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『公爵令嬢様、距離感が近すぎます! 〜伯爵子息は今日もツッコミが追いつかない〜』  作者: 伊佐波瑞樹


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番外編 第4話 完璧な従者、休日だけは甘いものの前で判断が遅れます

番外編 第4話 完璧な従者、休日だけは甘いものの前で判断が遅れます


 皆さん、こんにちは!!


 アルフレッド・シェルザートです。


 レオナルド先輩が。


 騎士団関係者の令嬢との、少し特別なお茶会を無事に終え。


『また会いたい』


 と。


 自分の言葉で伝え。


 ガロウ公爵が別室から乱入せず。


 扉へ耳を当てず。


 窓から覗かず。


 廊下へ一度。


 窓へ一度。


 動いただけで済んだ。


 あの日から。


 三日が経った。


 公爵の新規札作成禁止期間は。


 まだ続いている。


 俺の誕生日用の札へ、一行だけ追記した件が発覚し。


 禁止期間が最初から数え直されたためだ。


 現在。


 残り四日。


 ガロウ公爵は。


 毎朝。


 既存の七枚を選び。


 新しい紙を見つけるたび。


「これは札ではない」


 と呟き。


 執務用の筆記具を使う時は。


 セレスティア夫人か、書記官の立ち会いを求められている。


 騎士団長である。


 王国の安全を担う、大人物である。


 だが。


 家の中では。


 新しい札を作らないよう見守られている。


 人には。


 それぞれ。


 得意なことと。


 苦手なことがある。


 そして。


 本日の話は。


 まさに。


 そのことを改めて知る一日になった。


 今日の中心は。


 リリスではない。


 ガロウ公爵でもない。


 レオナルド先輩でもない。


 リーマスでも。


 ない。


 今日の中心は。


 俺の従者。


 ライズである。


 ライズ。


 俺に仕えている、若い従者。


 いつも冷静。


 俺の体調を確認し。


 必要な距離を保ち。


 記録帳を持ち。


 俺やリリスのハンカチ使用枚数を。


 なぜか。


 誰より正確に把握している。


 急な予定にも対応する。


 王城の夜会でも。


 学園の行事でも。


 家族の夕食会でも。


 俺が不安になった時。


 騒がず。


 急かさず。


 必要な言葉だけを。


 渡してくれた。


 俺にとって。


 従者であるだけではない。


 近くで支えてくれる。


 大切な人だ。


 だが。


 俺は。


 そのライズが。


 休日に何をしているのか。


 ほとんど知らなかった。


 何が好きか。


 どこへ行くか。


 誰と話すか。


 休む時。


 本当に休めているのか。


 聞いたことが。


 なかった。


 正確には。


 聞こうとしたことはある。


「ライズは休日に何をするんだ」


 そう尋ねた時。


 ライズは。


「必要な私用を済ませ、身体を休めております」


 と答えた。


 必要な私用。


 身体を休める。


 正しい。


 だが。


 あまりにも。


 従者らしい。


「好きなことは?」


 と聞けば。


「若様が安全にお過ごしになることです」


「休日の趣味として重すぎる」


 そう答えた。


 結局。


 それ以上。


 深く聞かなかった。


 本人が。


 話したい範囲で。


 それでいい。


 だが。


 今日。


 俺は。


 偶然。


 ライズの。


 かなり意外な一面を見ることになった。


 きっかけは。


 朝食だった。


 朝。


 シェルザート伯爵家。


 食堂。


 父上。


 母上。


 俺。


 いつもの三人。


 ライズは。


 食堂の端。


 いつもの位置へ。


 ――いなかった。


 珍しい。


 かなり。


 ライズが朝食の時間にいない。


 病気?


 急用?


 何か。


 あった?


