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ならば、通していただきましょう!~婚約破棄されたドカ雪領地令嬢は、戦闘狂令息に恋を迫る~  作者: 鈴埜


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13/13

13.幸せが通る

 せっかく繋がった道が途絶えてしまう。

 ここまで一年以上あちこちに手を回してきたのに。ここでおかしなことがおきる。


「ライオネル様、本当に今までご協力ありがとうございます。ですが、これでお別れです」

「それは困ると言ったろ? パトリシア、君を手放すのが……惜しくなった」

 私の手をとり、指先にキスをする。


 ライオネルの仕草に思わず手をひっこめようとするが、彼が強い力でそうはさせてくれなかった。


「本気なのだな」

 つぶやいたスタンゼット辺境伯は後ろに控える騎士に自分の席を用意させる。

 国王が明らかに邪魔となる突然の乱入者に退出を命じることもない。苦虫をかみつぶしたような顔でこちらを睨んでいた。

 辺境伯は確かに国への影響力も強い。だが、それでも国王が上だ。

 なのに彼らを追い出すことすらしない。そう、ライオネルを同席させたことも異常だった。


「さて陛下。我が息子が、国中の貴族の前で第三王子であるチャールズ殿下によって貶められた、パトリシア嬢を婚約者にしたいそうです。私も正式に許可を出そうと思います。あとは陛下とグレンウィル公爵閣下の許可をいただくのみです」

「スタンゼット辺境伯よ、チャールズとパトリシアの婚約は継続されている。それを白紙に戻す気もない!」


「陛下。我が息子ライオネルが今現在も独身である理由はご存じでしょう?」

 婚約者が浮気をしていたということだった。


 国王陛下はずっと渋面だ。スタンゼット辺境伯がこの部屋に入ってきたときからずっとだ。


「それとも、ライオネルに降りかかった災難の以外の分もお付けしましょうか? つまり私の代の……」

「もういい!! そなたと、そなたの息子の望みは了解した」

 国王は口元に手を当てブツブツと何やら考えを巡らせている。


「ライオネル様! わたくし先ほどの条件で……」

 私の口元に指先を近づけて黙らせると、ライオネルはわかっていると言った。


「あの地図通りになればいいんだろう? 資金面はさすがに国庫よりは劣るが、父の資産はそれなりだ。父上、ロマリアン伯爵家に貸しは?」

「十分にある」

「ヴォートル家と、フォールカウ家は?」

「もちろん、多少の無理は聞き入れてくれるだろう。聞き入れさせるさ」


 私がチャールズ殿下の領地を分割して交渉材料としたい領地を、ライオネルは並べた。


「パトリシアは今回の詫びとして、チャールズ殿下の領地をもらうだけでいい。あとはスタンゼット家の方で交渉できる」

「殿下の領地とロマリアン、ヴォートル、フォールカウ……あと少し調整すれば王都へ繋がるな」

 スタンゼット辺境伯と目が合う。国王陛下へ向けたものとはまったく違う優しい青い瞳だった。


「当主交代までに繋げることを約束する」


 驚きに言葉が出ない。

 あれだけ無茶を言っていた国王を黙らせ決定を覆らせたのはどういうことか。何をした? いや、何があった?


 私たちが囁くように会話を交わしている間、国王たちも相談を繰り返している。


「ライオネル様……」

「パトリシア、君と過ごしたこの冬は、今までにない暖かい冬だった。一緒に馬を駆り、獲物を追い詰め、夕食をともにし、語り合った時を思い出すと、胸が熱くなる。これからもずっと一緒に過ごしたい」

 彼の言葉が私の胸にしみいる。

 それら一つ一つが私の胸の鼓動を早めていく。


 私だって、この冬の生活は今までにない胸躍るひとときだった。毎日が楽しくて、屋敷に戻っても次の予定を考えていた。天気を見誤って彼の屋敷に再びお邪魔したいとまで思ったのだ。

 けれど、計画を進めるにはその思いは押し付け潰して葬り去らねばならなかった。

 その熾火のような想いが再燃しないようずっと押さえつけていたのに。


 私のそんな心の揺れを見透かしてか、ライオネルが笑っている。


 だが、明らかに国王の意に沿わぬことなのだ。

 もしこのまま結婚しても、完全にスタンゼット辺境伯領は疎まれる。戦況が厳しい時代であれば、国防の担い手である辺境伯をないがしろになどできない。だが今の落ち着いた平和な時期には、中央から遠い領地というのはどうしても侮られるのだ。


