第五十三 アーディ
お腹の調子が悪い。
「緊張していらっしゃるのですか?」
「ちょ、ちょとだけ……」
繋いだ手の先が少しずつ冷たくなっていく。廊下はまだまだ先が長そうだ。エイドさんのもう片方の手には母さんがイヤイヤしながら引きずられている。
「ティア~! あたまおかしいから~!! おべんきょうなんてムリーー!!!」
「それをおっしゃるなら頭が悪いですよ?」
あながち間違っていないような?(……微妙に否定しずらいけど、お母さんらしい)確かに。
今日から俺達への教育が始まる。そう俺達! つまり母さんとユナちゃんも加わる。
ユナちゃんとは昨日に殴られた後から会っていない。悲しいが、俺が前世ではおっさんだと告げると激昂してしまった。当然と言えば当然で、もし逆の立場なら俺はきっと毎晩泣いてしまうはずだ。
(そんな事、気にしちゃダメだよ! メアちゃんがこれから立派なレディになれば問題ないから!!)それはそれで究極の選択!? しかし俺は心まで女になんて染まんないぞ!!
「ご安心ください! この教育が終われば、メア様はみんなが憧れるお姫様になりますから♪」
「うひぃ~」
おかしくない?(バレバレだね)
「ん~ん? メアちゃんはいまでもおひめさまだよ?」
立場的には、もう姫なのだが。そっちの意味ではないんだよ母さん(言葉って難しい! こんな変なところ日本語と同じじゃなくてもいいのにね)確かに。
……
目的地まであと少しだそうだ。
城内に何があるのか未だに把握できていない。必要最小限の移動だけだから、いつか探検したいな。
(ねえ、美味しそうな匂いがしない?)なんだろう、あま~い香りがする?
「メア様にティア様、着きましたよ」
「ココはね、ごはんをつくるところだよメアちゃん!」
厨房では何人もの人がテキパキと料理をしている。ある者は野菜を切り、またある者は寸胴鍋をかき混ぜ、オーブンの中から生地を取り出す者も居た。少し奥の作業台には今日のおやつも並んでいる。活気あふれる音が部屋に溢れるなか、一番目立つ長いコック帽の鼠獣人。後ろ姿だが見覚えのある人が居た。
「アーディ姉、アーディ姉! メア様達を連れてきましたよ!!」
エイドさんが大声で呼ぶ。アーディさんが振り返り、俺の顔を見るなり真っ青。
「チュウウゥゥウゥウゥゥ――!?」
俺達の横を猛スピードで駆けて行こうとするアーディさん。しかし、襟元をエイドさんに掴まれ声にならない音を漏らし急停止。
そのせいで手から解放された母さんが床へと落下。耳をつんざくような悲鳴をあげ、厨房中の視線を集めてしまう。
「いつまで逃げるつもりです! もうメア様は気にしていないと、何度も伝えたはずですよね!!」
「チュウ…………」
露骨に顔を合わせようとしないアーディさん。そんな彼女の温かく優しい手を、両手でぎゅっとし、視線を上げ見つめる。
「メアちってる! アーディがメアをこのてでいやちてくりぇたこと。メアのちゃめにイチャイイチャイちたの。いっぱいいっぱいちってる。だかりゃね。ありがとうごじゃいます!」
「チュッ!!」
口を閉ざして何を語っていないのに、なぜ俺が知っているのだと顔に出ている。なんせイスナーから教えてもらったからな――。
…………
……
「チュ、チュッ? チュウの体はいったいどうしたっチュウ!?」
鼠獣人のメイドが、小刻みに体を震えさせている。≪神々の黄昏≫が攻めてきたと知らされてから、少しずつ、時が巻き戻るように、悪夢が甦るように、あの日の幼い自分へと。
{……ふひ……}
幻聴まで聞こえだしてしまう。頭を大きく振り、深呼吸をしながら辺りを見渡す。その瞳に映るはいつもの城内、陽が少し落ち、照明がポツポツと点き始めていく風景。
廊下の隅へと歩み寄る彼女。新鮮な空気を吸おうと窓へと手を伸ばした。
「…………!!!」
窓を開けようとした瞬間、そこに映ったのは不気味な笑みを浮かべる自分。
{ふひひっ! よお?}
幻聴と同じように、窓に映るそれの口が開く。彼女は咄嗟に口を手て塞ぐと同時に、肩を上下に大きく揺らし、後ろに歩が進んでいく。
{アーッハッハッハァ!! ムダムダ無駄ー? もうお前は俺様の物よ!}
幻聴は依然と聞こえ、手の感触から、口が意思とは無関係に動いていると悟り、表情が歪に変化してしまう。それに満足した何者かがさらに語りかけた。
{俺様の名は第百八魔王コザーソク様。まっ、短い間だがよろしく頼むは、ドブネズミちゃん}
魔王。
それは幾度となく、この世界に災厄をもたらした異界の者。限られた手段でしか抗えない、一般人には悪夢のような存在。
{いやーそれにしても馬鹿だねー。まさかこんな良い武器貰えちゃうなんて? こんな近くに魔王が居るなんて思いもしなかったかな~かな~?}
かってに手が動き、右手へと短剣が握られていく。彼女は呼吸をするのを忘れて、その状況に絶望するしかない。
魔王コザーソクは試しにと、宿主を操り短剣の使い心地を確認した。そして、この後の展開に笑いが止まらないと声を弾ませる。
{しっかし、弱そうなガキだよなー。ふひひっ、まあ弱っちーうちに狩るのが目的だが。こうも上手くいくと笑いがとまらんぜ! アーッハッハッハァ!!}
ひとしきりに笑い終わると、窓に映る彼女は無表情な人形のようになる。
「……チュ……」
{そんな必死になっちゃっても、ムダムダ無駄ー? さぁてと、もうそろそろか?}
口は開いていないが、幻聴は止まらない。
……
「ごめんなちゃい。おわっちゃよ」
後ろから、たどたどしいメアの声が聞こえる。
「アーディ? おわっちゃよ」
{特等席でショーが見れるぜ。喜べよっ!}
――ダメ。ダメ。お願いッチュウ! 止まるッチュ!!
