23 芸術的護衛依頼 中編
翌朝冒険者ギルドに4人が集合した。
俺、エリアンテと新米女性冒険者のドドルヴァとルイス、風邪を引いたのが一番先輩だったのが戦力的にも痛いところだ。
2人がよろしくと言ってくるが俺はまだ依頼を一緒にすると決めたわけじゃない。
条件を3つ飲んでもらわなければそのまま別の依頼を受ける予定にしている。
条件の1つ目は俺がリーダー、指示を出すポジションになることだ。
他人の誤った指示で危険に巻き込まれることほど恐ろしく怖いことは無い。
俺も全て正しい指示を出せるとは思っていないが、人間よりも合成獣である俺のほうが情報量が多いので、状況に応じた正しい判断ができると思っている。
なんでヘルプがリーダーなのかと嫌な顔をされたが、じゃあ誰がリーダーになるのか。
普通に考えれば一番冒険者歴の長いエリアンテだがでいいのか?
本当にエリアンテがリーダーで大丈夫だと思うのか?
ちなみにエリアンテの頭はこの世界基準でも相当に残念であり、指示は本当に言葉通りにしか受け取らないので指示の意味を考慮した行動など出来ないやつである。
名前を入力して頭の中を覗けるソフトを使っても、単語が2、3個しか入っていないような女だ。
そんな可哀そうなエリアンテにリーダーをやらせるのか、そう2人に尋ねると返答に困ってしまった。
少しは誤魔化せよ、エリアンテくらいの知能でも内心傷ついてる可能性は否定できないんだぞ。
そして咄嗟の誤魔化しも出来ないような二人に瞬時の判断が下せるとは思えない、この件については了承してもらった。
2つ目は依頼成功時の報酬はきっちり4等分すること。
パーティーによってはリーダーが多く貰ったり、実力に応じた歩合があるなどのパーティー内ルールがあるのだが、この程度のなら必要ないと思っている。
この件については普段も4等分しているそうなので、これは3人ともすぐに了承した。
最後の条件だがそれは依頼中はコードネームで呼び合うことだ。
3人ともピンと来てないようなので説明するが、冒険者の依頼は揉め事になったり賊に襲われて返り討ちにしたとき恨みをかってしまう場合がある。
例えば賊が襲ってきて何人か殺して追い払った後、その生き残りが自分勝手にこちらに復讐しようとすることがあるのだ。
その場合賊が俺達に復讐しようとしてどうやって探すかだが、当然名前が重要な手掛かりになる。
逆に名前が分からなかったり違っていれば、発見は極めて困難になるのは明白だ。
冒険者稼業では何も悪いことはしていなくても知らない奴に無駄に恨まれたりすることがある。
だから名前を覚えてもらいたい時と名乗る必要がある時以外は本名を呼ばないほうが良いと俺は考えている。
その解決策がコードネームで、手間の割りに効果的なので可能ならばコードネームで活動したいのだ。
多くの知らない人間と依頼を受けた場合は、例えば俺のことはフィンと呼んでくれと触れ回って置けば自分は助かる。
名前を覚えてもらいたい場合は逆効果だけどね、ケースバイケースで使い分けよう。
そういうことを説明したところ、ドドルヴァとルイスは納得し、エリアンテは分かっているか分かってないか知らないけど、構わないというのでコードネーム制も採用となった。
となるとコードネームを何にしようかとなるのだが、自分で決めさせると意外と盛り上がって時間ももったいないので俺がささっと決めてあげよう。
見た目で決めればいいか、せっかくだし前世の芸術品の作品をイメージして付けてみよう。
ドドルヴァは顔の造形的に……ゲルニカ。
ルイスは痩せているというよりは食事が足りていないのか頬が少しこけて見えるから……ムンクだな。
エリアンテは何かに似てるんだよなぁと思っていたが思い出した。
太陽、タイヨウだな、の塔まで付けると長くなるから省略、ちなみに下の方の顔ね。
じゃあ俺は何にしようか、ダリとかどうかなと思ったら、フィヨルドばかりが名前を考えるのはずるい、フィヨルドのコードネームは3人でつけると言い出した。
別にいいけど早く決めてね、3人は少し考えた後エリアンテがぼそっと、ハバネロと言った。
人を暴君のように呼ぶな。
今回の護衛対象は馬車2台に目一杯積まれた野菜と馬車を操るお婆さん2人。
行き先は片道約7時間の街のドボア、野菜の物々交換を行って明日またこの街に帰ってくるまでが依頼となる2日がかりの仕事だ。
にしてもお婆さんが馬車の操縦とは珍しい、代役か何かだろうか?
