侵入者にはご用心 18
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大変驚いております。
本当に本当に嬉しくて励みになります。
「陛下...本当に怖くて怖くて、震えが止まりませんでした。イザベラ様の次は私が狙われますわ。だって...」
言葉を止めた側室が頬を染めエドワルドの腕に自分の腕を絡ませ程よい大きさの胸が押しつけられる。
その一連の流れを観察していたエドワルドはジャスティーンもこれぐらい積極的になってくれればいいな...と、側室が話しかけても上の空で返事を返していた。
「それで陛下、私...今宵は怖くて眠れませんの。御一緒に...」
エドワルドの肩に凭れかかりながら側室が話しかけていると、数回ノックの音が部屋に響いた。
「入れ」
「失礼します陛下」
「時間か?」
「はい、次の側室様がお待ちにございます」
「わかった」
入室許可と共に扉を開けたのは女官長で、それを確認したエドワルドは女官長との短いやり取りをして、勢いよく立ち上がった。
今までいい雰囲気だったのにぶち壊された側室は慌てて立ち上がりエドワルドの腕を掴んだ。
「ちょ、そんな、陛下、お待ちください!!私はもっと陛下と...はっ、も、申し訳ございません。出過ぎたマネをいたしました」
引き留めようとした側室は掴んだ腕を離し体を震わせながら床に跪きエドワルドを見送った。
そう、あんな冷たい目をしたエドワルドを見たのは初めてで、自分の身の危険を感じた側室は手を離すしかなかった。
一連のやり取りを観察していた女官長は次に居なくなるのはこの側室だなと王であるエドワルドのすぐ後を歩きながら心の中で呟いた。
次の訪問予定の側室の部屋の少し前でエドワルドは止まり、その横を通り抜け女官長は扉をノックようとする前にエドワルドは女官長に声をかけた。
「先ほどのタイミングでまた来てくれ」
「かしこましました」
「今日はあと3~4人訪問後、イザベラの見舞いに行く」
「承知いたしました」
会話の終了とともに女官長は深々と頭を下げ、今後の予定を組みながら扉をノックした。
すぐに扉が開き侍女と女官長のやり取りを見ながらエドワルドは心の中で悪態ついていた。
それは、遡りること数時間前ーーーーーー
「さて、ジャスティーン様からいい情報をいただいたことですし、これ以上危険な話をこの部屋でするのは止めにしましょう」
「だな、ほら、行くぞ。エド」
「ちょ、師匠、先ほどと話が違うだろう」
「何が?」
「俺とジャスティーンだけにしてくれる話だったのでは?」
「ああ、それな。実は俺とライモンがここに来たのには理由があったんだよな、ライモン?」
「ええそうなんです。陛下」
話がわからないジャスティーンとエドワルドは顔を見合わせ、何かあったのか?と不思議な顔でもう一度ライモンに視線を向けた。
「実はですね。陛下がジャスティーン様のお部屋に殴り込みしたっていう噂が流れていまして...」
「「はぁ?」」
ライモンの言っていることを理解できない2人は首を傾げた。
「だから、エド。お前が城に着いてからこの部屋に向かう間、鬼気迫る表情で向かってーの、勢いよくこの部屋に入ってーの、というところを目撃していた奴らがいて、噂があっという間に城中を駆け巡り」
「陛下をお止するよう回り巡って私とジャイロ隊長に話が来たというわけです」
「な...そ...そんな事、俺がジャスティーンにするわけないだろう!?ていうか、この城についてから別室にいどうしたジャスティーンのところへ行くまでの間、ずっとライモンが一緒だったではないか!!」
ライモンとジャイロの言葉にエドワルドが怒りを露わにした。確かにエドワルドが城へ着いてから
すぐさまライモンが出迎えジャスティーンの部屋へ直行しながらエドワルドに報告等をしていたのだが、事情を知らない周りがそう考えるのも無理ない。
エドワルドはジャスティーンの部屋に一度も訪問していないのだから、寵姫のイザベラに毒を盛った犯人扱いを受けているジャスティーンに何をするか分からないというのが周りの見解だろう。
ただ事実はエドワルドがジャスティーンの身を案じ急いでジャスティーンのいる部屋へ向かっただけで、それを聞いたライモンとジャイロは苦笑した。
「ええ、勿論私もジャイロ隊長もそんな事承知の上です。報告ついでに陛下が違った意味で暴走していないか確かめに来ただけです」
「そうそう膝枕でよかったな、ライモン」