 俺が。


 食堂へ入り。


 最初に。


 従者の定位置を見る。


 誰もいない。


 胸が。


 少し。


 ざわつく。


 代わりに。


 別の使用人が。


 控えている。


「おはようございます」


 俺。


「おはよう、アル」


 母上。


「おはよう」


 父上。


 席へ。


 だが。


 俺の目は。


 もう一度。


 食堂の端へ。


「ライズは?」


 すぐ。


 聞いた。


 母上が。


 少し。


 笑う。


「今日はお休みよ」


「休み?」


「ええ」


「聞いていません」


「昨日、ライズから伝えられたでしょう?」


 俺は。


 昨日を思い返す。


 放課後。


 屋敷。


 夕食。


 入浴。


 就寝前。


 ライズ。


『若様』


『何だ』


『明日は、私の定期休暇でございます』


『分かった』


『朝の身支度は、エドが担当いたします』


『はい』


『体調確認表は引き継いでおります』


『はい』


『緊急の際は、屋敷へ連絡を』


『はい』


 言われた。


 完全に。


「聞きました」


「忘れていた?」


「はい」


「少し」


 母上。


 紅茶。


 一口。


「ライズがいないと、不安?」


 一度。


 俺は。


 自分の中を見る。


 身支度。


 問題なし。


 朝の体調確認。


 エド。


 きちんと。


 引き継いでいた。


 痛みなし。


 違和感なし。


 睡眠。


 途中で一度。


 時計。


 見なかった。


 食欲。


 ある。


 全部。


 できた。


 だが。


 ライズがいない。


 いつもと違う。


 少し。


 寂しい。


「はい」


 俺は答える。


「少し」


「そう」


「でも」


「はい」


「休みなら」


「はい」


「休んでほしいです」


 父上が。


 新聞を下ろす。


「よい」


「はい」


「支えてくれる者が休むことを」


「はい」


「不安だからと止めるな」


「はい」


「ただし」


「はい」


「お前が寂しいと思ったことも」


「はい」


「悪くない」


「はい」


「戻った時」


「はい」


「話せ」


「はい」


 母上が。


 微笑む。


「今日は学園?」


「はい」


「放課後は?」


「予定はありません」


「では」


 一拍。


 母上。


「町へ寄ってきたら?」


「町へ?」


「リリス様たちと」


「はい」


「少し」


「はい」


「ライズへ贈り物を選ぶとか」


 俺。


 止まる。


「休日に?」


「はい」


「休みの日まで、若様からの贈り物」


「重いかしら?」


 母上。


 自分で。


 問い直す。


 大切。


「ライズへ」


 俺。


「聞いていません」


「何を?」


「贈り物を受け取りたいか」


「そうね」


「休日を」


「はい」


「俺たちが」


「はい」


「使ってしまうかもしれません」


 父上。


 頷く。


「なら」


「はい」


「戻った後でもよい」


「はい」


「今日」


「はい」


「ライズを探しに行く必要はない」


「はい」


「偶然会ったら?」


「本人が一人でいたいなら」


「はい」


「挨拶だけ」


「はい」


「一緒に過ごしたいなら」


「はい」


「本人に聞く」


「はい」


 朝食。


 続く。


 だが。


 いつもの。


「食べられていますか?」


 が。


 ない。


 自分で。


 確認する。


 スープ。


 パン。


 卵。


 果物。


「母上」


「はい」


「食べられています」


 母上。


 少し驚く。


 そして。


 笑う。


「受け取りました」


 ライズの言葉。


 母上。


 使う。


 俺も。


 少し。


 笑った。


 学園へ。


 今日は。


 別の従者。


 エド。


 年齢は。


 ライズより少し上。


 落ち着いている。


 馬車。


 いつもの道。


 だが。


 ライズではない。


 記録帳も。


 持っている。


「若様」


 エド。


「何だ」


「本日の予定は」


「通常授業」


「はい」


「放課後」


「友人たちと、町へ寄るかもしれません」


「目的は?」


「まだ決めていません」


「分かりました」


「ライズは?」


 聞きそうになる。


 止まる。


 休み。


 場所。


 聞かない。


 探さない。


 本人の時間。


「何でもありません」


「はい」


 馬車。


 進む。


 正門。


 リリス。


 いる。


 制服。


 青い薔薇。


 俺の馬車から。


 ライズではなく。


 エドが降りる。


 それを見て。


 リリスの目が。


 少し。


 大きくなる。


「ご機嫌よう、アル」


「ご機嫌よう、リリス」


「ライズ様は?」


「今日は休みです」


「お休み」


「はい」


「体調は?」


「問題ありません」


「何か?」


「定期休暇です」


 リリスの肩。


 少し。


 下がる。


「よかったです」


「はい」


「俺も」


「はい」


「最初」


「はい」


「少し心配しました」


「はい」


「お休みと聞いて」


「はい」


「安心しました」


「はい」


「そして」


「はい」


「少し寂しいです」


 リリス。


 俺を見る。


「アル」


「はい」


「ライズ様が」


「はい」


「大切なのですね」


「はい」


 自然に。


 言えた。


「大切です」


 リリスの目。


 潤む。


「素敵です」


「評価では?」


「嬉しいです」


「受け取ります」


 体調確認。


「足は?」


「痛みなし。違和感なし」


「疲れは?」


「ありません」


「睡眠は?」


「途中で一度」


「時計は?」


「見ませんでした」


「食事は?」


「スープ、パン、卵、果物」


「受け取りました」


「リリスは?」


「スープ、パン、野菜、果物」


「肉は?」


「朝はありませんでした」


「受け取りました」


 いつもの。


 ライズがいなくても。


 続く。


 そこへ。


 ユリウス。


 エレナ嬢。


 クラリス嬢。


 ニール。


 合流。


「ライズは?」


 ユリウス。


「休みです」


「珍しい」


「休みはあります」


「何してるんだろ」


 一瞬。


 俺も。


 気になる。


 だが。


「本人の時間です」


 俺。


「そうだね」


 ユリウス。


「でも」


「はい」


「町で偶然会ったら?」


「挨拶します」


「一緒に遊ぶ?」


「本人へ聞きます」


「休みの日のライズ」


「はい」


「見たい」


「見世物ではありません」


 皆。


 笑う。


 教室。


 授業。


 午前。


 いつも。


 だが。


 何度か。


 俺は。


 無意識に。


 教室の後ろや。


 廊下。


 窓。


 ライズが。


 いる場所へ。


 目を向ける。


 いない。


 そのたび。


 休み。


 思い出す。


 リリスが。


 一度。


 俺を見る。


「アル」


「はい」


「今」


「はい」


「ライズ様を?」


「はい」


「探しました」


「はい」


「心配?」


「少し」


「はい」


「でも」


「はい」


「休みです」


「はい」


「戻ります」


「はい」


 机。


 教科書。


 授業。


 戻る。


 ベイル先生が。


 黒板へ。


 書く。


 今日の題。


『支える者の休息』


 偶然?


 いや。


 先生。


 知っている?