彼女の心の叫びは魔王コザーソクによってかき消されるはずだった。
「メ……ア……さ」
{あーあー、虚しい抵抗だねー……}
メアの事を思う。その心に感応するように魔王コザーソクに抗える。しかし、抗うにはあまりにも弱い。
「ま……に……げて」
心配そうに見上げるメアの顔に、彼女の在りし日の罪が重なっていく。
{……やっぱ、この世界のヤツら。頭おかしい化け物だらけだぜ}
強くなる抵抗に魔王コザーソクは危機を覚え、すぐに行動に移った。
「にげてッチュウ!!!」
メアの心臓へと短剣が容易く入る。
忌まわしい記憶。メアの表情はこの手を、赤黒く染めさせられたあの時を彷彿とさせる。
あの時と同じ。何度も嘆き、何度も後悔し、いつまでも詫び続けた。癒えることのない罪。
また繰り返すのか?
「ヂュウウウゥゥゥウウウ!!! メア様ァ!!! メ゛ア゛さ゛ま゛ァ゛ッ!!!」
{チッ、浅いか。だがもう心臓に達した。時期に死ぬ}
「ヂュ! ッヂュ!! ヂュヴ!!!」
{哀れなドブネズミちゃんよ。ショーは閉幕だぜ}
「ちゅちゅちゅちゅ!? ちゅっちゅっちゅっちゅ? うふふふ――」
「ふひ、ふひひ、アーッハッハッハァ!!!」
{ふひ、ふひひ、アーッハッハッハァ!!!}
目の前の光景が、彼女の記憶を嫌でも、鮮明に思いださせてしまう。
――バケモノ! アーディお姉ちゃんを返せネズ!
――ソ……ねーを……下ろすソ……。
――ねぇねを盾にしてるおまえなんて怖くないマウス!!!
――アー姉はちゅうちゅが守るっちゅう!!
――チュウの事はいいから見捨てて逃げるッチュウ!!!
――ウッサイネズミ共ォダネェ! ソウネェ……ヘイトール良イ事ヲ思イ付イチャッタッ♪ キャハッ☆ 大好キナ大好キナァ姉ノ手デー、アノ世ニ送リ届ケテアゲマショウ!! ソウシマショ!!!
――キャハハ楽シイワア~☆ ネェ、アナタモソウ思ウデショ!
――やめるヂュウ……やめチュ……おねがい……ゆる……ッチュ……。
――キャハハハハハハッハハハハッ!!!
――ヂュヴウウゥゥゥア゛アアアア……!!!
……また繰り返してしまう!?
…………まだメア様は死んでいない。
ッッ繰り返してはいけない!!!
