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29 チーム庭師・発足

 タンジェントと新しい庭師たちは、もともと針の方向が同じらしく、作業小屋の生活についてはすんなりと役割分担してまとまることができた。


 だがロイダルとは一向に会えず、タンジェントは苛ついている。


「まったくロイダルときたら、ろくなもんじゃない」


 タンジェントはブツブツ言いながら、ドレイファス団と裏で呼ばれ始めている情報室分室に向かう。今日という今日は絶対捕まえて、催促しななくては!


─コンコンコン─


 苛立ちを感じさせるノックの音に、中から扉が開けられる。


「おお、タンジーか!」


顔を出したマトレイドが表情を崩す。


「ロイダルは?」

「まだ戻ってないなぁ。ヤツに用か?」

「アサルティの庭師だったソイラスについて調べてほしいと頼んであったが、なしの礫でな」

「そうか、それはすまなかったな。ロイダルは今は・・・あれ?いないな。どこ行くか聞いてるかぁ?」


 部屋の中に声をかけると、カイドらしい声で知らんよと答えているのがタンジェントにも聞こえた。


「戻ってきたら、ソイラスの件は早く頼むと伝えてくれ」

「わかった。必ず伝える。戻ってきたら一度行かせるよ。あ、そういえばみんな、揃ったのか?」


ああ、とちいさな声で答える。


「じゃあ一度、挨拶がてらにみんなでここに集まろう」

「ソイラスの件が終わってからな」


マトレイドが、不思議そうに眉を上げた。


「確かモリエールの師匠だよな。そのソイラスに何かあるのか?」

「うん、怪我を負って通常の庭師の仕事はできないらしいが、モリエールの話を聞くほどに先見の明があるように感じる。一度会ってみたいんだ」


 ふーん、マトレイドが鼻を鳴らし「帰ったら尻を叩いておく」と約束してくれた。




 そろそろ夕餉の時刻になる。作業小屋に戻り、皆を連れて厨房へ向かうことにした。


「食事は小屋で食べても、屋敷の食堂で食べてもいい。小屋で食べると厨房に声をかけるとスープなんかも全部トレーにのせてくれるから、小屋で食べたら必ず食器を洗ってから、翌朝食器やトレーを厨房に返すこと!」


 食堂の隣の厨房に声をかけると、若い料理人が顔を出した。


「今夜はこっちで食べるよ、四人分頼む」


「あー、タンジー待て待て」


 ボンディが顔を出してニカッと笑うと、仲間増えたな!といつものカッチカチの干しペリルを手渡してくれる。


「これは副料理長のボンディだ。声をかけるとおやつをもらえるぞ」


 ボンディはコラコラ、俺はコレじゃないぞ!と肩をすくめ、笑いながら厨房に戻っていった。


 四人はひとりづつトレーを受け取り、食堂で一つのテーブルを囲む。ミルケラがスープを入れたカップを持ってきてみんなに配ってくれた。


「さあ、みんな揃ったので夕餉にしよう」


 メニューが日によって大きく変わるわけではない。スープの種類が変わるか、煮物が野菜と肉か、野菜と腸詰めか。公爵家族もデザートが増えるくらいでほとんど同じものを食べている。

 食事についてはとても質素なのだ。と、いままではそう思っていたが。


「うまいっ!」


 アイルムがほぼ叫びと言える歓びの声をあげた。モリエールもニコニコしながら無言で食べ続けている。


「さすが公爵家だよな!なっモリエールもそう思うだろ?」


 モリエールも顔をほころばせて、アイルムに大きく頷いた。


「こんなの、どこの家でもたいして変わらんだろ?」


と軽い気持ちで言ったタンジェントに、食いつかんばかりに顔を寄せたアイルムが言った。


「はあ?ターンジェントさんは世の中知らんのだねえ?同じ料理でもね、ここのはなんでも丁寧に作り込まれてるし材料もいいものだから、すっごくうーんまいのよぉ!塩や胡椒だっていい具合だけど、俺がいたとこなんて塩の気配がするくらいだったぜ。なっモリエール?普通はそんなもんだよな?」

「うむ。これはすごく美味しいぞ。いままで気づかなかったとは!公爵家の使用人たちは恵まれているんだな」

「・・・そうなのか、知らなかったよ。でも君らも今日から公爵家の使用人だからな」

「ああ、本当に幸運だった」


 誰より元気なミルケラがじっと黙っていることに気づき、声をかける。


「具合悪いのか?大丈夫か?」

「いや・・・俺はみんなみたいにいろいろ食べたことないから、そういう違いはわからなくて。実家ではブレッドとスープか、芋とスープだったし、ここで出されるものは何食べてもすげえと思ってて」