ちなみに俺としてはもっと若い人が良かったのであまり嬉しくない。
いざとなったら馬車を捨てて逃げなければならないが、このご老体2人では走って逃げようにも簡単に追いつかれてしまう。
依頼書には従者の年齢等は記載されていないのが普通だが、出来ればこのような人選は止めていただきたい。
とは思うけど、相手の都合なのか分からないが仕方ないと諦めるしかない。
ほぼ初めての護衛依頼で不安なメンバーという幸先悪い状況だが、何も無ければいいなぁと願いながら出発した。
ドボアまでの護衛陣形は俺とタイヨウが先頭、ゲルニカとムンクがその後ろを歩き馬車がその後ろを着いて来る形を採用した。
後ろから襲われたらひとたまりも無さそうだが、実際に後ろから襲われると非常に脆い陣形である。
しかし何故そのような欠陥陣形を採用したのかだが、まず俺の人間ではない嗅覚や聴覚を使って索敵する限り奇襲を受ける可能性が低いことが大きい。
人間状態で劣化している五感でも、俺ならば奇襲を受ける前に察知できるので後方からの奇襲を心配する必要は薄い。
そしてもう一つは今回の積荷は大量の野菜であり、これを奪うには結局護衛と衝突することになる状況になるからだ。
人を守る場合なら後方を守る必要はあるが、野菜を守る場合は野菜なら多少矢が刺さっても被害は少ないし、魔法を使って広範囲に攻撃すれば野菜が台無しになってしまう。
戦争中の輸送部隊を狙うとかならありえるが、今の状況ではありえないだろう。
もし野菜泥棒がやってきても、武装した護衛を無視して野菜を強奪すれば簡単に斬られてしまう。
だから野菜を奪うために護衛を排除する必要があるのだが、護衛と衝突するならば護衛を最初に強襲するほうが効果的だ。
結局最初に襲われるのは護衛なので、それなら最初から固まっていたほうが戦いやすいのだ。
無論人数や護衛対象によって変わるが今回は前方に固まって問題ないだろう。
ドボアまでの道は迷うような道はなく、街道を通れば難無く辿り着くが、すでに季節は冬で間もなく雪が降ろうとしている中ですれ違う人や荷馬車は少ない。
今がちょうど正月前最後の行商のタイミングで、盗賊もそろそろ盗み仕舞いをするころだが、こんなギリギリまで働かなければならない盗賊は腕が無いと言っているようなものである。
それよりも警戒すべきは山や草原での食糧が少なくなった動物類で、この季節の大量の野菜は彼らからしたら金銀財宝よりも価値がある。
そしてモンスターは野菜を食べる食べないに関わらず年中無休で人間を襲ってくる。
彼らに正月休みなどという概念は無いらしい。
割と警戒していたのだが、初日は特に何からも襲撃されることなくドボアに辿り着き、本日の護衛依頼は終了した。
宿は用意されていないので各々好きな所に泊まっていいのだが、依頼中の有無に関わらずパーティーで同じ宿に泊まることはよくある。
有事の際に連絡が取り易かったり寝坊した場合でも遅刻の防止になるし、相部屋にすれば安く泊まれるからだ。
今回は俺が宿を探すのを面倒だったので全員が同じ宿に泊まることになり、エリアンテら3人は相部屋で泊まり俺は狭い個室で泊まる。
俺だけ1.5倍の料金となるが4人相部屋はありえないので仕方ない出費である。
宿の手続きが終わったが夕食まで少し時間があったので、俺は冒険者ギルドに依頼の情報収集に行き、ゲルニカとムンクは別の店で食べるというので俺とエリアンテは宿で時間を合わせて夕食を取った。
道場では落ち着いて話す暇も無かったし、依頼中雑談に夢中になるほど余裕はないのでゆっくりと近況を話す時間が欲しかったのだ。
エリアンテは依頼を受けたり道場で引き続き剣の修行したりしながらの生活を続けているようだが、依頼を受けるのは週3、4日くらいという若干のんびりしたペースだ。
俺は週5日は依頼を受けているかモンスターを狩っており生活に問題はないが、Dランクの報酬でその依頼ペースで生活できるのか? と思ったがエリアンテは実家暮らしなので問題ないようだ。
確かに未成年の冒険者は家庭の事情が無ければ実家で生活するという者は珍しくなく、俺のように冒険者になったらすぐに実家から離れるというのは少ない。
ゲルニカとムンクも実家暮らしなので俺のほうが少数派、でも冒険者って皆すぐに実家から出るイメージなのよね、小説の読みすぎか?
そんなことを話しながら歓談の時間は過ぎ、部屋に戻った。
エリアンテが思ったよりもまともに冒険者やってて驚いたなぁ、成長に感動です。
依頼2日目、ドボアからバンギに戻るためドボアから早々に出発した。
冬の明るい時間は短い、早朝は最も気温が低く身震いするが我慢である。
ゲルニカとムンクはさむーいなどと漏らしながら防寒用のフードを深々と被っているが、正面以外の音が聞こえなくなるし、死角が増えるので正直辞めたほうが良いと思う。
今回は俺という最高の索敵要員がいるからいいけど、何時か奇襲されて痛い目見るだろう。
エリアンテは簡素な防具で済ませているので偉い、猫を捕まえるのに斧を持ってきたのに比べてなんたる成長か。
……前方に感アリ。ちらっと後ろを見る。
横にエリアンテ、後ろにゲルニカとムンクはいるな、少し離れて馬車2台、最初の隊形のままなのを確認する。
今は小さな丘の上り坂の途中、引き返す時間は無いと判断し、止まれ、と手を挙げながら全員に言った。
何か来るぞ、武器出しておけと言うと全員の顔が少し強張った。
俺は背負っていた手斧を2本両手に構え、エリアンテは剣、ゲルニカとムンクはトゲの付いたメイスを手に持った。
全員が武器を構えたところで魔法用意しろ、と俺が言うと同時に坂の頂上に土煙が立つ。
そこに現れたのはこちらに向かって走ってくる人間が4名、さらにその後ろには青い毛並みをした狼の群れであった。




