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転生したら修道院送りになってました  作者: 桐浜このみ


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6

 

 遊戯室の床は、板張りだった。八人は囲うことができるであろう大きな机と本棚は、木で作られており、窓から差し込む日も相まって、どこの部屋よりも明るく感じた。

 アーデルハイトが遊戯室に入ると、そこにいる三歳位から十二歳くらいの子どもたちが一斉にこちらを向いた。人数としては十人ほどだろうか。


「ハンナさん!」


 子どもたちが声を出してわっと近付いてくる。何人かの子どもは副院長の修道服をぎゅっと掴み、何人かの子どもは物珍しそうにアーデルハイトを見上げた。


「今日から、貴方たちのお世話をしてくれるアーデルよ」

「みんなさん、どうぞよろしくね」


 アーデルハイトが少し腰を屈めてそう言うと、二人の女の子がぎゅっと抱き着いてきた。


「わあ!お姉さんよろしくね!」

「お姉さん、とっても綺麗!」


 綺麗、その言葉は聞き慣れていたものだったが、初めて心の奥底にまで届いた気がする。子どもたちの純粋な言葉に、アーデルハイトは破顔した。


「ふふ、どうもありがとう。嬉しいわ」


 アーデルハイトの本心からの言葉だった。


「アーデル、貴方には年長の子たちの面倒を見てほしいわ。今はこの五人ほどね」


 そう言って副院長はアーデルハイトに順々に五人を紹介した。抱き着いてきた二人と、いたずら好きなのかあちこちに怪我がある男の子、恥ずかしそうにしている女の子と、一番年長そうに見える男の子だ。


「改めてアーデルよ。何か困ったことがあったら、教えてね」


 子どもたちの瞳が好奇心に溢れてる。きらきらとした純粋な目で見つめられ、アーデルは少し気まずい。


「では、お昼のお祈りの時間まで一緒に過ごして。その後のことはまた伝えに来るわ」


 アーデルハイトがこくりと頷いたのを見ると、年少の子たちを奥にいた別の修道女に任せ、副院長は遊戯室を出ていった。


「お姉ちゃん、遊ぼー!」


 アーデルハイトの腕をぐいぐい引っ張る先程の女児二人。大人に対して物怖じしない、人懐っこい子だ。遊びたくて遊びたくて、うずうずしているのだろう。


「二人とも待って。アーデルさんが困っているだろう」


 そう言って声をかけたのは栗色の髪をした一番年長の男の子だ。この年長の子どもたちのまとめ役なのかもしれない。


「ありがとう。私も皆と遊びたいわ。でも、貴方たちの名前を知ってからだと、もっと楽しいと思うの」


 そういうと女児二人がわあっと声を上げた。そうだね、そうだね、と声を上げながらアーデルハイトの周りをぐるぐる回る。


「では、皆さん、椅子を持ってきて、円になって座りましょう」


 一人一つ丸椅子を運び円を作る。アーデルハイトの両脇に先程の二人の女児がすわって、その左隣に恥ずかしがりやな女児、逆側には怪我が多い男児、そしてちょうどアーデルハイトの対面に、一番の年長の男の子がすわった。


「ありがとう、みんな。ではみんなには三つのことを教えてほしいの。名前と年齢と、それからなりたいことやしたいことね」


 少し考えてみて、と言って子どもたちを見渡した。真剣に考えているのが三人。面倒くさそうにしているのが一人、下を向いていて、何を考えているのか読めないのが一人。そしてアーデルハイト自身も思考する。

 自分のしたいこと、とは何であろうか。目を閉じてじっくりと時間を取る。頭の中で、浮かび上がってくる気持ちを言葉にしていく。

 修道院での新たな生活。公爵令嬢から修道女になったこと。何をしなければならないか、ではなく、何をしたいかを考えられること。自分で決められること。期待感。


 ゆっくりと目を開いて、アーデルハイトは五人の子どもたちの顔をそれぞれ見ながら話し始めた。


「では、私から始めるわね。アーデル、十八歳よ。これからどんなことをしたいか考えることを、したいわ」


 そう言いながら、自分で拍手した。周りの子どもたちも慌ててそれに倣って手を叩く。ぱちぱちと乾いた音が遊戯室に響く。アーデルハイトの二つ右にいる傷の多い男の子が、手を叩き終えたあとふん、と鼻を鳴らしながら言った。


