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24 芸術的護衛依頼 後編

 こちらに向かってくる人間4名は助けてーと叫びながら此方に向かってきているが、すぐ後ろには青い毛並みをした狼の群れが迫ってきている。

 俺は魔法を撃ての合図、斧を前に出して魔法を唱えた。


「大地よ、突き刺す矛となり敵を穿て!サンドランサー!」

「業火よ、燃やし尽くせ!ヒルファイアー!」


 俺の横から火柱が立ち上り狼の群れに、そして人間4名に向かっていく。

 この火柱はエリアンテの魔法だろう、ワンテンポ遅れて俺の目の前からは砂の槍が勢い良く飛びだした。

 突然現れた火柱にこちらに向かう勢いを削がれた人間と狼を砂の槍が襲う、エリアンテもやるじゃない。


 あれ? 後ろから魔法が飛んでこないぞ? 

 何事かと思えばゲルニカとムンクはおどろき戸惑っている、何してるんだこいつら。

 指示を出せば動くだろ、全員に指示、皆殺しだ!

 当初の打ち合わせで敵が正面だけの時は俺とエリアンテは最初に突っ込む、すぐ後ろをゲルニカが行って最初の討ち漏らしを叩く、ゲルニカを突破した討ち漏らしと老婆の護衛がムンクの担当である。


 手始めに手斧をぶん投げて殴り用の斧を両手に持って人間と狼に切りかかる。

 エリアンテも我先にと思い切り飛び出し、手始めに近くの人間を肩からバッサリ切り落とす。

 食らえ、ダイナミック振り落とし!

 人間も狼も思い切り振り落とす斧は効果抜群、槍よりも肉に刺さった刃が抜けやすいので多くの敵を同時に相手取るには斧は効果的だ。

 俺の斧が2匹目の狼の脳天を直撃したくらいでようやくゲルニカが参戦。

 メイスが胴体に当たり狼が地面に転がる、後ろに漏らしたつもりは無かったんだが来るの遅くない?


 ゲルニカが参戦した頃には人間は全滅、狼が半分以下になっており、残った狼は尻尾を巻いて四方に逃げ出した。

 エリアンテが逃げる狼を追おうとするが、タイヨウ、ステイ!と止める。

 狼を見送ったところで被害を確認するが、先制の魔法が効いてこちらの被害は皆無に近い、大勝利だ!

 被害が無くて良かったわ、ふぅと一息ついたところで、ムンクが手を頬に当てて真っ青になっている。

 はて、そちらにモンスターは行かなかったはずだがどうしたのだろうか。


 モンスターとの戦いは初めてではないはずだが、ムンクに一応気を使って大丈夫か? と声をかける。

 しかしムンクは強張った声で、いや大丈夫じゃないですよ、大丈夫じゃないですよ、と小刻みに震えて焦るので背景が揺らめいて見えてしまう。

 何が大丈夫じゃないのだろうか?

 ああ、返り血で血まみれになった俺やエリアンテは若干ホラーだけど、後で拭くから問題ないでしょ。

 そっちじゃないです、とムンクが指差した先には斧や剣で斬られた人間のような死体がある。

 ゲルニカもどうするんですか、なんて言ってくるけどまだ気付いてないのか。


 よく見ろ、と1匹の死体に近づきシャツをめくると腹には魔石がある。

 そう、この人間っぽい4人はモンスター、ワーウルフと呼ばれる狼型の珍しいモンスターである。

 ワーウルフは狼だが成長すると人間に化けるという特殊能力を所持している個体が現れる。

 今回は人間に化けた4匹が助けを求めるフリをして俺たちの背後に回りこんだ所で挟み撃ちにするという作戦だったようだが、俺を騙すのは荷が重かった。

 丘の向こうからこちらを監視しタイミング良く出発したのだが、ウサギ並みの聴力を持つ俺には音でバレバレである、運が悪かったね。



 ゲルニカとムンクは人間だと思っていたものがモンスターだったのに驚き、同時にほっとしたようだ。

 人殺しをしてしまったと悔いていたのかもしれないが杞憂で済んだのだ。

 ワーウルフは魔石の他毛皮や肉も売れるので、魔石を取った後魔法で氷漬けにして馬車の荷台に乗せてもらった。

 護衛中に倒したモンスターや賊の所持品は護衛している冒険者に所有権があるので我々の物だ。

 いいクリスマスプレゼントありがとう、トナカイじゃなくて狼が運んでくれました。

 惜しむべきは一番高値の付く毛皮は誰かの放った火の魔法でチリチリになってしまったので二束三文になってしまったことだ。

 馬車と野菜の護衛が一番大事なので別にいいけど……いいけどね、ハァッ。



 諸々の後片付けが一段落ついたので見晴らしの良い場所に移動して小休止を取ることにした。

 皆で輪になって座り、俺は水魔法で飲み水をコップに入れて一息ついていると、ゲルニカが俺にどうして追われているのが人間じゃなくてワーウルフだって分かったんですか? と聞いてきた。

