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39 金と命の価値は 前編

 バンギに戻った俺は早速フェルノのいる鍛冶屋を訪ねた。

 フェルノの妹が店番をしていたので兄貴に用事があって来たと伝えると、今忙しいので後で言っておきますとのこと。

 確かに奥からはキンキンキンキンと金属を叩いている音がする。

 鉄は熱いうちに打てという言葉の通り、熱が入っている瞬間なのだろう。

 でも熱い商売を持ってきたのに最初からこれじゃ冷めちゃうよ、まあ営業中に急に訪ねて出て来いというのも無茶振りなので仕方ない。

 夕飯に食べるために持ってきたカレイの干物を先に実家に置いてこよう。

 3時間くらいしたら来るから、と店番に伝えて一旦実家に戻った。


 ちょっと早いが2時間後にまた店に戻ってきたら静かになっているので作業は終わっているようだ。

 店番の妹がフェルノを呼びに行き、2階からすぐにフェルノが降りてきた。

 鍛冶師見習いを始めた頃は腕も見た目も頼り無さそうだったのだが、身長は伸び、全体的に大きくなった。

 昔の子供の頃の面影は薄れ、今は見た目は頼りになりそうに見える、成長期の6年って大きいなぁ。

 フェルノから何か買いに来たのか、と聞かれるがちょっとここでは話したくない。

 聞きたいことがあるが人がいない場所で話したい、と伝えると工房の中なら、と言うので工房に入れてもらった。


 俺は工房内の汚れた椅子に座り、ちょっと金属の加工を依頼したいんだが、と言ってポケットから3枚の金貨を取り出した。

 フェルノは目を丸くしてこれ本物の金か? と俺に若干の疑いの目を向けてくる。

 失礼な奴だな、ちゃんとした所で鑑定してもらったものだし、お前金か偽物か見分けつかないって鍛冶師として恥ずかしくないの?

 フェルノは金貨を手に取りまじまじと見て、金貨なんて滅多に見ないんだよ、と言い訳じみたことを言いながら興味津々といった様子で嘗め回すように見る。

 もういいか、別に自慢しに来たわけじゃないんだ、この金貨を純度の高い金板にして売りたいんだけど、お前の家で出来るのかって話をしにきたんだよ。

 金の精錬は親父なら出来るはずだけど俺はやったことないぞって、お前はこの6年何を学んできたんだよ。

 金なんて田舎の鍛冶屋に滅多に持ち込まれないってそんな事情俺は知らんぞ。


 で、親父さんに頼んだら引き受けてくれるかだけど、当然だけど直接話したほうがいいな。

 フェルノちょっと親父さん呼んできて、この金貨のことは伏せてな。

 なんで伏せるのって金貨の存在なんて必要ない人間以外知らないほうがいいの、金貨じゃなくても金持ってるとか1発当てたなんてすぐ広まるんだから。

 俺の家族が誰かに話すってことかぁ、そんな簡単に話すのか? とフェルノは疑問なようだが、実例がある。

 数年前メタルホーンラビットがバンギに出た、あの時俺は頑張ってかなりの数倒してまとまった金を手に入れた。

 このことは家族にも話していなかったのに、数日してあのエリアンテがその件で訪ねてきたのだ。

 フェルノはエリアンテがってマジかよ、分かった、とりあえず親父呼んでくるわ、と言って工房から出て行った。



 数分後フェルノと親父さんが工房に戻ってきた。

 親父さんに3枚の金貨を純度を高めてから金板にしたい旨相談したところ、この量なら手間とか考えればそのまま売ったほうが高いぞとアドバイスを受けた。

 かなり手間かかるんですか? と尋ねたところ、手間もそうだが薬品も使う、それに金貨ならどこでも買い取ってもらえるしな、と冷静で的確な判断をしてくれた。

 フェルノ君、君に求められているのはこういう能力ですよ。


 別に不審に思っていたわけではないがこの親父さんは信用できるな。

 そう判断した俺は、じゃあもっとたくさんあれば話は別ということかと尋ねると親父さんは、同じ金貨なら50枚あればやる価値はあるだろうな、その場合金板というより金塊になるが、という見解を示した。

