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『公爵令嬢様、距離感が近すぎます! 〜伯爵子息は今日もツッコミが追いつかない〜』  作者: 伊佐波瑞樹


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86/86

番外編 第5話 公爵令嬢様、婚約者の好きなところを数えていたら家族全員に見つかります


 皆さん、こんにちは。


 アマリリス・フルーラです。


 今日は。


 アルではありません。


 私がお話しいたします。


 アルのお誕生日から。


 四日が経ちました。


 あの日。


 私は。


 勇気を出して。


 三十日かけて書いた冊子を。


 アルへお渡ししました。


『アルフレッド様の好きなところ』


 三十頁。


 一日一つ。


 少しずつ。


 少しずつ。


 私の気持ちを書いた冊子です。


 今思い返しても。


 胸が熱くなります。


 アルは。


 一頁ずつ。


 本当に丁寧に読んでくださいました。


 途中で笑い。


 途中で照れ。


 最後の頁では。


 涙を浮かべてくださいました。


『生まれてきてくださったところ』


 あの言葉を読んでくださった時のアルの表情は。


 きっと。


 私は一生忘れません。


 そして。


 アルは。


 私へ。


「俺も書いてみます」


 そう言ってくださいました。


 だから。


 私は思ったのです。


 続きを。


 書いてもいいのではないかと。


 好きなところは。


 三十個では終わりません。


 三十一個目も。


 三十二個目も。


 三十三個目も。


 毎日。


 見つかってしまいます。


 困りました。


 いえ。


 困ってはいません。


 とても幸せな困りごとです。


 だから私は。


 新しい冊子を用意しました。


 表紙は。


 一冊目と同じ。


 深い青色。


 銀色の文字。


 そして。


 少しだけ照れながら。


 私は。


 表紙へ書きました。


『アルの好きなところ②』


 数字を書く時。


 少しだけ。


 手が震えました。


 二冊目。


 それは。


 この先も。


 書き続けたいという願いだからです。


 机の前。


 窓から差し込む午後の日差し。


 庭では。


 庭師の皆さんが。


 夏へ向けた花壇を整えています。


 風が。


 白いカーテンを。


 ゆっくり揺らしました。


 私は羽根ペンを持ちます。


 墨を整え。


 深呼吸。


 そして。


 一頁目。


『困っている方を見つけると、ご自分の予定より先に声を掛けてしまうところ』


 書き終える。


 少しだけ読み返す。


 違う。


 もう少し。


 アルらしく。


 私は書き直しました。


『困っている方を見つけると、考えるより先に足が動いてしまうところ』


 こちらです。


 私は笑います。


「はい」


 これです。


 アルは。


 いつもそう。


 考えてから助けるのではありません。


 気付いた時には。


 もう隣へ行っています。


 それが。


 アルです。


 二頁目。


『美味しいものを召し上がった時、最初に周りをご覧になるところ』


 三頁目。


『褒められると嬉しいのに、照れて視線を逸らしてしまうところ』


 四頁目。


『私が泣きそうになる前に、少しだけ表情の変化へ気付いてくださるところ』


 五頁目。


『お父様へ遠慮なくツッコミを入れてくださるところ』


 ……。


 私は。


 少しだけ考えました。


 これ。


 またアルへ読んでいただいたら。


 笑われるでしょうか。


 でも。


 事実です。


 アルは。


 お父様へ。


 一番たくさんツッコミを入れてくださいます。


 家族全員が。


 助かっています。


 だから。


 書いてもよいと思います。


 私は。


 羽根ペンを置き。


 紅茶を一口。


 静かな時間。


 誰も来ません。


 こういう時間も。


 好きです。


 ……その時でした。


 コンコン。


 扉が叩かれました。


「アマリリス」


 お母様。


「はい」


「入ってもよろしい?」


「もちろんです」


 私は。


 立ち上がりました。


 冊子を。


 机の引き出しへ入れて。


 閉めて。


 扉へ向かう。


 その。


 一歩目。


 引き出しが。


 最後まで閉まっていませんでした。


 冊子が。


 ゆっくり。


 するり。


 床へ滑ります。


 私は。


 振り返りました。


「あ」


 遅い。


 冊子は。


 音もなく。


 床へ落ちました。


 ぱたん。


 表紙が。


 上。


 銀色の文字が。


 午後の日差しで。


 きらりと光ります。


『アルの好きなところ②』


 …………。


 私は固まりました。


 扉が開きます。


「失礼するわね」


 お母様。


 一歩。


