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転生したら修道院送りになってました  作者: 桐浜このみ


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 六月に近付き、少しずつ日差しが強くなってきた。

 日本のような梅雨という程のものではないが、少し雨の日が増え始める。とはいえ、三日に一度程度であり、降水量も多くはない。


 アーデルハイトは変わらずに生活をしていた。

 規則正しく決まっている生活は心地良かった。この生活がアーデルハイトの肌には合っているのかもしれない。


「アーデル先生、呼びました?」


 ルーカスの声にアーデルは、はっと意識を戻した。遊戯室の隣にある図書室の椅子に腰掛け、窓から見える外をぼうっと眺めていて、意識が飛びかけていた。


「ルーカス、待ってたわ。座ってちょうだい」


 アーデルはルーカスを自分の左隣へと座らせた。


「今日は何か変わったことはあった?」

「…お昼の後に、レオがまたエルザに突っかかってたんです。それはダメだよって言ったんですけど、聞いてくれなくて」

「…そうだったのね」


 自分がいない時間で起こったことの皺寄せは、どうしても年長者であるルーカスの所に集まってしまう。ルーカス自身も一番年上だから、皆のことを何とかしたい、と思っているのだろう。その気持ちに修道院側がずっと甘えていた。大人がすべきことなのに、子供に託してしまっていた。まだ十二歳なのだ、日本でいえばまだ小六。確かに小学校の中では最高学年と呼ばれる年代ではある。よく、「最高学年としての自覚を」なんて、学年主任の先生に言われたものだ。だが、お兄さんお姉さんになることを求められても、大人になることは求められはしない年齢のはずなのに。


(…これが、前世との違いなのね)


「ルーカス、あなたには、何か今日変わったことはあった?」

「僕は、特にはないです」


 ルーカスは考えることも無く、そうきっぱりと言い切った。


「…分かったわ。字は大分読めるようになってきたと思うけれど、ルーカス自身はどう思う?」

「本も大分読めるようになりました。昔はほとんど全部読めなかったんです。けど、今は読めるけど、意味が分からないって感じです」

「その言葉自体を知らないってことね。でも、本当に凄いわ!この短期間で、よく覚えたわね、頑張ったわ」


 アーデルハイトがそう褒めると、ルーカスは照れくさそうにした。本心からそう思ってはいるのだが、つい前世の時の癖で大袈裟っぽくなってしまう。


「そうしたら、知らない言葉は他の紙に控えておきましょう。それを私に聞いてもいいし、辞典があればそれで調べるの。そうやっていくと、色んな言葉を知れるわ」

 はい、やってみます!と大きくルーカスは返答した。ルーカスの勉強に対する前向きさを身に染みて感じる。前世からの感覚でいえば、素直な子は、どんどん伸びていく。だからこそ、その気持ちの源泉が気になった。


「ところで、どうしてそんなに勉強したいの?言いたくない理由なら、全然いいのだけど…」

「…僕は騎士になりたいんです。そのためには、文字は読めた方がいいかな、って」


 なるほど、とアーデルハイトは思った。振り返ってみると、色々と合点する所がある。


「そうだったのね…。確かに、最初に選んだ本は騎士道物語だったものね。なんで騎士に?やっぱり騎士道物語からかしら?」


 ルーカスはこくりと頷いた。膝の上に置かれた拳をぎゅっとルーカスは握った。


「貴人の側でお仕えする騎士って格好いいな、って…。自分の使命や信念を全うする姿に憧れて…。それに、身分がなくても実力次第では、出世できるかもしれないから」


 騎士はこの世界の男子にとってなりたい職業第一位だ。身分に関わらず、立身出世を果たしやすい。

 どんな貴人にも身分関係なく仕えることはできるか、と言われればそうではないが、子爵や男爵などの護衛の騎士、王家の騎士団の一員、辺りであれば可能であろう。ただそれには、無論実力と体力は必要だ。


「教えてくれてありがとう。素敵な理由ね。具体的にどうやって騎士になるかは知っている?」

「正直よく分からなくて…。なれたらいいな、くらいなんです。そろそろ、ここも出なくちゃいけないし」


 アーデルハイトは目を瞬いた。ここを出る?誰が、いつ?


「出るって…それは…」

「僕は来年には十三になります。そしたら、奉公に出される予定です。僕を欲してくれる人がいればいいんですけど…」


 いつまでもこの孤児院で過ごす訳にはいかない。外に働きに出なければならない。それはそうなのだろうが、あまりにも幼すぎはしないか。まだまだ、身に付けねばならない知識や学問だってある筈だ。それなのに、この若さでもう。


 あまりにも貴族の生活とも前世の生活とも違っていて、アーデルハイトは衝撃で目が眩んだ。


「まだ夢を諦める時期ではないわ。私も少し考えてみるから。どちらにせよ、文字は読めた方がいいわ。契約書に不利なことが書いてないか、見定めることもできるようになるのだし。大人になっても使えたら本当に便利よ」


 ルーカスは、そうですね、と言って頷いた。

 アーデルハイトは、話を聞きながら一つ算段をつけていた。ヴァルトハイム家の騎士を何人か、修道院に呼べないか交渉しよう、と。できれば身分がそう高くない者を見繕ってもらって、実際、彼らがどう騎士になったのかルーカスに伝えてもらおう。また模擬戦や訓練の様子を見せてもらったり、ちょっとしたトレーニングにも参加してもらえないか、交渉してみよう、と。

 ジークハルトなら何とかしてくれるかもしれない、そうアーデルハイトは彼を信頼し始めていた。



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