 本当は人間ではなく合成獣だから五感が違うからなのだが当然教えるわけはないし、それ以外でも分かる要素はあったので教えてあげよう。


 まずそもそも状況がおかしいだろう。

 獣の狼でも狼系のモンスターでも弱い人間は狼から逃げ切ることはできないぞ。

 個体差はあるが人間の二倍以上の時速が出るのだ、100メートル離れていても100メートル離れる間に追いつかれるのだから人間が狼からこちらまで逃げられるというのが根本としておかしい。

 はぁ、とムンクはあまり納得していないようだが状況証拠以外にもある。

 男なのにスカートはいているのいたじゃん。

 多分前に襲った人間から剥ぎ取った衣服を流用したんだろうが、女しか身に着けない衣服だとは知らなかったのだろう。


 あとワーウルフがいるかもしれないという状況はドボアを出発する前から考えていたぞ。

 そう伝えるとゲルニカが何でですか、と不思議そうに言うがもうちょっと情報収集しなきゃダメだよ。

 俺はドボアに到着して宿の手配をした後冒険者ギルドに行った。

 依頼を見に行くからと言ったが情報板も当然見るのだが、そこに最近の襲われた人達の情報があったのだ。


 そこにあったのは最近ドボアの近くで食糧を搭載した馬車が襲われ護衛を請け負った冒険者も殺されて所持品も取られていたという情報が3件書かれていた。

 この情報について更に詳細な情報の特徴として、積荷は荷台ごと奪われていたが馬車の馬が殺されていたとあった。

 このことから人間の盗賊や野生動物ではなくモンスターに襲われたと考えた。

 盗賊ならば金に換金でき、荷物の運搬もできる馬を積極的に殺すことはありえないし、野生動物ならば荷台を持っていくことはない。

 ということは襲った犯人はモンスターということになるのだが、馬は殺すが荷台は持って帰る食糧を目的に襲ったモンスターということになる。

 その候補のモンスターの1匹にワーウルフがいたので注意していたんだよ、という内容を噛み砕いて説明した。

 皆へぇーと感心した、感心しなくていいから今後自分達で考えてね、自分の命を守れるのは自分だけだよ。


 というかゲルニカとムンクさ、俺が魔法撃てって合図しても撃たなかったし皆殺しにしろって言っても明らかに動き遅かったよな。

 2人を不満ありげに睨むと、ぼそぼそした声で人だと思ってたから魔法撃つとか殺すとかできないでしょと言い訳をしてくる。

 いやそれなら何のための指示だと思ってるんだよ、お前らが勝手に指示無視して俺らが死んだらどうするんだ?

 自分で考えて行動するのは大事だけど指示を無視していいわけじゃないよ。

 確かに人に見えるから攻撃しろって言われたら戸惑ったりするのは分かるけどさぁ。

 何かあれば俺が責任を取るつもり……だけどどうせ皆同罪になるから、そのときは上手く誤魔化すからさ。

 それにもしあれが本物の人間だったとしても、誰かに見られていてもコードネームで話していれば身元は分からないから安心さ、そのためのコードネームよ。

 俺の説明に納得してるかは知らないが、戸惑って何もしなかったのはごめんと言われたのでこれ以上は言うまい。

 次は気をつけてね、俺との次は無いけど。



 休憩も終わりバンギに帰っている途中、そういえばどうしてタイヨウはワーウルフだって分かったの? とムンクがエリアンテに聞いた。

 俺と同じく攻撃に躊躇が無かったのでワーウルフだと分かっていた、とムンクは考えていたのだろう。

 しかしエリアンテは分かってなかったけど……ハバネロが殺せって言うから殺しただけ、と平然と答えるのでそれはそれで皆ちょっと引いた。

 エリアンテ、お前は冒険者として、仲間として、部下としてその行動は正しいよ、でも色々と間違っているよ。


 休憩後からバンギに着くまでは何事も無く終わり、依頼料はそこまで良くはなかったが、ワーウルフの魔石と素材でかなりの収入となった、これで安心して年が越せる。

 エリアンテらと別れて家に帰り、年末年始は各所で酒盛りとか宴会とかお参りとかをして過ごした。

 お年玉争奪親族チンチロ大会では俺がブッチギリで優勝して金を巻き上げたが、母に見つかり没収され兄弟や従兄弟には返還、父や叔父さんから毟ったお金は何故か母の財布に徴収された。

 ところで母よ、俺のお年玉が返還されないのは違法ではないでしょうか?

 こんなんじゃ真面目に働かなきゃいけなくなっちゃうよ、と不満を言ったところ真面目に働きなさいと怒られる。

 年始はギルドも閉まっているので依頼は受けることが出来ない、しかしお金は必要である。

 俺は新たな賭場へ向かうことにした。

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