16 オークよりも醜い 中編
女が逃げた先は良く言えば歴史を感じさせる、悪く言えばボロい商店であり、助けた時の女の会話からここがあの女のハウスだろう。
しかしここで勢いのまま突撃するのは得策ではない。
今必要なのは勢いではなく味方、俺は一旦冒険者ギルドに踵を返し、準備を整えることとした。
冒険者ギルドでとある準備を整えた俺は、単身あの女のハウスに突撃することとした。
モンスターに誘拐され生命の危機に瀕していたところを救出され、お金を支払うことを約束し街まで無事送り届けたにも関わらず、正当な報酬を支払うことなく逃走したことは断じて許されることではない。
俺は商店のドアを開けて、ごめんくださーいと中に入った。
すると奥から女の母親と思われる女性がやってきたので、冒険者ギルドのほうから来たのですがジェーヌさんいますか? と尋ねた。
母親は何かジェーヌに御用ですか? と聞いてきたので、お尋ねしたいことがありますのでお願いします、と答えると母親はジェーヌを呼びに行った。
一応誤解しないように言っておくが俺は冒険者ギルドの職員だとは言っていない、冒険者ギルドの方向から来たと言っただけである。
ジェーヌは来ているのが冒険者ギルドの職員と勘違いしてこちらにノコノコやってくるかもしれないが、勝手に勘違いしたのはあちら側なので俺に非を問われても困る。
そんなことを考えていると母親に連れられてジェーヌが顔を出したので、久しぶり、と声をかけるとぎょっと驚いた様子で俺を見た。
ずいぶんと早い再会に驚いているな、まさかこんなに早く見つかるとは思っていなかったかな?
母親も女と一緒に来たが、母親が一緒だと口を割らないかもしれないので、お店の前で二人でお話させてもらっていいですか? と許可を取る。
しかし母親はえぇっと、と難色を示しそうだったが、女に店の前で話してもいいですか、嫌ならここで話しますけど? と相手の出方を伺ったところ、女も母親の前でこの件について言われるのは嫌だったのだろう、店の前で話すことに同意した。
俺と女は店を出て二人になった所で俺は、何の用で来たか分かってるよな? とまずはジャブを入れる。
女ははい……と小さく答え、何の用で来たか本当に分かってるの? 自分の口から言ってみろよ、と追撃をかける。
女は下にうつむき、少し沈黙した後、護衛のお金を払ってないことです、とぼそぼそと答えた。
オークに捕まって誘拐されている所を助けて、お前の依頼で俺が道中オークを倒したりしながら街まで護衛したよな? お前が払うと約束した4万イディ、1イディも払わずに逃げたよな? と事実確認を行う。
女は更に角度を下に下げてうつむいたまま黙っているので、違うならどこが違うか言えよと聞くと、まさかの違うんです……と答えやがった。
心の底から思わず、はぁっ? という声が出た。
どこが違うんだよどこが、と聞き返したら、逃げてないです……お金を取りに家に帰ったんです……とふざけたことをぬかしおる。
ふーん、関所で手続きしてる間にトイレに行ってさぁ、俺が関所から動けないうちに勝手に家に戻ってさぁ、金を踏み倒そうとしていることを逃げてないって言うの? それは無いよ。
とりあえず金を家に取りに帰ったっていうなら、4万イディきっちり耳をそろえて払ってもらおうか。
しかし金を払うそぶりをみせるどころか女は、そのっ、今家がすごい大変で、お父さんが病気で動けなくて高い薬も必要だし、弟も妹もまだ小さくて、お金が無くて、と俺に関係ない事情を並べ始めた。
そんな状況だったら俺の護衛料を払わず逃げていいってこと? と聞いたら女はまた黙った。
お前が大変なのかどうかは知らないけどよ、こっちだってすごい大変なんだぞ。
神様ですら死ななくて困っている何かの間違いみたいな化物を殺さないと俺が殺されるんだよ?
金で解決できる問題じゃないんだぞ?
しかも約束相手は王様とか比べ物にならないくらい偉い神様なんだぜ?
約束破ったらただ殺されるくらいなら許されたと思えるくらい相手がやべぇんだよ。
俺がこの世界で行き抜くために! 化物みたいな奴を殺すために! 金が必要なんだよ!