 二歩。


 そして。


 視線が。


 床へ。


 止まりました。


 …………。


 …………。


 部屋の中へ。


 長い沈黙が流れました。


 お母様は。


 冊子を見ます。


 私を見ます。


 もう一度。


 冊子を見ます。


 私は。


 動けません。


 恥ずかしい。


 とても。


 恥ずかしいです。


 ですが。


 お母様は。


 すぐには何も仰いませんでした。


 ゆっくりと。


 しゃがみ。


 冊子へ手を伸ばします。


 私は。


 思わず。


 一歩。


 前へ出ました。


「あ……」


 声が出る。


 お母様は。


 冊子を拾い上げました。


 ですが。


 開きません。


 表紙だけを見て。


 そっと。


 私へ差し出してくださいました。


「はい」


 優しい笑顔。


「落ちたわよ」


「……ありがとうございます」


 私は。


 両手で受け取ります。


 胸へ抱きしめました。


 お母様は。


 何も聞きません。


 何も言いません。


 その沈黙が。


 逆に。


 少しだけ。


 照れくさくて。


 私は俯きました。


 すると。


 お母様が。


 ふふっと笑われます。


「二冊目なのね」


「…………はい」


 小さな返事。


 耳まで熱い。


 ですが。


 その次の一言で。


 私はもっと赤くなりました。


「一冊目では足りなかったの?」


 お母様の声は。


 からかうというより。


 とても。


 優しかったです。


 だからこそ。


 私は。


 逃げられませんでした。


「足りませんでした」


 正直に。


 答えます。


「三十個も?」


「はい」


「まだ?」


「はい」


「増えているの?」


「毎日」


「まあ」


 お母様は。


 口元へ指先を添え。


 少しだけ。


 目を細めました。


「幸せなことね」


「……はい」


 胸の前。


 冊子。


 抱く力が。


 少しだけ。


 強くなります。


「ですが」


「はい」


「アルには」


「はい」


「まだ秘密です」


「そうでしょうね」


「ですので」


「はい」


「お母様も」


「読まないでください」


 言えました。


 少し。


 声は震えました。


 それでも。


 自分で。


 言えました。


 お母様は。


 すぐに頷きます。


「もちろんよ」


「本当に?」


「一度だけ聞く?」


「はい」


「本当に」


 その答えに。


 胸が。


 少しだけ。


 軽くなりました。


「これは」


 私は。


 冊子を見る。


「アルだけに」


「はい」


「読んでいただきたいものです」


「ええ」


「私が」


「はい」


「アルを見て」


「はい」


「私が感じたことを」


「はい」


「私の言葉で」


「はい」


「書いたものなので」


 お母様は。


 静かに。


 私の言葉を待ってくださいました。


「家族にも」


「はい」


「見せなくてよいでしょうか」


「もちろん」


「でも」


「はい」


「お母様は」


「何かしら」


「私のことを」


「はい」


「いつも支えてくださいます」


「はい」


「だから」


「はい」


「見せないことが」


 一拍。


「恩知らずのように感じてしまいます」


 言葉にすると。


 胸の奥へあった。


 小さな罪悪感が。


 はっきりしました。


 お母様は。


 すぐに否定しません。


 少し。


 考えて。


 私の近くへ来ます。


「アマリリス」


「はい」


「私があなたを支えるのは」


「はい」


「あなたのすべてを知る権利を得るためではないわ」


 強い。


 でも。


 温かい。


「あなたが困った時」


「はい」


「話したいと思った時」


「はい」


「帰ってこられる場所でいるため」


「はい」


「だから」


 お母様の指先が。


 冊子へ触れない位置で。


 止まります。


「私に見せない大切なものがあっても」


「はい」


「それは」


「はい」


「あなたが私から離れたということではないの」


「はい」


 目が。


 熱くなります。


「アルだけへ渡したい言葉がある」


「はい」


「友人だけに話したいことがある」


「はい」


「あなた一人だけで抱えていたい気持ちがある」


「はい」


「全部」


「はい」


「持っていてよいのよ」


 涙が。


 一粒。


 冊子の表紙へ落ちそうになり。


 私は。


 慌てて。


 顔を少し逸らしました。


 お母様が。


 ハンカチを。


 差し出してくださいます。


「ありがとうございます」


「はい」


「褒められた後も?」


 私が言うと。


 お母様は。


 少し笑いました。


「話は続きます」


「はい」


 涙を拭きます。


 呼吸を。


 整えます。


「お母様」


「何かしら」