{何考えてやがる!? ヨセ、やめろっ!! そんな事したらお前もただでは済まなあぁぁ――}
短剣を両手で握り直すと、彼女は勢い良く振り下ろした。
{ギャアアアアアーー!!!}
魔王コザーソクは自身の存在が削られていくのを感じた。あの短剣は憑依している者にも、否。魔王に対して絶大な効力を発揮すると。数度浴びれば消えてしまうと。
激しい痛みに苦渋の表情を見せるも、彼女は今一度勢い良く振り下ろした。
{ア゛アアアアアアーー!!!}
辺りに血が撒き散り、白かったエプロンもすでに変色しきっている。そして、膝から下をガクッと床に着けた。
{やめ、やめっアアアアアーー!!!}
たまらず魔王コザーソクは憑依を解除し、のたうち回る。
「血が、血がっっっああ!? 俺様から血が――」
それを尻目に彼女はメアの元へ這い寄った。回復ポーションを傷に垂らし、両手で治癒魔法を行使し続けていく、たとえ自分の灯火の方が早く消えるとしても。
再生されない傷に憤慨し、魔王コザーソクは忌々しいドブネズミに目を向ける。すると《運命の子》の傷を治そうとしているではないか。このままでは作戦が失敗に終わる。それだけは絶対に避けねばならない。
そして、ひとり、邪悪に笑う。
「……開け、次元の狭間……」
魔王コザーソクは次元の狭間と呼ばれるゲートを開く。それはあっちの世界と、この世界を繋ぐ道。通常は自分と同じあっち側の者だけが通れる道。しかし魔王コザーソクはテイマー。条件が揃えば魔物としてあっちの世界に送れる。
ゆっくりとメアの体が次元の狭間へと飲みこまれていく。必死にメアの体を引っ張る彼女だが、血を流し過ぎてしまっていた。もうその目は虚ろで焦点が定まっていない。
そして、彼女の意識とともにメアの体も消えてしまった。
勝ったと確信する魔王コザーソク。しかし、テイム容量に《運命の子》が入りきらなかった。
予想外の展開。取れる手段は二つだけ。
この世界にもう一度戻し殺すか、放逐という名のロストを選択するか。
魔王コザーソクは迷わず後者を選ぶ。
直後、複数の足音が近づいて来るのを感じるも、しかし勝利を得た喜びに内心震えが止まらずにいた。
…………
……
「――おやめくださいッチュ……!! チュウはこの手でメア様を……チュウの手は、穢れてるチュ」
そう言ってアーディさんは手を振り解こうとする。
「しょんなことにゃい!! アーディのてはひとをちあわせにちゅるてだもん」
手を思いっきり下ろさせ、しゃがませた。
「そ、そんな事ないチュウ。この手は――」
俺はアーディさんの唇に指を重ね。否定の意見を黙殺させた。
「メアをえがおにちてくれた。ママもじーちゃもばーちゃも。きっとだりぇもふこうにちてない!」
心からそう思う。
「みんなかんちゃちてる。ありがとうってみんな!!!」
アーディさんへ優しく微笑みかける。
――ありがとうネズ! アーディお姉ちゃん!!
――ありがとうソ……ねー……。
――ありがとマウス! ねぇね!!
――ありがとうちゅうアー姉。
……あれ、ロリの声が聞こえたような?(自分の声じゃないの?)んーん……。
「――チュ!? こ、これは。そう、そうチュか……うううッチュゥゥ……ッチュゥゥウウウ……」
……
(ちょっとメアちゃん!? 泣かしちゃってどうするの!!)待って!? そんな変な事を言ったか? それに何で他の厨房の人も、もらい泣きみたいになってんだ!!
困惑する俺に手を回して、アーディさんはお礼を繰り返し、泣き続けてしまった。
そう、それは子供の時に戻ったようにいつまでも、
いつまでも――。
イベントクリア報酬
ゲットスキル
【異常察知能力】
ロリなら何でも察知するぞ!!
補正 素早さ+1
ティア
【おかしい+】 ⇒ 【おかしい++】
おかしい? お菓子良い? あたまのなかはおかしでいっぱい
補正 魔法力+3 <new>魔法力+10%UP
アーディ
【自己犠牲++】 ⇒ 【自己犠牲SP】
自分を犠牲にできる
補正 攻撃力+5 <new>攻撃力+30%UP
【長女SP】 ⇒ 【長女EX】
下の者に慕われたからこそ長女と呼ぶに相応しい
補正 防御力+3 <new>TP+5 魔法力+3
secret
【癒えない悪夢EX】 ⇒ 【悪夢の果て】
たとえ癒えなくても悪夢には果てがある
補正 <new>全能力+5 全能力+30%UP
【血濡れた手】 ⇒ 【幸せの手EX】
多くの人を幸せにした手
補正 <new>運+30%UP 器用さ+10 器用さ+50%UP
ゲットアイテム
アーディ
[フルンティング-] ⇒ [血で清められし名剣]
女神ラヴィがその血で創ったとされる短剣のアーティファクト
斬ればどんな攻撃も弾き、突けばどんな物でも貫くのだが逆に使った英雄が居たとか
補正 攻撃力+3000 魔法力+1500 異界の者に対して防御力を反転させてダメージ <new>器用さ-1000 防御力+500 異界の者に対して再生不能を付与
創作日記:登場人物紹介の時に、ちょろっと書いた過ちをゲロります。
そう、情報の出し方がわからん!!
Aという展開をしたい。ならBというが設定ないと不自然だよね? じゃあBを追加して……。
あれ、これBが無くてもいいのでは? むしろBがある事でAという展開が予想できてしまうのでは?
……わからんちん♪
局所的な事と全体的な事の整合性が頭の中で整理できん!?
では、無い脳みそをフル回転させてだした答えは!
先に全体を書いてしまって、あとで直せばいいじゃん!!
ハイ、身も蓋もない答えですまん。だって無理なんだもん! 頭がまったく追いつかん!! 暴走するキャラ数に、あれもこれもいいな展開ぶち込もうぜヒャッハー!!! 日本語能力の欠落を無理くり埋めようとしたりで、ずっとキャパオーバーですん。なんやコレ問題しかないやん!?
落ち着け俺、時と歳月と時間と根性と精神論で世の中の問題は全て解決されてきた歴史にもそう記されている。OK.未来の俺へ全てぶん投げろ!!!
三人称神視点てこんなんかな?