「皆さん」


「はい」


「自分を支えてくれる者が」


「はい」


「休む時」


「はい」


「どのような気持ちになりますか」


 ユリウス。


「不便」


 正直。


 教室。


 笑い。


「はい」


 先生。


「ほかに」


 クラリス嬢。


「心配」


「はい」


 ニール。


「寂しい」


「はい」


 エレナ嬢。


「自分でできるか不安」


「はい」


 リリス。


「お休みできてよかったと」


「はい」


「思います」


「はい」


「でも」


「はい」


「戻ってきてくださるか」


 一拍。


「少し怖くなることもあります」


 教室。


 静か。


 離れる。


 休む。


 戻らない?


 リリス。


 以前。


 人が離れる。


 怖い。


「では」


 先生。


「支える者は」


「はい」


「休んだら戻らなければならない義務がありますか」


 全員。


 少し。


 考える。


「仕事なら」


 俺。


「はい」


「予定された日には」


「はい」


「戻ります」


「はい」


「ですが」


「はい」


「体調や事情で」


「はい」


「戻れないこともあります」


「はい」


「その時」


「はい」


「本人を責めない」


「はい」


「必要な支えを」


「はい」


「別の者とも」


「はい」


「作る」


「はい」


 先生。


 頷く。


「一人だけへ」


「はい」


「すべての支えを任せない」


「はい」


「支えられる側も」


「はい」


「支える側を」


「はい」


「休ませる」


「はい」


「大切です」


 俺の胸。


 少し。


 痛い。


 ライズ。


 いつも。


 朝。


 夜。


 俺。


 記録。


 準備。


 休めている?


 今日。


 休み。


 それだけで。


 俺が。


 寂しい。


 でも。


 休んでほしい。


「シェルザート」


 先生。


「はい」


「今日」


「はい」


「従者が休みですね」


「はい」


「どうですか」


「少し不安です」


「はい」


「少し寂しいです」


「はい」


「でも」


「はい」


「休んでほしいです」


「はい」


「自分でできることは?」


「体調確認」


「はい」


「食事確認」


「はい」


「予定」


「はい」


「困った時」


「はい」


「今日の担当へ頼る」


「はい」


「よろしい」


 先生。


 教室全体へ。


「支える者を大切にするとは」


「はい」


「感謝するだけではありません」


「はい」


「休ませる」


「はい」


「頼り先を増やす」


「はい」


「本人の人生を」


「はい」


「役目だけにしない」


 強い。


 ライズ。


 従者。


 でも。


 ライズ。


 本人。


 好きなもの。


 休日。


 ある。


 知らない。


 知りたい。


 だが。


 知る権利ではない。


 話してくれたら。


 聞く。


 昼休み。


 食堂。


 友人たち。


 今日。


 放課後。


 町へ。


 行くことになった。


 目的。


 新しい文具。


 俺の。


 リリスの好きなところを書く。


 小さな帳面。


 すでに。


 仮の紙へ。


 書いている。


 だが。


 三十日後。


 渡す。


 きちんと。


 冊子にしたい。


「青?」


 クラリス嬢。


「表紙」


「はい」


「リリス様の?」


「まだ秘密です」


 俺。


 リリス。


 俺を見る。


「聞きません」


「はい」


「でも」


「はい」


「楽しみです」


「三十日後です」


「はい」


 ユリウス。


「町の菓子屋も」


「はい」


「寄ろう」


「文具だけです」


「せっかくだから」


「はい」


 エレナ嬢。


「皆さま」


「はい」


「予定時間を」


「はい」


「決めましょう」


「はい」


 放課後。


 一時間半。


 町。


 文具店。


 菓子店。


 書店。


 全部は。


 無理。


 二つ。


 文具店。


 菓子店。


 決定。


「ライズへの菓子?」


 ユリウス。


「なぜ?」


「休みだから」


「贈ると休みを仕事へ戻すかもしれません」


「そうか」


「本人へ聞いてから」


「はい」


「今日は」


「自分たちの菓子」


「はい」


 昼食。


「アル」


「はい」


「食べられていますか?」


「はい。スープ、パン、肉、野菜」


「菓子は?」


「放課後」


「はい」


「リリスは?」


「スープ、パン、魚、野菜」


「受け取りました」


 午後。


 授業。


 終わる。


 町へ。


 学園から。


 徒歩ではない。


 馬車。


 二台。


 友人。


 従者。


 ミラ。


 エド。


 全員。


 町の中央。


 石畳。


 夕方前。


 人。


 商人。


 子ども。


 貴族。


 一般の者。


 混ざる。


 文具店。


 入る。


 紙。


 帳面。


 羽根筆。


 墨。


 革表紙。


 青。


 緑。


 赤。


「これ」


 クラリス嬢。


 淡い青。


「リリス様らしい」


「はい」


「でも」


 俺。


「俺が選びます」


「もちろんです」


 店内。


 見て。


 触れない。


 許可。


 店員。


「手に取っても?」


「どうぞ」


 帳面。


 重さ。


 紙。


 めくる。


 薄い。


 三十頁以上。


 銀の留め具。


 派手ではない。


 表紙。


 濃い青。


 中央。


 小さな空白。


 文字。


 後で。


 入れられる。


「これにします」


「はい」


 リリス。


 少し離れて。


 見ている。


 俺が。


 秘密。


 選ぶ。


 全部。


 見ない。


 だが。


 顔。


 嬉しそう。


 会計。


 包み。


 青い紐?