「本当に」
「お前達...こんな昼間から何考えてるんだ?別に今から事に及んでも俺は構わないが...」
と、エドワルドがジャスティーンの様子を窺うとジャスティーンは目を輝かせて両手を胸の前で組んでいた。
ジャスティーンもしかして俺と...と、本当に昼間からいけないことを考えるエドワルド。
しかしジャスティーンの次の発言に思考が停止した。
「あ、あの、今、城内私は陛下に敵意を向けられているという噂が流れているのですか?」
「え?ええ、まあそういう事になるのですかね」
「それは素晴らしい。もっと不仲説や嫌わっている説を存分にお流ししてください!!」
「よろしいのですか、ジャスティーン様?」
「構いません。私は陛下の寵姫であるイザベラ様を狙った犯人として疑われている以上、陛下に嫌われ続けなければいけないのです!!」
「おおーー、ジャスティーンも違った方向に力を入れるんだな~。侮れねーぜ、ハイド家一族」
がはははっ!と、盛大に笑うジャイロの声に我に返ったエドワルドが、隣にいるジャスティーンの方を向き、両肩に手を置いた。
「待て、待つんだ、ジャスティーン!俺はお前を気に入っている。嫌うなどあり得ない!!」
「陛下...無理しないでください。陛下にはイザベラ様がいらっしゃるではありませんか」
「ちょ、イザベラの件は誤解だ。今ならまだ間に合う」
何が間に合うのかわからないが、嫌な予感がしたジャスティーンは自身の肩に置いてあるエドワルドの両手を払い。
勢いよく立ち上がったジャスティーンは素早くジャイロの座るソファーの後ろに隠れた。
その行動にエドワルドは納得いかない様子でジャスティーンを連れ戻そうとしたが、ジャイロがそれを制した。
「ったく、痴話喧嘩は後にして、おらぁ、エドも行くぞ」
「だから行くってどこに?」
「今回の件での処理と後宮の側室様の心のケアに、イザベラ様のお見舞い等、あとは...」
「ライモン、待つのだ!側室の心のケアとはなんだ!?」
聞いてないと言わんばかりにライモンを睨みつけるエドワルドの殺気を含んだ視線に臆することなくライモンはにこりと微笑んだ。
「勿論、今回の件でイザベラ様の次に狙われるのは私かもしれないと、怯えている側室様の心のケアです」
「何?それは狙われないから大丈夫だと勘違いしている側室たちに言えとでも言っているのか?」
「ぶっ、そこまで露骨に伝えんでもいいだろう!!」
「しかし師匠、俺にそれが出来ると思うのか?」
「ああーーん?知るか!テメーで何とかしろ」
「ジャスティーン様に接しているようにすればよろしいのでは?」
ライモンの提案にエドワルドはしばし悩み、それを見てジャスティーンが痺れを切らした。
「もう、つべこべ言ってないで早く陛下を連れて行ってください!」
「それもそうだな。行くぞ、ライモン」
「時間もないことですし、行きますか」
ジャイロとライモンは視線を合わせエドワルドの両腕をそれぞれ掴み引きずるように部屋を出て行った。
「ジャスティーン、また来るから大人しく待っているのだぞ」
「いえいえ、こちらのことはお構いなく。側室の皆様によろしくお伝えください!」
「なんでそうなるーーー!!」
ジャスティーンの部屋を出てから執務室へ行く間、その体制で連行されたのを目撃した第3者の目にはジャスティーンは物凄く陛下の怒りをかってしまった事と、怒りが収まらない陛下を宰相と近衛隊長が執務室まで強制連行されたという噂が流れたのは言うまでもない。
そしてエドワルドはライモンとジャイロとの打ち合わせが終わり、急いで後宮へ向かい女官長と護衛の女騎士と共に数日に分けて数十人いる側室の部屋を回り、最後にイザベラの部屋に泊まるというサイクルを数日間繰り返したのだった。
事件後、数日経ったとある晩。
ノックと共に扉が開き侍女の案内で部屋の奥へと進むと寝台にイザベラが上半身をクッションに預けてベッドの上で座っている状態で読書をしていた。
侍女と来客に気づいたイザベラは本を閉じ弱々しく微笑んだ。
「ようこそお越しくださいました。陛下」
エドワルドの姿を見てイザベラがベッドから起き上がろうとしたのでエドワルドが制した。
「そのままの姿勢でよい」
「陛下...申し訳ございません」
「気にするな。体の調子はどうだ?」
「本調子とまではいきませんが、気分は悪くありませんわ」
「そうか...それは良かった」
エドワルドはイザベラの手を握りしめ女官長と侍女を下げさせた。
