10 合成獣(キメラ)になった過去 前編
今から俺は実家に帰るわけだが、ちょうどいい機会なので俺の過去について語ろうと思う。
俺の故郷はアズールから徒歩移動で3日ほどかかる場所にあるバンギという街である。
これといった特徴は無く、農業がメインの農村の住宅街をモンスター等からの防衛の観点から一箇所に集められているような街だ。
我が家はそのバンギの街の一つの地域の長を現在担っている由緒ある家柄。
と言いたいが、一つの地域といっても非常に小さい単位で住宅200棟ほどの地区のまとめ役というくらいで、名声や権力などほぼ無い。
俺はそんな家の四男として生まれ、跡継ぎとは無縁、土地などの財産の相続とも無縁な立場であった。
このことから将来は家を継ぐ以外の何らかの方法で生計を立てる必要があり、神の使命等も考慮し冒険者となることを早い段階から考えていたと思う。
俺が前世のことを思い出したのは3歳のときで、元社会人の俺が子供のフリなどできるものか、と最初は悩んだものだが、肉体年齢に精神年齢が引っ張られるのか思ったよりも子供であった。
同年代の友人と遊びにいけば泥だらけになって帰ってきたり、川魚を捕まえようと網を持てば転んで水浸しになる。
ところ構わず走り回り、玉を投げたり蹴って走り回るは日常茶飯事。
季節によっては虫を捕まえる、雪も投げる、川ではしゃいで水をかけまくるなど遊ぶ姿はどこにでもいる子供そのものであった。
どうにか社会人らしきところを発揮できたのは、家で簡単な家事や仕事を手伝うのをさほど駄々をこねなかったことと、おねしょをあまりしなかったことくらいだろうか。
冒険者として必要な要素など何もしていないが、幼児期にできることといえば勉学に励むか運動するかぐらいなものであり、勉学に励もうにも学習する場が無いので結果遊ぶ兼運動になってしまうのだ。
幼児期が終わり6歳になると生活がやや変わり、まず学校が始まる。
とはいっても週5日も通うわけではなく、週3日しかないうえ給食という制度がないため半ドンである。
習うことも国語、算数、体育くらいで、魔法といった異世界要素は全く出てこず残念に思ったものだ。
魔法はこの世界の住人なら誰しもが使うことができるのだが、小さい子供は魔力がまだ無いので魔法を使うことができない。
仮にできても原則禁止されているので学校で習うのはもう少し時間が必要であった。
この頃から俺は家事や農作業の手伝いも徐々に行うようになった。
俺が前世で小学生だったころは家事など全く手伝わなかったが、それは科学が発展して労力が減っているからあまり手が必要でなかったからだ。
今の生活は洗濯はボタン一つで終わるわけなく水場で手洗いだし、炊事もコンビニやレンジでチンなどあるわけなく火力調節まで全て手作業である。
強制スローライフ状態なので子供でも手伝いという名の労働は必須であり、同級生も当然のように行っていたので文句の言い様もなかった。
それにこの家事手伝いは冒険者として独立し一人暮らしになったときに役立ったのでむしろありがたかったのかもしれない。
またこの頃から俺は道場に通い始めることになる。
道場といっても剣術道場ではなく、武器は剣、斧、槍、鈍器、弓など多種多様である。
教える先生の得意武器が違うのでごちゃ混ぜになっているのと、剣のみの道場であると組み手が剣と剣の戦いが主流になり幅が狭くなる恐れがあるためだ。
相手がどんな武器を使ってくるか分からないので、様々な武器と模擬戦をやっておいたほうが実践的なのだ。
ちなみに我が何でも有り道場の最初の授業は投擲、石を目標に向かって投げるという授業であった。
模擬戦でも石を顔面に向かって投げることは駄目だが泥球くらいなら投げてOKという、危険行為以外は何でも有りの実践形式だ。
前世と違ってモンスターがいるし、何をしてくるか分からない賊との殺し合いも起こりやすい。
突然魔法を撃たれたりモンスターが火を吹いたりするので、よーい始めという戦いは貴族同士などの名誉ある戦い(笑)くらいしかない。
俺はこの道場でメジャーな武器の使い方や手入れの仕方など一通り習い、先生からは多くを学び、入門生とは模擬戦でボコったりボコられたりした。
最初の頃は1対1が主流で年上相手にでもどんな武器を使っても勝率は高かった。
だが高学年になると多対多の模擬線もあり、仲間が落とされ1対多に追い込まれるとさすがに厳しい。
1対2くらいならどうにかなるがそれ以上はさすがに無理で、最強の戦法は集団で囲んで棒で殴るというのは間違いではないと思ったものである。
