18 沈没船は誰の物?
焼き魚!ムニエル!海鮮汁!唐揚げ!鍋!フリッター!酒蒸し!
海から採れた新鮮な魚介類はこちらの世界でもとても美味しい。
どうして俺は今まで内陸で暮らしていたのでしょうか? 理解に苦しみますね。
港町ガタシンに来た俺、フィヨルド=ボレオは海の幸を食べ歩いていた。
前世の俺は肉と同じくらい魚介類が好物であったが、ここで食べるのはもっぱら海産物だった。
海産物の素晴らしい所は、品種改良をしなくとも美味しいことである。
食肉、牛や豚、鶏等は品種改良が行われて美味しさが増していったが、海産物、特に魚は天然物が美味しいのでこちらの世界でも魚介類は変わらぬ美味しさである。
魚が美味しいという理由だけでここを本拠地にしてもいいくらいだ、食の欲求には抗えないね。
食べ歩きを堪能した所でようやく本題に着手することとした。
ガタシンと離島ガドサの間の海に眠る沈没船、その積荷である金塊の探索だ。
沈没船探索をする前にまず冒険者ギルドにて情報収集を行う。
この世界の海は初めてなのでどのような危険が潜んでいるか分からないからだ。
冒険者ギルドで判明したことであるが、最近マーマンというモンスターが増加し、船を襲う事案が多発しているらしい。
マーマンというのは海に生息する半人半魚、人魚というよりは半漁人のモンスターで、人のような手足がある魚のような風体をしている。
水中から船を襲って転覆させたり壊したりして人間を海に落としてから攻撃するという地の利を生かしてくるタイプのモンスターで非常に厄介である。
木造船ではマーマンの銛で突かれて穴が空いて浸水してしまうので、ギルドで対マーマン用に鉄船を用意して討伐依頼を出したりしているようだが、最近のマーマンは何故か鉄船を積極的に狙う傾向にあり、狩るか沈められるかの一進一退の争いになっている。
俺としては沈没船探索の支障になる恐れがあるので絶滅させる勢いで討伐していただきたいと思う。
では最近の情勢も分かった所で沈没船を探そう。
この間仕入れた情報によれば、金塊を運んでいた船の乗組員を救助した島は通称双子島というガタシンとガドサの間にある二つの小さな小島が並んだ無人島であるとのこと。
該当する場所がどこにあるのか、何箇所あるのか分からないので渡り鳥になってガタシンとガドサを往復して確認する。
その結果、ガタシンとガドサは約40キロメートルほど離れているが互いの港の間に二つの小さな小島が並んでいる場所は一箇所しかないことは上空から判明した。
これにより双子島の特定に至ったのでこの周辺に例の沈没船があると推測される。
沈没した船の乗組員がどれだけの距離を泳いで双子島に辿り着いたのかは分からないが、嵐の中泳ぐとなれば500メートルくらいが限界だろうか?
個人差があるので良く分からないが多めに距離を取っておこう。
というわけでとりあえず双子島を中心に1キロを環状に泳いで捜索するか。
俺は双子島近くの海上に鳥形態で着水し、泳ぎに適した形態へ、自らの肉体を変え深い海へ潜行を開始した。
俺のボディは白と黒を基調としたスリムな肉体に変貌し、海底まであっという間に潜行する。
水中での俺はまさに敵なし、最高時速は80キロを叩き出し、鋭く生え揃った牙はあらゆる海洋生物をも噛み砕く理想の武器。
俺は今、海の王者であり、海のギャングと呼ばれる存在である。
前世の最強の海洋生物と言っても過言ではないシャチとなり獲物を探すのだ。
人ではありえない速度で泳ぐ海の景色の素晴らしさは、言葉では伝えることが出来ない。
鳥の視点は飛行機やヘリコプターで体験することが可能だが、高速で自由に海を泳ぐ景色を人類で見たことがある者はいないだろう。
最初の潜行の十数分、俺は感動と興奮のあまり沈没船を探すことを忘れていた。
この世界に生まれ色々あり合成獣になったが、一番感謝したことはこの誰にも見ることができない光景を見ることができたことだ。
もっと感傷に浸りたい心持ちであるのだが、今日の目的はバカンスではない。
興奮を抑えてまた海の底へ潜っていく。
ただなんというか、自由だ。
双子島の周辺を半日かけて泳ぎ、おおよその海底の状況が判明した。
沈没船は存在した! たくさん!
そう、困ったことにたくさんあった、同じ沈没船を数えた可能性を考慮しても30隻は少なくとも存在するのだ。
金塊を積んだ沈没船の船名が分かればそれを頼りにアタリを付けるのだが、残念ながら不明である。
なので1隻づつ沈没船の内部や周辺を捜索する必要がある……想定以上の重労働になりそう。
1日4隻片付ければ一週間ほどで終わるが、当然何の成果も得られない可能性もあるというハイリスクハイリターンな仕事だ。
明日からは沈没船を1隻ずつ調べるが、早めに見つかってくれるといいなぁ。
翌日、沈没船調査を開始するが、同じ船を調査するのは時間の無駄である。
かといって何十隻もある沈没船を全て記憶するのは困難なため、調査した船をナイフで印をつけていく予定であった。
しかしここで若干のアクシデントが発生する。
双子島付近に滞在している精霊は誰も空間魔法が使えないので俺も空間魔法が使えない、つまりアイテムボックスが出せないのだ。
使用するナイフはアイテムボックスに入れてあるのでこれは困る、ガドサ島の海岸でアイテムボックスを出そうとするがここでも出すことができない。
更に移動してガドサ島に点在する集落の一つの中で多めの魔力を消費することでどうにかアイテムボックスを出すことができた。
どうやらガドサ島のような離島には空間魔法を使えるエリート精霊は極少数のようだ。
何故金のような高級品をアイテムボックスで運ばないかと不審に思っていたのだが、ガドサ島で空間魔法を使える術者はほとんど存在しない、いてもこんな職業に就かないから船で運んでいたのか。
納得したところでナイフをクチバシで咥えて空を飛び双子島まで戻る、いらぬ時間を取ってしまったが今度こそ沈没船のお宝探しに出発だ。
ところで、もし前世の世界で人間が消えてしまったらどの生物が次期覇権を取るだろうか?
