第四十六話 おいでませえ神の部屋
さ、再開します
『……目覚めなさい』
誰かが俺を呼んでいる?
……
『……目覚めるのです』
女性の声? でも、聞き覚えがない。
……
『さあ、目を開くのです。《運命の子》よ!』
不思議な温もりを感じると、意識が一気に覚醒した。
「……アレ? ……ココは?」
度々訪れた事がある不思議な透明空間。そしてこの浮遊感。まず間違いないだろう。神の部屋だ!(どうして呼ばれたのかしら?)
チノの声が頭に響く。
わからん!(わたしが知らないなら、メアちゃんも知るわけないかー。服はメアちゃんのパジャマみたいだね)
右手がチノによって動かされ、見慣れた青い生地が目に入る。そして体の各部を俺に代わって動かしていく。こういう時に二重人格って楽だと感じてしまう。俺はくまパジャマのみみやしっぽを動かしてみた。どうやらイスナーお手製の物と同じだ。
(あざとい……)何か言ったか?(メアちゃんはあざとい!)何がだよっ!!
『目が覚めましたか?』
澄んだ声の主を探す。
意外に近くに居たようだ。顔を上げた先には、女性が優しく微笑んでいた(あっ、イスナーちゃんも傍で浮いてるね)
その女性は女神ラヴィ像と瓜二つ。広がり流れるピンク髪の間からは後光が射し、揺れる布がその体を包み込んでいる。美しい顔は目を閉じ、神秘さを増していた(これで女神様じゃなければ詐欺もいい所よね)『そうかな~、でもこいつがラヴィだよ~』
頭に直接いつもの文字列が並んだ。ついでにバカにしたようなラヴィ様の落書きも入ってきた。
優しく微笑んだまま紙束を見下ろす女神様。
イスナーは素知らぬ風を装い口笛を鳴らしながら漂った。
『イスナーの《運命の子》を呼んだのは、他でもない話があるからです』
優しく穏やかな声色で語りかけられる。
「他でもない?」
『先日の≪神々の黄昏≫の件です』
『本当にごめんね~。まさか襲撃されるなんて思ってなくて~、でも不思議なんだよね~?』
イスナーの“神”の文字が“?”に替わった。
『ミャワが送り込んだ形跡もありませんし、もしそのような事をすれば、ルールを破った罰が下るはず』
ラヴィ様が困り眉で頬に手を当てている。
『それがないから~、おかしいんだ~!』
『真相を知るのは居るようですが?』
二柱の視線が一点に集中された。
『※※※※※※※※※』
うっ、必死に意識せずにいたのに……。
『誓約、誓約って、あなたも同じ神でしょうに? どんな誓約を結んだのです?』
ゆっくりとやわらかな声で問い詰めている。
『※※※※※※※※※!』
ラヴィ様のすぐ隣に存在する、おぞましい生物?が反応を示した。
(冒涜的で蠢き犇めきあい。未知を知らず既知を知らず。その姿は人が知り得る全ての感情を忘れさせ、人が知り得ない全ての感情を呼び覚ます。その声の旋律は、精神と言う物が意味を成させないのを、理解させず理解させてくる)
チノ?(……あへぇ?)あっ、何でもないです!(……うひぃッ!)
チノが体を強張らし震え、パジャマのみみで視界を塞いでくる。
『メアちゃん達はアザトースに耐性がないか~。無理ないよね~』
あの生物はアザトースと言う名のようだ。そしてこの空間に居るのなら神様なのだろう。
ゆっくり右みみを上げて、チラ見する。モザイクでギリギリ見れるレベルまで隠しまくったアザトース様。俺だってこのぐらいの芸当は身に付けている。
戦場では一瞬の判断が命とりとなる。前世でよくネタにされていた一節だが、役に立ったよ!
しかし、ココが神の部屋で本当に良かったと、下腹部を押さえながら思う。もし現実なら、悲しい水溜りが俺の真下に出現していたはずだ……。
さっ、共有でも隠したし、もうだいじょうぶだぞチノ!(……あ……ありがとう、メアちゃん。でも、隠すならもっと早くが良かったな? 怖かったんだから!!)
チノによって目をゴシゴシして涙を拭きとられた。
それは、自分の身を守るのが先決だったから!(……その判断力はうらやましいやら、なんやら、もにょるっ!!)次からはチノの分もできるだけ速くしてやるよ(絶対だかんねッ!)
(でもメアちゃんのクセに、隠せたからって冷静だよね?)そうかね?(あっ、うん、実は二回も飛んでたのか)……筒抜け良くない!!
