22 芸術的護衛依頼 前編
最近クロゼ家で鳥ブームが起きているらしい。
なんでも飼っていたペットの鳥が当主の娘が誘拐されたと危機を伝えたという奇跡が起きたのだとか。
しかも籠の中で1匹だけ飼っていたにも関わらず子供まで出来たらしく、これは神の鳥とか言って舞い上がっているみたいだ。
奇跡なんて勝手に起きるわけないでしょ、誰かの行動が勝手に奇跡のように見えるだけなんだよなぁ。
それよりも誘拐した一味はクロゼ家と敵対関係にある貴族でなんだか争いになりそうな雰囲気がある。
あの周辺で依頼を受ければ知らぬ間に抗争に巻き込まれていた、など危険な目に遭う可能性がある。
君子危うきに近寄らず、少しどころか大分早いが実家に帰って年越し準備でもしよう、俺は実家に帰ることにした。
実家に帰って兄弟や近所にお土産を振舞ったら大変喜ばれた。
前世の世界と違い街の移動に命の危険が伴うこの世界では各地を巡る旅行を行う者は少ない。
なので普段行くことのない地域のお土産、特に名産品が喜ばれることを身を以て知っていたので多めに買っていったが正解だった。
秋ももう終わりかけで実家の農作業も一段落ついており、後片付けが残されているくらいで俺が家で絶対にやらなければいけない作業は無い。
なので生活費を家に入れるために冒険者ギルドに行き依頼を見たが、相変わらずぱっとしない依頼が多いのには困ったものだ。
依頼が豊富であれば俺も早々と故郷から出る必要など無かったのだ、なかなか人生都合良くは行かない。
依頼はぱっとしない、でも金は稼ぎたい、ということで俺はある場所に向かった。
おっ、それ当たり、12000コインね。
向かいの席からチッという大きな舌打ちがなるが俺の当たり牌を捨てるのが悪い、というわけで賭場にやって来ています。
俺の故郷バンギでは冬が始まるにつれて農作業が終わり暇になった男衆による賭け事が活発になる。
冬限定の賭場も開かれており、活気に溢れている。
カードを使うもの、サイコロを使うもの、動物を使うものなど様々な種類があるが、俺は対人ゲームを最も得意とする。
俺は人間であるが人間ではない。
例えばカードゲームをすれば、目を凝らせば相手の瞳に写る手札が見えるし、耳を澄ませば息遣いや心音で相手の状況が分かる。
嗅覚を強めれば一部のカードに付着させた臭いで手札の一部が分かるのでイカサマし放題である。
とはいっても勝ちまくって目を付けられては困るので、勝ったりたまに負けたりしながら何箇所かある賭場をローテーションして生活費と小遣いを稼ぐ。
あれっ、これって冒険者より楽に稼げない?
と毎日のように賭場に通っていたら母から真面目に働けと怒られてしまった。
前世の世界では賭け事のプロや株のプロという人もいるので真面目に働いていると分類してもらいたいものだが、この世界ではまだその域に達しておらずダメなタイプのフリーターという認識である。
トータルでは勝ってるから! という主張もダメなものはダメという母の理不尽な主張に敗北してしまったので、仕方なく冒険者ギルドに向かうフリをした。
もちろん賭場に行く、のはバレたら怒られるので別の用事を済ませてしまおう。
まずはフェルノがいる装具屋に行く、以前依頼していたオーダーメイドの道具を取りに来たのだ。
装具屋に入って店番をしていたフェルノの妹から道具を受け取ろうとしたら、俺が来たら呼べという言伝があったようでフェルノを呼びに行った。
フェルノが奥から出てきたので、久しぶりーと挨拶を交わして何かあったの?
