所で会ったフィヨルドという男は、あまり信用できなさそうな冒険者であった。
まず失礼なのは承知だが人相が悪い、不細工ではないのだが、小悪党のような顔をしている。
そしてそんな顔立ちをしているにも関わらず、俺のことはフーちゃんと呼んでください、などと笑顔で言ってくる。
この時点でかなり危険な気配があるのだが、その割に会った時の挨拶はとても丁寧で、まるで新人が初めて冒険者パーティーに入れてもらったような態度も取る。
だがすぐにおちゃらけたように、俺を旦那、ラウラを奥様、シドニスを若い人と呼んでいいですか、などと会って数分とは思えない提案をする。
でもふざけているのは言葉だけで、俺達の装備を見る眼光は鋭く、また彼の装備は使い込まれているが、丁寧に手入れがされているのが分かる。
はっきりいって、この男がどのような人物なのかまるで見えてこない。
だが今回の昇格試験は何事も無く終わらない、そのことだけははっきりと分かった。
本当は彼がモンスターを見つけるまですぐ後ろを歩くのだが、ラウラがあまり近づきたくないと言うので少し離れて着いてゆく。
会話をしてどのような人物なのか見定める予定だったのだが、このようになってしまってはそれも叶わない。
しばらく歩いて森に到着すると、彼は立ち止まりおもむろに背負っていたリュックから銅鑼とバチを取り出した。
何故銅鑼を取り出したのか俺達には全く分からなかったが、彼は突然銅鑼を1回鳴らした。
ジャーンという音が鳴り、何が良かったのか分からないが一度頷いてそのまま森の中に入っていった。
あれは何なんでしょうか、とシドニスが俺に聞くが、俺が教えて欲しい。
銅鑼を鳴らす理由が全く分からない、モンスターを音でおびき寄せているのだろうか?
しかしそれならば連打してもっと存在を主張しそうだが、10分おきくらいに1回鳴らすので何の意味があるのか分からない。
ラウラが頭が大丈夫な人なのか心配している、シドニスもあのまま放置するんですか、と戸惑っている。
5回目の銅鑼を鳴らしたときに、さすがに不安になったので彼を呼び止めて何をしているのか聞いた。
彼曰く、銅鑼を鳴らした音の返ってくる様子でモンスターを探しているらしい。
言うまでもないが、今までこんなことをしている冒険者は見たことが無い、それと意味不明だ。
銅鑼なんて叩いていたら何時モンスターがこちらに気づいて襲い掛かってくるか分かったものじゃない。
もし俺のパーティーメンバーがこんなことをやっていたら直ちに止めさせるだろう。
しかし今回は、これでモンスターを探していると彼に言われれば止めることはできない。
彼がそう言った以上本当かもしれないからだ。
俺はそうか、分かった、としか答えることができずラウラとシドニスの元へ戻った。
二人してやっぱり頭がおかしいのでは、と言ってくるし、俺も現時点ではそう思うが、とりあえず様子を見守ることにした。
これでもしモンスターに全員が襲われることがあれば失格にしてしまえばいい話だ。
この辺りなら俺達3人なら襲われたとしても脅威になるモンスターはいない、むしろ早く襲われてしまえ、そう思っていた。