「私」


「はい」


「一冊目を」


「はい」


「アルへ渡す前」


「はい」


「とても怖かったです」


「ええ」


「喜んでくださらなければ」


「はい」


「嫌われるような気がしました」


「はい」


「ですが」


「はい」


「アルは」


「はい」


「好きでなくても、無理に喜ばなくてよいと」


「はい」


「私へ言わせてくださいました」


「はい」


「それでも」


「はい」


「選んでくれたことが、もう嬉しいと」


 思い出すだけで。


 胸が。


 温かくなります。


「だから」


「はい」


「二冊目は」


「はい」


「少し違います」


「どのように?」


「アルに」


「はい」


「喜んでいただくためだけではなく」


「はい」


「私が」


「はい」


「好きだと思ったことを」


「はい」


「残したいと思いました」


 お母様の目が。


 潤みました。


「それは」


「はい」


「一冊目より」


「はい」


「もっとあなたの冊子ね」


「はい」


「そして」


「はい」


「アルフレッド様へ渡すもの」


「はい」


「両方」


「はい」


「です」


「素敵ね」


「ありがとうございます」


 褒められた。


 胸が。


 少し。


 むずむずします。


 でも。


 受け取ります。


「お母様は」


「はい」


「今日は何を?」


「ああ」


 お母様は。


 本来の用事を。


 思い出したように。


 小さく笑いました。


「明日の予定について」


「はい」


「確認を」


「はい」


「学園の後」


「はい」


「仕立て屋が来るわ」


「新しい衣装?」


「夏の制服用の補修と」


「はい」


「薄手の外套を」


「はい」


「選ぶだけ」


「はい」


「お父様は?」


「騎士団」


「はい」


「レオナルドは?」


「学園後、剣術訓練」


「はい」


「その後」


 お母様の声が。


 少しだけ。


 楽しそうになります。


「先日の令嬢から届いた書状へ」


「はい」


「返事を書くそうよ」


 胸が。


 一気に。


 明るくなる。


「お兄様が?」


「ええ」


「ご自分で?」


「もちろん」


「内容は?」


 聞いてから。


 止まります。


「……聞きません」


 お母様が。


 微笑む。


「よく止まれたわね」


「聞きたいです」


「はい」


「とても」


「はい」


「ですが」


「はい」


「お兄様のお手紙です」


「そうね」


「お兄様から」


「はい」


「話したい時に」


「はい」


「聞きます」


「ええ」


 嬉しい。


 でも。


 待つ。


 お兄様の。


 言葉。


 時間。


 私のものではない。


「では」


 お母様は。


 扉へ向かいます。


「私は戻るわ」


「はい」


「冊子は」


「はい」


「きちんと隠した方がよいわね」


「今度こそ」


「はい」


「引き出しを」


「はい」


「最後まで閉めます」


「鍵は?」


「かけます」


「鍵を隠す場所は?」


「それは秘密です」


 お母様が。


 一瞬。


 目を大きくして。


 次に。


 嬉しそうに笑いました。


「受け取ります」


「はい」


 扉が。


 閉まります。


 部屋へ。


 静けさが戻る。


 私は。


 冊子を。


 机へ。


 置きました。


 表紙。


『アルの好きなところ②』


 銀色の文字。


 少し。


 照れます。


 でも。


 嫌ではありません。


 もう一度。


 引き出しへ。


 今度は。


 最後まで。


 閉める。


 鍵。


 かける。


 鍵を。


 小さな布袋へ。


 それから。


 私の。


 いつも使う。


 青い薔薇の飾り箱の。


 下。


 ……。


 ここは。


 分かりやすいでしょうか。


 お父様なら。


 青い薔薇関連を。


 すべて確認する可能性があります。


 危険です。


 別の場所。


 本棚。


 恋愛詩集。


 お父様は。


 読まない。


 たぶん。


 ですが。


『娘の読む本を父も理解する』


 と。


 突然。


 読み始めるかもしれません。


 危険です。


 衣装箱。


 お母様は。


 必要な時。


 開けます。


 危険ではありません。


 でも。


 秘密。


 最終的に。


 私は。


 鍵を。


 首から下げました。


 小さな紐。


 服の内側。


 これなら。


 私と。


 一緒です。


「はい」


 安心。


 その時。


 廊下。


 大きな足音。


 近づく。


 速い。


 かなり。


 聞き覚え。


 お父様。


 扉。


 叩かれます。


「リリス!!」


 大きい。


「はい!?」


「入ってよいか!!」


 声。


 焦っている。


 何か。


 あった?