陸上で最も強い象? 知能の高いカラス? 世界の7割を占める海で最も強いシャチ?
正解は分からないが可能性のある生物は多数いるだろう。
今、俺はその可能性があるのではないか、と考える生物に姿を変えて沈没船に向かっている。
海の底へゆっくり進んでいく俺は海のギャングではない、彼の姿では船のドアを開くことも船内を調べることが出来ないからだ。
今の俺は軟体生物、肉体は海の中でどこまでも大きくなり、手足が自由に動く生物、ダイオウイカである。
沈没船探索において手足の自由さは不可欠であるし、多少の狭い場所でも入っていくことができる。
ゲームでも沈没船ステージでのボスといえばタコかイカか幽霊である、まさにうってつけの存在と言っていいだろう。
海底に到着し巨体を揺らしながら沈没船を探し、最初の沈没船に到着した。
船内に入るためのドアは閉まっているが、10本の手足があればドアを開けることは容易い。
鍵もかかっていないようでスムーズにドアは開いた、お邪魔しまーす。
沈没船内にお邪魔しようとしたらあるモンスターと目があった、マーマンである。
うん? どうしてこんなところにマーマンが? とりあえず一旦ドアを閉める。
しかし沈没船内にマーマンが居たのは間違いなく事実なようで、逆に向こうからドアが開いてマーマンが出てきてしまった、しかも4匹もいる。
もしかして沈没船はマーマンの縄張り、マイホーム?
勝手に入ろうとしたダイオウイカにマーマン4匹はご立腹な様子。
沈没船から出てきたマーマンは銛で俺を威嚇してくる。
もしかして俺がこの沈没船を奪おうと勘違いしているのだろうか?
いやいや、俺は別に皆さんのナワバリを奪おうとかそんなんじゃなくて、そう、俺はナワバリバトルを仕掛けに来たんじゃないんです。
違うんです、ちょっと中にあるかもしれないお宝が欲しかっただけなんです。
別にちょっと沈没船の中にある金が欲しかっただけで、盗みに入ろうとかそんなんじゃないんです。
俺の必死の説得のポーズもむなしくマーマンは完全に戦闘体勢に移行してしまった。
戦力分析、マーマンはメインウェポンは近接武器の銛、サブウェポンで遠距離攻撃の水魔法を所持、特殊行動として仲間を呼ぶを使用してくる、バランスが取れてますね。
一方俺のメインウェポンは手足、サブウェポンにイカスミ、特殊行動に合成獣があるが深海で使ったら下手したら水圧で死ぬかも、現状ただのイカですねこれは。
マーマン君、落ち着こう。
俺は君達とガチマッチをしたいわけじゃないんだ。
それに人数は1対4とか戦う以前の問題というか……逃げるしかねえ!
俺はサブウェポンのイカスミを使用して相手の視界を塞ぎ、イカ速度全力で逃走を開始した。
やめてマーマン君、ケツを銛で突かないで、お尻に穴が空いちゃう。
命からがらマーマンから逃げ切れたけど、アイツ等短気にも程があるだろ。
俺はちょっと家捜しして金目のものがあれば貰っていきたかっただけなのに。
他の沈没船をドアをノックしてダッシュで逃げるなどして調査したところ、3隻中3隻にマーマンが住み着いていた。
どうやらマーマンは沈没船をマイホームとして利用しているようで、これは想像なのだが、マーマンが鉄船を襲うのは人間を狙っているのではなく鉄船を沈めて沈没船というマイホームにリフォームしているのではないだろうか?
最近この界隈でマーマンが増えているというが、沈没船内で増殖しているからではないか。
マイホームで男女? のマーマンが子供を産んで、沈没船内で安全に育てられるので2匹のマーマンがいつの間にか4匹に、これがいわゆるツーバイフォー?
数が増えたマーマンは自分もマイホームが欲しいと更に船を襲う、しかし木造船は沈まず沈没船に不適なので鉄船を襲うのだ。
これらは俺の想像に過ぎないのだが、俺の命をかけた調査とマーマンの増殖と動静を考えれば全ての辻褄が合ってしまう。
しかし冒険者ギルドに言うことも難しいな、どうやって海底の沈没船を調べたのかって話だし、ここのギルドの信用があるわけでもないし。
うーん放置かな、鉄船を使うなと提言なんてできないし、マーマンに襲われにくい木造船が増えれば状況は好転するかもしれないし。
問題は今回の件で活動した期間の食事代と宿代の赤字である、護衛料金しっかり徴収できてればなぁ。
赤字の補填をすべく冒険者ギルドに赴き依頼をチェックしたが、港町のせいか積荷の護衛の依頼が多く俺好みの依頼はあまりなかった。
美味しい御飯は惜しいが金がなければどうしようもない、また別の街に行くことになりそうだ。
いつか必ずマーマンにリベンジして沈没船探索をしてやる、刺された尻の傷をさすりながら新しい金策について考えることにした。




