第三十話 ゆめうつつ
トタトタトタトタ
「おにいちゃんー! ただいまかなーっ!!」
「コラー▲▲▲ちゃん!! 帰ったら手洗いうがいしなさいっ!!!」
「わかったかなー!!」
ぼくの部屋に顔をだすだけ出して走って行った。すぐに洗面所へ向かう音が、開いたままの扉から聞こえてくる。
トタトタトタトタ
「おにいちゃんー! ただいまかなーっ!!」
「コラー!! お兄ちゃんは風邪だから、お部屋に入ったらうつるわよ!!!」
「わかったかなー!!」
部屋に入るなり、すぐに出て扉を閉めていた。遅れて、お母さんが階段を駆け上る音がする。
「これでいいかなー!」
「どうしてもお兄ちゃんと遊びたいのね!? ちゃんとマスクして、お部屋に入らなければいいわ。……わかった?」
ヤッター!!と飛び跳ねて喜んでいる、のが扉越しでも伝わってきた。
「おかあさんはしんぱいしょうかな? おともだちが、バカはかぜひかないって、いってたかな。▲▲▲はおにいちゃんバカって、よくいわれるからだいじょうぶかな!!」
手をビシッと前へだし、決めている様子が見えないけど見える。
「そのバカじゃないのだけれど……。マスクを取りに行っている間、自分のお部屋で良い子にして着替えてなさい」
「わかったかなー!!」
トタトタトタトタ
はぁ~と凄いため息が聞こえてしまった。
……
「――でねでね!! きょうはみんなでおうたをうたったかな。おにいちゃんもしってるかな? ~~♪~~♪かな?」
知ってるよ。ぼくも幼稚園で習ったし、小学校でも歌った事があるから。
「~~♪~~♪でしょ? へぷちゅ」
「そうかな! ~~♪~~♪――」
マスクをしているせいで、声が小さくなっている。いつもなら家中に聞こえるから、頭が痛くなったはずだ。でもそんなに楽しそう歌われたら――。
一緒に歌いたくなる!
「「~~♪~~♪」」
二人で一緒に歌っていると――。
「「「~~♪~~♪」」」
下の階のお母さんも混ざってきた。
「「「~~♪~~♪」」ハッ!?」
「コラー!! ●●●ちゃんは風邪なんだから歌っちゃダメでしょー!!!」
ありゃりゃ、怒られちゃった。
「へぷちゅ、は~い~!!」
▲▲▲がおこられているかなと笑っている。でもそのすぐ後に、お兄ちゃんをゆっくりさせてあげなさいと怒声が届く。
「かなぁ~!?」
変な鳴き声がした。
……
「――それで、きょうもせんせいにほめられたかな。▲▲▲ちゃんはきっとイイおよめさんになるかなって! ▲▲▲のしょうらいのゆめはおにいちゃんの――」
「帰ったぞ~!!」
ただいま、おかえりとお母さん達の話声が続けて入ってくる。
「おとうさん! おかえりなさいかな!!」
「ただいま▲▲▲。お兄ちゃんは、部屋か?」
「うん! おとうさんおとうさん!! それってもしかして――」
ガチャリと扉が開く。お父さんが手に持っている物はまさか――!?
「「プリンー!!」」
アレは駅前のケーキ屋さんで売っている高級プリン!!
ちっちゃな牛乳瓶にリボンを巻いて、蓋に今日の運勢のおみくじがある高級プリン!!
プルンと舌を撫で、食べると濃厚な卵と牛乳のハーモニー。カラメルはちょっと大人なビターの高級プリン!!
一個三百八十円で、お母さんに買ってとお願いしても、高いからダメと言われる。あの――、
高級プリン!!!
