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21 渡る世の中ハイエナばかり

 うーんいい天気だ。

 ランクも上がらないので急いで依頼を受ける必要もないことから、今日から数日休養にしたので以前行った港町ガタシンで食べ歩きをすることにした。

 ガタシンに向けて移動中、偶々近くで女性のキャアァという悲鳴が聞こえたので興味本位で近づいてみたのだ。


 近づいて見るとそこでは高貴そうな家の御令嬢が乗った馬車を護衛する兵士達とその馬車を襲う山賊風の男達、小説なんかでは良く見る構図だな。

 当然ながら襲っている側のほうが数は多く有利な状況、兵士側は護衛対象があるうえ人数差で厳しい様子。

 訓練している兵士なら賊よりも強いので質でカバーできそうだが、賊は見た目は山賊に見せかけているが装備している武具はかなりの良品を使っている。

 つまり本当の賊じゃなく兵士クラスだから質でも互角以上じゃないかな。

 つまり護衛側が純粋に人数差でガン不利。

 

 もし俺が小説の主人公のような存在であればこの騒動に乱入し、御令嬢を救助してお礼に……なんて展開になるのかもしれないが、生憎ながら俺はそんなことをするつもりは毛頭にもない。

 正直な話俺そんなに強くないし、見た感じとあの装備、戦い方からしてかなり出来る。

 俺が正面から1人で戦えば2人3人切れれば上等じゃないかな、人間の強さの判断って難しいんだよね。

 人間はゴブリンに殺される奴からドラゴンを倒す奴までって幅広すぎる。

 見た目や装備からある程度推測はできるけど、あくまである程度の推測に過ぎないし。

 あの賊風の男の中にドラゴン殺しが混じってる可能性、若しくは全員がドラゴン殺しであるかもしれない状況で突っ込めますか?

 俺は突っ込めません、無理です、こんなところで死ぬのは嫌だもん。


 それにもし護衛側に加勢して運良く賊を追い払ったとしても、報酬を貰うどころか賊のスパイや情報漏えいの可能性を考慮して護衛側に殺されるかもしれない。

 生き残っても殺されるかもしれない、殺されたら死ぬ、というどちらにしても死の危険が危ない仕事なんて無理無理、絶対無理。

 なのでこの殺し合いが終わるまでは動くことはできないので静観するしかない。



 ゲームセット、当初の予想通り護衛側の兵士は全滅、御令嬢は山賊に捕まって数名の山賊に連れられ道無き道を通って山奥に連れて行かれてしまった。

 残った山賊は馬車と護衛については身元が分かるような家紋の部分は丁寧に焼却し、それ以外はざっくり壊して燃やした。

 そんな中、俺はまだ殺し合いの起きた現場付近に留まって静観を続けています。

 なんでかって?

 俺は冒険者《ハイエナ》だから山賊が置いていった金目の物狙いなのです。


 山賊達もかなりの被害が出て、仲間の死体を担いだり怪我をした仲間に肩を貸さなければならない。

 だからこの場の全ての荷物や装備を持っていくことはできない。

 山賊達は仲間が最優先、次に装備や所持品は身元が分かりそうなものから優先して持てるだけ持つ。

 持っていけない物は目のつきにくい離れた場所に一旦まとめて置いて、山賊らは御令嬢が連れて行かれた山奥に入っていった。


 今持っていけなかった物は多分後で取りに来るのだろう。

 つまり今がハイエナチャンスだ!

 アイテムボックスを出して高価そうな物から順にアイテムボックスに詰め込んでいく。

 大きなアイテムボックスであれば良かったのだが、ロッカーサイズなのでかさばる防具類は多く入らない。

 貴金属は持っていかれたので武器を中心にアイテムボックスに詰めて限界まで入れる。


 こうすることで山賊達の武器は少なくなるので、新たな被害者を減らせる可能性がある。

 だから俺はこの一連の行動は冒険者として立派な行動に間違いないと考えている。

 さて、アイテムボックスに限界まで武具類を詰めたが、このまま御令嬢を放置するのは良心が微かに咎める。

 この武具類を依頼料代わりにちょこっと働くとしましょうか。



 嗅覚と聴覚を頼りに追跡し、山賊風刺客と御令嬢の御一行がいたのは山小屋と呼ぶには立派過ぎる小さな砦であった。

 何故こんな所に砦があるのか俺は知らないが、多分昔の前線基地か監視小屋かな?

