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ならば、通していただきましょう!~婚約破棄されたドカ雪領地令嬢は、戦闘狂令息に恋を迫る~  作者: 鈴埜


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5.スタンゼット辺境伯領

 森を抜けて四半刻ほどでライオネルの言う拠点についた。

 拠点とは言っても建物が三つほどあり、厩舎も大きなものがあった。雪は激しさを増して歩いて帰っていたら自分の屋敷にはとうてい辿り着けなかったと思う。


「ありがとうございました」

 先に馬から下りたライオネルが私に手を差し伸べるのでその手を取って飛び降りた。

「馬上の姿勢と言い、グレンウィル嬢は乗馬がお上手ですね」

「ええ、馬が好きなのです」

 愛情を込めればそれを素直に返してくれる彼らが好きだった。


 他の騎士が手綱を受け取り、私はライオネルについていく。騎士の到着に、馬番や使用人たちが慌ただしく行き来していた。私の姿に目を留めると、頭を下げて小走りにその場を去っていく。


「女性の手はあるが、残念なことに女性の衣装はない……と思う。何か代わりになるものを用意させるので火にあたっていてくれ」

 狩りで雪で、すっかり汚れきった騎士たちは、正面玄関からは入らずに別棟へ向かっていた。マシューもそちらにお邪魔するようだ。しかし、さすがにエルトン卿は私の後ろをついてきている。


 大勢の騎士の帰宅に、使用人たちは慌ただしく駆け回っていた。


「すまない、拠点なので家令のような采配する者はいないのだ。不自由をかけるかもしれないが、部屋はきちんと準備してあるので安心してほしい」

 そのまま玄関を入って真っ直ぐいった階段から二階へ案内された。左右に分かれる通路を右へ行き、その一番奥の部屋へ通される。


 すでに暖炉に火が入り、部屋の中は多少暖まってきていた。馬上から、迎えに出てきた使用人に、「客人が三名いる」と簡潔に命じていた。すぐに対応してくれたのだろう。


「お心遣いありがとうございます」

 すると、扉から女性が濃い青のドレスを持って現れた。


「それは……」

「奥様のものです。少々流行遅れですが、定期的に風も通しておりました。濡れたお洋服を着ていてはお風邪を召してしまいます」

「母のものか……申し訳ない、これくらいしかなさそうだ。屋敷内を歩くときのコートも準備してくれ」

「承知いたしました。まずは着替えを」


 そういって、女性がライオネルとエルトン卿を追い出す。

 ドレスと一緒に持ってきていた布で丁寧に髪の毛を拭いてくれた。


「お靴も濡れておりますね。何か別の履き物を探して参ります。失礼いたしますね」

 絨毯の上に敷いた布の上に、靴を脱いで立たされた。見事な手際で狩りの衣装をはがされていく。


「本当は湯浴みをしていただきたいのですが、なにぶんあの男たちの方を済ませるのに使用人たちがかかりきりで。彼ら、二日間帰ってこなかったんです。まー、ひどい匂いです。あんなのに屋敷内をうろついてもらってはこちらが困りますから。もう少しだけお待ちくださいな。湯が湧いたら湯浴みのお手伝いもいたしますので、ほんの少しの時間ですから、申し訳ございませんがこちらの部屋でゆっくり暖炉にあたって暖まってください。ほら、できあがりです。ささ、こちらの椅子に掛けて、ひどい吹雪になりそうですわねえ。靴を探してまいります。少々おまちください」

 こちらが何か質問をする暇を与えず、ずっと話通しだ。そして仕事が終わると次の仕事へ向かう。靴も服も持っていかれた。私はただ暖炉の前で椅子に座っているしかなかった。


 ノックの音がして、どうぞと許可を出す。

 現れたのはエルトン卿だ。素足なことに気づいて、すっとスカートの中に足を引き入れ隠す。椅子の上で足を抱えるようにした。


「あら、まだいたの? 貴方も着替えないと」

 廊下はここよりずっと寒い。顔色も悪かった。


「服なら今の女性に言えばこれでもかというほど持ってきてくれそうだけど」

「すでに一式準備していただいております。ただ、お嬢様を一人にして行くのは……」

「大丈夫よ。それよりも風邪を引かれる方が困るわ。ほら、剣もそこにある。私が強いのは知っているでしょう?」

「……それでは申し訳ございませんが。マシューが身支度を終えたらこちらに来るよう言います」

「そうね。あと、気にしないでとも言っておいてあげてちょうだい」

 馬上でも、かなり意気消沈していた。彼のやったことは拙い点もあったが、仕方ないと思える部分も多かった。


 エルトン卿が出ていき、椅子の上で何もすることがなく、部屋の調度を眺めるくらいしかできない。

 古いものだが手入れも行き届いているし、下手に家主の趣味が出過ぎず、まとまりのある落ち着いた部屋だ。絵画の額縁に埃も溜まっていないし、普段からきれいにしているのだろう。