『イスナーのお気に入りだけの事はありますね。ですが次からは、アザトースにはやはり控えてもらいましょう』
『※※※※※※※※※ッ!!!』
奇声を轟かせるアザトース様。その感情からか暗黒物質のような物を噴出させている。
身体から大事な物が欠け消える、そんな恐怖に心が蝕まれていく。そしてこの匂いが臭ければ良かったのだが、実に良い匂い。このギャップでは狂うのに時間を要しない…………。
『アホトースが怒ると危ないんだから~も~~!』
イスナーがゆらゆらと移動し俺の顔に張り付く。すると先程の恐怖が嘘のように晴れ渡っていった。
助かったぁ~イスナー!(ありがとうイスナーちゃん!)『どういたしまして~♪』
前が見えん(たしかに)『盲点だった~!?』
眼の部分だけビリビリと破れて視界が開けた。
『爆爆爆怒怒怒憤憤憤!!』
この文字は何だ!?『イスナー自動翻訳~!!』(説明しよう! つまり自動翻訳なのだ!!)説明になってねえぞチノ!『アザトースの言葉を~わたしが翻訳して伝えているのだ~!』
MY NAME IS AZATHOTH⇒我我我白白白痴痴痴
と、どこぞのクイズ番組の解答みたいな絵が送られてきた。
翻訳の意味がねえええ!
怒れるアザトース様を退け、ラヴィ様が手を差し伸べながら話しかけてきた。
『≪神々の黄昏≫が期限より前に現れたのは事実。あなた達《運命の子》にこれからも危害を加えようとするのは明白です。五年の猶予が無くなったと考えねばなりません』
『疎疎疎悲悲悲泣泣泣!?』
俺の手を優しく握り、そっと頬に触れる女神様。
『強くなってください。少なくとも≪神々の黄昏≫より強くならなければなりません』
『既既既達達達強強強~?』
細く滑らかな指で顔を少し持ち上げられた。俺は思わずそれに反発して顔を下げてしまう。
俺達、≪神々の黄昏≫から逃げるだけしかできなかった(……え? メアちゃん、やっぱり覚えて――
ザァッ!
(……うん。……逃げるだけしかできなかった)『え~!! 月閃牙を放って――
ザァッ! ザァッ!
『知らぬ間に全滅させてたから~無理ないか~』……何の話だ?
『少なくとも強さは気にするレベルじゃないと思うな~』
『何を呑気な事……っを……? えへへ、さすがは切り札ですか。しかし、異界の魔王に関わったのなら必ず逃げてくださいね』
『無無無視視視何何何ー?』
なぜか嬉しそうにして距離を離れていくラヴィ様?
『それと、どのようにして異界の者達がこの世界に入り込んだのか、この謎をあなた達だけで解いてもらわねばならないのです……』
『涙涙涙嘆嘆嘆暗暗暗……』
申し訳なさそうに手を合わせ、こちらにお願いしてくる。
『≪神々の黄昏≫は異界の魔王によって喚び出されます。そして、異界の魔王はミャワしかこの世界に送れないのです。前回の異界の魔王は先の災厄で全て倒されました』
『構構構暇暇暇遊遊遊~ッッッ!!!』
『こちらからの支援は惜しまないのですが、制約ゆえに満足には応えられないでしょう。ですが、どうかこの世界を救ってください』
『無無無寂寂寂哀哀哀……』
女神様の閉じられている瞳から、涙が一雫はらりと流れる。
ドキリとしたと同時に、胸の内から善なる思いが溢れてきた。
『影影影薄薄薄虚虚虚……』
みんなに無視され続けて、アザトース様いじけてない? 見た目に反してナイーブなのだろうか。もう一段モザイクを濃くしよう。負のオーラがすごい事になってるからな『酷い事するな~~』
『驚驚驚酷酷酷君君君ッ!』
ひえ!? 蠢くモノを俺のほうに向けてくる。アワワワ……。
……
それにしてもラヴィ様はイスナーと違って、実に神々しい(イスナーちゃん嘘をついちゃあダメなんだよ? いくら自分が幼いからって)
『メアちゃん達は忘れてるのかもしれないけど~! 君達に合わせてるだけだからね~!! それにラヴィの顔をよ~く見て~?』
ん?(おかしな所は無いけど?)『口角がひくひくしています~。褒められて嬉しいのを隠しているのよ~』……ほんとうだ。
『質問はありますか?』
眉が少し吊り上がった美しい顔が、かなり近くまで迫ってくる。後光が目に痛い!?
