やる気
カレー主におだてられ、俺はまんざらでもない気分に浸った。
(俺が都知事になったら、さて、どうしたもんかな……)
ふと思い立ち、俺は都知事選に立候補…… するハズも無く、結局、東京都知事は前回に引き続き、恋ノ堀ユリ子に決まった。
駅前でカレーパンの宣伝をし、帰ってからは翌日のカレーの仕込みと、忙しくも充実した日々を送る毎日。
そんな中で、今までほとんどやる気のなかったカレー主に変化が現れた。
「こんな味で満足してんじゃねぇぞ!」
その日の夕方、俺は少し疲れたからと、仕込みを終えて先輩のアパートに帰宅しようとしていた。
カレー主は明日出すカレーの味見を続けていて、俺は一瞥して店から出ようとした。
「……帰んのか」
引き戸に手をかけた手が止まり、俺は返事をした。
「一週間ぶっ通しで仕事してきましたから、今日はこれで」
カレーパンの販売を開始してから一週間、平均睡眠時間約2時間という、かなりの激務を繰り返してきた為か、俺の体力は限界に達していた。
普通なら「お疲れ様です、帰ってゆっくり休んで下さい」、と労いの言葉もあっていいものだが、カレー主の口から出たのは怒号だった。
「舐めてんのかてめぇっ、アアッ!?」
大股で近づき、胸倉を掴まれる。
「やる気ねぇなら帰れや、ボケがっ!」
カレー主の唾が顔面に飛び散る。
いきなりやる気を出したかと思ったら、今度は周りに当たり散らす。
迷惑極まりない行為に一瞬、唖然としたが、俺は冷静な口調を心がけて言った。
「……スイマセン、今が勝負って時に。 時間の許す限り、味の追求、しましょう」
「……あたりめーだろ。 さっさとやんぞ」
こういう時、感情にかまけて反論するのは悪手だ。
ゆっくり、丁寧に、自分の非を詫びるのが最適だろう。
さもなくば、関係がそれっきりで終わってしまう。
それに、バーモンドカレーを出していた程、やる気のなかった今までに比べれば遙かにマシだ。
(このまま上手く行けば、経営が立ちゆかなくなって自殺、ということは無くなるだろう)
だが、問題はすぐに発生した。