「紐は」


 俺。


「銀で」


 リリスが。


 目を大きく。


 誕生日の封筒。


 青い紐。


 俺は。


 逆。


 銀。


「受け取ります」


 リリス。


 小声。


「まだ渡していません」


「はい」


「でも」


「はい」


「嬉しいです」


「早いです」


 笑い。


 文具店を出る。


 次。


 菓子店。


 町で。


 人気。


 らしい。


 ユリウス。


 知っている。


「ここの蜂蜜菓子」


「はい」


「美味しい」


「レオナルド先輩も」


 リリス。


「お好きです」


「買う?」


「お兄様へ?」


「はい」


「でも」


 リリス。


 止まる。


「今日」


「はい」


「私たちが町へ来たから」


「はい」


「毎回お土産を」


「はい」


「持ち帰らなくても」


「はい」


「よいです」


「はい」


「自分の分を」


「はい」


「選びます」


 大きな進歩。


「何を?」


 エレナ嬢。


「果実の焼き菓子」


「はい」


「一つ」


 皆。


 選ぶ。


 俺。


 塩味。


 ユリウス。


 蜂蜜。


 エレナ嬢。


 小さな果実菓子。


 クラリス嬢。


 焼き菓子。


 ニール。


 柔らかいパン菓子。


 リリス。


 青い花の砂糖飾りがついた。


 小さな菓子。


 店。


 奥。


 喫茶席。


 空いている。


 六人。


 座る。


 従者。


 適切な距離。


 俺の隣。


 今日は。


 ニール。


 リリスは。


 クラリス嬢。


 自然。


 飲み物。


 茶。


 炭酸水。


「ライズは」


 ユリウス。


「甘いもの好きかな」


「知りません」


 俺。


「従者なのに?」


「本人が話していません」


「聞かなかった?」


「一度」


「答えは?」


「必要な私用と休息」


「甘いものの答えじゃない」


「はい」


「好きな食べ物は?」


「知りません」


 言うたび。


 少し。


 胸が。


 ざわつく。


 俺。


 ライズのこと。


 知らない。


 支えてもらって。


 でも。


 知らない。


 リリスが。


 俺を見る。


「アル」


「はい」


「知らないことが」


「はい」


「寂しいですか?」


「はい」


「少し」


「はい」


「でも」


「はい」


「知らなければいけないわけではありません」


「はい」


「話してくださったら」


「はい」


「聞きます」


「はい」


「聞いても?」


「一度」


「はい」


「戻ったら」


「はい」


「好きな食べ物を」


「はい」


「聞いてみます」


「はい」


 その時。


 菓子店の扉。


 開く。


 小さな鈴。


 鳴る。


 入ってきた人。


 黒に近い。


 濃い灰色の上着。


 従者服ではない。


 髪。


 いつもより。


 少し。


 柔らかい。


 帽子。


 手袋。


 紙袋。


 一人。


 店へ。


 俺は。


 最初。


 気づかなかった。


 顔。


 横。


 店員へ。


「予約していた品を」


 声。


 ライズ。


 全員。


 止まる。


 ユリウスの口元。


 蜂蜜菓子。


 止まる。


 リリス。


 目。


 大きく。


 俺。


 心臓。


 一度。


 強く。


 鳴る。


 ライズ。


 休日。


 私服。


 菓子店。


 予約。


 何を?


 だが。


 声を。


 かける?


 本人の休日。


 偶然。


 見つけた。


 挨拶だけ。


 相手が。


 望むなら。


 俺は。


 すぐ立たない。


 見続けない。


 だが。


 ライズが。


 商品を受け取るため。


 店内へ。


 視線。


 俺たちの席。


 合う。


 ライズ。


 一瞬。


 完全に。


 止まる。


 かなり。


 珍しい。


 ライズが。


 判断を。


 止める。


 手。


 受け取る前。


 店員。


 箱。


 空中。


「お客様?」


「失礼いたしました」


 ライズ。


 箱。


 受け取る。


 俺たちへ。


 礼。


 いつもの。


「若様」


「はい」


「皆さま」


「ご機嫌よう」


 リリス。


「こんにちは」


 ユリウス。


「お休みですか」


 俺。


「はい」


「邪魔を」


「いいえ」


 ライズ。


 だが。


 手元。


 大きな箱。


 菓子。


 予約。


 俺は。


 聞きたい。


 何を。


 誰と。


 好き?


 でも。


 本人の時間。


「会えて」


 俺。


 少し。


 迷う。


「嬉しいです」


 言った。


 ライズの目。


 ほんの少し。


 柔らかくなる。


「私もでございます」


「はい」


「ですが」


「はい」


「今日は」


「休みです」


「はい」


「受け取っています」


 ライズ。


 少し。


 驚く。


「ご一緒に?」


 リリス。


 聞きかける。


 止まる。


「ライズ様は」


「はい」


「今、お一人で過ごしたいですか?」


 大切。


 ライズ。


 少し。


 考える。


 時計。


 店。


 箱。


 俺たち。


「本来は」


「はい」


「持ち帰る予定でした」


「はい」


「ただ」


 箱。


「予約していた品が」


「はい」


「想定より大きく」


 珍しい。


 ライズが。


 困っている?


「中は?」


 ユリウス。


「聞かないでください」


 俺。


「はい」


 ライズ。


 一拍。


「若様」


「何だ」


「一つ」


「はい」


「ご相談しても?」


 俺。


 胸。


 少し。


 温かい。


「はい」


「喜んで」


「この店で」


「はい」


「少し」


「はい」


「ご一緒してもよろしいでしょうか」


「もちろん」


「ただし」


 ライズ。


「はい」


「本日の私は」


「はい」


「従者としてではなく」


「はい」


「休暇中の一個人として」


「はい」


「席へ」


「はい」


「座らせていただければ」


 俺の目。


 少し。


 熱い。


「はい」


「喜んで」


 席。


 七人。


 店員。


 椅子。


 一つ。


 追加。


 ライズ。


 俺の隣?


