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転生したら修道院送りになってました  作者: 桐浜このみ


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 ジークハルトが来るまで残り一週間となった。アーデルハイトはいつものように修道服に着替えると、籠に修道院から支給された財布と、子どもたちが作った宣伝紙を入れた。市場へ降りて買い出しをするのと、商会を巡って騎士の日の告知をお願いして回る。したことはないが、飛び込み営業のようだ、と気合いを入れた。


 リューリングの城下町は、修道院から徒歩で二十分といったところにある。そこから中心通りまでは更に十分。中心に行くまでの道にはいくつもの出店があり、野菜や果物、装飾品なども並んでいた。客を呼び込む大きな声が響き渡る活気のある街で、見ていてとても元気を貰える。


 院長が宣伝を代表の方に頼む、と言っていたがそれは本当のようだった。街に入ってから、修道服を来ているからか、七月の最後の土曜日に騎士様が来るんでしょ、と二度ほど声を掛けられた。代表の仕事の速さ、また宣伝力に舌を巻く。


 アーデルハイトは中心通りの角地にある大きな商会の前で足を止めた。ここが一等地であろう。つまり、この街で一番力のある商会だ。出窓に設置された飾り棚には、ネックレス、イヤリング、指輪といった宝石細工が並べられている。太陽の光を反射してきらきらと輝いていた。ただ、宝石自体は一つの大きな石ではなく、小石のような小さなものを幾つも集めて大きな宝石のように見立てているようだった。値札を見ても、とても手が出ない、という値段ではない。宝石一つあたりの大きさが小さいから、値段もある程度抑えられているのだろう。だからこそ、貴族が集まる王都ではなくこの場所で商売ができるというわけだ。とはいえリューリングは、王国内でもかなりの力を持つヴァルトハイム領の領都だ。商工業者や地主も多く、民たちはどちらかといえば豊かな生活をしている。頑張れば手が届く商品を扱っている商会なのだろう。

 宝石を嵌め込んでいる細工が細かく美しい。小さな宝石が映えるように作られている。この金物を作っている職人の腕が素晴らしいのだろう。


「綺麗でしょう?」


 見惚れているとそういきなり声を掛けられて、つい肩が跳ね上がった。振り返ると四十代半ばの恰幅のいい男性が立っていた。身に付けているもの全てが一流品だと、アーデルハイトにはぱっと見て分かった。皺のないシャツの一枚にしても、その上に身につけているベストにしても、襟飾りにしても。


「ああ、驚かせて申し訳ない。リューリング大修道院の方ですかな」

「はい、アーデルと申します。…つい綺麗で見惚れてしまいました。素晴らしい職人技だな、と…」

「そうでしょうとも。うちの自慢の商品でしてね」


 この商会の会長なのだろう、とアーデルハイトは判断する。ヴァルトハイム公爵家の領都であるリューリングの街の一等地に立つ商会だ、一流品を身につけているに決まっている。この商会の影響力は強そうだ。


「七月の最終土曜日に修道院に騎士様をお呼びするのですが、こちらはご存知でしょうか」

「もちろん存じておりますとも。実際に町内の代表の方にも紹介いただきましたし」

「その事で折り入ってご相談が…」

「そうですか、ではどうぞこちらへ」


 店の扉を開けながら、中に入るようアーデルハイトを促す。会長は穏やかな笑顔を貼り付けてはいるが、その目は鋭くアーデルハイトを見定めている。


「ありがとうございます」


 アーデルハイトは軽く一礼をして店内へと入る。

 一面絨毯が敷かれていて、高級感のある作りになっている。角地という立地を生かし、大きな窓が嵌め込まれ、店内は明るい。

 宝飾品や手袋、ハンカチ、化粧品といったものが並べられており、女性向けの商品を扱っているらしい。


「それで、相談したい件とは?」

「はい。お子様がいるお客様にこちらの宣伝を一緒にお渡しいただきたいのです。孤児院の子どもたちが一枚一枚書いたものですから…」


 そう言って十枚ほどの紙を渡す。以前、子どもたちに描いてもらったものの一部だった。


「これを、子供たちが?…なんとも素晴らしい出来ですね」


 会長は、アーデルハイトが手渡した宣伝を見て感嘆した。

 文字は大きく見やすく太文字で、エルザの絵は八歳とは思えない腕前で、子どもたちの力作だった。褒められてアーデルハイト自身も嬉しくどこか誇らしげだった。


「はい、ですので、是非お願いします」

「ええ、もちろんいいですよ」


 快諾して貰えたことにアーデルハイトは一つ安堵した。


「とはいえ、多くのお客様が独身の男性の方なので、果たしてどこまでお渡しできるか分かりませんが」


 宝飾品の陳列を見ても、男性が女性への贈り物として購入することが多いのだろう、とは予想が付いた。記念日や、それこそプロポーズの時などだ。


「…手袋や化粧品などは、女性の方が購入されるのでは?」


 アーデルハイトは視線を横に向ける。王都では去年あたりに流行したデザインの手袋や、今年新作が出た化粧品の旧版が並んでいる。やはり王都から少し離れたところにあるが故に、流行も同様に少し遅れて入ってくるのだろう。


「いえ、そもそもあまりこの商会には女性はいらっしゃいませんから。うちの主力はやはり、宝飾品になりますね。特に化粧品はなかなか…」


 会長は言葉を濁したが、なかなか売れずに在庫を抱えているのだろう。この化粧品は、王都では質もよく割とお手頃に手に入ると非常に評判の品だった。アーデルハイト自身も王都にいる頃に愛用していた。だからこそ、売れないのは勿体ないと思ったし、良いものは広まってほしい。


「…化粧品は女性でないと、分かり辛い所もございますから…。男性の方ですと、折角贈りたいのにどれを選んだら良いのか分からなくなってしまう方もいらっしゃるかと思います」

「いやはや…。お恥ずかしながら私自身もそうでして…」

「商品自体は王都でも大変人気のもので、質も申し分ないかと思います。ですので、折角でしたら男性の方が購入しやすいように、贈答用として綺麗に包装し、セットで販売されてみてはいかがでしょうか」


 なるほど、とたくわえた顎髭を右手で会長は撫でる。視線はアーデルハイトではなく、隅にある化粧品売り場を向いていた。鋭く光るその瞳は商人そのものだった。


「何を購入すればいいのか分からない男性の為に…、例えばこちらの化粧水とクリームの二品を、少しお安くしてセットで贈答用として販売します。すると気に入って使い続ける方もいらっしゃるかもしれません。無くなった頃に贈られた女性がこちらの商会を訪れ、化粧品以外の物もご購入する…なんてことも」


 化粧品の棚をまじまじ見ていた会長はぱっとアーデルハイトに視線を戻すと、柔和な笑みを浮かべた。


「いやぁ、素晴らしい慧眼の持ち主ですな。こちらで雇いたいくらいです」

「いえ、そんな…勿体ないお言葉です」


 アーデルハイトは頭を下げる。前世でよくこういった化粧品がプレゼント用として販売されていたのを思い出しただけだった。


「では、宣伝の件、どうぞよろしくお願いいたします」

「あぁ、最後に、もう一度お名前だけ…」

「アーデルと申しますわ。では失礼いたします」


 そう言って、アーデルハイトは重い扉を開けて商会を出た。一番大きな商会にお願いすることが出来たから、次はもっと庶民たちが通う市場や出店にポスターのように置いてもらえないか、相談して回ろう。アーデルハイトの足取りは軽かった。



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