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転生したら修道院送りになってました  作者: 桐浜このみ


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翌朝、朝の市場が開く時刻を告げる鐘で、アーデルハイトは目を覚ました。公爵家から持ってきていたネグリジェは、簡素な室内とはちぐはぐで、改めて修道院へ来たのだと、アーデルハイトに実感させた。とはいえ、前世の記憶を思い出した彼女にとっては、新たな修道院での生活が始まった、位にしか感じていないので、そこに悲壮感もない。


(それにしても、こんなひらひらな服、前世の時には着たことがなかったわ。もう少し抑え目のデザインの寝巻きは無かったのかしら)


そんなことを思いながら、棚から昨日着てきた服とは別の白い服を取り出し着替える。この後副院長が来るのに、ネグリジェでお迎えするわけにはいかない。そういえば昨日の朝、宿屋で一人で身支度をするのに酷く戸惑ったことを思い出した。基本は全て侍女がしてくれていたし、確かに貴族学院の制服は一人で着ていたが、あれは一人でも着やすいように配慮があった。そうでない服は一人では大変着辛くできている。貴族令嬢が修道院で生活するのは、本当に苦しい経験なのだろう。だからこそ罰に値する。

前世の記憶を取り戻したアーデルハイトは昨日かかった時間の三分の一程度の時間で、苦もなく一人で身支度を終えた。


この世界での修道院のことはアーデルハイト自身、あまり詳しくはない。毎週のように礼拝に行くような敬虔な家庭ではなかった。だが、貴族の役目として、領内の修道院や教会には公爵家から幾らか寄付はしていたし、慰問という形で、領地の大修道院を訪れたことも、二度や三度ではない。でも、それだけなのだ。


では、前世の記憶からは、というと、これまた一般庶民としての感覚と同じだ。修道院とは戒律を守り節制に励み、神に祈りを捧げるもの。有り体に言えば、厳しそう、そういうイメージである。

だからこそ、アーデルハイトはこれからの生活が想像できない分、楽しみであり不安でもあるのだ。


机の上に開きっぱなしにしていた鞄の中から大判のストールを取り出す。エーレン家の家紋が入ったストールだ。それを棚の一段目にしまい、ネグリジェを含む全部で四着ある服もしまった。一段目を閉じ、鞄を見る。中には万年筆とインク、そして宝飾品がある。

万年筆はずっと使い続け手に馴染んだ愛着のあるもの。婚約者時代の王子からいただいた、という曰く付きのものではあるが、アーデルハイトは、物に罪はないから、と持ってきたものだった。この国の言語で、「アーデルハイトへ EWより」と彫られている。

宝飾品の方は祖母から譲り受けたサファイアのネックレスとイアリングのセットだ。本当はこれをつけて卒業パーティーに出席する予定だったのだが。


アーデルハイトはエーレン家の典型的な瞳そのものだった。王家の青より深い青。それでいて、光の当たり方によっては、王家のものと非常に似通って見える瞬間もある。


鞄をばたんと閉じて、南京錠をかけた。棚の二段目を開けて、そこに閉まった。南京錠の鍵は、部屋の鍵の紐に結び付けることにした。


窓を開けて、外の空気を取り込む。朝の健やかな風が入り込んで、アーデルハイトの頬を撫でた。遠くの方で僅かに賑やかな声がする。声と言うより、音の方が近しいかもしれない。リューリングの城下町が賑わっているのだろう。


その時、こんこん、と扉が叩かれた。


「アーデル、起きてますか」


扉越しに女性の声がする。


「はい、今開けます」


窓辺から対面にある扉へ向かい、鍵を開けて扉を開いた。そこに立っていたのは、アーデルハイトよりも少し身長の低い、四十歳くらいの女性だった。ヘーゼルカラーの瞳はきりっとした目付きと相まって、まるで猫のような目の印象を受ける。


「リューリング大修道院の副院長、ハンナです。この大修道院の修道女たちを監督しているわ。どうぞよろしく」

「アーデルです。至らない点ばかりかと思いますので、厳しく指導してください。よろしくお願いいたします」


アーデルハイトは頭を下げた。ハンナ副院長はその様子に少し片眉を釣り上げたが、アーデルハイトは気付かなかった。


「そう、分かったわ。院長から聞いていると思いますけれど、我々は一切貴方を特別扱いしないわ」

「はい、存じております」

「貴方は新入りの修道女よ。様々な雑用をすることになる。覚悟はいいわね?」


アーデルハイトはこくり、と頷いた。もうこの道しか生きる道がないのだ。どんなことだってやるしかない。


「ではまずは、この服に着替えてちょうだい。髪もしっかりとベールにしまってね」

「はい、副院長」


終わったら出てきてちょうだい、と言って副院長は部屋から出て行った。

アーデルハイトは先程着たばかりの服のボタンを一つずつ外していった。爪が長いが故に外し辛い。やっとのことで脱ぎ終わり、そして修道服に袖を通す。肌触りのいいグレーの修道服だった。エーレン領にある大修道院では、黒い修道服だったので、修道院によってデザインが異なるのだろう。メイドの服のようだとアーデルハイトは思った。楽に一人で着替えることのできる作りだと思ったが、髪の毛をベールにしまいこむ作業でそうではないのかも、と思った。長いのでやりづらいのだ。

最後に備え付けられた鏡で確認する。西洋風の顔つきにこの服はなかなか似合っていると思いつつ、この姿を見たら、侍女たちは何を感じるだろうか、と思う。貴族令嬢の矜持の塊とも言える髪をこのようにしまい込んで、見えないようにするなんて。きっとやめて、とみんなで泣き叫んでしまうだろう。そんな様を想像して、くすりと笑ってから、アーデルハイトは部屋を後にした。




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