と心の中で怒りのマグマが沸騰する中、こんな俺の事情など微塵も知らない女に、4万払う気はあるの? と確認したら、……あります、と小さくつぶやくように答えた。
今払えるの? と聞いたら、今は無理と言うので、じゃあお母さんと話し合おうか、と言い捨てて俺は店の中に入った。
女は俺の後をすぐ追って店の中に入ってきた。
ちょっと待って、という声を無視して女の母親に実は、と今日起こった出来事を話した。
母親は目を白黒させながら本当なの? と女を見て言ったが、女は少し迷った挙句、違うと言い出した。
本気かコイツと俺の目が白黒してしまった。
何が違うんだよ? と聞いたら、無料で送ってくれるという約束だったのに街に着いたら金を請求されたと平然と嘘を吐く。
もう許さんぞ、冗談はそのくらいにしておけと言ったが嘘を撤回するつもりはないらしい。
母親もやはり娘の言うことを信じたいのか、どういうことですか、などと言ってくるので俺の頭にも血が昇る。
いいだろう、今から後悔しても遅いからな。
俺は冒険者ギルドで準備した切り札を呼びだした。
準備した切り札はすぐに店の中にやってきた、こちらは本物の冒険者ギルドの職員である。
職員が自己紹介したところで、俺から依頼報酬未払いの被害届を冒険者ギルドに出したことを告げた。
女は依頼なんて出していない、無料で送るという約束だったと平然と嘘を吐きだしたが、それは通用しないのだ。
俺は女に、お前と店の前で話していた内容全部この人聞いてたからな、と非情な通告を行った。
風魔法の一つで魔法をかけられた者の周囲の音を近くの別の場所で聞くことが出来るラゴウサムチという魔法がある。
これにより近くで身を隠していたギルド職員に本来聞こえない俺と女の話の内容は筒抜けだったのだ。
非常に悪用しやすそうな魔法なのだが、魔法をかけられている本人には分かるので誰にも知られずに盗聴するということは難しい。
今回は俺にラゴウサムチをかけていたので問題は無いがね。
そこでギルド職員は聞いていたのだ、俺がオークに捕まっていた女を助けて街まで護衛してきたこと、4万イディを払う約束だったが1イディも払っていないこと、そして4万イディ払う意思があることを”女の口から”認めたことを。
やはり証言は本人の口から言ってもらうほうが信憑性は高く、ギルド職員は完全に俺の言が正しいと思っている。
事実確認を丁寧に行い、相手が間違いないと言えば今更嘘を吐いても言い逃れはできないぞ。
この事実を突きつけたら大体この後は2パターンになる、嘘を認めるか、それでも突っぱねるか、今回は残念ながら後者だった。
女はそれでも違う、言ってないと言うので埒があかない。
じゃあ被害届を撤回しないけどいいんだね? あとでそんなこと知らなかったとか困っても俺は知らないからね? と女と一応母親に確認を取る。
女は知ってか知らずか好きにしろと言うが、母親は不安だったのか被害届が出るとどうなるのか聞いてきた。
冒険者ギルドで被害届が受理されそれが真実であると明白であった場合冒険者ギルドからペナルティが出される。
今回の場合ならば一定期間女がこの街の冒険者ギルドに依頼を出したり受けることが出来なくなる。
また場合によっては法人(個人事業主含む)からの依頼も出せなくなる。
今回のように本人の自白を職員が聞いていれば間違いなく女にもペナルティが課される。
女個人で依頼を出すことはなくても依頼を受けることができないのは色々痛い。
この商店からの依頼の制限は俺には判断しかねるので分からないが、場合によってはあるかもしれない。
これらのことを説明されると、母親は慌ててそれは困ると言い出した。
女個人がペナルティを受けるのはまだ問題ないのかもしれないが、商店で依頼の制限がかかると困るのだろう。
それは止めて欲しいと母親が言うが、4万払ってくれるの? と聞くと口をつぐむ、救えねぇ。
とりあえずまず今回の4万払わず逃げたことを認めるのか、そして支払う気はあるのか、ここが焦点になる。
これを認めない限り被害届を撤回するすることはできない。
俺が、4万払うの逃げたのは事実でしょ? 払うの? 払わないの? まずここからだよ、どうなの? と促すと女は渋々払う方向で話し合いを進めることを認めた。




