第四十七話 おこしやすう魔法使いの部屋
魔法使いの部屋に帰って来た。イスナーを待つ間、適当に時間を潰そう。まずは[見聞のカーペット]で外の様子を確認だ。
「あ~あ~!! お母さんまたお腹だして寝てるー!」
隣でチノも見に来ていた。カーペットの中心に描かれている太陽は、今は外の様子を映す鏡へと変わっている。母さんはお腹を冷やさないように、俺の体をカイロ代わりにしてヨダレを垂らしていた。
時計の針が進む音、風が窓を揺らす物音、母さんと自分の規則的な寝息が月の刺繍から聞こえる。平和な時間が過ぎている証拠だ。
俺の股間部以外はな……。[見聞のカーペット]の川に乗り、肩を竦めチノに悪い知らせを伝えた。アザトース様を見た時に予想はしていたが、やっぱり無理だったよ。
「イスナー何時に終わるかな?」
チノに質問を投げたがさあ?と大げさにジェスチャーして、母さんへの観察を楽しそうに再開していた。
…………
……
……暇だな。
ベッドの隅で足をブラブラさせながら周りに目をやる。
この部屋も物が増えたもんだ。まず見聞のカーペット。チノが殺風景を嘆いていたが、ある日突然に敷き詰められていた。イスナーにプレゼント?と聞いたが、メアちゃんが成長すればこの部屋も成長すると答えてくれた。謎な仕組みだな。
あの襲撃事件の後、三柱の置物も増えた。陸神様、海神様、空神様の尊厳高き像。やはり神様のセンスは理解できないが、チノはいたく気に入っているようだ。
「ゆるキャラの失敗作みたいで良いじゃない!」
「……どうして、心の声が聞こえんだ!?」
「そんなじーッと見つめて、わかりやすい態度してたら、誰でもわかると思うよ?」
まあ何にせよ。この像は俺が渡す予定の三柱の加護そのものだろう。
そして、
視界の端にある邪悪なオブジェ。
俺に掛けられた呪い。この白い空間にある異物。その異物に対して、無数のデフォルメされた三柱がずっと攻撃を繰り返している。効果のほどはわからないが、最初の時より邪悪さが減っていると思いたい。
触れようとして泣きそうになった事を思い出した。二度と触るもんかと心に再び刻みこんだ。
まだ増えた物がある。
ベッドから、よっ!と降りてソレを持つ。
「メアちゃんも好きだよねぇーソレ」
当り前だ。男子たるもの剣には憧れがある!
錆び錆びだった神剣も今では、その輝きを取り戻しつつある。
錆びている神剣もロマン溢れる物だが。しかし、今の神剣には敵わない。錆を毎日コツコツ取り除き、柄の部分は完全に近い形。実にカッコイイ!!
あとイスナーにバレないように、神気を送り込んでいる。これをすると神剣の欠けが少し修復されるのだ。
こんなに愛情を注いでいるのに、この神剣ちゃんは俺を持ち主とは認めないようで悲しいかぎりだ。現実では神剣が俺に吸収されてしまい、どうやって取り出すのかわからない。
俺は神剣の鞘ですか?
気晴らしに神剣を振り回してみる。
あ~~♪!!
この風切り音、中二心が満たされるぜ。
「必殺≪勇気の証≫!!」
勢いよく振り下ろし技名を叫ぶ!
スッポーーン!!
「…………」「…………」
……
チノの横を神剣が通り過ぎ、邪悪なオブジェに弾かれて何も無い空間にぶっ刺さる。
「メアちゃん……♪(にこっ)」
「ひゃい!?」
チノは俺から生まれた乳飲み人格のはずだ。俺が怒ってもみんなが笑うだけなのに対し、最近のチノが怒ると爺ちゃんの再来と恐れられる。どこで差がついたのだ!?
「チノお姉ちゃん、ごめんね♪」
てへぺろ☆して怒りを鎮める。
「罰として、は~い~♪」
ううぅぅ……。チノからリボンを渡される。くまパジャマのかわいさ増強パーツ。すでに右みみにリボンを追加されただけでなく、胸のリボンはより女の子アピールされた物に換装されてしまっている。
次はどこに着けろと言うのかね?
「しっぽに、ね♪」
チノがお尻を向けてしっぽを動かす。思わず顔が引きつってしまう。俺のパジャマのしっぽにリボンを嬉しそうに結ぶチノ。
作業が終わると、DIY姿見で俺の姿を映す。
転生してから一年が経過し、さらにかわいくなってしまった俺の姿。
背は約二倍に伸び赤ちゃんらしいぷにぷに肉付きの顔、フードから漏れ出た髪は女と主張するようで、何より今の服装はかわいい女の子だね~ッ!!と言い逃れできないほどに改造されてしまっている。
恥ずかしい……。
頬が赤くなるのを感じる。フードを両手で深くかぶるようにして自分の顔を隠した。
「うひひっ、メアちゃん、あざッス……」
満面の笑みで親指を立て、後ろに倒れ込むチノォ!? その歳より軽い体を両手で受け止める。
しっかりしろ、顔面が欲望に負けているぞ!! だいたい服装はチノの方があざとかわいいんだぞ!
