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ツンデレ治療師は軽やかに弟子と踊る(タイトル詐欺)~周りは二人をくっつけたい~   作者:


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後日談2(オグウェノとセルシティの場合)

 帝城の一室。オグウェノはいつものようにセルシティの書類仕事の手伝いをしていた。慣れてはきたが、こう毎日だと飽きてもくる。

 オグウェノは居眠り防止と気分転換も兼ねて、セルシティに話題をふった。


「そういえば、なぜ月姫は第三皇子のことを、セルティと呼ぶのだ? 本名はセルシティだろう?」


 セルシティが手と目を止めることなく答える。


「それは、私がまだ幼い頃の話になるが……知りたいか?」


「そうだな。興味はある」


 オグウェノが走り書きをした紙を書類に貼り付け、机の上を滑らす。


「それ、数字が合わないぞ。浮いた数字を追いかける必要がある」


「よく気が付いたな。こういうのは、苦手だから助かる」


 セルシティは受け取った書類を確認しながら昔話を始めた。


「そうだなぁ。あれは、私が十歳に満たない頃だった……」


※※※


 子どもながらに美しすぎる外見。一を聞けば百を知る天才。しかも、身分は第三皇子。

 そんな子どもに、見え透いた世辞を言う大人たち。少し考えれば解決できる問題に頭を抱える大人たち。こんな大人に自分もなるのかと思うと、将来に希望はなかった。


 今思えば子どもながらに、やさぐれていた。現帝であり父親でもあるフルジェンツィオは、それを感じとっていたのか。ある日、私をシェットランド領に連れていった。


 馬車での長旅は子どもには辛かった。ようやく到着したところで、豪快な声に出迎えられ、疲れが増した記憶がある。


「お疲れさん。こんな遠くまで、よく子連れで来たな」


「久しぶりだな、金獅子殿。セルシティにシェットランド領を見せておきたくてな」


「二人の兄より先に?」


 金獅子と呼ばれた人がこちらを見る。金獅子の名を表す立派な金髪。それから、顔の上半分を覆った仮面。数々の戦で武功をあげ、無名の一兵から領主にまで昇進した武人。

 噂通り独特の雰囲気だ。


「へぇ、ドえらい綺麗な子だな」


 率直な感想。容姿を誉められるのは慣れている。むしろ聞き飽きた。だが、次の発言に耳を疑った。


「本当にお前の子か?」


「はっはっはっ。金獅子殿だから許される言葉だな。もし、ここが帝城だったら大変なことだぞ」


 私は事の重大性から顔を青くしたが、現帝は苦笑いとともに流していた。


「だって、人間というより、精霊の子だろ」


「それだけではないぞ。頭も存分に良い」


「ほぉ。親バカ発言か?」


「これでも控えめに言っている」


「そうか」


 金獅子が仮面の下から不躾に眺めてきた。珍しく好意的ではない視線。しかし、気にしても仕方ない。

 私は、いつものように大人たちを虜にする笑顔で挨拶をした。


「お初にお目にかかります、金獅子殿。貴殿の武勇伝は父や祖父より聞き及んでおり、会える日を心待ちに……」


「あー。そういう、見え透いた世辞はいらねぇよ」


 私の言葉を途中で切った上に、興味なさそうに視線を外された。これには、すぐに対応できなかった。

 どんな相手でも、笑顔を向ければ見惚れさせ、口上を述べれば聞き惚れさせた。こんな態度をされたのは初めてだ。


 気を取り直した時には、金獅子は現帝と話を進めていた。


「子どもは、もっと子どもらしく育てろよ」


「いや、面目ない」


「まあ、オレが言えたものでもないがな。クリスティ」


 名前を呼ばれ、子どもが走ってくる。少し年下で、金獅子と同じ立派な金髪に、顔の上半分を隠す仮面を付けている。

 金獅子が雑に紹介をした。


「こいつは、この国の第三皇子だ。将来のために仲良くしておけ」


 どストレートな言い方に、目が丸くなってしまった。クリスティと呼ばれた金髪の子どもがこちらを見る。が、それだけだった。

 普段なら、羨望や嫉妬など、なんらかの感情が混じった視線を向けられる。なのに、それが一切ない。無関心。


 それはそれで、新鮮な感触だった。



 シェットランド領での生活は、初体験の連続だった。田舎領地のはずなのに凄く住みやすい。生活をするための基盤が整い過ぎている。

 気がつけば、帝都を凌ぐ設備を持ったシェットランド領に、夢中になっていた。


「これだけの知識と技術を、誰が開発したのですか?」


「誰って聞かれてもなぁ」


 質問責めに参っていたカイが答えに困る。金髪の子どもがカイの服を引っ張った。


「私が案内する」


「開発者に会わせてもらえるのですか?」


「あー……」


 カイが悩みながら、金髪の子どもに視線を移した。


「クリスティ、任せていいのか?」


 金髪の子どもが無言で頷く。


「城から出るなよ」


「わかってる。こっち」


 歩き出した金髪の子どもを追う。


