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「ねえ、今度カフェ巡りしようよ。かわいいとこ」
昼休み。くっつけた机の向こうで、茉莉乃がお弁当の蓋をパチンと閉めて誘ってきた。茉莉乃は幼稚園から高校までずっと一緒の幼馴染。だから私がオタクなのは知っているし、趣味や嗜好が一ミリもかぶっていなくても、話題には事欠かない。
高校受験の時、志望校に落ちたら恥ずかしいから、合格するまでお互い高校は内緒にしておこう!約束して、蓋を開けてみたら同じ高校だったのには心底驚いた。ここまでくると腐れ縁とも言えなくもない。私は咀嚼していた卵焼きを飲み込むと、両手を合わせてごちそうさまをする。
「コラボカフェならいいよ。今度のサピリオの」
「普通のカフェは?」
「普通のカフェにめぐりちゃんはいない」
「サピリオにもいないじゃん」
「それはそう」
「あ、でもね、最近インステでさ、ひたすらヒツジのメェメェ推してる男の人が流れてくるの。あれ見てたら、メェメェもかわいいなーって」
「なにそれ。あんた、また変なもの見てる」
「変じゃないよ。萌えの話してるだけだもん」
配信者の名前は知らないけどフォローはしているし、オススメに上がってくるからめちゃくちゃみている。メェメェについての愛をひしひしと感じ取り、見ているだけでメェメェごと応援したくなる。萌は世界は救わなくとも、オタクは救ってくれる。
「はいはい。じゃあ、こっちも見なって」
茉莉乃はずいっとスマホ画面を押し付けてくるので、素直にそれに目を向けると顔のいい男の人たちが踊ってた。衣装もライトもギラギラしてるねーくらいの感想しかないけど、曲だけはどこかで聞いたことある気がした。
「LIVERA。今めっちゃ来てるんだって」
「へえ、イケメンだね」
「もう一段階くらい興味持ちなよ」
そう言われても「顔がいい」の先が出てこない。
うちは両親が二人ともオタクで、私はいわゆるサラブレッドというやつだ。リビングのテレビに流れてるのは、だいたい誰かが選んだアニメか動画で、特に見るものがなければ消してしまう。なんとなくつけたテレビで流行りを覚える、ってことがほとんどない家なのだ。
知りたいことは自分で検索するし、似たものはおすすめ欄が勝手に教えてくれる。結果、私のスマホには二次元の顔がずらーっと並ぶ。困ったことは、マジで一回もない。
「あや、顔かわいいんだからさ。もっと青春しなよ。ダブルデートとかしてみたくない?」
「それ、私に彼氏が必要なやつ?」
「そうだよ」
「難易度高くない?」
茉莉乃が何かぶつぶつ言ってるけど、ダブルデートに興味が全くわかない私の脳内は、次のゲームイベントのことを考えることにシフトした。
ポンポンラインの『プロデューサーセッション』。それは、他のプロデューサーとペアを組んで、二人分のライブのスコアで順位を競うイベントだ。まだ参加したことはないけど、告知が出るたびに、楽しそうだなー組むならこの衣装かなー、なんて考えている。参加してなくても考えるのは自由でしょ。今回はどんなステージなんだろうなぁ。
「ちょっと、聞いてる?」
「聞いてる。衣装どうしようかなって」
「聞いてないじゃん」
茉莉乃に曖昧な返事をしつつアプリを開くと、ちょうどチャットに通知が来ていた。
『今回のセッションイベント、一緒にやりません?』
HONE。あのタカオミさんだ。返事を打ちかけて、親指が止まる。うちには両親との約束がある。『素性の知れない人との協力プレイは禁止。破ったらスマホ没収』。ゲームをしない親が適当に言ったんじゃなくて、ゲーマー二人がガチの真顔で言った約束だから、私もこれまでちゃんと守ってきた。
でも、タカオミさんは顔を知ってる。連絡先もある。目の前でめぐりちゃんのストーリーを熱く語ってた人だ。
……知らない人、ではないのでは?
だいぶ都合のいい解釈なのは、うっすら理解はしている。しているけども。ずっっっとやってみたかったセッションと、あの百人近いキャラの中から同じめぐりちゃんを選んだ相手。再度指を動かした。
『もちろん!』
送信して、ドキドキと返事を待つ。
「うれしそう」
「セッション誘われた」
「はいはい。よかったね」
返事はそっけないくせに、私がお弁当箱を机から落としかけたら、茉莉乃は何も言わずに手で押さえてくれた。




