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ネコ耳ばすた~ず The Bridge  作者: 七海玲也
3/5

月夜に誘われし

 結局お昼寝では済まされず、起きたのは日が沈んでかなり経った後だった。

 約束までは特にすることもなかったから別に気にはしてないけど、帰って来ていないレイヴのことが少し気がかりだった。


 今度は私が部屋を空ける為すれ違いになると思い、置手紙を書くと支度を済ませ海岸へと向かった。

「待ったかにゃ?

 間に合ったみたいだにゃ」


 既にアリシア達は来ており、私の声に振り返った。それと同時に岩場から船灯が見え始めていた。


「丁度良かったわね。

 それじゃ行きましょうか」


 船から板が浜辺へと伸ばされ、順番にそれを渡り乗り込む。そんなに幅のない不安定な足場に、私は怯えながら渡っていく。


 落ちたら水の中だ。

 水が怖い訳ではない。水の中が苦手、そう苦手なだけなのだ。

 決して怖くはない――と言い聞かせ、やっとの思いで乗り込むと、船長の合図と共に船が海を走り出す。


「顔色が悪いようですけど、大丈夫でしょうか?」


 エマが心配そうにしてくれているけど、大丈夫と作り笑顔で返すのがやっとで、水の見えない場所で落ち着こうと思い、船尾の倉庫に身を移した。


 人猫(ワーキャット)は水の中を本能的に恐れている。何故かは分からないが身体が拒絶反応を起こす。

 雨やシャワーは平気だし、泳ぐことも出来ないわけではない。むしろ興味だってあるくらいだ。なのに、身体は嫌がってしまう。克服できたのなら、猫人の中でも持てはやされるに違いないと思うけど。


 色々考える内にようやく落ち着いてきた――けど気づいてしまった。


(……あと三回も……にゃ……)


 往復だということに気づき絶望の淵に沈んでいると、三回の内の一回目が早くも訪れた。

 もう生きている心地がしない。


 生への綱渡りを成功させ浜辺に降り立つと、大の字に横たわる。星空を眺め、大地の息吹を感じると安心する。


「そういえば、帰りの船はどうなったにゃ?」


「今の漁師さんが、日が昇り始めたらまた寄ってくれるそうよ。

 ここにいなければ、次の日も寄ってくれるみたいよ」


 どう交渉したかは分からないけど、明日の朝日までに見つけ出して、ここに来なければ帰れなくなりそうだ。


「この無人島、どのくらいの大きさか分からないにゃ?」


「船から見た感じでもそんなに広そうでは無かったわ。

 ただ、彼の乗ってきた小舟が見当たらないから、島の外縁に沿って探してみた方がいいわね」


 確かに大木や貝殻はあるが、それらしきものは無さそうだ。


「にゃっっと。

 もう大丈夫、行けるにゃ」


 飛び起きると目の前には森が広がっており、少しだけウズウズした。波打ち際より森の中のほうが楽しいから。


 しかし、今はそれどころではないと分かっている。男がさらったかもと知った時から女の子の状態が気になっている。私たち親子がされた忌まわしい記憶が、未だ鮮明に残っているから。


 このような冒険は未だ慣れていないので、アリシア達に従って動くのが賢明だろうと付いていくことにした。何処に潜んでいるのか神経を研ぎ澄ませ歩いているのが、後方からだとより見て取れる。


