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25 メタルホーンラビットとの死闘 前編

 春になり、様々な植物や生物が躍動する季節である。

 クロゼ家周辺の騒動は遠方にいたため詳しく知らないが決着が着いたようで、アズール周辺も安全になった。

 それに実家にいると他の知り合い、主にエリアンテから面倒事がもたらされてしまうので俺の活動拠点であるアズールに近日中に戻ろうと思う。


 バンギの冒険者ギルドに依頼や情報を見に行くと、冒険者ギルドが何やら騒々しい。

 何があったのかと聞いてみれば、メタルホーンラビットが近くに出たというのだ。

 メタルホーンラビット、ホーンラビットのレア種であるがウサギにも関わらず厄介なモンスターである。

 まず名前の通りメタル、つまり金属という名を冠するように毛と皮が鉄のように硬く並の武器ではダメージを与えるどころか武器へのダメージが大きくこちらの武器が壊れてしまう。

 そしてそのような硬さにあるまじき警戒心と素早さを持ち、長い耳で外敵をいち早く察知し逃げるスピードは恐ろしく速い。

 平地で時速50キロメートル以上、この世界最速の男と言われるウサギンアンペア氏より早く(理想的環境を整えた場合で最高時速約44キロメートル)、武器防具を装備した冒険者が走って追いかけることは不可能だ。

 ならば魔法で仕留めれば良いではないか、と思うかもしれないがメタルホーンラビットは鉄の毛皮で守られているため一切の魔法は効かない。

 幸いなことは攻撃面に関しては普通のホーンラビットと大差無く、硬い角と歯、たまに撃ってくる弱い火魔法に注意する必要はあるが最底辺クラスの戦闘力しか持たないことか。

 硬くて逃げて捕まらない、素材はホーンラビットと違い使い道が無い、倒しても経験値なんて手に入らないという冒険者にとって屑中の屑モンスターである。


 放っておけば? と思うかもしれないがこのメタルホーンラビットは畑の野菜を食い荒らすのだ。

 ゴブリンは主に収穫した野菜や収穫できる野菜を狙うが、メタルホーンラビットは畑にある収穫前の小さな野菜、更にその前の苗ごと食べてしまう。

 このため農家の嫌いなモンスターランキングでぶっちぎりの1位(殿堂入り)である。

 モンスターの魔石から作られるモンスター除けも畑まで守るほどの量は無いので、畑の野菜は人間の手で守るしかない。

 なので倒すのが困難だろうと放置などできるわけがない。

 人を襲うモンスターも恐ろしいが食糧を襲うモンスターはもっと恐ろしい。

 普段無害な人間も食料がなくなれば人や蔵を襲うようになるからね。

 人を襲うモンスターは人を結束させるが食糧を襲うモンスターは人を殺し合わせる脅威の存在なのだ。



 というわけでメタルホーンラビットは発見された場合即依頼が出されるモンスターで、農家への被害が甚大なため可及的速やかに駆除しなければならない。

 俺も農家出身のためメタルホーンラビットへの殺意は高い。

 依頼は受けていないが(少人数に任せる系統の依頼ではないため魔石の納品のみ可)、討伐のため目撃ポイントにやってきた。

 しかし前述の通り正攻法でメタルホーンラビットを倒すのは難しい。

 そこで使うのが檻系の罠だ、幸いメタルホーンラビットの知能は野ウサギ並なので罠にかかるのだ。

 俺が目撃ポイントにやってきた時には既に罠が所々に設置されていた。

 かなりの数が設置されているのだがメタルホーンラビットは開けた場所は好まないので、木や高い草の脇などに置かれているためどれだけの数があるのかは定かではない。


 ちなみにこれらの罠は全て冒険者ギルドの所有物である。

 ごく稀に俺物の罠があるかもしれないが、基本この世界では冒険者がモンスター用に罠を設置することは少ない。

 罠を設置しても捕らえたかどうか定期的に確認する必要があるがそれはかなりの手間である。

 1箇所ならばともかく10、20と街から離れた場所にある罠を確認する負担は大きなものだ。

 目的の動物やモンスターが捕まればまだ良いのだが、当然別の野生動物がかかったりするし、別のモンスターに破壊されることもある。


 それにトラバサミなど罠の種類によっては誤って人間が罠にかかってしまい怪我をすることだってある。

 またこれが一番の問題なのだが、罠にはまっているモンスターを全く別の人間が横取りしていくことがあるし、罠の所有者以外開錠できない仕組みになっていれば罠を破壊してでも中身を持っていく人間がいるのだ。