 所々朽ちてるので年季を感じられる趣がある。

 見たところ俺が侵入できる隙間はたくさんあるけれど、ただの人間である御令嬢を脱出させるのは俺一人の力じゃ無理だね、仲間がいてもやらないけど。

 それに万が一脱出できてもその後がどうしようもない。

 今なら御令嬢は厳重に丁寧に人質として生かしてくれるだろうけど、逃げ損ねてもう一回捕まったら殺されること間違いなし。

 まあ救助を呼ぶくらいが妥当だな。

 巻き込まれるのは嫌だから、情報だけ教えて後は知らんで済ますけど。



 ほぅほぅなるほどなるほど、砦の中での会話を盗み聞きしたところ大体なんとなく分かってきた。

 中で捕まっている御令嬢はサイガエという街の偉い家柄のお嬢さん、とある別の街の貴族と結婚するため相手の家へ移動していた。

 しかし二人が結婚されては困るある男とその娘がいた。

 男は貴族と御令嬢が結婚して派閥が強化されると困る、娘さんはこの御令嬢と結婚する貴族が好きだった。

 そこでお嬢さんを誘拐してしまおうと思ったようだ。

 時間が経てば貴族と御令嬢の縁談は破談になる、そうしたら二人の目的は達成される……かは分からないけどまあそういう筋書きのようだ。


 上流階級とか貴族間ではよくある話なのかな?