「メアちゃんは何もわかっちゃいねぇ……、天然に勝る演技なしッ!!!」
俺の顔を見るなり、訳知り顔で語りかけてきやがった。拳を高らかに上げ、何もかもやりきった表情になるんじゃねえ!! せっかく倒れるのを助けてやったのに、自分がバカらしい!
チノの上体を持ち上げていた手をサッと放す。
「イッターイーー!!」
少しだけ鈍い音がした。カーペットが多少痛みを防いでいるはずなので、まったく大袈裟な奴だ。
……
『わ~やってる~やってる~~!!』
イスナー幼女形体の声が背後から聞こえた。
『放~し~な~さ~い~~!? どこに連れて行くつもりですかあ~~!!』
この声ラヴィ様!?
後ろを振り向くと、イスナーに手を引っ張られ、空間の裂け目から上半身を出している、ラヴィ様と目が合ってしまった。
君、像と違うくない? いや、さっきと雰囲気が違うくない?
ラヴィ様が急いで裂け目に戻り、後光を着け直し、目を閉じて再び訪れる。
『≪運命の子≫よ。ここはあなたの部屋ですね? 聞こえていますか!』
……
な~んでずっと目を閉じ、過剰な後光を纏っていたのか氷解した気分だ。そしてイスナーの発言も今なら理解できる。
可愛すぎるとは時に無慈悲で残酷で残念だ。どれだけ神々しくするために陰で努力していたのか透けてしまう。
ラヴィ様が右目をうっすら開け、深い深い溜め息を漏らす。
『秘密にしてくださいね? これでも神様として崇められている存在なのですから』
両目をハッキリ開き、後光を無くしたラヴィ様がベッドに深々と座った。
それを見ていたイスナーが超愉悦に浸っている。
……イスナーの方が神様らしくないからな?
ムスッと平面な顔を膨らませるな!
「ねぇねぇメアちゃん?」
上体を起こして俺に話しかけるチノ。
「なんだ?」
「ラヴィ様って超カワイイね!」
「言ってさしあげるな」
少しキズついた様子のラヴィ様。威厳無くどこか涙目でチノを睨んでいる。
『そう言うとこやぞ~!』
バッチーン!
『じ、じ、じびれるう゛~~』
天雷が紙に裁きを下した。
……
『イスナーすこしお話があります』
呼ばれたイスナーがベッドによじ登っている。そして、二柱がベッド上で話をしているようだ? 小声なのか聞こえない。
……
『で、ココに連れてきて何をするつもりですか?』
『あ~休憩しにきたんだよ~。ラヴィったら最近疲れてるみたいでさ~』
『否定はしませんが。それを言うなら、あなたこそ疲れているのでは? 《転生者》に《運命の子》と、加護を立て続けに授けたのでしょう。今まで溜めていた神気だけで足りないはずです。ワタクシですら神気の残りは殆どないのですよ』
『あ~ハイハイ~わたしの事は置いといて~、メアちゃん達~ちょっとこっち来て~~!!』
イスナーが大声を出して手招きしている。
二人で向かいベッドによじ登ると、ちょうど俺達がすっぽり入る空間だけ距離を開けて待っていた。
チノがイスナーの横に陣取ったので、自動的にラヴィ様の隣は俺となる。
『今日の鑑賞会を始めよ~~! あっラヴィも参加するからピピピと言ってパスを繋いでね~』
イスナーに言われるがままにラヴィ様と≪神様連絡≫をできるようにした。試しに右手を上げるように伝えてみる。
優しく微笑みかけ、右手を少し上げ手を振ってくれた。
カワ……神々しいですよ? ラヴィ様。
喜んでくれているようでなによりです。
「準備OKだイスナー! 今日は何にする?」
『魔法少女がかーる☆じるまの最初からで~、ちゃんとラヴィにも感情送ってあげてね~』
「わたしがラヴィ様に送るから、イスナーちゃんにはメアちゃんが送ってね」
『感情……?』
『それじゃあスタート!!』
{魔法少女がかーる☆じるま はっじまるよー!!}
チャッチャラチャ~♪
…………
……
{魔法少女がかーる☆じるまは、ご覧のスポンサーの提供で、お送りしましたー!}
一話が終了した。なんなのだっ!! この公開処刑は!?
終始無表情のまま俺の横で停止するラヴィ様。例えるならお茶の間ブリザード。完全に冷えきった状況となってしまっている。
どうしてくれんだイスナー!?