 当然のことながら誰が横取りしたか、破壊したかなど分かる訳が無く、罠の所有者は泣き寝入りを強いられることになる。

 偶に自分の狩りに邪魔だからと罠を見つけ次第壊す輩も少数だが存在したりもする。

 これらの状況からモンスター用に罠を設置するという冒険者はほぼいないという状況だ。


 しかし冒険者ギルドが設置した罠はモンスターが入っていれば誰でも中身を持っていって良いし、鍵がかかるタイプの物は使われていないため罠を破壊する人間はいない。

 それに檻系の物がほとんどで人間が怪我をするタイプの物は設置されないし、無差別罠破壊犯もさすがにギルドの罠には手を出さない。

 もしそんなことをしてバレてしまえば怖いことが起こってしまうという噂だ、都市伝説だけど。



 長々とした前置きはこの辺りにして俺も早くメタルホーンラビット狩りを開始しなければな。

 普段は5千イディの魔石も依頼パワーで4倍の2万イディで買い取ってもらえるこのビッグチャンスを逃すわけにはいかない。

 メタルホーンラビットは罠で捕獲してから倒すのが最も簡単だが、他のモンスターと同じように普通に倒すこともできる。

 剣も魔法もはじく鉄の毛皮で無敵に見えるが、弱点は柔らかい腹、ひっくり返して腹を突き刺せば驚くほど簡単に倒せるのだ。

 問題はひっくり返すのが大変ということだけ。

 檻にかかれば檻ごとひっくり返してしまうのだが、未捕獲のメタルホーンラビットは近づけば逃げてしまう。

 罠無しで倒せるようになれば一流のモンスターハンターとして認められるほどなので難易度は極めて高い、なので檻巡回が安定だな。


 さてメタルホーンラビットは罠にかかっているかな、と思ったのだが同業者も同じ考えのようで、同じ罠を何人もの冒険者が入れ替わり立ち代り様子を見にやって来る。

 冒険者達は罠にかかっていないかと罠を巡回しているが、巡回者が多すぎてメタルホーンラビットが罠に入るタイミングが無い。

 2万という高額報酬が完全に裏目に出てしまっているようだ。

 メタルホーンラビットに逃げられるどころかこの人口密度では近づいてすら来れないだろう。

 罠に頼るのは無しだ、これなら適当な切り株で待ちぼうけしてたほうがまだ期待値が高いわ。


 というわけで今度は正々堂々と戦う所存である、来いよメタルホーンラビット! ツノなんか捨ててかかって来い!

 と思っても来るわけが無い、こちらから見つけて攻略するしかないのだ。

 メタルホーンラビットの低い泣き声を頼りに索敵し、罠の設置ポイントからずいぶんと離れた所でようやく1匹目のメタルホーンラビットを発見した。

 距離は30メートルほど、槍を構えて慎重に近づくが、数歩近づいた所で俺を察知したメタルホーンラビットは逃げ出し藪の中へ消えていった。


 息を殺して近づいたのだが、足音で気付かれてしまったのだろうか?

 しかしこれ以上足音を消すのは難しいし、もう少し消せたにしてもメタルホーンラビットに近距離まで接近できるとは到底思えない。

 遠距離から手斧でも投げるか……?

 無駄な気はするが一応やってみた、斧の風斬り音が聞こえたのか足早に逃げてしまった。

 仮に当たったとしても鉄の毛皮で弾かれて無意味だった気はするが。


 正々堂々なんて不可能極まりない、元来そんな性分でもないしそんな下らぬ思想は犬にでも食わせてしまえばいい。

 そもそも罠を使わないメタルホーンラビット討伐は数名で囲んで捕まえて倒すのがセオリーだ。

 ソロで倒そうだなんて阿呆がする所業である。


 というわけで搦め手、とまでは言わないが魔法を使ってメタルホーンラビットを討伐していきましょう。

 もちろんメタルホーンラビットに当てるためではない、退路を遮断したり危険地帯へ誘導するためである。

 火魔法! 水(氷)魔法! 風魔法! 土魔法!

 これらと知能を駆使してウサギの1匹や2匹捕獲できないなんて人間失格じゃない?

 人間の叡智を見ろ! ここは貴様らのいる場所ではないのだ!


 ……おかしい、このようなことは許されない……許されるわけが無い。

 火魔法で誘導しようとしたらさ、あのウサギ炎の中に突っ込んでも無傷ってどういう構造なんですかね、生物かどうか疑わしいレベル。

 次に氷魔法で足場をスケートリンクのようにツルツルにして水魔法で放水して強制的に移動させ、土魔法で作った落とし穴に入れて捕まえようとした。

 しかし足がスパイクにでもなっているのか、氷のような足場でもぴょんぴょん走り回れるなんてモンスター図鑑に書いてなかったんですけど。

 もしかしたら風魔法で地面から吹き飛ばせないかなと思ったけれど、メタルだもん、重たいんだよね。

 むしろ風の力でスピードアップした気すらする。

 土魔法……? 泥に沈めようかと思ったけれど突っ込むわけないし、落とし穴にはかからないし、岩飛ばしても音でバレるし、どうしようもねえな。


 これはちょっと埒があかないな、広範囲の魔法を使ったり、何十回と魔法を使ってしまってもうMPが枯渇してしまいそうだ。

 これ以上MPを使ってしまっては家に帰った後、水を温水にすることすらできず財布も肉体もヒエッヒエになってしまう。


 とりあえず休憩だな、と木の根元辺りで休憩しようと座ったらグニャリとした嫌な感覚。

 神様に祈りながらお尻のほうを確認するとそこには何らかの生物の糞、前世のウサギ小屋で見たウサギの糞だ。

 慌ててお尻の汚れを振り払っていると、遠くからこちらを見てプークスゥプークスゥと鳴く一匹のモンスターがいた。

 そうか、これはメタルホーンラビットの糞か、お前生き物だったんだな。

 そうかそうか、お前も1匹の生物なのか……。

 いいだろう、こちらも1匹の合成獣《キメラ》としてのプライドがある。

 もう許さねえからな。

 メタルホーンラビットも俺も同じ生物だ。

 もう遠慮はいらない、俺の、合成獣の全てを使って、お前に勝つ!

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