15 オークよりも醜い 前編
豚君のおかげで財布が潤った俺はまず装備を整えることにした。
しかし流浪の身に近い俺はどこが良い装具屋か分からないので、まずは地元の装具屋を頼ることとした。
昔共に冒険者を目指して訓練した友人フェルノの店を訪ねると、彼の母親が店番をしていた。
お久しぶりですと声をかけると、あらいらっしゃいと明るく返してくれる。
フェルノは今工房で作業していると言われたが、今日は彼に用事があるわけではなく、普通に武器防具を買いに来たのだ。
装具を物色していたら作業が一段落したのか、同い年の友人フェルノが奥から出てきた。
フェルノと世間話をしつつ装備について相談した結果、友人割を適用してオーダーメイドとまでは言わないがこちらの要望に沿った防具を注文することにした。
武器は量産品であるが、武器のオーダーメイドはそこそこの品でなければ行われないので今の俺には不要である。
防具のサイズ調整はフェルノに行わせようか、と彼の母親に言われたが丁重にお断りした。
冒険者の道を断念してまだ1年にも満たない鍛冶職人見習いの男に俺の命はまだまだ預けられない。
もっと実家で修行して一人前になってからでお願いします。
装備を注文したことで豚になって稼いだ金があっという間に飛んで行ってしまった。
ちなみにこの世界でも豚は汚いという風評被害は根強い、何故豚のイメージって実物ほど良くないのだろうか。
あんなにも可愛いのにどうしてだろう、と考えたところある1匹のモンスターが思い当たった。
居たな、豚のイメージを下げる豚族の恥さらしが。
あんなモンスターがいるから豚のイメージが悪くなるのだ。
ちょうど良い、新しい武器の試し切りだ。
バンギの街に来る途中ちょうど奴らの溜まり場を発見したところである。
発見次第豚のこま切れにしてくれるわ。
上空から探索し、第一悪豚を発見したので近くに着陸し、装具を調える。
今から対峙して退治するモンスターはオーク。
成人男性と同じくらいの体長をした豚顔のモンスターなのだが、普通の豚とは比べ物にならぬ醜悪さを持つ豚面で腹は中年のように出ていて体から悪臭がする。
冒険者ギルドのアンケートでは嫌いなモンスターランキングで女性冒険者から殿堂入りされている。
見た目や体臭も悪いが、村を襲えば食糧を襲うのはもちろん、家屋も積極的に破壊し女性も誘拐する悪辣非道なモンスターだ。
また強さの割りに魔石は安く、家畜の豚は捨てる所がないと言われるがオークは魔石以外捨てる所しかないという、まさに無駄の塊と表現するのが相応な輩である。
オークもゴブリンと同じく本隊と別働隊に分かれるのだが、ゴブリンは別働隊でも集団なのに対しオークは一匹で活動することが多い。
ゴブリンより大柄のため力、耐久力はもちろん高いが、見た目に反して意外と素早いので初心者は注意が必要だ。
それでも一匹なら大したことないので慣れれば解体作業のように楽に倒せる。
どう考えても別働隊も複数で活動すればいいと思うのだが……仲が悪いのだろうか?
そんな事情はともかく、別働隊を襲撃するにはとても都合がいいのでこちらとしては有り難い。
一匹ならば魔法で奇襲して槍で突いて終わりなので俺にとっては絶好のカモである。
そしてオーク特有の悪臭は俺に見つけてくれとマーキングしているようなもので、簡単に見つけることが出来る。
オークの背後から魔法で攻撃して弱ったところを槍で突く簡単なお仕事だ、順調に動かない無駄の塊を増やしていく。
オークの魔石は5000イディで売却できるので豚10匹で5万イディ、3時間で5万!