『どうだった~ラヴィ~?』
悪びれる事なく聞くイスナー。きさまっ、鋼メンタルか?
『イスナー? ちょっと話があります!』
イスナーの手を掴むと遥か彼方に飛んで行ってしまった。
…………
……
『痛いってば~ラヴィ~! どこまで行くつもり~?』
メア達の視界から消えるまで飛び続け、それでもまだ離れようとするラヴィ。それに対しイスナーは不安げに声を飛ばす。
『この辺で良いでしょう』
掴んでいた手を放し、二柱は対面する形となった。
『もう~何~?』
『説明なさいっ! これはどういう事ですかッ!!』
『説明も何も~ただの休憩だよ~?』
楽しい時間を過ごせると思ったのだがどうしてこうなった。しかし、自分は悪くないと態度に出している。
『そうではありません。ワタクシが言っているのは、なぜあの者達が人の感情を……神であるワタクシ達に感じさせられたのかについてです!』
『なぜって~変な事訊くな~? そんなの《神話》の加護があればできる事じゃない~!』
過去にメア達が普通にやっていたのだ。不思議な事ではない。そう指でも指摘してくる頭部紙束の幼女に、態度を変え怒気を露にした女神が言い寄る。
『あなたこそ何を言ってるのです!? ワタクシ達が《神話》の加護を授けた者に、そのような事ができた者は居ません』
『えっ!? ちょっと待ってラヴィ~、でもメアちゃん達はできてるでしょ~~?』
混乱する紙束へさらに言葉を重ねる。
『だから訊いているのです! それに……それに……このような感情など……』
神として生まれた女神は自分の胸の内にある感情を理解するのに時間を掛けた。
『いいですか? ワタクシ達、神は、感情を模す事しかできなかった存在。……いえ……あなたに限れば違うのかもしれませんね……』
その出自を羨ましがり、とっさに否定するも――、
『(さきほど感じた感情。あれが人の感情だとするなら、ワタクシ達が今まで感じていたモノは模すレベルにも至ってなかったのですね)』
湧き出る感情に悲しみを想い。しかし、自身の感情に揺ぎを感じてしまう女神。対して、未だ混乱中の紙束は幼子のそれでしかなく人に近しい。
『ごめんなさい、少し混乱しただけです。…………初めてでしたから、……それにこんな楽しい事をすぐに言わなかった、あなたが悪いのですっ!!』
『ええ~~!?』
理不尽極まわりない物言いに、ベソをかきそうになる紙束。その手を荒く掴み再び女神はメア達の元へと飛び立った。
初めて知った感情とともに――。
…………
……
「あっ、戻って来た!」
ラヴィ様がカーペットに着地した後、イスナーが勢いよくカーペットとキスをしてしまっている。
『ぐえっ~!?』
『さあ、続きを始めましょう。《運命の子》よ』
『続きって~!? イタタ~もう休憩時間は終わりでしょ~? 次の子の時間だよ~!』
『あなた一人がすれば良い話です。ワタクシの代わりにガブリエルを遣わせますから、あの娘なら立派にワタクシを演じられます』
『それって~どうなのか――』
イスナーがボッシュートされてしまった。
目を子供のようにキラキラさせたラヴィ様が鼻息荒く迫って来る。
……やはり神にまともな奴は居ない!
「失礼だよメアちゃん?」
『さあっ! 鑑賞会の再開です!! 《運命の子》よ!!!』
やはり神にまともな奴など居ない!!!
イベントクリア報酬
ゲットスキル
【家具】 ⇒ 【家具+】
[見聞のカーペット][三柱の置物][邪悪なオブジェ][錆び残る神剣]が増えました
補正 魔法力+1 <new>魔法力+10%UP
【神剣の鞘】
手をケガしないようにね?
補正 防御力+1 神気+1
【悪魔の笑顔】
魔王じゃないだけ有情
補正 攻撃力+1
【女の子】 ⇒ 【女の子+】
女の子やぞ!!
補正 <new>抵抗力+3
創作日記:続き
他にも『おいしい』が変化する要因はめちゃくちゃ多いです。
その一つが価格です。一番関係ないやろと思ったあなた!!
あなたには心がない! いちゃい!? 殴らんといて~~。
はい、真面目に。
あなたが十年働いて稼がねばならない価格の食べ物。
タダの食べ物。
これら『味』は一緒とします。料金は強制で払ってもらいます。
この時それぞれ心の持ちようが違いますよね。なので『おいしい』も違います。
嬉しい時悲しい時で『おいしい』が変わった経験はあるはずですよね。関係ないと提供者は思っても、どんな事でも関わっています。
トントン
えっこんな日記公開してたらおまえの作品の『おいしい』も変化するだろう?
俺は引かぬ媚びぬ省みぬぅぅ!