 いつもの位置?


 違う。


 空いている。


 ユリウスの隣。


 ライズ。


 そこへ。


 座る。


 少し。


 皆。


 緊張。


 ライズも。


 たぶん。


 ライズ。


 箱を。


 机へ。


「開けても?」


 俺。


 聞く。


「はい」


「本来」


「はい」


「屋敷で一人でいただく予定でした」


「一人で?」


「はい」


 箱。


 開く。


 中。


 菓子。


 白。


 薄い金色。


 果実。


 蜂蜜。


 上。


 小さな砂糖細工。


 かなり。


 甘そう。


 そして。


 大きい。


 六人分?


 いや。


 八人分。


「ライズ」


 俺。


「はい」


「一人で?」


「はい」


「全部?」


「二日かけて」


「甘いものが」


「はい」


 一拍。


 ライズ。


「好きでございます」


 全員。


 静か。


 次。


 ユリウス。


「かなり?」


「はい」


「どのくらい?」


「休日に」


「はい」


「菓子店を三軒回る程度には」


 俺。


 完全に。


 止まる。


「三軒?」


「はい」


「今日?」


「二軒目です」


「まだ一軒?」


「予定しておりました」


「ライズが?」


「はい」


「一人で?」


「はい」


「甘い菓子を?」


「はい」


「好き?」


「申し上げました」


 珍しい。


 俺のツッコミ。


 追いつかない。


 ライズ。


 完璧。


 冷静。


 菓子店三軒。


 大きな蜂蜜菓子。


 二日。


「若様」


「何だ」


「驚かれましたか」


「かなり」


「嫌でしたか」


 一度。


 大切。


「嫌ではありません」


「はい」


「嬉しいです」


「何が?」


「ライズの好きなものを」


「はい」


「知れたことです」


 ライズの目。


 ほんの少し。


 見開く。


「ただ」


「はい」


「なぜ今まで」


「はい」


「言わなかった?」


 責めない。


 聞く。


 ライズ。


 少し。


 箱を見る。


「従者として」


「はい」


「甘味を好むことが」


「はい」


「問題ではございません」


「はい」


「ですが」


「はい」


「私は」


 珍しく。


 言葉を。


 選んでいる。


「若様の前では」


「はい」


「必要な判断を」


「はい」


「迅速に行う立場でございます」


「はい」


「甘味の前では」


「はい」


「判断が」


 一拍。


「少し遅れます」


 全員。


 見る。


「何を選ぶか?」


 クラリス嬢。


「はい」


「一つに決められない?」


 リリス。


「はい」


「全部欲しくなる?」


 ユリウス。


「はい」


「予算は?」


 エレナ嬢。


「守ります」


「はい」


「でも」


 ライズ。


 少し。


 目を逸らす。


「予定より一品増えることは」


「あります」


 ニール。


 小さく笑う。


「僕も」


「はい」


「本屋で」


「はい」


「同じです」


 空気。


 柔らかい。


 ライズ。


 休暇。


 好きなもの。


 迷う。


 俺の知っている。


 ライズではない?


 いや。


 これも。


 ライズ。


「切りますか?」


 店員。


「はい」


 ライズ。


「皆さまが」


「はい」


「よろしければ」


 箱。


「一緒に」


「はい」


「食べていただけますか」


「はい」


 俺。


「喜んで」


 リリス。


「私も」


「僕も」


 ユリウス。


「もちろんです」


 エレナ嬢。


「はい」


 クラリス嬢。


 ニール。


 頷く。


 大きな菓子。


 七等分。


 店員。


 一瞬。


 迷う。


「八名分として作られておりますが」


「七人」


「はい」


「残り一切れは」


 ライズ。


 すぐ。


「私が」


 全員。


 見る。


「二切れ?」


 俺。


「はい」


「迷いなし」


「これは決めておりました」


 笑い。


 ライズの口元。


 少し。


 上がる。


 見た。


 ライズ。


 笑った。


 いつも。


 微笑む。


 だが。


 今。


 違う。


 好きな菓子。


 友人?


 俺たち。


 一緒。


 自然。


「乾杯は?」


 ユリウス。


「今日は」


 俺。


「ライズの休日に」


 ライズ。


 少し。


 驚く。


「何を?」


 クラリス嬢。


「ライズが」


 リリス。


「好きなものを」


「はい」


「好きだと言ってくださったことに」


 強い。


 ライズの目。


 少し。


 潤む?


 いや。


 ほんの少し。


「それは」


「はい」


「乾杯するほどでは」


「ライズ様」


 リリス。


「はい」


「今日は」


「はい」


「従者ではありません」


「はい」


「受け取ってください」


 俺。


 ライズを見る。


「受け取りますか?」


 ライズ。


 長く。


 一拍。


「はい」


「受け取ります」


 カップ。


 茶。


 炭酸水。


「ライズが」


「はい」


「好きなものを、好きだと言えたことに」


 皆。


 少し。


 上げる。


「乾杯」


 飲む。


 菓子。


 食べる。


 甘い。


 かなり。


 蜂蜜。


 果実。


 クリーム。


 だが。


 軽い。


「甘いです」


 俺。


「はい」


 ライズ。


 嬉しそう。


「美味しい?」


 俺。


「はい」


「とても」


 即答。


 いつも。


 俺の食事。


 記録。


 今日は。


 ライズ。


「ライズ」


 俺。


「はい」


「食べられていますか?」


 ライズ。


 完全に。


 止まる。


 全員。


 見る。


 ライズの目。


 少し。


 揺れる。


「はい」


「何を?」


「蜂蜜菓子」


「はい」


「果実」


「はい」


「クリーム」


「はい」


「二切れ目も」


「これから」


「受け取りました」


 リリス。


 目。


 潤む。


 クラリス嬢。


 笑う。


 ユリウス。


「逆になった」


「はい」


 ライズ。


 ハンカチ?