「言ったろ? 婚約者がいたと。婚約者は、王族の血縁だった」

 それは知っている。ケイリーからさらに詳しく説明された。


「辺境伯に再び王族の血を入れとりこもうとしたのに、それを台無しにしたのは……第一王子だよ」


 彼の声は低く、私にだけ聞こえるようにさらに耳元に近づいて囁いた。

 驚きに彼へ顔を向けたとき、あちらが身を引いてくれなければ、ライオネルの顔に私の頭がぶつかっていた。

 それほどに、自分の振る舞いに気をつける余裕もないほど驚いた。


「さすがに外聞が悪いからな。王都では工作がされたようだ」

 その程度の噂など、ひと月もあれば覆してみせようと思っていたときもあったが、触ったら手ひどいしっぺ返しを食らっただろう。


 さらに、ライオネルの災難以外のとも言っていた。私はスタンゼット辺境伯を見やる。

 彼はにやりと笑って私へ微笑んだ。


「王家と関わってきた分、手札はそれなりに揃えている。私の時も余計な横やりがあってね。かなりごたついた」

 ごたついた方向が書き換えられている。つまり、王家に迷惑をかけたのではなく、現辺境伯のときも王家から迷惑をかけられたのか。


 ライオネルが私の手を握り、彼の頬に触れさせる。


「私の血が囁く。君を逃してはならないと。あの日、本来なら外に出ることなどなかった。雪の気配にはもちろん気づいていたからね。灰色熊なんかじゃない。プラチナブロンドが美しい、この緑の瞳を手に入れるために、あの場所へ、あの森へ出向かなければならなかったんだ。王家の血筋のこの囁きに翻弄されることもあった。自分の行動に自分以外の意思の介入があることを、疎ましく思うこともあった。だが今はそんなことはどうでもいい。ただ、君を手放したくないんだ」


 ああ、と私がため息をつき、国王たちも大きなため息をついた。そして向かい合う。


 すべての望みが通った。




 領地の分割と譲渡は、一日二日で終わるような作業ではない。それでも二年かけて、お互いの利益をすり合わせやっと手に入れた。

 未だ整備されていない、だが、私の土地が手に入った。

 王都へ続く、雪に邪魔されない道だ。


 それでも、全部が繋がるにはまだあと十年近くかかる。

 雪の難所を避ける道だけなら三年ほどか。

 とにかく、王都からスタンゼット、グレンウィル両領地へはまだ冬の間行き来することはできない。もう数年は我慢しなければならない。


「そのせいでお父様は貴方のことを春まで見られないのよ」

 そう言って私は腕の中ですやすやと眠る我が子の額にキスをした。


「お坊ちゃまは満腹ですか?」

「ええ、すぐ寝てしまったわ」

 ケイリーに息子を預けると、彼女は優しい手つきで彼専用の小さなベッドへ移す。


 扉がノックされ、顔を出したのはライオネルだった。肩にうっすら雪が積もっていた。

「雪ウサギが捕れた。シチューにしてもらおう」

「ライオネル! 今寝たところよ」

 私の静かな指摘に彼は首をすくめてするりと部屋の中へ入ってくる。廊下の冷気がひんやりと私の頬を撫でた。

 ライオネルはベッドで大人しく眠っている息子を満足そうに眺め、長椅子に座っている私の隣へやってくる。


「父と母が十日ほどしたら来るそうだよ」

「また? 冬の間、そんなに頻繁に移動をしていて大丈夫なの?」

「二人とも雪の中の移動には慣れているからね。孫の姿が見られないのが本当に悔しいらしい」


 ライオネルは一年中、あちこちで狩りをする。今までは領地全体を回っていたのだが、今年は私の出産もあり、一番初めに招待してくれたこの屋敷を拠点として動いていた。

 この屋敷なら設備もそれなりに揃っているからと、私も了承したのだ。


 それを心底悔しがったのは、辺境伯夫妻だった。


「色々と報告もあるみたいだ。ほら、チャールズ殿下とアビゲイルの結婚の話とか」

「ああ、妊娠中で出られなかったものね」


 二人は結局グレンウィル公爵家で余っていた爵位を継いで、ネコの額のような土地を治めることとなった。チャールズ殿下はとうとう王家から抜けることとなったのだ。社交界での評判が散々な二人だ。収益もほとんど得られないが、ただ王都に近いというだけの土地で、王家から与えられる慈悲の金で細々と暮らすのだ。辛うじて伯爵位ではあった。


 グレンウィル公爵家を継ぐことは私が絶対に許さなかった。

 権力を与えていいような二人ではない。

 何より、隣の領地で好き勝手されるのは絶対に嫌だった。父はさすがに反省したのか、そのあたりの手続きはきちんとしてくれていた。

 せめて、アビゲイルを公爵家に招き入れるつもりなら、公爵家にふさわしい教育をしておくべきだった。それができていればそのまま王家に嫁ぐことができたかもしれない。娘可愛さにそれを怠った父の失態だ。存分に償ってもらおう。


「さあ、ライオネル様。着替えて湯浴みをお願いします。丸二日あちこちを駆けずり回っていらっしゃったのでしょう? そんな姿でこんな場所まで出向いては困ります」

 扉が開いて、マリアが彼女なりに抑えた声でまくし立てた。


 私とライオネルはチラリと息子の方へ目をやる。


「それじゃあ食事の席で」

 ライオネルは立ち上がると私の髪にキスをして部屋を出ていく。私も少ししたら移動だ。


 ベッドの横に立ち、息子の寝顔を見る。小さく口元を動かしている姿が愛らしい。彼とそっくりの黒髪に太いしっかりとした眉。そして今は見えない青い瞳。


 ああ、なんて幸せなのだろう。


 これからも大忙しだ。それでも、この小さな宝を守るためにも、私は王都へ立派な道を敷こう。愛する人と愛する息子のために。



   了

以上で、道を敷きたかったパトリシアのお話でした。

短編むずかしいいー!

いい勉強になりました。

目算は倍になるという勉強に……。


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