「おかえりなさい。へぷちゅ、どうしたのソレ?」
「●●●が風邪をひいたからな。――今日は特別だ。プリンを食べてはやく元気になるんだぞ」
「▲▲▲のぶんもあるかな?」
口に指をつけて目をキラキラとさせ、お父さんを見上げている。
「ちゃんと有るぞ」
「あら、お母さんの分も有るのかしら?」
遅れてエプロンを着たままのお母さんが現れた。
「もちろん有るさ」
その答えに大変ご満悦のようだ。
「ほらみんな、ご飯が出来ているから下にいらっしゃい」
「へぷちゅ、ぼくは――」
「●●●も一緒に食べるんだ。なあに、バカは風邪をひかないって言うからな、お父さんはよく親バカだの、バカップルと言われるからだいじょうぶだ」
お父さんが手招きして、ぼくを呼んでいる。
「▲▲▲はおにいちゃんバカかなー!!」
胸を張って誇らしげにふんぞり返る妹は、まさにバカそのもの。
「それにお母さんはお父さんバカだから――」
お父さんのせいでお母さんまで巻き込まれている。
「な~!」「かな~!」
二人して同じポーズをするさまは親子そのものだ。
「はぁ~、どうしてこう変な所だけ似てしまうのかしら」
お母さんがもう一度、深いため息を吐くと、当の二人はケラケラと笑っていた。
……
手を合わせて、目を閉じて――、
「「「「いただきます」」」かな」
目の前の▲▲▲が幼児用フォークを持って食べ始めた。その横のお父さんは今日も一日お疲れさまと、ぼくの隣のお母さんにお茶を注いでいる。そして、お母さんもお疲れさまと、お父さんのコップにお茶を満たした。
今日の晩ご飯は、白身魚のムニエルに、ほうれん草とコーンのクリーム煮、プチトマトたっぷりのサラダ、パン屋さんのバターロールだけど……。
ぼくだけお粥さんだ。
「おにいちゃんのソレ! おいしそうかな!!」
「お粥さん? へぷちゅ、お母さんまだ残ってる?」
「残ってるけど、▲▲▲ちゃん全部食べきれないでしょ」
「でもー、ちょっとだけたべたいかな。ひとくちだけ、ひとくちだけほしいかな」
▲▲▲がテーブルをバンバン叩いておねだりしている。お父さんにお行儀が悪いぞと注意されている間に、お母さんがお粥さんを一掬いして持って来た。
すると、▲▲▲がぼくにレンゲを持たせて口をぱくぱくさせている。やれやれと思いながらもお母さんにフーフーっと冷ましてもらい、目の前の金魚みたいな妹に食べさせた。
「あーん! おいしいーかなーー!!」
嬉しそうに食べているのをお父さんがジッと見ている。
「次はお父さんがしてあげよう。口を開けてあーん?」
「もういらないかな」
お父さんがしょんぼりしてしまうと、▲▲▲がその大きな体に向かって、指をチョンチョンとさせて、口を大きく開く。それを見て喜び勇み小さなお口に、あーん!とお粥さんを放り込んだ。
マネしてお母さんが口を開けてあーん!しだした。あっ、これは二人の世界に入ってしまうやつだ。
案の定、ラブラブ空間を展開しているので、それを無視して食べていたら。▲▲▲がマネしようと持ち掛けてくる。が、ぼくの風邪がうつっちゃうから諦めてもらった。まったくラブラブ夫婦の子供はツライよ。
「「「「ごちそうさま」」」かな」
「――プリンーッ!! プリンーッ!!」
▲▲▲がお母さんにおねだり攻撃をしている。
「はいはい、冷蔵庫から持って来るから、ちょっと待ってなさい」
洗い物を終わらせたお父さんが、テーブルに戻ってきた。
「●●●が最初に選びなさい。次に▲▲▲が、そしてお母さん」
ぼくは適当に手前にあったのを取った。
「▲▲▲は、コレかなー!」
「お母さんはコレにしましょ」
「最後の残りはお父さんの分だ」
みんな、プリンのおみくじ蓋に手をやって、合図を待っている。
「「「「せーの!!」」」」
「ポン!」「かな!」「ホイ!」「それ!」
ぼくは大吉。
やったー! もう一個プレゼントだ。
「おにいちゃん、またあてたのかなー!!」
「●●●は本当に運が良いな!?」
「おかあさんたちは、なかよしかなー!!」
違う、中吉だ!! 何回目だこのやりとり?
「お母さん達は仲良し」「ラブラブ夫婦だ!!」
はいはいっ! ラブラブ夫婦は無視して。残った▲▲▲は……。
「最凶……? こんなのあった!? へぷちゅ」
「あ~、期間限定で、金の大吉と最凶が千個に一個入っているんだ。ちなみに金の大吉は二個プレゼントと書いていた。ほらチラシにも~~、――あった! 書いてるぞ」
お父さんが持っているチラシにも、確かにそう書いている。
「あっ! ぼくの金の大吉だ。▲▲▲そんな悲しい顔するな。お兄ちゃんの分、一個あげるから」
「おにいちゃんだいスキかなー!!」
すぐに笑顔を取り戻して、このやりとりを見ていたお父さんが口を開いた。
「お父さんは?」
「フツウー!! でもプリンをかってくれるおとうさんはだいスキかなー!!」
まったく現金な妹だ。
「さあ、冷えている内に食べましょ」
「「「「いただきます」」」かな」
あ~♪この滑らかな口触り、たまらん! それにちょっと甘めのカスタードとバニラの香りが合わさり、しつこくない上品な甘さを口の中で創りあげている。そして、この大人の魅力に溢れたカラメル!! プリンは大人も子供も楽しませてくれる、と教えてくれるッ!!
まさに至高の一品ッ!!!