 自然界では縁の無い話だけどね。

 ……ほぅほぅ、捕まっている御令嬢はクロゼ家の一人娘なのか。

 よくある名前だったら探すの苦労するけど珍しい名前なので助かるね。

 そんなに情報ポロポロしゃべるのかと思うかもしれないが、この状況で砦の中の声を聞かれているなんて思っていないから、会話内容で機密はボロボロですわ。

 そんな機密をほぅほぅ言いながら聞く俺はフクロウ。

 普段は森の中で小動物の足音を聴いているのに比べれば、人の話し声なんて五月蝿いくらいですよ。

 というか実際五月蝿いんだよ、今日の成功と仲間の死を悲しんで酒盛りしてる人達がいるから。

 さすがに幹部はそれに加わらずこれからについて話し合ってるけど。

 まぁそのおかげで順調に情報をキャッチできるんですけどね、幹部の会議が終わったら助けを呼びに行きますか。


 情報収集も終わったので御令嬢の実家のクロゼ家にヘルプを求めよう。

 家は調べればすぐ分かったのでどうやって伝えるかが問題だな。

 普通に口頭で伝えるのは当然却下、不審者として捕まるわ。

 じゃあ置き手紙か、これが無難かなー。

 窓から室内を見て当主っぽい部屋に当たりをつける。

 当主の部屋は3階、外には見張りの人間がいて、窓に足場がない部屋とはいえ換気のためか少し窓が開いている、ちょっと無用心ですね。

 というわけで鳥になって窓から侵入したのだが、窓から見えないところに珍しい子がいた。

 どうせだからこの子にメッセンジャーを頼もうかな。



------------------------

 そろそろ娘が相手の家に着いただろうか、無事到着しただろうか。

 クロゼ家の当主は胸にもやもやを抱えながら自室に戻った。

 妻とは最近会話をほとんどしていない。

 娘の嫁ぎ先が遠方であることを不満に思っていたが、良縁であり政治的にも価値があったことから私が押し切ったからだ。

 そんな私の癒しといえばペットのキュウカンチョウのキュウちゃんだけである。

 美しい姿をしており商人から高い金を払って買ったのだが、私に懐いたのか最近は挨拶もしてくれるようになった。

 部屋に帰りキュウちゃんに近づくと、私は心臓をわしづかみされたような感覚に陥った。


『ムスメサラワレタ!ムスメサラワレタ!』


 何故キュウちゃんがこのような言葉を急にしゃべったのかは分からない。

 しかし娘を狙う輩に心当たりがないわけではない。

 そのために護衛を多く帯同させたのだが……急に不安になってきた。

 もし無事に着いたなら向こうからその事を伝える使者が出る予定だが、こちらからも確認の使者を出して問題ないだろう。

 私は早馬を手配し、無事を祈ることしかできなかった。

 願わくばこのキュウカンチョウの言葉が事実でありませんように。


『ムスメサラワレタ!ヤマノトリデ!』

------------------------



 あぁ良い事したなぁ、じゃあ予定通りガタシンで休暇、後の事は家族にお任せ。

 何食べようかなー、まずは定番で新鮮な魚がいいな。

 そうだ、どうせなら自分で捕まえよう。

 タダだし時間もあるし楽しそう、一石三鳥。


 というわけでガタシン近くの海の岩場にやって来ました。

 釣りは性に合わないし道具も無いので泳いでいる魚を自力で捕まえたいと思います。

 シュノーケルやマスクはないけどモンスター用の槍はある。

 本当は銛が欲しいけれど、俺はマーマンじゃないので槍でも魚が獲れるって所を見せてやるぜ!



 駄目でした。

 返しって大事なんだね、考えた人は天才じゃない?

 とりあえず楽しかったんでいいや、でも魚は食べるという目的は全く達成されてない。

 ここはアイツの出番だな。


 というわけで岩場に戻って姿を変えて勢いよく海にダイブ!

 水中を自由に泳ぎ、陸上に上がれば皆のアイドル、コウテイペンギンの出番だ。

 こんな浅場では天敵がいないので快適に泳いで自由に魚を獲ることができる。

 シャチとかいたら即帰宅しますよ、アイツらはペンギン視点のホラー映画に出演してもおかしくないから。


 魚は順調に食べることが出来た、しかし問題があった。

 魚は丸呑みしてもあまり美味しくない、せめて刺身にするか焼くかしたい。

 胃袋から魚を吐き出したりできないかな、鵜飼いの鵜みたいな感じで。

 でもあれ確か鵜の喉を紐か何かで縛って飲み込めないようにしてるんだったかな?

 自分の喉を紐で自分で縛るのはちょっと……そもそも吐き出すのって大変そう。


 丸呑みするんじゃなくて咥えたりできるかな?

 クチバシがあるなら出来るかもしれない、魚を咥えるタイプのペンギンか、人気出そうじゃない?

 ちょっとやってみよう、団体生活の中で海に最初に飛び込む勇気あるペンギンをファーストペンギンと呼ぶらしいが、誰もやったことがないことに挑むことをファーストペンギンになると言ったりもする。

 というわけで俺もファーストペンギンになろう、一人ぼっちだから嫌でもファーストペンギンになっちゃうんだけどね。



 何度かの失敗を経て泳いでいる魚をクチバシでキャッチすることに成功した。

 一旦近くの砂浜に上陸して魚を置いて再度海に戻りまた魚を獲って戻るを何度か繰り返し、無事焼き魚用の魚をゲットした。

 はぁはぁ、ペンギンは水中は楽だけど陸上歩くのは面倒だな、遅いし。

 次で最後にしようかな、と砂浜を歩いていると起伏に足を取られたのかバランスを崩して倒れてしまった。

 やれやれと思い起き上がろうとしたが腕が短くて立ち上がることができない。

 えっとこういうときは……確かクチバシで地面を押して起き上がるんだったよな。

 よいしょっとクチバシで地面を押そうとしたら、砂浜なのでクチバシが地面に刺さってしまった。

 あれ、これって不味くない?

 なんでこんなことになってしまっているんだ?

 そういえばペンギンは地面が固い氷の上や岩の上にいたな。

 そこならクチバシは地面に刺さらないんだが、砂浜だとクチバシが砂浜に埋もれていってしまう。


 やっば、どうしようと思っていたら近くに別の海鳥がやってきた。

 これは救助に来てくれたんだね、日頃から良い行いはやっておくものだ。

 そう思っていたが彼らは俺がゲットした焼き魚用の魚のほうに向かっていき、俺の魚を食べ始めた。

 こいつらハイエナかよ!

 俺がピンチで助けが必要なのに、俺の財産である魚狙いで俺を助ける気は全く無いなんて畜生甚だしい。


 おい助けろ、助けてください、俺はコウテイだぞ!

 えっ? 起き上がれない場所で倒れるあなたはアホウドリの間違いではだと?

 ぐぬぬ、それよりも魚返せよ、もう食べたってお前〆るぞ。

 散々アホ呼ばわりされた挙句海鳥は魚を奪って去っていった。

 誰かを助けた所で自分が助けてもらえるとは限らない、自然界は厳しいわ。

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