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「あー、それ、前に見せたグループの兄貴分じゃん」
次の日の昼休み。茉莉乃は私のスマホを覗き込んでニヤニヤしている。
勝手に覗き込むなってのと悪態をつきながら、そのまま動画を見続ける。画面にはRAY=OUTのメンバー紹介。三次元に興味ないとか言ってたくせに、しっかり調べてガッツリ見てるの、自分でもどうかなのよ。と、思わないでもない。
「兄貴分?」
「LIVERAと同じ事務所の先輩ね。後輩の方が先にどーんと売れちゃった感じ?でもRAY=OUTも普通に人気あるよ。普通にアリーナ埋めてるし」
「アリーナ埋めるって、普通なの?」
「だーかーらー。LIVERAがバグってるだけで、こっちもちゃんと人気あるよ。あんたが知らないだけ」
茉莉乃の指が、勝手に人の画面をすいすいスクロールしていく。止めようかと思ったけど、LIME以外に見られて困るものは特にないし、好きにさせておく。
「で、誰が気になったの? タカオミ?」
「なんでよ」
「今その人のプロフィール見てたじゃん」
そうだった。むしろ、どうしてバレていないと思ったの、私。
誕生日の欄に、九月二十三日って書いてある。私より一か月くらい早い。……って、そんなとこまで覚えそうになって、慌ててスマホを取り返した。
「ちょっと見ただけだし」
「その『ちょっと』が、あやにしてはすごいんだって。ついに来た?」
「来てない」
「いらっしゃい三次元」
「いらっしゃってないってば」
茉莉乃のニヤニヤ顔がさらにニヤニヤしてる。さっきを超えるニヤケ顔があるのか…幼馴染みの新たな表情を知ってしまった…。否定すればするほど楽しませるだけなのが分かったので諦めた。真面目に取り合うと疲れるだけだ。
私は軽くため息をつき、心の中で言い訳をした。目の前でしゃべってた人が、たまたまアイドルだった。だからちょっと気になっただけだし。
スマホの画面を見ながら、そういうことにしておいた。
◇◇◇
次のセッションイベントの告知が出たのは、それからすぐだった。
夜、机で数学のプリントをやっていたら、スマホが三回連続で鳴った。
『来た』
『セッション』
『やる????』
そのメッセージにシャーペンを持ったまま笑ってしまう。こっちはまだ告知を読み終わってもないのに…この人はどこで待ち構えてたんだろう。
『やる』
『よっしゃ!!!!』
ふいに、前回の金色のアイテム欄を思い出して、すぐに付け足す。
『今回はお金でぶん殴るスタイルはやめてねw』
『オーケーオーケー、今回は普通に楽しもう』
『本当に?前回すごかったけど』
『ん〜記憶にないっす』
ろくでもない大人だな。おい。
笑いながらプリントを一枚片づけて、一息…って、気がついたらRAY=OUTの動画を開いていて、我がことながらビビった。
画面の中のタカオミは当たり前だけどマスクをしてない。曲に合わせて顔を上げて、その目がまっすぐカメラを向いたら、反射で視線をそらしてしまった。
何やってんの。動画だよ…気のせいか動悸がする。変な汗も流れている。
見直すと、タカオミはもう別の立ち位置にいて、七人で踊ってるのに、なぜか一人だけ目で追ってしまう。
「あの長い手足…家ではフィギュアの箱を抱えて、床にあぐらかくのに使われてたんだよね」
無意識のうちに呟いていたら、画面の上に通知が降りてきた。
『今日22時いける?』
私は動画を止めて、返事をする。
『いける』
さっきまで画面の中で踊ってた人からだ。
なんて思っていたら、たった三文字を送るのにちょっとだけ時間がかかった。