 客人三人くらいなら問題ないと言っていたが、十人二十人来ても問題ないくらいの部屋数があった。まあ、別の棟は使用人たちが使っているかもしれないし、この屋敷だけなら十人ほどか。


 拠点というには大きすぎる気もした。

 そしてこのドレスだ。

 奥様、母という彼らの言葉から、現辺境伯夫人の服だということがわかった。ただ、確か辺境伯の本邸はもっと北東の方だ。スタンゼット辺境伯の領地は、グレンウィル公爵家の領地の東側と、北側の半分と接していた。北東に大きな領地を持っている。


 特にスタンゼット辺境伯の力が強いのは、ライオネルの祖父が、先王の妹と結婚したからだ。つまり、一応、ライオネルは王族の血筋なのだ。


 ただ、先王の妹は降嫁し、王族から辺境伯夫人へとなった。王女が公爵家でも、他国の王族でもなく、辺境伯へ嫁いだのは異例のことだ。なんでも大恋愛の末ということなので、色々無理を通したのだろう。私の持っている知識はその程度だった。


 さて、そのライオネルが未だに独身で領地内を駆けずり回っているのはどうしてなのか。私もあまりよくは知らない。成人しているなら冬は王都へ社交へ訪れるはずなのに、今まで会場で見たことがなかった。


 ノックの音がしたのでマシューだろうと許可を出す。だが実際は先ほどの女性が靴を持ってやってきた。

「屋敷の中ではこちらで十分かと思います。履いてらっしゃった靴は手入れをしておきますね」

「ありがとう。助かるわ」

「お身体はどうでしょう。暖まりましたか?」

「ええ。暖炉の前にいたから」

「それでしたら、すでに晩餐が始まっております。二日間まともに食事をしていない男たちが我慢できずに初めてしまっているのです。普段からライオネル様は皆と食堂で食事を摂るのですが、きとんとしたお食事のお部屋も準備できますよ。もちろん、こちらのお部屋にお持ちすることもできます。それとも、こざっぱりした彼らと一緒に食事になさいますか?」

 彼女の言葉に少し悩む。


「ライオネル様も?」

「私が覗いた時はまだいらっしゃっておりませんでしたが、一緒に食事を摂ります。身分の差はあれど、騎士として対等だとライオネル様はいつもそうなさっているのです。……というのは建前で、一人で食事をされるのが詰まらないそうです」


 急な天候の変化で迷惑をかけることとなった。先の件もあるし、なるべく良い印象を与えておかねばならないだろう。一緒に食事をいただく方がいいのかもしれない。


「従者の若い方はすでに食堂にお招きしておりますよ。もうひとかたも湯浴みを終え次第食堂へご案内する予定です」

 考える暇を与えず話し続ける彼女に、私は自分が湯浴みを済ませていないことに気づいた。

「わたくし、湯浴みを終えていないでしょう。それなりに汗もかいたし……」

「いやですわ、あの男たちとお嬢様はまったく違います。一日動いてらしたのかもしれませんが、着替えをお手伝いしたときも、香油の良い香りしかしませんでした。どうせ食堂も賑やかですし、食事の間に湯浴みの準備もできあがるでしょうから、先にお食事を済ませれば効率もよろしいかと。たくさん移動もしてお腹もすいていらっしゃるでしょう? 食べてからゆっくりされるのはどうでしょう」

 効率という単語が飛び出て、わかった。

 つまり、食事を先に済ませてほしいのだ。たまに屋敷の使用人たちも手順などの都合で、遠回しにこちらに求めてくることがある。そのときの気配を感じた。

 これは逆らわない方がいいものだ。


「では、先にお食事をいただいても?」

 女性はにっこりと笑って腕に抱えていた濃い青の布を差し出す。


「ドレスは少し薄いので、こちらを着ていたほうがよろしいかと。部屋を出ると冷えますので」

 ありがたくいただく。暖かいがとても軽い。廊下は確かに寒かった。

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― 新着の感想 ―
本来の意での、家政婦(ハウスキーパー)として優秀過ぎる……。
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