42 討伐Bランクの試練 後編
昇格試験の日程については急な話だが、明日の朝から明々後日の夕方まで2泊3日となった。
この期間でモンスターを討伐し、緊急の事態が発生しない限り街に寄ってはいけないというルールだ。
合格基準ははっきりと教えてもらえないが、討伐Bランクの実力があると判断されれば合格という曖昧な規準だ。
ただ単に明確に決めてないだけかもしれない、人数によっても変わる話だしな。
質問は何個か受け付けるというので、同行者について尋ねたところ、冒険者ギルド付きの討伐Bランク持ちのパーティー3人が来るそうだ。
つまり積極的に守らなくていいということだが、モンスターをそこまで引っ張ってきてわざと戦わせる状況に仕向けるのはダメだと説明された。
まあそうだよね、俺の実力を示す試験なのに他人に戦わせてはいけないだろう。
その3人は2泊3日分の食糧などは自分で用意して持ってくるんですよね、と確認すると当然そうだと言うので後は別に聞くことは無い。
最後に副長から、本当に1人で大丈夫なのかと念押しされたけど、意外と1人のほうがやりやすいですよと答えて退室の許可をもらい帰った。
じゃあ明日からの準備でもするか、面倒な要素が多いし。
2泊3日監視付き、アイテムボックスも使用禁止、モンスターや動物への変化禁止、何度か似たような経験あるけどかなりのハンデなんだよなぁ。
それでも視覚や嗅覚、聴覚などの一部変化は使えるから普通のモンスター退治に困ることは無いけど。
食糧は保存食が必要だな、日帰り3回ならば軽食を持っていくが2泊3日ならばそうもいかない。
大きめのリュックを担ぐ形のほうがいいな、アイテムボックスさえ使えればこんなもの必要ないんだが。
それとちょっと誤魔化すためのアイテムが必要だな、質屋を巡ってみよう。
翌日、同行者の3人であるリーダーでBランクの剣士アネル、アネルの妻の剣士ラウラ、若い斧士シドニスと会いお互いに挨拶した。
試験中は俺の後ろを邪魔しないように3人が着いてきて俺の動向を観察する。
リーダーから注意事項として、危険だと思ったら事前に言え、危険な状態だと判断した場合は介入すると説明された。
特に問題ないので、じゃあ行きますね、と言って街から離れた森までは街道を歩いていく。
3人はだいたい10メートルほど離れて着いてくるようだ、監視されている感じが半端ねえ。
そこそこ街から離れたところで森に到着し、リュックから今回の試験のためにわざわざ買った物を取り出す。
取り出したものは質屋で買った手持ち式の銅鑼である。
叩けばジャーンジャーンと音が鳴る、やたら伏兵が出てくるイメージがあるが本来はただの楽器だ。
当然叩いて音を鳴らすために買ったのだが、普段はこんなこと当たり前だがやっていない。
音を鳴らせばモンスターにこちらの居場所を教えるようなもので、逆効果なのでそんなこと普通はしないほうがよい。
では何のために買ったのか、まず立ち止まって銅鑼を叩くと音が出る。
銅鑼を叩いた後またモンスターを探すように森の中を歩く、しばらく時間を置いてまた銅鑼を叩いてから森の中をまだ歩く。
これを何度かやっていると後ろの同行者から何をやっているのか聞かれる。
その問いに俺は、この銅鑼を鳴らしてモンスターからの反響を聞いているのだと答えるが、もちろん嘘である。
正直耳や鼻だけで十分モンスターの有無や位置が分かるので、銅鑼など鳴らす意味は無い。
むしろ五月蝿いし、重いし、歩きづらいし、武器を持つのに邪魔である。
では何故そんな無駄なことをやっているのか、それは俺の正体、合成獣であることを隠すためである。
人は理由があると分からなくても納得する生き物である。
例えば俺がモンスターを発見したとして、どうやって見つけたのか聞かれた時、ただ当ても無く歩いて偶然そこにモンスターがいて、見つける方法は勘ですね、と言うと嘘っぽい。
それよりも、この枝の倒れ方は最近モンスターが歩いた痕跡ですね、と適当に折れている枝を見て嘘を言うほうが説得力がある。
そして今回は銅鑼で鳴らした音の反響でモンスターの位置を探っています、という設定である。
そんなこと無理だと言われても、皆さんには分からないかもしれませんが俺なら分かります、と言ってモンスターを見つければそれ以上追求できない。
もちろんモンスターの痕跡があればそれに越したことは無いのだが、痕跡無しで何回も発見したり、何気なくモンスターのいる方向に近づいていったら同行者に不自然に思われる可能性がある。
銅鑼も不自然だろ、というツッコミはあるが、そこは反響を聞いて分かったで乗り切る。
反響でモンスターの位置が分かったから痕跡が無くてもモンスター方向に近づいていっても大丈夫、そういう設定で乗り切る。
ノルマが分からない分多くのモンスターを倒したいからね。
何度も痕跡無いのに見つけたら不自然だからこんなことになってしまった。
俺は何をやっているんだろう。
冷静になると悲しくなるので気を紛らわすため定期的に銅鑼を鳴らしてモンスターを探す。
当たり前だが本当にモンスターの近くでは鳴らさない。
聞こえない距離で鳴らして反響があった、行きましょうというストーリーだ。
そして役に立たない銅鑼を叩きながら2泊3日でリザードマン15匹含む計25匹のモンスターを討伐した。
数も大事だが、夜営しているときはイルカのように脳を左右半分ずつ寝る技術で奇襲を防いだりした。
これで不合格なら異議申し立てをしたいくらいである。
昇格試験はもちろん合格したのだが、副長からやたら褒められた。
何か不正を疑われていたのだろうか、今となっては真実は霧の中。
銅鑼のおかげで変な奴というレッテルを貼られてしまったが、俺が合成獣だとはバレなかったから及第点と言っていい内容だな、うん。
討伐ランクがBになったことで問題が1つ発生した。
募集もしていないのに見知らぬ連中からパーティーに入らないかと冒険者ギルドで声をかけられることが増えてしまったのだ。
Cランクの時も声をかけられることはあったのだが、Bランクなら更に人数が少ないからもっと声をかけられる。
しかもパーティーに入っていない者となれば尚更少ないのでしつこい連中もいる。
そんなときは銅鑼を鳴らしたい衝動に駆られる、銅鑼を鳴らせば相手も周りも迷惑がり、誘ってきた相手はほどなくして去るだろう。
実際に1度やってみて効果があったのだが、うるさいとギルドの職員から怒られてしまった。
でも1度やったあとは声をかけられる機会がぐんと減った。
人間からの反響が悪かったようだが、俺からの反響は上々です。