 ここでも出来るんですか、と聞くと、鉱石の加工はここでやっているから出来るぞ、と言うのでちょっとフェルノ、そこのドア鍵閉めておいて。

 ドアの鍵を閉めてもらったところでアイテムボックスを出す許可をもらい、中から例の箱を引っ張り出した。

 箱の中には374枚の金貨が入っていて、二人はこの箱の中身を見たとき言葉を失った。

 フェルノが震えた声で、お前ついにやったのか、なんて俺がまるで強盗犯かのような失礼極まりないことを言ってくる。

 なんと無礼な、ちょっとモンスターの家の鍵開けて侵入し、寝込みを襲って住民の命と金とお宝かっぱらってきただけだぞ。

 なんて言えないので、秘境みたいなところに行った時、偶然見つけたモンスターの巣を漁っていたら見つけただけだよ、と不必要なことは言わず説明する。


 これを高純度の金板や金塊にしたいんだが出来ますかね、と親父さんに尋ねる。

 親父さんは、出来るがこの量なら街の鍛冶屋じゃなくて国一番の鍛冶屋に持っていく話だぞ、俺がやっていいのか、と確認してくる。

 何か不都合があるのかと思えば、ただ信用の問題で、別に結果が大きく変わるわけではないのなら俺はここに頼みたい。

 あまり知られたい話でもないので知っている人間は少ないほうがいい。

 やっぱりお前何かやったのか、とフェルノが不安そうに聞いてくるが、せっかく古くからの友人が儲け話を持ってきてやったのに疑うとは失礼だなぁ。

 金貨のまま売ってもいいんだけど、鍛冶師は材料に手間かけて価値のあるものにするのが仕事だろ、お前にも儲け話に一枚噛ませてやろうという俺の心遣いを分かってくれないものかね。

 でもその心構えは大事だよ、じゃないと何処かの冒険者みたいにネズミ講に引っ掛かるからね。


 というわけで此処でやってもらうことになったのだが、これだけの金が動く話なので正式な契約書等を作らなければならないね、と親父と俺で確認した。

 フェルノは普段そんなことやってないし友人に信用がないのか、みたいなことをぼやくが、大金が絡むと人はすぐに変わるぞ、友人だからこそしっかりやれ、と親父に怒られていた。

 フェルノよ、そういうところが鍛冶屋として足りないんだぞ。

 3人で計量を行い加工してもらう金貨は全部で366枚で約10キログラム、1枚は俺が記念に取っておくことにした。

 気合入れてやるぜ、とフェルノは張り切っているがお前がやるの?

 やったことないって言ってたじゃん、お前の失敗でロスが出たら店の取り分から引けよ。

 あともちろんだけど、これだけの金が手元にあることは黙っておけよ。

 いつ寝込みを襲う強盗が来るか分かったもんじゃないからな。



 契約書を交わして金貨は親父のアイテムボックスに入れられた。

 この世界で一番安全な保管場所はアイテムボックスだ。

 魔法なので本人以外が自分のアイテムボックスを出すことはできないので他人が触れることも出来ない。

 これだけは俺の前世の世界よりも優れているな。

 銀行の貸し金庫と違って見ることも触わることも出来ないし、大きい街の中なら何処でも出し入れ自由で、これがあれば世界は大きく変わっただろう。


 薬品の注文などがあるので完成まで約1ヶ月かかるらしい、急いでないから全然大丈夫。

 じゃあ話も無事終わったことだし前祝いに飲みに行こうぜ、とフェルノが飲みに誘ってきた。

 すでに俺は何度か祝杯を挙げているのだが、当然飲みに行く。

 こういうのは何回やってもいいもんですからね。

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