パタンと扉が閉まる音を確認してイザベラことシュナイザーは先ほどまでの弱々しい演技を止めて背伸びをした。
「いや~、毎夜毎夜お疲れさまだね。エド」
「まったくだ、シュナイザーも酒を飲まないか?」
「今日も遠慮しとくよ。一応、医師にまだ安静になさってくださいって言われてるし」
「そうか、お前に悪いけど俺は飲む」
「ご自由にどうぞ」
立ち上がったエドワルドはワインとグラスを手に持ちサイドテーブルへ置いてからベッド近くの椅子へ座った。
「捜査はどうなった?あれから数日経ったけどジャスティーンはまだ容疑者扱いされて隔離してるんだろう?」
「ああ、現在も別の部屋にいてもらっている」
「そこにエドが乗り込んだっていう噂はまだ尾を引かないし、ジャスティーンは大丈夫なの?」
シュナイザーが心配そうにエドワルドを見ると疲れ切った顔でため息をついた。
「まあ、乗り込んだのは否定しないが、それはジャスティーンの身を案じてだ。寵姫に毒を盛った容疑者として乗り込んでいったわけじゃないんだがな...」
「そんな真相を知っている者は極わずかだから仕方ないよ。で?」
「『で?』とはなんだ?」
手酌でワインを注ぎ、ワイングラスを口へ運んだ。
「だから監禁され...じゃなくて、隔離されているジャスティーンと進展があったのかって聞いてんの?」
「ぶぶーーーっ!!」
口に含んだワインを吐き出したエドワルド。その姿を見たシュナイザ―は「進展なかったのね...」と、肩を落としタオルケットをタオル代わりにエドワルドに渡した。
「ごほっ、ごほっ、お前まで何考えてんだ?」
「お前までって!?」
「ライモンも師匠も変なこと言ってたし!まったくどうなってるんだよ...」
「ははーーん。ライモンはわかんないけど師匠は楽しんでんだよ。ていうか、俺は師匠に合わせる顔ないしな」
「稽古さぼってるんだって?」
「だって、側室してる手前、傷や打ち身なんて作れないだろう?」
「その件に関しては申し訳ないと思っている。そういえば、本来この役を頼もうと思っていたあいつはどしているんだ?」
エドワルドから言われた『あいつ』という言葉を聞いたシュナイザーは速攻で明後日の方を見た。その反応にエドワルドは触れてはいけない話題を出してしまったと昔のあいつに関する諸々の出来事を思い出しシュナイザーが苦労していたことを思い出し話題を出してしまった事を後悔した。
「シュナイザ―すまない」
「いや、エドが悪いわけじゃないんだ」
自分が悪いわけではない?とはどういうとこだとエドワルドは顔を顰めた。
「それは...どういうことだ?」
エドワルドが困惑した表情を見せた為、『あー...報告しておいたほうがいいよな...』と考えを改めたシュナイザーは申し訳なさそうに顔を伏せた。
「ずっと言えなかったんだけど...本来この役に適任だった姉さんなんだが、実は...家出中なんだ!!」
シュナイザーが告げた言葉をエドワルドはすぐに理解できずしばし考え込んだ。『家出?』王族の血を引く姫が『家出?』なんでそうなったんだ?てか、ありえないだろう!?と、徐々に理解し始めたエドワルドは頭を抱えた。
「エドーーーーー!どうしよう!?変な趣味ならまだしも、師匠に似て歩くトラブルメーカーの姉さんのお眼鏡に適ってしまった可哀想な子羊がいたとして、その子羊の周りを巻き込み姉さんが暴走したら、俺はどうしたらいい?」
ベッドの近くにいた為シュナイザ―はエドワルドの両肩を掴み勢いよく揺さぶった。
「待て、待て待て、シュナイザー、ちょっと待つんだ!さ、最初から説明しろ!!」
揺さぶられながらも冷静に対応するエドワルドにシュナイザーは「ごめん」と言って手を離した。
「それで、エレーナはどうしていなくなったんだ?」
「理由はわからない。気づいたら公爵家の城から居なかった。というか帰ってこなくなった」
「いつ頃?」
「もう2年くらい経つ。もしかするとその前から居なかったかも...」
「...まあ、エレーナ自身に何かあることは無いだろうが...あいつは人の意見聞かないからな...てか、なんで俺あいつに似ているって言われてんのか理解できない」
「あははっ、確かになんでエドと姉さんが似ているって言われているのかな?エドは王族としての務めを果たしているのにね...まったく姉さんの自由奔放には呆れて何も言えないよ」
「捜索隊は?」
「秘密裏に捜査してる」
「見つからないとは一体あいつは何してんだ?シュナイザーの言う通り王族の務めも果たさずに」