 持っている。


 だが。


 使わない。


「若様」


「何だ」


「ありがとうございます」


「はい」


「いつも」


「はい」


「聞いてくれるので」


「はい」


「今日は俺が」


「はい」


「聞きました」


「はい」


 沈黙。


 店。


 周囲。


 ほかの客。


 少し。


 こちら。


 見る。


 貴族の子どもたち。


 私服の青年。


 大きな菓子。


 笑い。


 それだけ。


「ライズ様」


 エレナ嬢。


「はい」


「休日は、毎回甘味店へ?」


「毎回ではございません」


「ほかは?」


 一度。


 ライズ。


 考える。


「書店」


「はい」


「音楽堂」


「はい」


「公園」


「はい」


「市場」


「はい」


「一人で?」


「多くは」


「はい」


「友人は?」


 ユリウス。


 俺。


 少し。


 心配。


 聞きすぎ?


 ライズが。


 考える。


「おります」


「はい」


「今日は?」


「別の予定」


「はい」


「いつも一人では」


「ございません」


 俺。


 少し。


 安心。


 だが。


 それも。


 俺の勝手。


「若様」


 ライズ。


「何だ」


「心配されましたか」


「はい」


「一人で」


「はい」


「寂しいのかと」


「はい」


「ですが」


 俺。


「はい」


「一人で過ごすことが」


「はい」


「寂しいとは限りません」


「はい」


「それに」


「はい」


「ライズには友人が」


「はい」


「います」


「おります」


「よかったです」


「はい」


 ライズ。


 少し。


 笑う。


「私も」


「何が?」


「若様に」


「はい」


「友人が増え」


「はい」


「よかったと思っております」


 胸。


 温かい。


「お互い?」


「はい」


 菓子。


 二切れ目。


 ライズ。


 食べる。


 ゆっくり。


 目。


 少し。


 閉じる。


 本当に。


 好き。


「ライズ」


「はい」


「今日」


「はい」


「三軒目は?」


 ライズ。


 判断。


 遅れる。


 皆。


 待つ。


「予定では」


「はい」


「焼き菓子の店へ」


「はい」


「ですが」


「はい」


「二切れ食べました」


「はい」


「それでも?」


「一つだけ」


「行きたい?」


「はい」


 素直。


 俺。


 笑う。


「俺たちも?」


 ユリウス。


「ご一緒されますか」


 ライズ。


 聞く。


「皆は?」


 俺。


 リリス。


「私は」


「はい」


「行きたいです」


 クラリス嬢。


「私も」


 ニール。


「はい」


 エレナ嬢。


「帰宅時間は?」


 確認。


 一時間半。


 残り。


 三十分。


 店。


 近い。


「二十分」


「はい」


「購入のみ」


「はい」


「食べるのは?」


「明日」


 ライズ。


 即答。


「決まっていますね」


「はい」


 店を出る。


 町。


 夕方。


 ライズ。


 私服。


 俺たちと。


 歩く。


 ただし。


 従者として。


 俺の半歩後ろ?


 無意識。


 最初。


 そうなる。


 俺。


 気づく。


「ライズ」


「はい」


「今日は」


「はい」


「隣へ?」


 ライズ。


 少し。


 驚く。


「よろしいので?」


「はい」


「休暇中です」


「では」


 ライズ。


 俺の隣。


 歩く。


 リリス。


 反対側?