「……●●●ちゃん? 食レポしながら食べるのはお行儀が悪いわよ!」
口から漏れていたみたいだ。……反省!
…………
……
お父さんに体を拭いてもらい、お風呂を済ませたぼくは、部屋のベッドに戻ってきた。
「さあ、はやく寝なさい」
ベッドの近くに飲み物を用意していたお母さんが、布団を少し持ち上げてぼくが入る空間を作っている。ゆっくりとその空間に身を収めたら、お母さんがふたたび手を握ってくれて、子守歌を歌い始めた。
目を閉じると、そのまま眠れるはずだった。
トタトタトタトタ
「そのおうた! ▲▲▲もうたうかなー!!」
髪を乾かしきれていないのか、遅れてバスタオルを持って来たお父さんも登場。
「▲▲▲ッ!!! まだ髪の毛を、乾かしていないままじゃないか! はやくこのバスタオ……ル……で……?」
「はしったらかわいたかなー!!」
どこか腑に落ちないという表情のお父さんが、自分の髪をバスタオルで乾かしている。
「~~♪……そんなに騒いだら、お兄ちゃん寝られないでしょ?」
「じゃあ、いっしょにおててにぎって、おうたをうたってあげるかなー!」
お風呂上がりの温い手がぼくとお母さんの手の間に潜り込んできた。
「お、お父さんも混ざるぞー!」
お父さんが二人に握られている手とは別の手を、見守るようにガッシリと繋いでくれる。
「「「~~♪~~♪」」」
楽しい歌声が辺りに広がった。ゆっくりと目蓋を閉じると、今日の出来事が蘇る。
なんだか今日はみんな優しいし、美味しいお粥さんも食べれたし、高級プリンも食べれた。
こんな事ならずっと風邪のままでもいいかな~なんて――。
「おにいちゃんへんなことかんがえてないかな?」
……なぜバレたし!? 思わず目を開けてしまう。
「へぷちゅ、へぷちゅ、ずっと風邪のままがいいなんて考えてないよ!? 本当だよ!!」
「一生風邪のままだと、お母さん泣いちゃうわよ」
「お父さんも元気な●●●の笑顔が見たいからな」
「ずっとかぜだと、しんじゃうかな?」
なぜ追撃を放ってしまった!?
「「死ぬ!?」」
「だいじょうぶよ! ●●●ちゃんは死なないから」
「死ぬなんてそんな恐ろしい事起こらないから、安心して寝なさい」
ただの風邪だって診断されたよね。ぼく覚えているよ!
まったくそんなに心配しなくても、すぐに治るのに。そして、ぼくは死なないのに――。
ぼくを寝かせようと必死になっているお母さんとお父さん。あちゃーしまったかなー!と表情に出ている▲▲▲。
みんなの愉快な顔を見ながらぼくは眠りについた――――。
…………
……
…………昔の……夢……?
そうか夢だったのか……。
何だろうこの気持ちは、
――酷く遠く離れたものを見ているようなこの気持ちは……。
「メアちゃんおきたの? わぁっ!? どうしたのそんなにだきついて」
俺は目の前の幼女に顔を埋めた。
自分でもよくわからない事をしたと思う。でも確かめたかった。お母さんの温もりを、家族の温かみを感じたかったんだ。
「う゛っ……、う゛っ……、う゛わ゛あ゛~~ん゛!!!」
「エ、エイド~~!?」
「どうされたのですか!! メアさ……ま……?(どういう事でしょうか? あんな本当の子供みたいに泣かれるなんてラルム様らしく――)」
「う゛わ゛あ゛~~ん゛!!!」
俺はほんとうに大バカ者だ。何が大切かなんて気づかなくって(メアちゃん……)『メアちゃん……』
何も、
わかってなかったんだ!!!
「う゛わ゛あ゛~~ん゛!!!」
イベントクリア報酬
ゲットスキル
【望郷】
故郷を懐かしむ事、または――
補正 MP+3 魔法力+3<封印中> 抵抗力+3
ティア
【バカ++】 ⇒ 【バカSP】
クチュン! これでメアちゃんとおそろいだね? にひひ~
補正 抵抗力+3 防御力+1 <new>抵抗力+20%UP
未来日記:おいおいミーよ!?
これ最終的には改稿前の二倍の文字数になるんちゃうんか?
まだ第一章の登場人物紹介も含まれてないのに、そして期間も……。
第一章の途中追加のエピソードはこれで最後の予定。改稿前に読んだ時の物足りなさが、解消されていると良いな。……第二章時の大改稿時……、第三、第四~最終章……。まあ、より良い作品になるのを祈るしかないな。Good luck!
童謡を入れたかったけど著作権がー著作権がー!! うわ~ん! 皆様の好きな曲で補完してくだせえ!?




