11 合成獣(キメラ)になった過去 後編
冒険者見習いも来週から始まるという時、俺は間もなく始まる冒険者生活に胸を躍らせながら就寝すると、夢を見た。
夢に現れたのは俺をこの世界に転生させた神様で、夢の世界で会うのは2回目で、学校に通い始めた頃に1度現れたことがある。
あの時は合成獣の能力はもう少し待てという話と別の転生者の失敗談を何件か聞かされて帰っていった。
約6年ぶりの会合であるが、何用ですか? と聞いたところついに俺に合成獣の能力を渡す準備ができたそうだ。
神様は能力を渡すために一人で明後日の正午にある場所に行けば人が来るので着いていけと指示された。
着いていけば後は流れでやってくれるそうだ。
詳しいことを聞きたかったが神様は忙しいのかそれだけ伝えると、俺は朝を迎えていた。
どのようにして合成獣の能力を受け取るのか気になったが、分からぬことを気にしても仕方ないので神様の言うことに従うこととした。
明後日の正午になる前、神様から言われた場所に来た。
神様から言われた場所は町外れの森の中にある一本松の下で、俺も来るのは初めてであるがこんな場所に本当に人が来るのかと思えるような場所である。
誰が来るのか、本当に来るのかと周りを見渡しながら待っていると、一人の中高年男性が森の獣道からやってきた。
初対面で失礼であるが、森の中から出てくるには不釣合いに思える眼鏡をかけ、細身というよりは痩せて不健康そうな男であった。
その男は俺に気がつき近づいてくると、なるほど君がそうか、と納得したように頷き、君は強くなりたくないかね? と俺に問いかけてきた。
平時であればこんな怪しげな男に声をかけられれば無視して走り去るのだろうが、状況的に考えてこの男が神の使いなのであろう。
意を決してそりゃあ強くなりたいですよ、と答えたところ、君は幸運だから世界一になる方法を教えてあげるから着いて来ないか、と言うので行くと答えると男は満足気に微笑んだ。
男は着いてきなさいとやって来た獣道を登り始めたので俺も後を着いていくと、少し開けた場所とはいえ何故こんな場所に家があるのかと思うような場所に一軒の家があった。
中に入れば壁際には本というのか紙の束というのか分からないものがそこかしこに積み上げられ、また地面に崩れ落ちているところもある。
人が何も踏まず通れるのは中央にある机と椅子に通じる道だけであった。
この家の中を見ればこの男は博士かマッドサイエンティストなのかと思ってしまう。
男に少し時間がかかるので座って待っていてくれ、と言われ椅子に座ると、こんな家には似合わない洒落たカップに紅茶のような飲み物を出して奥の部屋に入っていった。
そういえば家を出てから何も飲んでいなかったため確かに喉は渇いており、見た目によらずこんな気配りができるのかと感心し、冷えた紅茶を飲んだ。
待ち合わせ場所は家から徒歩で数時間と離れており、時間に遅れないように早めに起床して出発していたことから疲労と睡眠不足のせいであろうか。
俺は間もなく眠りについてしまった。
気がつけば俺はベッドに寝かされていた。
普通のベッドと違うところは、俺が動けなくなるように体をベッドごとロープで固縛してあり、口も猿轡をかまされてまともな声が出せないことだろうか。
かろうじて少し動く首で横を見れば、何故か黒ずくめの衣装に着替えたあの男が居た。
何をした、と言おうとしたが猿轡のせいでモガモガとしか言えず、ベッドから逃げ出そうにも動けないように厳重に縛られているようだ。
なんとか脱出しようともがいていると男が手に何やら怪しげな黒い液体を持ってニヤニヤと笑いながら近づいてくる。
動けない俺に男が自慢気に手に持った液体の説明を始める。
この液体は様々な動物やモンスターの成分が含まれており、これを飲めばその全ての生物の遺伝子を肉体に刻み込み、取り込んだ動物やモンスターの能力を発揮できるという内容を無駄に長々と語りだした。
俺の脳内ではコイツが神からの使者か何かで力を与えようとしているのは分かっている。
しかし人間としての本能や拒否反応なのか、危険であると俺に伝えてくるのだ。
どうにかしてこの液体を飲まないようにしたかったのだが、拘束され更に先ほど飲んだ紅茶の中に睡眠薬でも仕込まれていたのか満足に力を出すことができない。
さしたる抵抗をすることもできず、液体を飲まされてしまった。
飲んだ瞬間、喉が、胃が、腹が、俺の中で巨人が暴れているかのように動き回り、激しい頭痛と手足が幾度と無く膨張と収縮を繰り返すような感覚が俺を襲った。
お願いだっ、目が覚めたら体が縮んでしまっていたくらいで収まってくれっ……!
どのくらいの時間が経ったのか分からない。
俺が目を覚ましたのはボカンッ!という大きな音が遠くでしたからだ。
この音で目覚めた俺は何が起こったのかと音の方向を見る。
しかし俺は牢屋のような場所に入れられており、仕切りのドアの向こうで音がしたが何の音だったのかは窺い知ることが出来ない。
まず牢屋から脱出しなければ状況を把握しなければならない。
だが目の前の牢は、猛獣でも捕らえておくような頑丈な檻のようになっている。
鉄格子外れないかな、と揺さぶろうと手で檻を掴もうとするがなんだかおかしい。
俺の手を見ると、やたら伸びたツメと肉球らしき存在、腕はやたら毛深い。
体に目をやればライオンのような胴体となっているが、尻尾も生えているが何故か蛇のようであり、尻の方からは悪そうな面をした羊っぽいオプションも存在している。
どういう状況だよと困惑する中、視線の先に鏡があったので自分が映る位置に移動して俺の姿を確認する。
鏡よ鏡、今の俺はどうなっているの?