「はい」


 扉。


 開く。


 お父様。


 騎士団服。


 外套。


 少し。


 乱れている。


 後ろ。


 お母様。


 ゆっくり歩いてくる。


 さらに。


 お兄様。


 なぜ。


 家族全員。


「お父様?」


「はい」


「騎士団は?」


「戻った」


「早いですね」


「書類を忘れた」


「はい」


「そして」


 お父様の目。


 机。


 引き出し。


 私。


 胸元。


 何か。


 知っている。


「聞いた」


「何を?」


「二冊目」


 私は。


 完全に。


 止まりました。


 後ろ。


 お母様が。


 目を閉じます。


「あなた」


「はい」


「私は」


「はい」


「冊子の内容を話しておりません」


「はい」


「ですが」


「はい」


「表紙を見たと」


「それも話していません」


 お父様。


 止まる。


「では」


 お兄様。


 冷静に。


 廊下の床を指します。


 そこには。


 小さな。


 青い紙片。


 冊子の表紙へ使った紙。


 切れ端。


 私は。


 机の横を。


 見る。


 切れ端を。


 捨てるため。


 小箱へ入れたはず。


 でも。


 一枚。


 床へ。


 落ち。


 扉の外へ。


 風で。


 出た。


 その紙片。


 銀色の墨。


『アルの好きなところ』


 途中まで。


 見える。


 お父様は。


 それを。


 廊下で。


 拾った。


「証拠です」


「事件ではありません!!」


 思わず。


 アルのような声が。


 出ました。


 全員。


 一瞬。


 止まります。


 私も。


 止まります。


 今。


 ツッコミ。


 しました。


 お兄様の口元が。


 少し。


 動く。


「アルフレッドに似てきた」


「お兄様」


「悪いとは言っていない」


「はい」


 お父様は。


 青い紙片を。


 大切そうに。


 両手で持っています。


「リリス」


「はい」


「二冊目を」


「はい」


「書いたのか」


「書いています」


「何頁?」


「秘密です」


「一冊目は三十」


「はい」


「二冊目も三十?」


「秘密です」


「三冊目は?」


「まだありません」


「まだ?」


 お父様の目が。


 大きくなる。


「では」


「はい」


「いずれ」


「はい」


「作る可能性が」


「あります」


 お父様。


 胸元へ手。


 札。


 取り出す。


『娘の婚約者への気持ちを父の量で測らない』


 読んでいます。


 必要。


 かなり。


「父は」


「はい」


「読まない」


 自分で。


 言いました。


 私は。


 少し。


 安心。


「ありがとうございます」


「はい」


「だが」


「はい」


「表紙だけ」


「読みました」


「はい」


「目次だけ」


「ありません」


「はい」


「頁数だけ」


「秘密です」


「はい」


「重さだけ」


「何のためですか!?」


 また。


 ツッコミ。


 お兄様が。


 完全に。


 顔を逸らしました。


 肩が。


 少し。


 揺れています。


 笑っています。


「お兄様」


「はい」


「笑わないでください」


「すまない」


「はい」


「でも」


 お兄様。


 私を見る。


「よく言えた」


「何を?」


「秘密だと」


「はい」


「父上へ」


「はい」


「繰り返し」


 胸。


 少し。


 温かくなります。


「ありがとうございます」


 お父様は。


 少し。


 寂しそうです。


「父だけ」


「はい」


「知らない」


「お父様だけではありません」


「母上は?」


「表紙だけ」


「レオナルドは?」


「今知りました」


「アルフレッド殿は?」


「冊子の存在も知りません」


「本当に?」


「はい」


「一度だけ聞く」


「本当に」


 お父様は。


 少し。


 安心しました。


「アルフレッド殿も知らない」


「はい」


「では」


「はい」


「父と同じ」


「違います」


 お母様。


 静かに。


 言います。


「何が?」


「アルフレッド様は」


「はい」