「……どうしてミャワはこの世界に攻めてくるのですか?」
俺の代わりにチノが質問している。
『隠隠隠慌慌慌困困困!?』
『……そう、ですね。まだ話せませんが、この世界に大切なモノを奪われ、愚かな復讐をしようとしている。今はそれだけしか……』
大切なモノ? イスナー?『ごめんね~……、もしかしたら後少しで話せるようになるかも~』(制約が原因かなあ、わたし達から情報を探さないといけないのかしら?)『そうなるかな~……』
……気持ちの良い話題ではないようだ。神々の空気が落ちこんでいる。
『こちらからも質問、よろしいでしょうか?』
逆に女神様から質問? ハテナを浮かべながらも頷いた。
『あなた達から他の神の加護を感じます……。それはどのようにして得たのですか?』
「それは――
…………
……
『そうですか。話を聞けてよかったです!』
機嫌が戻っているな? 話をして思い出したけどこの世界を創ったのは五柱。数が合わなくないか?
『ああ、自己紹介がまだでしたね。第四位神 ラヴィ=アメテルです。別名天神とも呼ばれています』
『五五五神神神名名名ッ!!』
全然わからん!『第五位神 アザトース=クラプスワード~、別名魔神~』(翻訳ってえ……)
『時時時用用用帰帰帰~~~!』
アザトース様が薄くなって消えていく。自動翻訳のおかげで恐ろしさも少しだけ和らいでいた。イスナーの采配は結果的には正しかったようだ。
『神様ですから~』(ははぁ~! さす神ー!!)さす神さす神!
『次の《運命の子》の時間が迫ってきました』
イスナーが顔から離れていく。
『お仕事終わったら~、また行くから~!!』
紙束の角を動かしバイバイしてくる。ラヴィ様もゆっくりと手を振っていた。
手を振り返すと、足元から徐々に体が消えいく。意識も同じように薄れていった。
…………
……
これからは≪神々の黄昏≫が俺達を狙ってくる。そして、異界の魔王も。今の俺達は弱い。この謎を解かなければきっと持久戦でどうなるのかわからない。
(ねぇメアちゃん? シリアスぶっても、お爺ちゃん達に勝てる奴なんているのかしら?)……なんだと、実はシリアルだったのか!?
イベントクリア報酬
ゲットスキル
【あざとーす】
アザトースからもあざといとお墨付き!?
補正 器用さ+1
【回避技術++】 ⇒ 【回避技術SP】
今回の場合、判断より反射レベルではと思わなくもない?
補正 抵抗力+10%UP <new>回避率+40%UP
【キョンシー】 ⇒ 【キョンシー+】
メアは頭にイスナーを装備した!!
補正 攻撃力+1 <new>抵抗力+1
【隠し玉で切り札】 ⇒ 【隠し玉で切り札+】
この歳では狂ってるレベルで強い。比較対象がアレなだけ
補正 <new>クリティカル時ダメージ20%UP
【深淵覗きし者】
あなたは無事、探索から帰還する事ができました。
以下の技能を追加して下さい。
補正 抵抗力+10%UP
次話の投稿なのですが、来週の月曜夕方位。その次の話は来々週の火曜夕方と曜日を一日ずらし、日曜まで戻ると以降は日曜の十四時固定でいこうと思います。
読者の新規獲得が半分と興味がもう半分です。
そして次話のストックが切れそうになったら、一ヶ月の間を置いて再開しようとおもいます。
投稿速度が鈍亀ですが、以降もお付き合いくだされば嬉しいです。
創作日記:二章の始めだから真面目に『おもしろい』についてです。
作者の実力などなどにより、料理で例えさせてもらいますね。
ココに飲み物が二つあります。
一つは泥水です。
もう一つはリンゴジュースです。
あなたはそのどちらも飲みました。
『おいしい』のはどちらですか?
まず間違いなくリンゴジュースの方がおいしいと言うでしょう。ごく一部は泥水と答える方も居るとは思いますが。
次の質問です。
あなたは先程と同じ二つの飲み物を飲みました。
一つは三日間飲まず食わずの末に飲んだ泥水。
逆にもう一つは三日間ゲロを吐いてでも飲食を繰り返させられた末のリンゴジュース。
あなたはどちらが『おいしい』と思いますか?
最初の質問と比べて一瞬でも判断が揺らがなかったでしょうか?
『味』は同じでも評価が多少なり変化したと思います。
そうなんです。相手の状態で『おいしい』の評価は変わります。
例題には他にも詰め込んだつもりですが、余白が足らないので残りは自分でピピン!!ときて? あと大事な事だけ。
つまり相手が居ないと『おいしい』が成り立たないのだあ~!!!
じゅーゆーあんだすたん?
いいこちょゆっちゃ。次回に続く。