祈りながら俺の姿を確認すれば、やはり蛇のような尻尾と羊のオプション、体はライオンっぽくて顔までオスのライオンっぽくて格好いい。
格好良さは置いておいて、現実を受け入れなければならない。
俺、合成獣になってますね。
原因は考えなくても分かる、あの液体を飲まされたせいだ。
体が縮むかと思っていたが、まさか合成獣になってしまうとは、なかなか理解が追いつかない。
しかしこれはどうするべきか、少し考えてみる必要がある。
まずあの男についてだが、あの男は本当に神の使いなのだろうか?
本物ならば今の俺を牢屋に入れる必要は無いと思うし、そもそもあの男は思わせぶりなことを言っておきながら自分から神の使いともなんとも言っていない。
ならばあの男は何だろうか、見た目の通りマッドサイエンティストで俺は実験動物? モルモット?
そんなことを考えていると、ドアの隙間から何かが入ってきた。
黒い煙だ……何故煙がドアから?
そういえば、なんだか室温が上がっているような気がする。
室温が上がる、黒い煙が出る、ここから導き出される真実はいつもひとつ!犯人は火事だ!
やばいよやばいよ、冗長にやっている場合じゃない。
まずは牢屋から脱出しなければ合成獣の燻製になってしまう。
しかし猛獣を閉じ込めることを想定した牢屋だったのか非常に頑丈で、短時間で破壊して脱出することは困難だ。
鉄格子をパンチするがビクともしない、こんなデカイ図体をしているのに全く役に立たない。
せめてあの時薬で体が縮んでいれば隙間から体を通して脱出できたかもしれないのに。
そのとき何故か閃く、俺は体を縮めることはできない。
しかし”通れる大きさの生物になればいいのでは?”と。
この鉄格子は十字に柱が組まれているタイプ、今の俺はもちろん人間でも通れないサイズ。
この鉄格子の隙間を突破できるのは細長い生物、蛇だ、俺が蛇になればいいんだ。
俺が蛇に・・・!
そう強く念じた瞬間、体が歪む、目が、肉が、骨が、猛獣から別の動物に変形していく。
俺は地面に這っていた。
俺には足が無いから、俺は蛇だからだ。
腕ほどの胴回りであるが、目の前の鉄格子を突破するには問題ないサイズだ。
鉄格子の間から体を出して牢屋から脱獄して、次に煙が入ってくる扉を見れば扉の周囲が特に熱されているのを感知した。
これは蛇が持つと噂のピット器官だろうか。
サーモグラフィの映像のように扉の周りは赤く、扉から遠い場所は青く見える。
やはり火事だろうか、扉の向こうはどうなっているか分からないがもし火災が起きていれば蛇の丸焼きになってしまう。
俺に今必要なのは火を消火するための魔法、魔法を使える存在、つまり人間になる必要がある。
人間になれと強く念じれば体の捻じ曲がる感覚の後、俺はまた元の人間に戻った。
鏡で確認すれば幸いなことに薬を飲まされる前と全く同じ人間であった。
ほっと一息つきたいところだが家に帰るまでが脱走だ。
もたもたしている暇は無い、ドアを開けて扉の外を見ると予想通り火の海となっていた。
あの男の所在は分からないが、まずは外に出ることを優先するべきだ。
出口は分からないが近くに窓があったので水魔法で窓までの進路を確保して窓から脱出した。
近くにあの男が居るかもしれないと思ったが、見当たらないのは幸いであった。
目の前で絶賛炎上している家はどうしようか。
放っておいて森に延焼しても困るし、俺は未だに全裸で着ていた服全てとは言わないがせめてパンツと靴は欲しい。
消火しながら探すか、と思いあの男の家の消火をしながら着れる物を探す。
大量の紙のせいで火の周りが早く大半の物が燃えており、生き残った衣服を探している途中で焼死体となったあの男らしき死体を発見した。
多分であるが、この男が実験か何かをしていたら爆発して男は死亡、火災が発生したという感じであろうか?
とりあえずこの男に付きまとわれるとかの懸念は無くなったが、同時にこの肉体についての情報も綺麗さっぱり消えてしまったのは痛手だ。
無くなってしまったものを無いと嘆いてもどうにもならない。
これから自分の体については手探りで探っていくしかない。
最初にやるべきことは、どうやって全裸で家に帰り、服一式を失くした言い訳を考えることだ。
こうして俺は無事? に合成獣になったのだ。
人間が合成獣の能力を手に入れたのかと思ったが、どうやら合成獣がベースで人間はその形態の一つなので俺は種族的には人間ではなく合成獣である。
その後合成獣の能力を探りながら冒険者見習いを行っていたが、動物故に鋭すぎる感覚は他の冒険者や見習いと上手く付き合っていくことが困難であった。
また合成獣になった影響か人間と獣の考え方や感覚の違いからか、それとも前世の記憶の影響か、他人と意見が合わないなと思うことが多くなった。
そのため見習いが終わったら友人や知り合いからの誘いを断り一人で別の街へ旅立った。
そしておおよそ半年が経ち現在に至り実家に帰省したのだ。
久しぶりの実家でゆっくりしようと思ったら、学校の魔法授業担当のババアがぎっくり腰で動けないのでお前授業して来いと父に言われた。
人使い荒くない?
しかも内容が無茶振りじゃない?