ここで俺は人やモンスターとの戦い方を学び、また友人も多く出来た、楽しかった思い出の一つである。
そんなこんなをやっていて、10歳からついに魔法の授業が始まった。
しかし10歳でもまだ魔法が使えない者もおり、平均11歳くらいから、遅くても13歳くらいで使えるようになる。
魔法に必要な魔力が体内にできるのがおおよそその年齢であるので、それより幼ければ使えないのだ。
俺が前世で読んでいた本では魔法が使える人間は限られていたが、この世界では魔法が使えない人間など存在しないらしい。
もしいるとすればモンスターが化けていると判断されて殺されてしまうという噂がある……あくまで噂である。
そして魔法を使えるようになれば独立できると判断され晴れて大人として認められる。
魔法は仕事や家事に必須なので、魔法を使えなければまともに就職できないし、家事をするにも極めて不便なので大人として生活ができないのだ。
一応成人は18歳からであるが、この時代18まで働かず勉学等に励むのは上流階級の一部の人間くらいで、16歳になれば大体の人間は働いている。
6歳から通った学校は一旦12歳で終了を迎えるので、魔法を使える者はそのまま働く者が多い。
まだ使えない者は魔法の訓練をしつつ働き始める者が一番多く、富裕層や上流階級、ある程度の格の家の跡継ぎなどは15歳までの上級学校に通った後に働き始める。
それ以上学ぶものは大学に行ったりするが、大学に行くのは本当にごく一部のエリートなので俺の故郷のバンギでも同年齢の者で5人行っていれば多いほうだと思う。
ちなみに俺は上級学校になど行かず12歳から働き始めている。
長男と次男は上級学校に通ったが、上級学校は金も多くかかるので跡継ぎ候補以外は金銭的な理由などで行くことはできなかったし、俺も大して行く気はなかった。
三男は軍学校に行っている。
こちらは軍に属する代わりに授業料がかからないどころか給料も出るし、上手くいけば実家よりも偉くなれるので跡継ぎ候補にならない子供に人気がある。
俺も両親や先生から将来を有望視され軍学校を薦められたが、丁重にお断りした。
勉学は前世という教科書で学んでいたので優秀であったし、道場でも俺に1対1で勝てる相手は先生のほか数名に限られており確かに強かった。
軍学校は金は無いが優秀な子供の受け皿として非常に有用な施設で、俺がただの子供であれば喜んで行ったのだろうがそうもいかない事情があるので仕方ない。
軍学校に行くと必要な教育を無償で受けられるが、必ず一定期間は軍に入る義務はある。
とはいえ一生軍にいなければならないという規則ではないので、行ってから辞めて冒険者になれば良いように思える。
しかし下手に良い成績や実績を残した場合軍を辞めさせてもらえないという事態が発生する恐れがあり、それが原因でターゲット討伐に向かえず神に殺された転生者もいると神から聞いている。
嘘か真かは分からないが無駄なリスクを背負うのは嫌であったので、軍学校には行かなかった。
そして学校を12歳で終わったときには魔法も使えるようになっていたので、道場の伝手で紹介された先輩冒険者の見習いとして働いたのだ。
この冒険者見習いであるが、冒険者ギルドで決まっている正式な制度の一つである。
冒険者は最初原則Fランクから始まるのだが、何も知らないまま何とかなるだろうという気分で依頼を受けられても依頼を達成するどころか足手まといになって迷惑である。
そもそも仕事の仕方も分からない者に仕事を依頼する者などほぼいないので、Fランクの仕事など単純労働以外あまり無い。
そこでFランク冒険者に冒険者専用の教員資格を持った先輩冒険者が依頼のやり方や注意点などの基礎知識を教え、一緒に依頼をこなすことで一端の冒険者に成長させるのだ。
実働訓練もあり、例えば護衛の依頼であれば出発前の準備や打ち合わせ、護衛中の注意を依頼を通して教えるのだ。
この冒険者見習いはマンツーマンではなく集団で行うことが多く、俺のほかに4人が同時に見習いとして指導を受けていた。
この間山ではぐれた子供が遭難し俺が発見救助したことがあったが、あの子も冒険者見習いで採取依頼を一緒に行いながら教えていたのかもしれない。
この見習いは3ヶ月ほどの期間行われ、無事終了すれば総合ランクがFランクからEランクに上がってまともな依頼を受けられるようになる、つまり冒険者生活をスタートすることができるのだ。
そして冒険者見習いが間もなく始まろうとしたとき、大事件が起きるのである。




