表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら修道院送りになってました  作者: 桐浜このみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/17

14

 

 ルーカスと話し終えたあとすぐに副院長を訪れ、考えた案を伝えると、六月の中旬に定期的な視察があるから、その時に具体的に話せるよう手紙を書いてみては、とのことだった。


 ジークハルトのことだ、悪いようにはしないだろう、と思いながら、アーデルハイトは自室で手紙を認めた。

 まず始めに紙と商人を紹介してくれたことの御礼を記す。そして次回の視察の時に時間をとってほしいこと、騎士をお借りしたいこと、その日程を考えたいこと、来てもらった時に騎士に興味が無い子にも楽しんで貰えるような体験を考えたいこと、を掻い摘んで記した。

 ただ、ジークハルトの忙しさがどれ程のものなのかが分からない。本人がたとえ前向きであったとしても、騎士の人たちの日程の調整がつくかどうか。


 いや、ルーカスのためにもなんとかして、この計画を実行できるようにしよう。


 手紙に封をして事務室に持っていく。それぞれ仕分けて持って行ってくれる業者がいるのだ。



 数日後には、了承したという旨と具体的には視察の日に、と簡潔に書かれた手紙がアーデルハイトの元に届いた。


 手紙を受け取った様をアメリアが目ざとく見つけていたのだろう、アーデルハイトは翌日の朝の掃除のタイミングで質問攻めに合った。


「手紙受け取ってたよね!?恋人!?」

「いえ、決してそんなことはなく…」

「本当にそうだよね!?結婚してすぐにいなくなられたらまた私が困るんだから」


 アメリアに鼻息荒く詰め寄られる。アーデルハイトはそこから少し距離を取るように思わず仰け反りながら、はた、と固まった。


「また、とは…?」

「ああ、アーデルの前の担当の人はね、結婚して修道院を離れることになったのよ」


 アーデルハイトは目を瞬いた。修道女が結婚。神に仕えるものだから、純潔で生涯独身を貫くものだとばかり考えていた。確かに思い返してみれば、ここにいる女性たちの多くは若い。結婚適齢期を過ぎた女性は殆どいない。


「結婚…」

「恋人がいる人だって何人かいるわ。教会に来た人に見初められたり、お使いで街に行った際に出会ったり…。羨ましい」


 そう言って肩を落とすアメリア。アーデルハイトは、未だに結婚、という衝撃が抜けきらない。お喋りしたり、自由時間があったり、何かと戒律は厳しくはない、とは思っていたが、まさか結婚まで許されているとは。


「で、誰からの手紙なの!?」

「え、ええと、ジークハルト様から。ちょっとお願いがあってそれのお返事です」


 そう告げると、アメリアは、あー、と言いながら少し遠い目をした。


「ジークハルト様が格好いいのは分かるけど、私たちでは手が届かないわ。流石に貴方でも。お貴族様ですもの。諦めなさい」

「いえ、あの…、そうではなく…」

「今までに何人も玉砕している人を見てきたわ。悪いことは言わないから」


 真っ直ぐなアメリアの瞳に見つめられて、アーデルハイトはたじろいだ。真剣そのものだった。


「孤児院に関わる話なだけです。そういった気持ちは一切ありません」


 アーデルハイトはきっぱりと言った。

 一生結婚する気はなかった。修道院送りになった時点で、生涯独身なのだろう、そう思っていたのもある。


「そうなの?あ、もしかして、他に恋人が?」

「それもないです。そもそも恋愛する気はないですから…」


 そうなの、と少しつまらなさそうにアメリアは呟いた。


 婚約破棄になって、自分の努力が無意味になったあの日。正直結婚だの、恋愛だの、こりこりだ。婚約者が、自分以外に気持ちを向けていると気付いてしまった時の、あのお腹の底がひんやりとするような、あんな気持ちにはもうなりたくない。