「そんなんでいいのかよ」

「したいことのことかしら?勿論、こんなのでもいいのよ」


 そうそう、とアーデルハイトは付け足した。


「他の人が発表したら、皆で拍手で受け入れましょうね。発表って勇気がいるのだから。心の中で違うな、って思っても必ずよ?」


 はーい、と元気な声が帰ってくる。三人と言ったところか。先程真面目に考えてくれていた三人だろう。


「はい、では次は貴方」


 アーデルハイトは左隣の女の子を見た。うん、と頷いてはきはきと話し出す。


「リーゼ、九歳。反対側にいるのは、私の妹!やりたいことは、アーデルとたくさんお話したい!」


 嬉しいわありがとう、そう言いながらアーデルハイトは拍手をする。先程よりも大きな拍手だった。

 確かに言われてみれば二人とも少しくせっ毛の金髪に碧眼だ。よくよく顔を見てみれば鼻から目にかけての部分がよく似ている。


「では、そのまま左へ進みましょう」


 すると次は引っ込み思案の少女だ。話してくれるか不安だったが、それは杞憂に終わった。ただ蚊の鳴くような声だったが。


「エルザ、八歳。本を読みたい」


 よろしくね、と言いながら拍手をする。拍手に混じり、読めないくせに、と声がした。先程突っかかってきた男児であろう。エルザは相変わらず俯いたままだったが、より角度が深くなった。


「エルザ、読めないなら、一緒に読めるようになりましょう。貴方も相手を傷付ける言葉は慎みなさい」

「でも、ほんとのことだし」

「そうだったとしても、傷付けてまで言う必要はないわ」


 右側にいる金髪の男児を見て言うが、男児のヘーゼルの瞳はこちらを向くことなく、顔を背け奥の壁を凝視している。今すぐに理解させることは不可能だろうとアーデルハイトは判断し、次へ繋ぐ。


「では、貴方、どうぞ」


 対面に座る栗色の髪の男児は更に背筋を伸ばしてはい、と答えた。


「ルーカスです。十二歳です。もっと学びたいです」


 子どもたちは慣れてきたからなのか、アーデルハイトが拍手をするのに間があったからなのか、アーデルハイトよりも先に拍手をした。アーデルハイトは熱心なのね、そう言ってから手を叩く。


「レオ。十歳。さっさとここを出たい」


 アーデルハイトが次を指示する間もなく、拍手が鳴り終わるか終わらないかの内に、レオはぶっきらぼうに、そう言った。


 そうなのよろしくね、アーデルハイトは深くは聞かずに拍手をした。何でと聞かれたい、構われたい、心の奥ではそう思ってるのだろう、と察したがあえて軽く声をかけるに留めた。


「では、最後ね」


 そう言うと右隣の女児は元気に頷いた。


「グレーテ、六歳だよ。お人形遊びがしたいなあ」


 左隣の姉は、まだしたいの?と言いながら拍手をする。ずっと人形遊びに付き合っているのだろう。


「皆さん素敵な自己紹介をありがとう。では、一緒に遊びましょうか」


 アーデルハイトはそう言ったものの、何をすべきか思い浮かばなかった。全員のしたいことが異なっているからだ。全員の希望を一度に叶えることはできない。別々に一人ずつ遊び相手をしてもいいけれど、そうではない子の面倒は、ルーカスとリーゼが見ることになる。きっと今までもそうだったのだろう。できればそれは避けたかった。子どもは子どもらしくいてほしい。大人の代わりになる必要は彼らにはまだない筈なのだから。


「そうね、では、今から本を読みましょうか」


 えー、と不満の声が上がった。前向きそうなのはエルザとルーカスの二人だけだ。遊ぼうと言いながら、本を読もうと言われれば不満に思うのも至極当然だな、とアーデルハイトは内心苦笑した。


「そして一緒に文字を覚える遊びもしましょう」

「文字を覚える…?」

「そう、あそびよ。文字を覚えたら、もっといろんなことが出来るようになるわ。それこそ本を読めるようにもなるし、学んだことを記録して、繰り返し復習することもできる。生きるために絶対に必要なことよ」


 アーデルハイトの言葉は、自身でも気付いていないが熱がこもっていた。それを聞いたエルザがポツリと、聞こえるか聞こえないか程度の声で漏らす。


「…先生みたい…」


 アーデルハイトはがつんと、頭を殴られたような気がした。


「先生…」


 ああ、私は前世で、間違いなく"先生"だった。





お読みいただきありがとうございます。

次から少しずつテンポが上がっていく予定です。

投稿自体初めてで不慣れな者なので、お気付きの点や誤字脱字などあれば、コメントや報告などお気軽にお願いいたします。


またブックマーク、評価、とても嬉しいです!ありがとうございます。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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