唐突な幕切れ
「陰性ですね、このまま帰宅されても大丈夫です」
「……ありがとうございます」
俺は今、都内の病院に足を運んでいる。
理由は、カレー主がコロナウイルスに感染したからだ。
連日、無理な仕事量がたたり、しかも、駅前でカレーパンの宣伝を続けた。
駅前には当然、不特定多数の人間が右往左往している。
結果、なるべくしてコロナになったと言っても過言では無いかも知れない。
しばらく行動を共にしていた俺は、濃厚接触者として病院でPCR検査を受ける羽目になったが、奇跡的にウイルスには感染していなかった。
俺は医者に会釈し、病室を後にした。
「あんだけ唾浴びたのに、平気でした」
「借りモンの体でウイルス感染とか、やめろよな」
返事をしたのはふわふわとそこら辺を漂う先輩の魂。
思わず愚痴がこぼれる。
「せっかく頑張ってきたのに、カレー主を逆に追い詰めることになるなんて……」
「……あるよな、全部裏目に出ることってよ。 俺も昔パチンコで……」
ブツクサ言う先輩の言葉が右から左に抜けていく。
今は考える気力も湧かず、とにかく、この手にあるアビガンと呼ばれる薬を届けるのが優先だ。
(40才でウイルスに感染しても、無事で済む確率は高い。 この薬が手に入ったのも幸運だ)
運の悪いことに、カレー主は病院の医療崩壊に伴い、自宅待機を余儀なくされていた。
だが、この薬さえ飲めば最悪、死ぬことは無いだろうと、俺はタカを括っていた。
しかし、どうやら事はそう簡単にはいかないらしい。
病院を出て夜道を歩く。
その間、今後のことを考える。
(カレー主が回復したら、どこか別な場所でパンを作ろう。 販売用のバイクもあるしな)
今の店は放棄しなければならないが、アパートでもカレーは作れるだろう。
(……誰だ)
その時、俺は自分のすぐ後ろに人の気配を感じた。
それがいつまで経っても消えず、思わず後ろを振り向く。
「……!」
俺は、恐ろしい物でも見た時のような、ぞくり、と心臓を鷲づかみにされたような感覚を味わった。
そこにいたのは、フードを被り、手にナイフを持った男。
その男は、俺の脇腹に殺気を纏ったナイフを突き出してきた。
「ッ……」
耳鳴りがして片膝をつく。
刺された。
痛みは感じないが、非常事態だということは分かる。
「誰、だ……」
そんなことを聞いてどうするのか。
早くこの場から逃げなければ。
すると、先輩がぼそ、と声を発した。
「柳沢さん……?」
……柳沢?




