安否と闇と不信
私を先頭に階段を降りると一層明るさが増し、人らしき声や何かが岩に当たる甲高い音が聞こえてきた。
「この先、少し降りれば誰かいるにゃ」
「私が先に行くわ。
エマは後ろにいて、魔法が必要になるかも知れないわ」
「待って!
悲鳴……悲鳴にゃ!」
予断を許さない状況になったのは間違いなかった。
一気に駆け降りると、少し広くなっている空洞へと辿り着いた。
奥にはフードを被った男らしき背中と十字型に張り付けられた少女がいた。小さな女の子と思っていたが、わたしと変わらないくらいの年の子。
白いドレスのような服装で縛られ、儀式でも行いそうな雰囲気だった。
「これで終わりよ、ビスタジオ=フース卿!
我が王、ベイルセウス六世の命で捕らえに参った!」
どうやらアリシア達が捜していた人物その人だったようだ。
剣先を向け名乗るアリシアに振り返った顔は、端正な顔立ちの若者だった。
「その子を解放するにゃ!
今助けるから!」
少女は涙を浮かべ頷くと、うなだれそのまま動かなくなった。安心して気を失ったのだろう、かわりにビスタジオと呼ばれた男が話し始めた。
「これはこれは。
勇敢なお嬢様方と……なんと!
人猫ですか!
これは珍しいものが見られました。
それで、私のことをずっと追っていたのですか」
「えぇ、そうよ。
気づいていたのでしょ?
逃げ回っていたのだから」
アリシアとビスタジオが会話を続けるが、そこに割って入る。
「それよりも、その子を解放してって言ってるにゃ!
その子に何かしたかにゃ!?」
「解放したくないので張り付けたままなのですよ。
ただし、殺すわけでもないのでご安心を、猫娘殿。
それと、これからする予定でしたので、まだ何もしておりませんよ」
「にぃぃ!
何故こんなこと、その子をさらったにゃ!」
唸っても気にも留めず、少女を放そうともしないので理由を聞く。
「何故?
なにも聞いていないのですか?
そこの王命で動いているお嬢様方に」
私が聞いたのは、逃げ回っている男を捕まえる、という内容だ。それに、何故少女をさらったのかを聞いているのに、アリシアたちから聞いてないのかとは一体どうゆうことか。
困惑気味にアリシアに顔を向けるが、見かねたビスタジオが先に答えてくれた。
「ほぉ、聞いてないのですか……王命だからといって、仲間に隠し事はどうかと思いますが。
まぁいいでしょ、私はこうみえても既に老人の域に達しているのですよ」
あんなに若々しいのに、老人とは話が見えてこない。
「少し昔話をしましょうか。
昔々、人間という生き物は存在しておりませんでした。
神々が創りしは、亜人達でした。
そして善なる神と悪なる神が争いを起こし、亜人達の一部が人間と動物に別れました」
それは知っている。私たちの言い伝えとさほど変わらない。
亜人たちの一部が邪なる神の心に触れ、本能で生きる動物と善悪の心を持つ人に別れたと。
「ここからが本題です。
人間と動物に別れたとき、五感や二足歩行など色々なものが別れた。
それは寿命も同じ。
なので、亜人は人間よりも少しばかり長寿なうえに、魔法を使ってもあまり衰えたりはしないでしょう」
そう、人間は魔法を使う為の魔力がない。その代わりに生命力を削っていると、ママから聞いたことがある。
「しかし、私達人間は魔法を使えば簡単に衰えてしまう。
では、どうすべきか。
他人の生命力を奪ってしまえば良いのでは?」
「それは不老不死になろうってことかにゃ!?」
「ふんっ、不老不死?
そんなものは『永遠の苦しみ』と同義ではないでしょうか。
肉体の傷みを永遠に味わうことになる。
ならば、若さだけあれば十分であろう。
若ささえあれば、世間から爪弾きにされることもないでしょう」
「それで、その子から生命力を奪いとるつもりだったんだにゃ?」
「その通りですよ、猫娘殿。
乙女の生命力が一番でしてね。
旅をしつつ、こうして研究と共に生命力を頂いている訳なんです。
そして、ここは魔力が満ちていて最適な場所だったんですが、こうも早く見つかるとは残念で仕方ありません」
なんと身勝手な。自分の若さの為に他から生命力を奪うなど、魔物達のすることと一緒ではないか。
数十日前と変わらない。私のママを奪ったあの研究員たちと同じ、人間も魔物の心を持つものが沢山いるということか。
「そうゆうのは許せないにゃ!」
怒り心頭の私の前に、何故かアリシアがいた。
「だめよ、落ち着いて。
私達が捕まえるんだから」
「こんな人間!
痛い目見なきゃ分からないにゃ!
王様の命令だろうけど、少女をさらって良いわけないんだから!」
叫び訴えていると、背中を押すようにして短髪女が倒れてきた。
「どうしたにゃ!?
アリシアまで!?」
事態を飲み込もうとビスタジオを睨むが魔法を使っている様子もなく、なにが起きているのかさっぱりだった。
それは私にも訪れ、瞼も徐々に重くなり立っていられなくなる。
ゆっくり床に倒れこむが、人間よりも魔法に対して抵抗力が高い分、意識は辛うじて保てている。しかしそれも時間の問題だろう。
このまま死んじゃうのかな、レイヴは悲しむのかな、そんなことが頭をよぎり恐怖を感じる。
「お喋り…………わたくし…………フース卿…………完成と…………」
エマは無事みたいだけど、なにやら様子がおかしい。
「貴女が…………ならば……予言………………」
(……エマ?
どう…………いう…………)