 そして元は貴族だ。この身に流れる青い血が面倒を引き起こすに決まっている。ましてや五代前には王家の姫が降嫁しているので、王家の血まで流れている。どんな身分の人と結婚しても、生まれた子は王家の血を宿すわけだ。諍いの元にならないわけがない。それが高位貴族ならまだしも、下位貴族や商家ともなれば、後ろ盾がないが故に担ぎあげられてしまうかもしれない。

 だからこそ、アーデルハイトは誰とも結婚する気はなかった。


「今年は行けるかなー、交流会」

「…交流会ですか?」

「あ、そっか。アーデルは知らないわよね」


 そう言うとアメリアは、いきいきと説明し始める。


「毎年十月にヴァルトハイム家のお屋敷で、色んな人を集めての交流会をするの。ヴァルトハイム領内の有力な商人とか、職人さん、農場経営者なんかも呼ばれてたりするみたい」

「凄い規模なんですね」

「そうなのよ!しかも舞踏会まであるのよ!ドレスで着飾って、庶民でも貴族の一員のような経験ができるの。けれど、皆がみんなエスコートできる女性がいるわけではないでしょう?そこで、白羽の矢が立つのが私たちってこと!」


 なるほど。ヴァルトハイム領内で最も規模の大きいリューリング大修道院。その修道女をエスコート相手としている、というのは、それだけで一目置かれる存在になれるのだろう。


 箒でずっと同じ地面を掃きながらアメリアは、はあ、と大きな溜息をつく。


「毎年最低でも三人は声をかけられるんだけど、今年の一枠はアーデルで埋まるじゃない?あと二枠かあ…」

「いえ、あの、私は、そういうものに興味がないというか、そもそも選ばれないというか…」

「何言ってるの!美人だし気品もあるし、引っ張りだこに決まってるじゃない!間違いなく、院長は貴方を推すわ」


 院長はアーデルハイトの過去を知っているが故に推すことは無いと思うのだが、と心の内で思うものの、出自を隠しているので、何も言えずに黙っている。


「エスコート役といい感じになることもあるし、交流会で知り合った人と結婚した人もいるわ。私も行きたいなあ」


 舞踏会の面倒さをその身をもって体験しているアーデルハイトだったが、憧れる気持ちは、なんとなく理解できた。


「アーデルの真似をしたら、推薦されるかしら。今日から所作美しく過ごしてみるわ!」


 アメリアのひたむきな前向きさを感じて、アーデルハイトは少し微笑んだ。


「あ、アーデル、どうしたらいいか助言をちょうだいよ!」


 アーデルハイトは少し面食らったが、人から頼られることは好きだし、嬉しかった。誰かの為に、というのが元来の性格だった。


「私でよければ…」

「アーデルに教えてもらえるなら、絶対に選ばれるわ!」


 アメリアの瞳はやる気の炎に燃えていた。


「ではまずは…」


 そう言ってアーデルハイトは、じっとアメリアを見つめた。


「少し触ってもいいですか?」

「ええ、勿論」


 アメリアの肩に触れて後ろに引く。そのまま首の付け根に手を置いて、顎を引く。


「お腹に力を入れて、胸を張りましょう。同じ動きでも、ゆったりとした動作の方が美しく見えます」

「この姿勢を保つの…、大変だわ」

「慣れれば、当たり前になります」


 微笑んでそう伝えれば、じとーっとした目で見つめ返される。


「アーデル、貴方って笑顔で鬼畜なことを言うのね…」

「…え、そうでしたか…。すみません」


 慌てて頭を下げると、アメリアは両の手を振って違うの、違うのと言う。


「そういう意味じゃなくて…、貴方の意外な性格が見えた気がして」


 アメリアはふふふ、と微笑んだ。


「アーデルと少し仲良くなれた気がして、すっごく嬉しいの」

「ご迷惑だったら言ってください」

「もーー、嬉しいって言ってるでしょ。これからもよろしくね?気になったことがあったら遠慮なく言って」

「ありがとうございます。…また姿勢が丸まってます」


 気を抜くとすぐに!そう言ってアメリアは両の手を肩に乗せて胸を開いた。


 その様が微笑ましくて、頼られたことが嬉しくて、アーデルハイトは優しく微笑んだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