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イレーネの花は一般的な花と比べても咲き誇る時期が圧倒的に長い。それもあって、長寿や不老不死の印象と重なり、イレーネ教を象徴する花となっている。
そんなイレーネの花も散る時期が近くなると、修道女たちが一斉に花を摘む神事、花摘みが行われる。花を摘み花弁を乾燥させ、お茶にするのだ。修道院や街の教会に咲く花を摘み、花茶として市場に卸す。修道院を運営するための大事な資金源となっていく。
七月も下旬に差し掛かり、アーデルハイトの頭の中はいよいよ来週に迫った騎士の催し物でいっぱいだった。無事に院長、ジークハルト共に承認をもらったこともあり、準備も佳境に入っている。
とはいえ今は気持ちを切り替え、目の前の仕事に集中する。イレーネ教の象徴であるイレーネの花を摘むというのは、大事な宗教行事の一つであるので、アーデルハイトも真剣にお茶にする花、そうでない花を見定めている。
今摘んだ花が花茶として出回り始めるのは、来月になるだろうか。夏の間は新茶として楽しみ、来年の初夏までじっくりと長く楽しめる。来年も平和であるように、幸せであるように、そう願って花を摘むのだ。
「来年には、素敵な男性と結婚していますように」
自己中心的な願いを唱えているのは、アメリアだ。そんな個人的なことを願っても良いものなのだろうか、アーデルハイトはそう思いながら手を動かす。
「あらあら、来年に結婚したいのなら、今年中にはその素敵な男性と出会っていないとねえ」
おっとりとしたテレーゼから発せられる現実を突き付ける言葉にアメリアは、うっ、と声を漏らす。
「今年の交流会には絶対に参加しますから」
「…確かにそろそろ交流会のお誘いが始まる時期ね」
ヴァルトハイム公爵邸での交流会は十月の中旬に催されるらしい。今はもう七月の下旬だから、もう三ヶ月は切っているわけだ。一からドレスを作る場合、採寸や試着など様々な準備のことを考えると、三ヶ月だとかなり慌ただしいだろう、と公爵令嬢だった時の記憶が伝えてくる。
そういえば以前アメリアが、ドレスで着飾ってと言っていたが、そのドレスはどうするのだろう、と手を動かしながらアーデルハイトは思案する。
(まさか、修道院にあるとは思えないし…)
「あーー、そわそわする!交流会に行けますように!」
リューリング大修道院の中庭にアメリアの一際大きい声が響き渡った。
その日の夜、食事をし、夜のお祈りを終えたアーデルハイトは、机に向かっていた。
来週に迫った企画の段取りを考える。会自体はお昼の後から始まるが、ジークハルト、デニス、そして三人の騎士は、昼前にここに来てくれて、打ち合わせをしてくれる事になっている。
打ち合わせで確認すべきこと、模擬戦で必要なものの準備、座談会での質問事項の選定、最後の遊戯の準備。レオとのやり取りがあり、急遽参加することになったジークハルトへの対応。デニスがああ言っていたので、ジークハルトの腕前は本当なのだろうが、貴族様を傷付けたとなれば、恐ろしい。
このような大きな企画を自分の責任で進めていくのは初めてで、アーデルハイトはかなり緊張していた。が、それと同じくらい高揚も感じていた。自分がしたいと思ったことができるこの環境にやり甲斐も感じていた。
ルーカスが、子供たちがきっと喜んでくれる、そう思うとペンを持つ手にも自然と力が入った。




