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セッションが始まれば、相変わらずだった。
タカオミが一曲目でコンボを切ってしまい、『今のなし』って送ってきたから、『ありっただろ』って返す。
『仕事終わりなんだからそういうこともある』
『言い訳はやっ』
『高校生、マジ容赦ねえ』
とか言いながら、次の曲ではきっちりフルコン出してくる。この人本当に負けず嫌いだよね。
今日どんな仕事してたのか、どこにいたのか、細かくは聞かない。タカオミも話さない。私は知らないふりを続けた。
そのかわり、ゲームとアニメの話なら、こっちが聞かなくても無限に出てくる。次第に、それ以外の話も混ざるようになった。
『今日、弁当二個食った』
『二個?』
『一個だと思って食ってたら二個目が来た』
『普通、来ても食べないよ』
『残したらかわいそうじゃん』
あの細さのどこに二個も入ったの。
私も学校であったくだらないことを送った。小テストで隣の子が名前を書き忘れたとか、幼馴染みがかわいいお弁当箱に変えたのにお箸を忘れてきたとか。誰かに話すほどでもないことを、なぜかこの人には話したくなる。
返信は、すぐ来るときもあれば、次の日の時もあった。遅いと、何回もトーク画面を開いてしまう。通知が来ると、中身を読む前に口元がゆるむ。
それに気づいてからは、スマホを裏返して机に置くことが増えた。
ある晩、プレイの予定してた回数は終わったけど、もう一回だけやらない?と言ってきた。
『明日早いんじゃないの?』
『早い』
『寝なよ』
『あと一回』
『子どもか』
『あやと一緒だと楽しいから』
ドキッとして、目を見開いた。
それって、どういう意味…いや、深い意味なんかない。友達とのセッションが楽しい。文のまま。それだけ。それだけだって、分かってるのに。
『しゃーないなー、あと一回だけね』
送ってから、ほっぺに手を当てた。ちょっと熱い…気がする。なんか動悸もする。画面を触ってた指は冷たいのに、少しだけ汗をかいている。
あぁ…なんか、あたまがぽわぽわして、むねがふわふわする。
そんな調子だったせいか、最後の一曲は変なところでミスった。
『スマン、あや眠かった?』
『そうかも』
なんて言えばいいのかわからなくて。その言い訳を、今夜だけ借りた。
◇◇◇
その次の日からは、何事もなかったようにセッションをプレイした。
私は、時折、あの、ぽわぽわとふわふわはなんだったんだろう…なんて思い出しつつ、いままで通りにイベントを楽しんだ。まぁタカオミは相変わらずだったけどね。
セッションが終わった夜、私は机の上のめぐりちゃんのアクスタをちょっとだけ動かした。
これはタカオミにもらっためぐりちゃんだ。別のアクスタの後ろに隠れていたから、一番前に出した。デスクライトが当たって背景の色がきらっと光る。
『今回もありがと。楽しかった』
届いたメッセージに、すぐ『こちらこそ!』と返す。
『あやとやるとラクだわ』
『変に気使わなくていいし』
話すことを探さなくていいし、変なこと言っても、タカオミはだいたいもっと変なことを返してくれる。どちらかがミスした時は煽りながらも、次があるから頑張ろうねって肩を寄せ合える。何より波長があう。
セッションに置いて、これ以上ない最高の相棒だ。なのに、その文字をもう一回読んだら、喉の奥がきゅっとつまった。
ラク。
気を使わなくていい。
それって女の子として、見てないから?
勝手にそう読んで、勝手にへこんでる自分に、あ、と気づいた。スマホを持ったまま、椅子の背もたれに体を預けた。ポツリと小さい声が出た。
「……そういうことか」
返信を待っちゃうのも、動画を開いちゃうのも。
たった一行のメッセージで勝手にテンション上がって、勝手に落ち込むのも。
あたまがぽわぽわして、むねがふわふわするのも。
好きなんだ。私、この人のこと。
アイドルだって知るより前から、もっと話したいって思ってた。
会ってお話ししませんか?って何度も打って、何度も消した。
あれも、今思えば。
「最悪……」
片手で顔を覆って、ぼんやりと考える。十七年間、恋愛は漫画で読むものだった。自分が恋する時がきたら、もっと分かりやすく始まるもんだと思ってた。気づいた時点で手詰まりです、みたいなハードモード仕様だなんて聞いてない。
向こうは大人で。アイドルで。私のことは趣味の合う高校生だと思ってる。最初に「三次元に興味ないので」って言い切ったのも私。そのとき、タカオミは嬉しそうに笑ってた。
目元をごしごしこすって、もう一回画面を見る。何でもない顔をした文章を送信した。
『私も楽しかった! ありがとう』
言わないでおこう。好きになるのをやめる方法は思いつかないけど、言わずにいる方法なら知ってる。唇をきゅっと少し噛んだ。決めるだけなら簡単だった。
そのうち慣れる。きっと。
机の上のアクスタに手を伸ばしかけて、引っ込めた。めぐりちゃんは、一列前に出したまま光っていた。