 岩から石を切り出し、積み上げて作った要塞の城。窓は少なく、外からの光が入ってこない構造なのに、城内は明るい。

 等間隔で置かれた灯りのおかげなのだが、その灯りがどうやって灯っているのか、分からない。普通の火であれば油の臭いと、煙が発生する。

 しかし、この灯りには、それがない。


「なあ、この灯りは……」


「名前」


「え?」


「人を呼ぶときは名前」


「それは失礼した。名を教えてもらえないか?」


「人に名前を聞く時は、先に自分の名前を名乗る」


 こちらを見ることなく、どんどん歩いていく。釈然としないものを感じながらも、自己紹介をした。


「セルシティ第三皇子だ」


「セルティティ?」


セルシティ(・・・・・)


 金髪の子どもが足を止めて、こちらを向いた。仮面の下にある目がまっすぐ見つめるてくる。


「セルシティ?」


「そうだ。今度はそちらが名乗る番だ」


「クリス」


 それだけ言って歩きだす。私は首を傾げた。金獅子が呼んでいた名前と明らかに違う。


「クリスティではないのか? もしくは、クリスティのあとに名前が続くのでは?」


「クリスだ」


 どうやらクリスティと呼ばれるのを拒否しているらしい。これは面白くなりそうだ。


「では、クリスティと呼ぼう」


「クリスだ」


「クリスティ、この灯りは……」


クリス(・・・)


 再びクリスが足を止める。睨み付けてくるクリスに私は極上の微笑みを贈った。


「この灯りは何を使っているんだ? クリスティ」


「…………セルティと呼ぶぞ」


「どうぞ」


 爽やかな笑顔で肯定すると、クリスが仮面で隠していても分かるほどの驚いた顔になった。

 それから、悔しそうに頬を膨らまして、こちらを睨んだ。


※※※


「頬を膨らますなんて、月姫も子どもらしい時期があったんだな。で、開発者に会わせてもらったのか?」


「連れて行かれたのは、大量の本がある部屋だった」


「あー……」


 いろいろと悟ったオグウェノが遠くを見ながら頷く。


「知りたければ自分で調べろ、と言われて放置された」


「そうなるよな」


「おかげで、さまざまな知識を得ることができた」


「その結果が、これか」


 神の加護が必要な魔法が使えなくなったことを逆に利用して、行われていく政治改革。ケリーマ王国と似た制度もあるが、たまに突拍子もない案が出てくる。


「そういうことかな」


「で?」


 オグウェノからの思わぬ問いにセルシティが顔を上げる。


「で? とは?」


「他に月姫の小さい頃の話はないのか?」


「そうだなぁ……」


「なかなか面白い話をしているな」


 絶対零度の声とともに室内の空気が凍る。分厚い報告書が机に叩きつけられた。


「報告書を持って来たのだが、いらないようだな」


「そんなことないよ、ありがとう」


 セルシティが報告書の束を素早く回収する。


「では、無駄話をしないように。次に無駄話をしているのを見たら、シェットランド領に引きこもるからな」


 そう言い捨てると、クリスは足早に部屋から出て行った。


「残念だが、これ以上は話せないな」


「では、無駄話でない時はどうだ?」


「無駄話でない時?」


「仕事中でなければ、無駄話にならないだろ?」


 オグウェノの提案に、セルシティが妖艶に微笑む。白金の髪が輝きながら風に揺れ、紫の瞳が色気を帯びる。どんな花よりも鮮やかな唇が囁いた。


「それは余暇の時間を二人で過ごす、ということかな?」


「そこは好きにとらえてくれ」


 オグウェノが男前の笑みで返す。日焼けした浅黒い肌に、艶やかな黒髪が映える。金髪の子どもと同じ深緑の瞳が、挑発するように細くなる。


 セルシティがスッと目を伏せた。


「その前に、クリスティはいいのかい?」


「ん? 月姫がどうした?」


「狙っていたのだろう? それとも、諦めたのかい?」


 オグウェノが苦笑いを浮かべる。


「なかなか痛いところを突いてくるな。諦めた、と言えば、諦めた、になるか。月姫がだんだん妹のように思えてきてな」


「貴殿に妹がいるのか?」


「いや、いない。いないからこそ、そんな感じがするんだ」


「愛情から親類の情に変わった、と言ったところか?」


「そんなところだ。なんか、あの二人を見てると、出来の悪い弟と妹みたいでさ」


 予想外の言葉にセルシティが吹き出す。


「出来の悪い、か。確かに恋愛に関しては、出来が悪い」


「そうだろう? 見ていて、じれったくなる」


「そこをイジるのが面白い」


「なかなか、いい性格をしているな」


「そうでもないぞ? では、今の貴殿には特定の相手はいない、ということかな?」


 紫の瞳が怪しく光る。それに気づかないオグウェノではないが、あえて何も言わずに微笑んだ。


 まったく種類が異なる美形の男が二人。その背景に薔薇が散った。


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