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「……いや、ここ?」
建物の名前と、LIMEの住所を何度も見比べる。『レジデンス麻布ノースゲート』。合ってる。地図アプリの青い点も、きっちり入口の前にいる。
顔を上げたら、ガラスの壁がずーっと上まで続いてた。首を反らしても、どこで終わってるのか分からない。
車寄せがあって、ガラスの向こうにだだっ広いロビーがあって、カウンターの中に人が立ってる。人んちに遊びに来て、コンシェルジュを目撃する日が来るとは思わなかった。…まるでホテルじゃん。
「これは噂の億ションってやつなのでは……?」
あの金色のブーストアイテムの数が、頭の中にずらっと並んだ。あれだけ使える理由が、急に建物の形になって目の前にそびえ立っている。寒くもないのに、ぶるっと身震いした。いや、これはするでしょ。
入口の前で、バッグの持ち手をぎゅっと握り直す。今日は歩きやすいスニーカーにした。転ばないために選んだ靴だったけど、今はもうちょっときれいなのを履いてくればよかったって、心底思ってる。後悔先に立たずはとはこのことか。
インターホンのパネルに、教えてもらった番号を打ち込む。
「よん、いち、ぜろ、に……」
呼び出したら、すぐに応答があった。スピーカーから聞こえたタカオミの声に、ほっとしたのも束の間、住所は間違いじゃないんだな…と思い至り、また身震いがした。
自動ドアが開いて、ロビーへ。カウンターの人に会釈されて、私も反射でぺこっと頭を下げる。自分の足音だけが、やたら響いて聞こえる。
エレベーターの手前にもう一枚扉があり、来客用の認証を済ませると、行き先に『41』が光って、他の階は押せないようになってるんだぁ~と感心した。
四十一階。普段の生活で、エレベーターにそんな数字をお願いしたことない。
扉が閉まって、小さく息を吐いた。表示が二十を過ぎても、三十を過ぎても、止まらない。そりゃそうだ。行き先は四十一なんだから。
「高い高い高い……」
口に出したところで低くなるわけもなく、ポーン、と目的の階に着いた。
廊下には絨毯が敷いてあった。足音がふっと消えて、さっきとは別のそわそわが来る。見える範囲に玄関のドアが少ない。隣の家まで遠い。
4102と書かれたドアの前に着いたら、今度は数字を何度も確認した。服の裾を引っぱって整えてから、よし…と、気合いを入れて、呼び鈴を押した。
少しして、ドアが開く。タカオミは、やっぱり黒いマスクをしてた。
「家でもマスクしてんのかい」
思わず口からでた言葉にしまった、と思った。三か月ぶりの第一声がそれかい。
「え、ああ。うん」
タカオミはちょっと目を泳がせてから、ドアの奥へ一歩下がる。
それから部屋に入るように促してくれた。