 ミルケラの実家は、タンジェントたちが想像した以上に貧しかったのかも知れない。


「なあ、これからはたくさん稼いで、うまいものたくさん食って、人生変えようぜ」


 タンジェントが親指をグイッと立てると、三人も親指を立てて笑いあった。


「食べ終わったら、まず情報室分室に寄って、それからドリアン様とご挨拶だ」

「情報室分室?」

「ドレイファス様付きの使用人が集まる部屋さ。さあ、行こうか」




─コンコン─


 少し前にロイダルを探してきたばかりだが。

「はーい」カチャっと音を立てて扉を開けたのはハルーサだった。

「今日庭師が揃ったので、挨拶に来た」

ハルーサはハイハイと二回頷いて扉を大きく開けたが「あ、鍵魔法ダメじゃないか?」と、入室を止めた。

「あ、それ俺も忘れてたな!まずカイド呼んでくれないか?」


 頭をポリポリ掻きながら、寝不足気味の顔をしたカイドが出てきた。


「新しい庭師たちか?」

「ああ。みんな、こちらがカイド、そしてハルーサだ」

「よろしくな。じゃ、早速やるか」

そういうと庭師三人を並ばせたカイドが、鍵魔法の鍵を付与した。

「これで入れるぞ」


 タンジェントとカイドが三人を招き部屋に入れると、そこには大きなテーブルに大量の紙綴りが積み上げられ、飲みかけの茶がテーブルの淵に置かれている。今にも落ちそうな置き方に、モリエールが白い指先ですぅっと押し戻した。


「マトレイドもすぐ戻るよ、ちょっと座って待ってて」


 カイドが勧めてくれた椅子は、ミルケラが作ったものだ。作った椅子数個が小屋に見当たらず、どこにいったのかと疑問に思っていたミルケラは、情報室に置かれたとわかってうれしくなった。


「ロイダルは?」

「まだなんだよな」

「遅いな」

「ん、情報室の連中はこのくらい普通らしいぞ」


カチャと扉が開き、マトレイドが戻ってきた。


「おう、来てたか!面談以来だな。マトレイドだ、よろしくな」


紹介するまでもない。


「ローイダーゥ」

廊下に顔を出し、低い声で何か言うと手招きした。


「タンジー、遅くなってすまん」

「ロイダル!おまえ何だ、連絡一つ寄こさずに」

「ごめんって。今ここで話しちゃって大丈夫か?」

「いや、これからドリアン様に面会の約束がある」

「じゃあ急ぎなら帰りに寄ってくれ。明日で良ければ」

「帰りに寄るから待ってろ」


 考えたら明日でもよかったが、タンジェントはこの数日のロイダルへの苛立ちから何がなんでも今日と指定してしまった。

本当はロイダルと話す気分ではないが。


「マドゥーンが来たぞ」

カイドが呼んでくれたので、三人を促して執務室へと足を向ける。


「あっ!ドリアン様はいい方だぞ」

「いや、ここで取ってつけたみたいに言われると、かえって怪しいぞ」


 アイルムの突っ込みにモリエールが苦笑いを浮かべながら、足並みを揃えて執務室の前で立ち止まった。


 マドゥーンが、あの重々しい扉をゆっくり開け、室内へ案内すると奥の執務机にドリアンがいた。


「ようこそ、庭師諸君。ドリアン・フォンブランデイルだ」


 黒い瞳が柔らかく微笑んでこちらを見ている。

一人づつ紹介が終わると、早速質疑応答が始まった。面談候補の調査結果はすべてドリアンが目を通しているので、名前や実家の爵位、その背後まで把握済だが、そ知らぬ顔でドリアンはいろいろ訊ねている。

 もう話しも終わりかという頃。タンジェントが少し気にしていたことを切り出した。


「ドリアン様、あのアサルティ伯爵家は?」

「うん?タンジーはまだ聞いていないか。既に取り潰しとなったぞ。伯爵家は、一族郎党みな連座責任で爵位と財産取り上げの上、直系は処刑、外戚は国外追放だ。外戚は命こそ救済されたが、いっそ処刑のほうが優しかったかもしれんな。


アサルティから来たのはモリエール・ソラスか。もう奴等は何もできなくなったから安心したまえ」


 え?と、モリエールが弾かれたように顔を上げる。


「捜査の噂が流れたあと、己の秘密を守るために使用人の命を奪ったり傷つけたりしていたようだが、もう大丈夫だ。

我が傘下の貴族たちと共に、アサルティの被害者をなるべく受け入れてやろうと話しているのだが、家風に馴染みそうにない者は何分にも難しくてな」


 モリエールは、公爵ほどの高位貴族が末端に過ぎない使用人にここまで目を配るとは思わず、びっくりしてポカンと口が空いてしまった。


 代替わりと共にどんどん劣悪になったアサルティ伯爵家。

 経験浅い一庭師にすぎなかったモリエールは無事でいられたが、より主と接する機会が多かった中堅以上の使用人は様々な濡れ衣を着せられ、落命した者もいればソイラスのように傷を負わされ引退する者もいた。

そんな世界から流れてきたのだ。

 モリエールは、高位貴族は男爵や子爵は駒としか思っていないのだと、その中で深入りしすぎず如何にうまく立ち回るかが生き残る術と親からも言われてきた。

 いままでの自分の世界が、まったく違うものに変わり始めているのだと感じていた。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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