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31 フィヨルドの不可思議なダンジョンと俺の能力 後編

 不可思議なダンジョン11Fに到着、この階からマジックアイテムが落ちている確率が上がると攻略本に書いてあったからここからが本番だ。

 神様がこの不可思議なダンジョンに行けと言ったのは、恐らくここにあるマジックアイテムが関係しているのだと思っている。

 マジックアイテムを比較的最も簡単に入手できるのがこの不可思議なダンジョンだからな、合成獣がパワーアップするマジックアイテムがあるに違いない。

 攻略本に気になるアイテムの記載は無かったが、合成獣が来たとき限定アイテムがあってもおかしくないかもしれないし。

 それにしても早くトンズラの巻物出てください、固定で出現する階層とか無いんですか。


 そして14Fにてついにマジックアイテムの腕輪を発見した。

 どのような効果を持っているのか分からないので、鑑定の巻物を使うか、チュンソトフの街にある鑑定屋に持ち込んで鑑定してもらわなければならない。

 もちろん装備して自力で効果を判明させるという方法もあるのだが、良い効果が出るとは限らないし、呪われていて着けたが最後外せなくなる可能性もある。

 なので鑑定の巻物を拾うか、チュンソトフの街に戻るまでは我慢我慢。

 それにしてもこの腕輪どうやって装備するのだろうか?

 明らかに俺の二の腕どころではない大きさで、太ももに嵌めるのがちょうどいいサイズのように見える。


 うーん? と初めて拾ったマジックアイテムの腕輪を手に持ってまじまじと見ていると、急に腕輪が発光し、腕輪の大きさが小さくなって俺の手首に吸い付くように装備された。

 おお、すごい、本当にマジックアイテムなんだ!

 と感動も束の間、何勝手に装備してるんだ腕輪よ。

 勝手に装備されるという能力の腕輪なのだろうか?

 とりあえず1回外そうとするが、外れない。

 力を入れても、念じても、全く外れるどころか動く気配すら見えない。

 呪われてるよ、この腕輪。


 やばいよやばいよ、どんな能力か分からない腕輪装備しちゃったよ。

 シャナシの巻物があれば呪いを解くことができるのだが、アイテム運が悪く所持していない。

 よし、ここは合成獣らしく解決してみよう。

 所詮は腕輪、腕の無い生物になってしまえば腕輪を装備できないので外れるか消滅するかもしれない。


 腕の無い生物といえば? そう、アナコンダだね。

 蛇には手足がないため腕輪は装備できない、というわけでアナコンダにモデルチェンジだ。

 アナコンダになった俺は腕を確認する。

 よし腕は無い、腕の無い生物に突如変わるとはこのマジックアイテムも想定していない、まさに手も足も出ない状況であろう。

 やったか!? と自らのボディを確認していると明らかに腹に違和感がある。

 何かと見てみれば、胴体に呪いの腕輪がチャンピオンベルトみたいにがっしりと装備され主張を存在している。

 マジックアイテムってこんなレアケースにも想定しているのかと衝撃を隠すことができない。


 大人しく諦めて人間形態になる。

 落ち着け、まだ慌てる時間じゃ無い。

 装備しても直ちに影響は出なかったわけだし、良い効果でも悪い効果でも呪われている可能性があるのだ。

 この腕輪が良い効果であれば何ら問題ないし、悪い効果であってもその条件が満たされる前にシャナシの巻物を使ったりチュンソトフの街で呪いを解いてもらえば大丈夫だ。

 早くトンズラの巻物も出てくれよな、頼むよー。



 15Fに進軍するが、目の前の部屋が静かなのだがモンスターの息遣いがとても多く聞こえる。

 引き返したいところだが通路は目の前に一本のみ、意を決して覗いてみると、大量のモンスターが一斉にこちらを向いた。

 モンスターハウスだ!

 ここでの対処は死を意味する、タツマキの巻物、ファイアー草、人身御供の杖など使えるアイテムは惜しみなく使え!

 天国にアイテムは持っていけないんだから出し惜しんで死ぬのは愚の骨頂だ!


 なんとかモンスターハウスのモンスターは一掃したものの、失ったアイテムに比べて得られたアイテムはとても満足できるものではない。

 正体不明の腕輪を装備したこの状況ならば命があるだけマシと考えるべきか。

 安心したせいかお腹が減ってきた。

 またパンでもおにぎりでもいいから落ちていないだろうか。


 17Fにて明らかに異変を感じる。

 お腹の空き具合が尋常ではない。

 俺は普段燃費が良いとは言えないほうだがこのお腹の減る速度の速さは異常だ。

 この異変の原因は明らかに呪われた腕輪、分かったぞこの腕輪の正体。

 これはハラヘリーの腕輪、お腹がどんどん空いてしまう恐ろしい腕輪である。

 これは不味い、食糧はすでに尽きているし、ダンジョンから脱出することもできない。

 飢え死になんて嫌だ嫌だ嫌だ、愛と勇気以外に友人がいない人が助けてくれないだろうか。

 空腹をこらえながら歩くがこの階層にも食糧の香りは無い。

 最後の希望を託して18Fに足を進めた。


 18Fに辿り着くが、すでにモンスターと戦う余力が削られている。

 モンスターと出会わぬように歩き入った広間に置かれていた巻物、おぼつかない足取りで辿り着き確認すれば、これはとんずらの巻物、お前のことを待っていたんだよ!