収入としてはとても美味しい、残りの別働隊も漏れなく豚バラバラスライスにしていこう。
順調にオークをスライスして残り少ない別働隊のオークに近づいたとき、異分子が混ざっていることに気付く。
オークじゃない臭いが混ざっている……人間か? 多分女だな。
オークは女性を巣へ誘拐する特性を持ったモンスターである。
商人か旅人か、それとも返り討ちにあった冒険者か、分からんが放っておく理由はないのでオークは切り落としてくれよう。
オークの背後から様子を伺えば、オークの右肩に女の人間が一人縛られて運ばれていた。
生きてはいそうだが抵抗する体力も残っていないのか、ぐったりと動かずにいる。
一応助けよう、助けなくてもいいけど結果的に助けることになりそうだし、それなら最初から助ける気持ちで行動したほうが分かりやすい。
なので魔法で奇襲せずに正面から堂々とオークと対峙する。
俺に気付いたオークは女を地面に置いてドシドシと大きな音を立てながら俺に突進してくる。
これで女を人質にするという知恵でも持っていれば厄介なのだが(俺に人質の効果があるかは別問題)、オークにそこまでの知恵はない。
普通にオークを串刺しにして唯一利用価値のある魔石だけ頂いていく。
オークの処理が終了したところで地面に転がっている縛られた女をどうにかしよう。
地面に置かれた後、縄から抜けようと体をゴロゴロしたようだが抜けるわけもなく無駄に体力だけ消耗したようで息が荒い。
俺は女にちょっと動くなと告げてから、女を拘束していた縄をナイフで切って解放した。
オークに捕まっていた女はここから一番近い街に住むジェーヌという女だった。
家族で薬草を加工して販売する商店を営んでいるのだが、売れ行きが乏しいため原材料費を浮かせようと自分で薬草を採りにきたらオークに捕まったそうだ。
身を守れそうな道具は小さなナイフ一本だけ。
見つかったのがオークでよかったね、ゴブリンや野生動物だったら殺されてましたよ。
女から大方事情聴取は終わったので、じゃあ気をつけて帰ってねと言って離れようとしたらちょっと待って欲しいという。
何事かと話を聞けば、オークに1時間ほどの距離を誘拐されたので帰り道が分からない、それでなくても2時間は最低歩く必要がありそうだがその間モンスターや野生動物に襲われればひとたまりもないのだ、と。
うん、俺もそう思ってるよ、だから気をつけて帰ってねと言ったんだけどなぁ。
そう頑張ってね、と返したら女が慌てた様子で住む街まで送っていってくれないかと俺に言ってきた。
えぇ……と内心思いつつ頭の中の算盤を弾く。
まずこの女の住む街までの帰り道は分かる、俺の足なら2時間はかからないが、女の速力と休憩時間を考慮すれば約3時間と計算するべきだ。
また付近にオークがいたことから帰り道にはオークがいる可能性が高く、最悪オークの本隊に見つかる可能性があると言わざるを得ない状況で、野生動物からすら自己防衛できない人間の護衛という内容。
そして俺が明日残ったオークを倒しに同じ場所に来る時間と手間、これから討伐したであろうオークが討伐されるリスク、街の一時滞在許可証の料金、受けたくない人間に頼む心遣い、これらを加味した料金になる。
頭の中で算盤をパチパチと叩いた結果、2万5000イディの依頼という結論に至った。
というわけで俺は女に4万イディだけど大丈夫? と確認したところ、えっ、お金かかるんですか? と何ともとぼけたことを言う。
さすがに俺も、えっ? と返してしまった、タダ働き前提って頭パープリンかよお前。
女は前助けてもらったときはタダだったとか言い出したが、それ行き先同じだけだっただけじゃね?
それに俺が前に人助けて街まで送っていったら金払ってくれたけど、と言ったら女は口をもごもごした。
4万は前払いだからね、手付金2万の成功報酬2万でもいいけど、と伝えると女は2万も手持ちが無いと言う。
うーん、金持って来てないのは分かるけど、本当に金払えるのかなコイツ。
自分の身も守れないのに危険生物が出る場所に来るくらいだし、服の感じからしても相当貧乏だと思うんだけど。
ちゃんとお金払えるの? と念押ししたら、家に着いたら払うというので信じるしかない。
街に戻る途中か街の中で逃げそうだなぁ、そうなったら面倒だなぁと思いながら慈悲深い俺は女の家がある街まで護衛して行くことにした。
途中でオークを1匹に出会った(俺が道中にいるオークに気付いてわざと近づいたのだが)ので処理した以外は何事も無く女の家がある街に到着した。
街に入る時俺は関所で一時滞在許可証を発行してもらうのだが、女は街の住民なので一時外出許可証(発行済み)の確認となる。
女が逃げないように二人一緒に街に入る手続きを行い、後は俺の一時滞在許可証の発行待ちとなったところで女はトイレに行きたいと言い出した。
トイレは関所を越えた街側にあるので俺はまだトイレに行くことは出来ない。
10分もかからないから待てと伝えるも、そんなに待てないとせかしてきたが……コイツ逃げる気だな?
うーん、本当に逃げる気なら仮にトイレを待たせたとしてもどこかの段階で逃げ出すだろう。
それなら面倒なことを企てる前に逃げてもらったほうが良いな、そう考えた俺はトイレの許可を出して女はトイレに行った。
関所の前で待っていると言った女はトイレに行くことなく街中に逃走した、まあそうなるよね。
俺は冒険者ギルドに行って被害届を出してから女が逃げた家に向かった。
俺じゃなかったら逃げきれたかもしれないけど、オークに捕まったところかそれともそれ以前からか、運の悪い女だなぁ。