 今日は。


 クラリス嬢と。


 歩く。


 皆。


 ばらばら。


 同じ道。


「近い?」


 俺。


 ライズへ。


「適切です」


「従者基準?」


「本日の私の基準で」


 胸。


 温かい。


 三軒目。


 小さな焼き菓子店。


 店先。


 香り。


 バター。


 蜂蜜。


 木の実。


 ライズ。


 入る。


 棚。


 見る。


 判断。


 止まる。


「どれ?」


 俺。


「木の実」


「はい」


「蜂蜜」


「はい」


「塩味」


「はい」


「三つ?」


「一つの予定です」


「はい」


 十分。


 経つ。


 ライズ。


 まだ。


 決まらない。


 珍しい。


 ユリウス。


 楽しそう。


「全部」


「予算内では」


 ライズ。


「はい」


「ですが」


「はい」


「持ち帰り量が」


「はい」


「先ほどの菓子も」


「はい」


「ございます」


「一つ」


 エレナ嬢。


「はい」


「明日食べたいものを」


「明日」


 ライズ。


 見る。


 木の実。


 蜂蜜。


 塩味。


「明日の午後」


「はい」


「茶と」


「はい」


「では」


 木の実。


 選ぶ。


「決まりました」


「はい」


 俺。


「判断が遅れましたね」


「はい」


「甘味の前では」


「はい」


「本当でした」


「左様でございます」


 会計。


 店員。


 包む。


 ライズ。


 満足そう。


 だが。


 その時。


 店の奥。


 小さな。


 限定菓子。


 札。


『本日最後の一箱』


 ライズの目。


 止まる。


 判断。


 また。


 遅れる。


「ライズ」


「はい」


「欲しい?」


「はい」


「予算は?」


「範囲内」


「持ち帰りは?」


「可能」


「食べる日は?」


「明後日」


「買う?」


 ライズ。


 少し。


 迷う。


「若様」


「何だ」


「一つ」


「はい」


「意見を」


「はい」


「買いたいなら」


「はい」


「買ってよいと思います」


「はい」


「でも」


「はい」


「今選んだ木の実菓子を」


「はい」


「本当に食べたいか」


「はい」


「限定だから選ぶのか」


「はい」


「少し考えて」


 ライズ。


 商品。


 見る。


 木の実。


 限定。


 一拍。


「木の実を」


「はい」


「食べたいです」


「はい」


「限定は」


「はい」


「今日は買いません」


「はい」


「受け取りました」


 ライズ。


 少し。


 笑う。


「ありがとうございます」


 店を出る。


 時間。


 帰る。


 ライズ。


 休日。


 まだ。


 屋敷へ。


 戻らない。


「これから?」


 俺。


「公園へ」


「はい」


「少し歩き」


「はい」


「夕方には帰宅します」


「屋敷へ?」


「私の住居へ」


「はい」


 ライズ。


 屋敷内ではない。


 近く。


 使用人用住宅。


 知っている。


 でも。


 行ったこと。


 ない。


「若様」


「何だ」


「今日は」


「はい」


「ここで」


「はい」


「失礼いたします」


 一緒に。


 戻らない。


 休日。


 最後まで。


「はい」


「楽しんでください」


「ありがとうございます」


「明日は?」


「通常勤務へ」


 胸。


 少し。


 安心。


 でも。


「無理なら」


「はい」


「休んでください」


 ライズ。


 目。


 少し。


 大きく。


「はい」


「必要なら」


「はい」


「申し出ます」


「はい」


「また明日」


 一瞬。


 俺。


 ライズへ。


 この言葉。


 「また明日、ライズ」


 ライズ。


 静かに。


 深く。


 礼。


 だが。


 今日は。


 従者ではない。


 礼を。


 途中で。


 少し。


 浅くする。


「また明日、若様」


 別れる。


 俺たち。


 馬車へ。


 リリス。


 隣。


「アル」


「はい」


「嬉しそうです」


「はい」


「ライズが」


「はい」


「甘いものを好きだと」


「はい」


「知れました」


「はい」


「でも」


「はい」


「明日」


「はい」


「菓子を贈りますか?」


 俺。


 少し。


 考える。


「聞いてから」


「はい」


「休日に知った好きなものを」


「はい」


「すぐ仕事の場へ」


「はい」


「持ち込まない」


「はい」


「でも」


「はい」


「いつか」


「はい」


「誕生日や」


「はい」


「贈ってよい日」


「はい」


「一緒に選びたいです」


「素敵です」


「評価では?」


「嬉しいです」


「受け取ります」


 リリス。


 少し。


 笑う。


「今日の好きなところ」


 俺。


 心の中。


 もう。


 決まっている。


 ライズの休みを。


 大切にしようと。


 一緒に。


 考えてくれたところ。


 だが。


 言わない。


 三十日後。


 屋敷へ。


 夕食。


 父上。


 母上。


「町で」


「はい」


「ライズに会いました」


 母上。


 少し。


 驚く。


「休日に?」


「はい」


「声を?」


「挨拶」


「はい」


「一緒に?」


「本人へ聞きました」


「はい」


「菓子店で」


「はい」


「少し」


「はい」


「ライズは?」


 父上。


「甘いものが」


「はい」


「かなり好きです」


 父上。


 止まる。


 母上。


 目。


 大きい。


「知らなかった?」


「知っていた」


 父上。


「父上は?」


「雇用主だからな」


「母上も?」


「ええ」


「なぜ俺だけ」


 言いかける。


 違う。


 俺だけ。


 隠された?


 いや。


 本人が。


 話さなかった。


「ライズが」


 母上。


「あなたへ話さなかったのは」


「はい」


「嫌だからではないわ」


「はい」


「仕事の自分と」


「はい」


「私生活の自分を」


「はい」


「分けたかったのかもしれない」


「はい」


「今日」


「はい」


「本人から話してくれました」


「よかったわね」


「はい」


「嬉しいです」


 父上。


 頷く。


「それで」


「はい」


「明日から」


「はい」


「菓子を大量に用意するのか」


「しません」


「よい」


「本人へ」


「はい」


「仕事中に甘いものの話をしてよいか」


「はい」


「聞きます」


「よい」


「休みのことを」


「はい」


「詳しく?」


「聞きません」


「なぜ」


「話したければ」


「はい」


「ライズが話します」


「よい」


 夕食。


 続く。


 いつもの。


 だが。


 ライズ。


 いない。


 今日。


 最後まで。


 休み。


 別の従者。


 エド。


 俺。


 自分で。


「食べられています」


「はい」


 母上。


「スープ、パン、肉、野菜」


「受け取りました」


 夜。


 自室。


 ライズ。


 いない。


 就寝準備。


 エド。


 丁寧。


 問題なし。


 俺。


 できる。


「若様」


 エド。


「何だ」


「本日の体調記録を」


「はい」


 自分で。


 答える。


「痛みなし。違和感なし。疲れ少し。食欲あり」


「精神状態は?」


「少し寂しい」


「はい」


「でも」


「はい」


「楽しかった」


「はい」


「理由は?」


「ライズの好きなものを知れた」


「記録してよいですか」


 俺。


 少し。


 止まる。


 ライズの私生活。


 記録?