 月明かりを頼りに島を半周ほどしただろうか、海の向こうに見覚えのない大陸の灯りが揺らめいている。


「あそこに何かいるわ」


 小声で身を低くするよう仕草をし、様子を窺っているので私が前に出た。人間よりも発達している、聴覚と嗅覚が必要だろうと。


「人、それと壊れてる舟らしきものがあるにゃ。

 話し声は聞こえないけど、荒い息遣いが聞こえる。

 なんか苦しそうな感じの息遣い」


「漕ぎ手かしら。

 エマ、どう見る?」


「魔法で苦しんでおられる可能性も否定出来ませんが、お怪我をなされているということも考えられますわ」


「怪我はないと思うにゃ。

 血の匂いはしないから」


 これ以上、気づかれず近づくには身を隠す場所もない。どうすべきか悩んでいるところで、短髪女が立ち上がり前に進み出た。

 自分に任せろと、腰に下げている魔法銃(マジックガン)をポンと叩くとゆっくりと近づいていく。


「ちょっ……まぁいいわ。

 彼女の動向によっては飛び出すわよ」


 短髪女らしからぬ腰を揺らしながら歩く動きに、人間はああして誘惑するのかと学んだ。スタイルは元々良く、胸元が大きく開いている服装で、全体を見てもかなり露出している為、異性を誘惑するには十分だと思われた。


 ある程度近づいたところで、男たちが立ち上がると短髪女も歩みを止め、身振り手振りしていた。


「ダメにゃ!

 様子がおかしい。

 行ったほうがいいにゃ!」


 私には聞こえていた。会話が何も噛み合っていなかったのが。


 緊張が走り飛び出そうかとしていた矢先、男たちが吹き飛ばされ、短髪女が私たちを呼んでいた。


「どうしたの!?

 殺したんじゃないでしょうね?」


 アリシアの問いに新たな魔弾を詰めながら状況を話していた。【衝撃弾(インパクト)】と呼ばれる魔弾で吹き飛ばし気絶するよう仕向けたらしい――が、起き上がってくる影が見える。


 短髪女の舌打ちと同時に、手には光輝く物を携え走ってきている。


「あらあら。

 魔法にかけられているのでしょうね」


 こんな状況でも口調がまるで変わらないエマがすごいと思った。


「わたしも戦うにゃ!」


 元は私の依頼なのに今まで助けてもらってばかりで、少しでも役に立たなければと向かい来る男に飛びかかる。武器を持つ腕を引っ掻こうとしたけど、反対の腕で簡単に海に投げ飛ばされてしまった。


 宙返りで体勢を立て直しはしたけど尻餅をつき、海水が胸まであることに震えと涙が止まらなかった。


「あぅっあぅっあぅっ……ひっ……ひっく……」


 人間よりも早く動ける私の速度を超えてきたのだ。


「あらあら。

 大丈夫――ではなさそうですわね。

 わたくしにお掴まりになって」


 どうしようも出来ない私にエマが手を差し伸べ、浜辺まで連れ戻してくれた。


「うっうう……どうなった……にゃ?」


「ミィさんが飛ばされるのを見て、彼が処理いたしましたわ。

 あんなに素早かったのでしたし、できる限り穏便に済ませるにはこれしかないのかと」


 立っている男の周りには、血の匂いのする男たちが横たわっている。剣戟の響きや悲鳴の類も聞こえなかったことから、一撃で勝負をつけたのだろう。


 仲間の男が振り向き、泣き止んだ私の頭を撫でると笑顔で行ってしまった。少し呆然としたが、急いで彼の後を追った。


「ありがとにゃ……

 撫でてくれて落ち着いたにゃ」


 お礼の言葉に、またしても笑顔で撫でてくれた。


「魔法か薬か分からないけど、普通じゃなかったわね。

 ただ考えると、すぐ近くに居るということになるわね」


 この島に必ず居るということ、そして漕ぎ手を失ったことで逃げ場はないはず。ただし、慎重に行かなければ女の子の命にも関わってくる。


「彼にはここに留まってもらって、私達は森の中を探しましょう。

 必ずいる筈よ」


 四人で森の中に入るが、今度は私が先頭を行くことになり、アリシア達は少し離れながら付いてきている。この小さい島の森の中だと、五感の発達している私が一番の有利だ。


 予想通り、焦げ臭いオイルの混じった匂いがしてきた。

 後ろに待ってと合図を送り、先行してみる。人の匂いはしてないから安全だとは思うけど。


「これは!?

 洞窟にゃ!」


 ボロボロの紙が張られた大岩の真横に穴が掘られ、なだらかな階段を灯りが照らし地中へと続いていた。


 どんな意味のある紙なのかは分からなかったが、微かに魔力のようなものは感じられた。

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