「お怒りはごもっともだけど、しかし姉さんがいないため家の中は平和なのも確かなんだよね...そのため最近は必死に探してないって感じ?」
シュナイザーの姉のエレーナは昔からエドワルドと折り合いが悪い。
それは同族嫌悪だと2人を知っている者はこぞってそう言う。
そしてエドワルドとエレナにシュナイザーは幼少の頃よりジャイロの指導の下、3人は剣の腕もそこそこあり自分の身は自分で守れるのでエドワルドもシュナイザーも血縁のしかも女性が行方不明だと言うのに心の底から心配など一切していない。
しかしエレーナは昔から変な趣味があって、そのドストライクに当てはまる人物を見つけてしまうと、ストーカー並みにしつこい上に自身が納得いくまでとことん通い詰めるというはた迷惑な人でもあった。それ以外にも考えられるケースなどいくらでもあって、エレナはシュナイザーと瓜二つと言われるぐらい似ていて、外見だけはいい。その為、変な男にナンパされたり何かの因縁をつけてしまった相手を血祭りに上げていないかとエドワルドとシュナイザーはそっちの心配していた。
そこまで考えてたエドワルドはやはり自分とエレナは似てないとしみじみ思った。
「今まで黙っていてごめんなさい」
「いや、お前には苦労をさせている手前俺は何も言えない...しかしエレーナがいない噂話を聞かないところからして周りは行方不明だと気づいてないのか?」
「うーん、どうだろう?独特な人だったから、人の話聞かないし、誰も関わり合いたくないから噂にもならないっていうオチだと思う」
「...あいつ嫁の貰い手あるのか?」
「ないんじゃないかな」
実の姉をズバリ切り捨てる弟にエドワルドは笑うしかなかった。
「姉さんの事は父さん達に任せておいて、エド達の方はどうなったの?」
「そのことか、簡潔に言うと現在調査中だな」
「簡潔過ぎだし。俺にお茶を運んだ侍女の自供は?」
「まだ俺のところまで報告が来ていない」
「そうなるとジャスティーンの疑いもまだ晴れないんだね」
「まあ、そうなるな」
ジャスティーンの話題を出すと不機嫌そうなエドワルドにシュナイザーはどうしたのか尋ねた。
「何、どうしたのエド?」
「ジャスティーン会えない」
「なんで?」
「『なんで?』って、乗り込んだ後の噂を聞いてないのか?」
「乗り込んだ噂は聞いたけど、その後の噂って?」
「俺がジャスティーンに掴みかかっただの暴行しただの非道の限りを尽くしているだのとかあらぬ噂が流れているのをお前は知らないのか?」
「はい?何それ!!」
驚きのあまり大声を上げ、その姿を想像したのか笑いが込み上げてベッドをバシバシ叩いた。
「はははっ、あははっ、何でそんな噂が」
「そこまで笑わなくてもいいだろう」
「ごめん、でも、笑えるーーー、あはははっ!!」
好きに笑えばいいとばかりにエドワルドは酒をあおるように飲んだ。
笑いが落ち着いてきたところでジャスティーンとのいきさつも話し、ついでに毒をシュナイザーに盛ったと思われる侍女のエルダの極一部にだけ知られている噂話をいい加減で侍女失格のロベルタからジャスティーンが聞いた話もした。
「へー、面白いことになってきたね。エド」
「ああ、その件はライモンと師匠に任せてある。お前はしばらく静養してていいぞ。仕事の方は俺に任せろ」
「ふふふ、ありがとうエド。この件が片付いたらジャスティーンに心行くまでマッサージしてもらいなよ」
「そうだな。ジャスティーンのいてもらっている部屋は窓から侵入しやすいところを選んだから、表立って会えないから今度こっそり窓から侵入してみようと考えている。その時は協力を頼む」
「了解。それにしても自分の側室に会いたいだけなのになんで大変なんだろうね?」
「まったくだ」
心底疲れが溜まっているエドワルドが吐き捨てるように言ったセリフにシュナイザーは苦笑いしかできなかった。エドワルドはいきなり上半身を前屈め顔を両手で覆った。
その行動を不審に感じたシュナイザーは首を傾げエドワルドの動向を注意深く観察した。
これはもしかするとーーー、とシュナイザーは次にエドワルドが何を自分に言ってくるのかが手に取るようにわかり、今度は微笑んだ。
そして上半身を起こしたエドワルドはシュナイザーに視線を向けた。
「シュナイザー、今後について相談したい」
真剣な瞳で見つめられたシュナイザーは決断が出たなと、姿勢を正しエドワルドの次の言葉を待った。
次の更新は週末か来週中には更新したいと思っています。
よろしくお願いします。