 すぐさまとんずらの巻物を開いて使用する、これで外に出られるはずだ、ビバ生還!



 とんずらの巻物を使って地上に戻ってきたが、森の中だった。

 そういえば攻略本にとんずらの巻物を使って地上に出ると近くの森のランダムの位置に戻されると書いてあったな。

 ここからさらに歩いて街まで戻れと?

 間に合わないぞ、アイテムボックスにも非常食は入っていないし。

 草食動物になって草を食べながら戻るか?

 いや、この腹の減るペースでは食べる速さが追いつかない、もっと大きなカロリーが必要なのだ。

 だめだもう倒れそうだ!

 早く……何か食べないと、俺の空腹を十分に満たしてくれる物を食べなければ、飢え死にしてしまう!


 そんな飢えた獣である俺の前に現れたのは1匹のオーク。

 この辺りでオークが出たという情報は無かったが、はぐれオークなのか別働隊なのか。

 そんなことは今生死のかかった俺には考える余裕は無い。

 いくら死に掛けの俺であるが、豚の餌なんてまっぴら御免だ。

 最後の力を振り絞って一刺しでオークを殺したが、もう動く気力すらない。

 せめてこのオークが食べられる豚ならば良かったのだが、オークは不味いし臭いし食べようとしても吐いてしまう。

 飛べないどころかただの豚より劣化しているとか、本当に救いようが無い豚だな。


 ああ、俺はこんなところで死ぬのか……。

 何故神様は俺を不可思議なダンジョンに送ったのだろうか。

 何故このハラヘリーの腕輪が、俺が能力を半分も使いこなしていないことにどう関係しているのか。

 しかし……何故半分なんだ?

 様々な動物になることが半分だなんて何を基準にしているんだ……?


 走馬灯のように蘇る過去、小さい頃は楽しかったなぁ、何にでもなれる気がした。

 学校の級友達や道場で仲良かった友人らは今頃何をしているだろうか。

 成人式があれば同窓会でもして一同再会して色々な会話をしたのだろうか。

 冒険者になった後は自由だった。

 前世では仕事は自分で決められないし、休みでも自由に旅行するのも難しかったが、今は自分で好きに選んで好きに遊びに行くことができて、楽しかったなぁ。

 それが出来たのも合成獣の能力があってこそだ。

 まさか科学者に拉致されて改造手術を受けることになるとは思っていなかったが、そのおかげで能力を、そう、動物やモンスターの能力を発揮できるように……。

 そういえばモンスターの能力って使ってなかったなぁ。

 とはいってもモンスターって3種類にしか変わることはできないんだけどね、スライムと、ゴブリンと、ホーンラビットだけ。

 どうやって使えばいいんだよ、まだ犬と雉と猿だけのほうが使い道があるぞ。


 俺の前で横たわっているオークをふと見る。

 オークは食べることができない、動物に変わっても無理だ。

 でもスライムならばどうだろうか、スライムはどんな生物をも体の中に取り込んで消化する性質を持っているはずだ。

 スライムの体は大きくない。

 オークを体の中に取り込めるのか、消化できるのか、第一ハラヘリーの腕輪の力よりも早く空腹を満たせるのか、出来るのか、出来ないのか、分からないことが多すぎる。

 この状況で、分からないことが多すぎるこの状況で、どうにかなるのか?

 ほとんど可能性はゼロに近いかもしれない。

 でもやらなきゃ……確実なゼロ、確実な死だ!


 俺の体はすでにスライムに変わっていた。

 俺の体はオークの死体をすっぽりと覆い食事を開始した。

 血を、肉を、脂肪を、骨を、内臓を、全身が胃液になった気分で溶かし消化する。

 30分ほどでオークを完全に食い尽くした俺は空腹から解放され、今なら街まで辿り着けるはずだ。

 急いでチュンソトフまで戻り、腕輪の呪いを解いてもらってやっと生命の危機から脱することができた。

 ありがとう合成獣の能力、ありがとうスライム、ありがとうオーク、このどれかでも欠けていれば俺は死んでいただろう。

 ハラヘリーの腕輪はこの経験を忘れないため、トクガワさんが敗戦を忘れぬためにしかめっ面の肖像画を残したように、俺もアイテムボックスに保管しておくことにした。



 宿を取ってベットに横たわり、体を思いっきり伸ばした。

 モンスターも馬鹿にできないものだ、と思った時あることに気付く。

 俺の中のモンスターの遺伝子が、スライム、ゴブリン、ホーンラビットに加えてオークの情報も加わっているのだ。

 立ち上がって服を脱ぎ、念じてみれば鏡に映るのは醜悪な面をした豚、オークの姿であった。

 そうか、そういうことか、俺の能力はまだ完成されていないのか。

 遺伝子を取り込むことで増えるのだ、変わることが出来るモンスターの種類が。

 これならばいけるかもしれない、ターゲットと戦って勝利する希望の光明が見えた!


 オーク姿のまま興奮していると、宿屋の従業員に部屋をノックされた。

 慌てて人間に戻り、どうかしましたかと聞くと、何か変な臭いがしたのでと言われてしまった。

 この臭いの主は俺の命の恩人(?)なのだが……でも臭いのは仕方ない、十分に換気をしておこう。

 そして今日の晩御飯はポークソテーだった、複雑な思いはしたが感謝して食べた。

 お前らの分まで俺は強くなってやる、そう誓って完食した。

 ありがとう、ご馳走様でした。

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