そう尋ねると、そういうわけじゃないんだが、これ何に使うんだ? と依頼の道具が入った袋を取り出した。
俺がフェルノに作成して欲しいと依頼したのは前世の思い返して使えそうな武器は無いかと考え、現実に形に出来そうな武器の試作品である。
前世には魔法は無かったが代わりに優れた武器、例えばミサイル、核、鉄砲等色々な武器があった。
なので前世にあった武器を再現できれば非常に強力な手札となったのだが、そんなことが出来る知識や技術など普通に生活していた俺に当然あるわけが無い。
しかし前世の知識が全く役に立たないわけがないだろうと思い、役立ちそうで簡単に作ることが可能な武器はないだろうかと考えた結果ある一つの物に行き着いた。
袋の中を確認すれば金属で出来た小さな三角錐の塊がゴロゴロと40個ばかり入っている。
大きさは不揃いであるが特に問題は無い。
そう、俺がフェルノに依頼したのは撒菱、追われているときに自分の後ろに撒くことで追っ手の追跡を阻害する道具である。
役立つかどうか、実際に使う機会があるかどうかは不明であるが、前世の知識から捻り出せた一番マシな武器がこれだった。
異世界でも簡単に作れる、誰でも使える、使い手がいないので不意をつけると三拍子揃った道具だ。
フェルノに使い方を説明したが、うーんと難しい顔をされた。
まぁ実際使う機会が少なく、実用性に疑問があるのかもしれないが、前世由来の物だったから欲しかったという思いもある。
そもそもこんな物を使わないように立ち回るのが理想なので、使う日が来ないことを祈ってアイテムボックスに入れて置こう。
ところでいくら? 廃材利用してるし友達価格でお安いんでしょ。
……高くない? オーダーメイドとはいえこの値段は高いんじゃない?
年末価格ってお前の家は何時から年末始まってるんだよ、悪い子の家にはサンタさんが来ないぞ。
装具屋に年末とか関係ないだろとゴネるも値段は下がらず料金は支払った。
続いて余所の街で買った御酒を片手にお世話になっていた道場を訪ねた。
皆さん久しぶりー、と中に入っていき先生やら道場主にお酒を渡すと大変喜ばれた。
別に用事は無いけどお歳暮ってやつですね、稽古収めの日に飲み会やるんでしょうからその日にでも飲んでね。
雑談を交わしていたところ、道場主の娘で昔一緒に冒険者見習いとして指導を受けたエリアンテが奥からやってきた。
道場主の娘で道場と自宅がくっついているので道場にいても全くおかしくはないのだが、仕事してないの? まだ昼前だよ。
何してんのとエリアンテに尋ねたところ今日はたまたま休みだったらしい。
最近どうなのと話をしようとしたら、明日暇かとエリアンテが聞いてくる。
どのような用事か分からないのでイエスともノーとも答えない、コイツは何言ってくるか分からないからな。
何かあるの? と聞き返すと明日荷物を運ぶタイプの護衛依頼を受けたのだが、一人がその直後風邪引いてダウンしてしまって人が足りないらしい。
だから代わりに来て一緒に護衛依頼をしてほしいのだとさ。
別に明日は暇なんだけど、エリアンテって女限定のパーティーじゃなかったの?
ヘルプとはいえ男でいいのかと聞けば、最初のパーティーは駄目だったが今のパーティーはヘルプに限りOKらしい。
うーん、一緒に依頼するのは嫌(-2)だけど、同じ師匠に習った同期だし(+3)、困ってるし(+1)、助けてあげたいなぁという気持ちはあるけど護衛依頼(-3)ってのがなぁ。
括弧内は俺の乗り気度のポイントで現状ー1ポイント。
護衛依頼の何が嫌って危険だし何かあった場合の被害が大きいんだよね。
例えば捜索依頼は失敗多いけど失敗によって追加で失うものは無いし、採取や納品は期日が遅れる位だけど、護衛依頼失敗は積荷がロストすることが多くて依頼者の被害が甚大だ。
失敗した側も依頼者の事を思えば気分が悪くなるし、ギルドからの心象も他の依頼の失敗に比べて悪くなる気がする。
そのうえ危険が予想される場合でも依頼主は運んで欲しいのだから中止は困難だし、Dランクにやらせる仕事じゃねーぞ! って状況になることもしばしば。
見える物を運ぶのは冒険者側も危ないのだ。
なので断りたいなぁと思いつつ、横にいる道場主のプレッシャーと思い出される真面目に働けという母の言葉により条件付でOKした。
出発時間の15分前までに冒険者ギルド集合ということを確認してエリアンテと別れ、お小遣い稼ぎに遊びに行った。