「いずれ読めます」


 お父様。


 完全に。


 止まりました。


「父は?」


「読みません」


「一頁も?」


「はい」


「家族代表として」


「ありません」


「安全確認として」


「文字だけです」


「父親として」


「ありません」


 お父様。


 札。


 次。


『娘にも婚約者だけへ渡す言葉がある』


 読む。


 長い。


 沈黙。


「分かった」


 言えました。


 でも。


 顔。


 かなり。


 気になる。


「お父様」


「はい」


「読まないでくださいますか?」


「はい」


「本当に?」


「一度だけ聞く」


「はい」


「本当に」


「ありがとうございます」


 それでも。


 お父様の視線。


 引き出し。


 胸元の鍵。


 気づく。


 見ます。


「鍵?」


「はい」


「どこの?」


「秘密です」


「冊子?」


「秘密です」


「はい」


 お父様。


 息を。


 深く。


 吸います。


 吐きます。


 札。


『娘が秘密と言った時、父は鍵の場所を探さない』


 これも。


 必要です。


 なぜ。


 すでに。


 あるのでしょう。


 番外編第一話の。


 百枚。


 家族関係分類。


 その一枚。


「探さない」


「はい」


「温室も」


「はい」


「衣装箱も」


「はい」


「本棚も」


「はい」


「青い薔薇の飾り箱も」


「候補を全部言わないでください!!」


 完全に。


 私が。


 考えた場所です。


 お父様。


 なぜ。


 分かるのでしょう。


「父だから」


「怖いです!!」


 お母様が。


 口元へ。


 ハンカチ。


 笑っています。


 お兄様も。


 窓の外を見ていますが。


 耳が。


 少し赤い。


「お父様」


「はい」


「冊子は」


「はい」


「アルだけのものです」


 言う。


 今度は。


 はっきり。


「一冊目も」


「はい」


「二冊目も」


「はい」


「その先も」


「はい」


「私が、アルへ渡したいと思ったものは」


「はい」


「アルだけへ」


「はい」


「読んでいただきます」


 お父様。


 私を見る。


 寂しさ。


 でも。


 怒りではない。


「父へは?」


「はい」


「別の言葉があります」


「何だ?」


「お父様の好きなところ」


 お父様。


 止まる。


 お母様も。


 お兄様も。


 一瞬。


 静かになります。


「冊子?」


 お父様。


「作りません」


 すぐ。


 お父様の肩が。


 落ちる。


「ですが」


「はい」


「今」


「はい」


「一つなら」


 私は。


 少し考えます。


 お父様の。


 好きなところ。


 たくさん。


 ある。


 大きすぎる愛。


 札。


 涙。


 心配。


 でも。


 今日は。


「私が秘密だと言った時」


「はい」


「寂しくても」


「はい」


「札を読んで」


「はい」


「止まろうとしてくださるところです」


 お父様の目から。


 涙。


 一粒。


「リリス」


「はい」


「父も」


「はい」


「冊子を」


「作りません」


「はい」


「一頁だけ」


「口頭で十分です」


「はい」


 お父様。


 ハンカチ。


 一枚。


 二枚。


「何枚?」


 お兄様。


「三枚」


「一つで三枚」


「娘から好きなところを」


「はい」


「初めて」


「初めてではありません」


 お母様。


「幼い頃」


「はい」


「『肩車が高いところ』と」


「それ以来」


「はい」


 お父様。


 さらに泣きます。


「お父様」


「はい」


「冊子の話へ戻ります」


「はい」


「読まないでください」


「はい」


「保管場所も」


「探さない」


「はい」


「アルへ渡す時」


「はい」


「後ろから見ない」


「はい」


「感想を」


「聞き出さない」


「はい」


「頁数を」


「数えない」


「はい」


「冊子の厚みを」


「測らない」


「はい」


「お父様」


「はい」


「なぜ全部、考えていたことのように答えるのですか?」


 沈黙。


 お父様。


 視線。


 少し。