「詳細は」


「はい」


「書かないでください」


「承知いたしました」


「俺の気持ちだけ」


「はい」


「『大切な人の新しい一面を知り、嬉しかった』」


「記録いたします」


「はい」


 正しい。


 ライズの情報。


 俺の記録へ。


 勝手に。


 残さない。


 俺の気持ち。


 だけ。


 机。


 リリスの好きなところ。


 七日目?


 番外編三話で六日目。


 そこから。


 三日。


 九日目。


 今日は。


『大切な人にも休息や自分だけの時間が必要だと、一緒に考えてくれるところ』


 書く。


 そして。


 幸せ記録。


『ライズが甘いものを好きだと知った。休みの日のライズと、同じ席で菓子を食べた。従者としてではなく、一人の人として話してくれた。嬉しかった。』


 書く。


 翌朝。


 食堂。


 ライズ。


 いる。


 いつもの。


 従者服。


 記録帳。


 姿勢。


「おはようございます、若様」


「おはよう、ライズ」


「睡眠は?」


「途中で一度」


「時計は?」


「見なかった」


「体調は?」


「問題なし」


「食欲は?」


「ある」


「受け取りました」


 いつもの。


 戻った。


 でも。


 昨日を。


 知っている。


 ライズの鞄。


 中?


 木の実菓子。


 いや。


 家。


 置いている。


 今日の午後。


 食べる。


 それも。


 ライズの時間。


「ライズ」


「はい」


「昨日」


「はい」


「ありがとうございました」


「こちらこそ」


「はい」


「一つ」


「はい」


「仕事中に」


「はい」


「甘いものの話を」


「はい」


「しても?」


 ライズ。


 少し。


 考える。


「業務に支障のない範囲で」


「はい」


「ただし」


「はい」


「私が迷っている時」


「はい」


「急かさないでいただければ」


「分かりました」


「はい」


「それから」


「はい」


「贈り物を」


「はい」


「してもよい日は?」


 ライズ。


 俺を見る。


「誕生日」


「はい」


「祝い事」


「はい」


「あるいは」


 少し。


 口元。


 笑う。


「一緒に食べたい時」


「はい」


「先に聞いてください」


「はい」


「受け取ります」


 ライズの目。


 少し。


 柔らかい。


「若様」


「何だ」


「昨日」


「はい」


「菓子店で」


「はい」


「食べられていますかと」


「はい」


「聞いてくださったこと」


「はい」


「嬉しゅうございました」


 俺。


 目元。


 熱い。


「はい」


「俺も」


「はい」


「聞けて嬉しかったです」


「はい」


 そこへ。


 リーマス。


 大きな箱。


 食堂へ。


「若様!!」


「何ですか」


「ライズ殿が」


「はい」


「甘味を好まれると伺い」


「誰から!?」


「町の噂です」


「早すぎます!!」


 リーマス。


 箱。


 開く。


 中。


 菓子。


 大量。


 五段。


「多すぎます!!」


「休日の思い出を」


「はい」


「職場でも」


「再現しようと」


「再現しないでください!!」


 ライズ。


 箱。


 見る。


 判断。


 止まる。


 かなり。


 長い。


「ライズ?」


 俺。


「はい」


「迷っていますか」


「はい」


「全部?」


「はい」


「食べたい?」


「はい」


「業務は?」


「ございます」


「では?」


 ライズ。


 深く。


 息。


「一つだけ」


「はい」


「午後休憩に」


「はい」


「残りは」


「使用人全員へ」


「よい判断です」


「ありがとうございます」


 リーマス。


 目。


 潤む。


「ライズ殿が」


「はい」


「私の菓子を」


「はい」


「一つ」


「はい」


「選んでくださった」


「話を大きくしないでください」


「生涯の」


「重いです!!」


 食堂。


 大きな笑い。


 父上。


 母上。


 ライズ。


 俺。


 リーマス。


 皆。


 笑う。


 そして。


 今日も。


 俺は。


 心の底から叫んだ。


 ライズ!!


 あなたが甘いものを大好きでも!!


 菓子店を三軒回っても!!


 限定品の前で判断が遅れても!!


 完璧な従者でなくなるわけではありません!!


 むしろ!!


 好きなものの前で迷うあなたを知れて!!


 俺は嬉しかったです!!


 これからも!!


 休みの日は!!


 俺の予定や記録を気にせず!!


 好きな店へ行って!!


 好きな菓子を選んでください!!


 ただし!!


 リーマス!!


 ライズが甘いもの好きだと知った翌朝に!!


 五段の菓子を用意しないでください!!


 俺の誕生日で!!


 三段でも大きすぎると!!


 学んだばかりですよね!?


「若様」


「何ですか」


「ライズ殿への感謝が」


「はい」


「五段分」


「気持ちを物理的な高さへ変換しないでください!!」


「では三段」


「減らせばいい話ではありません!!」


 ライズは。


 その横で。


 箱の一番上に置かれた、小さな蜂蜜菓子を見つめ。


 ほんの少しだけ。


 判断を遅らせたあと。


「若様」


「何だ」


「こちらも」


「はい」


「午後休憩用に」


「一つだけです」


「承知いたしました」


 と。


 とても嬉しそうに。


 微笑んだのだった。

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