 横へ。


「あなた」


 お母様。


「はい」


「考えましたね」


「少し」


「全部ですね」


「はい」


「新しい札が必要かしら」


「作成禁止中です」


 お兄様。


「残り?」


「二日」


 お父様。


 苦しい顔。


「口頭で覚える」


「はい」


 その時。


 扉の外。


 使用人たちの。


 小さな気配。


 声。


 聞こえる。


 家族全員が。


 私の部屋へ。


 集まり。


 お父様の。


 大きな声。


『アルの好きなところ②』


 聞こえた。


 屋敷。


 もう。


 かなり。


 広まっている。


 恥ずかしい。


 顔。


 熱い。


「お母様」


「はい」


「皆さまへ」


「はい」


「冊子のことを」


「はい」


「話さないよう」


「分かったわ」


「ですが」


 お兄様。


 扉を見る。


「すでに」


「はい」


「何名か」


「聞いています」


「はい」


「どうしましょう」


 不安。


 噂。


 アルへ。


 届く?


 秘密。


 壊れる?


「アマリリス」


 お母様。


「はい」


「誰かが知ったことと」


「はい」


「中身を知られることは」


「はい」


「違うわ」


「はい」


「冊子の存在が」


「はい」


「アルフレッド様へ伝わってしまったとしても」


「はい」


「渡す時期は」


「はい」


「あなたが決められる」


「はい」


「内容は」


「はい」


「あなたが守れる」


「はい」


 少し。


 呼吸。


 戻る。


「皆さまへは」


 お母様。


「はい」


「私から」


「はい」


「冊子の内容や保管場所について」


「はい」


「話題にしないよう伝えます」


「はい」


「お父様も」


「はい」


「使用人へ」


「はい」


「命令ではなく」


「はい」


「お願いしてください」


 お父様。


 驚く。


「命令では?」


「はい」


「秘密を守らせるために」


「はい」


「怖がらせない」


「はい」


「話さないでほしい理由を」


「はい」


「伝えてください」


「分かった」


 お父様。


 扉へ。


 向かう。


 でも。


 止まる。


「リリス」


「はい」


「一つだけ」


「はい」


「冊子は」


「はい」


「何冊まで?」


「お父様」


「聞いただけだ」


「答えません」


「はい」


 お父様。


 扉を開けます。


 外。


 使用人。


 何人か。


 廊下の仕事を。


 しているふり。


 完全に。


 聞いていました。


 お父様。


 大きな体。


 でも。


 声は。


 少し。


 抑える。


「皆」


「はい」


「先ほど」


「はい」


「娘の冊子について」


「はい」


「聞こえた者もいると思う」


 使用人たち。


 緊張。


「これは」


「はい」


「娘が」


「はい」


「婚約者へ」


「はい」


「自分の言葉を渡すためのものだ」


「はい」


「内容」


「はい」


「保管場所」


「はい」


「頁数」


「はい」


「それらを」


 一拍。


「詮索しないでほしい」


 命令。


 ではない。


「娘が」


「はい」


「自分で渡せるよう」


「はい」


「守ってほしい」


 使用人たち。


 少し。


 表情が柔らかくなる。


 年嵩の侍女が。


 一歩。


 礼。


「承知いたしました」


「はい」


「皆も?」


「もちろんでございます」


「はい」


 別の使用人。


「アマリリス様のお気持ちは」


「はい」


「アマリリス様のものです」


「ありがとう」


 お父様。


 言えた。


 廊下。


 静か。


 私は。


 部屋の中から。


 聞いていました。


 胸。


 温かい。


「お父様」


 呼ぶ。


 お父様。


 振り返る。


「はい」


「ありがとうございます」


 お父様の目。


 また。


 潤む。


「父の好きなところ」


「はい」


「二つ目」


「増えた」


「皆さまへ、お願いしてくださったところです」


 お父様。


 完全に。


 泣きます。


 使用人たちも。


 何人か。


 目元。


 潤む。


 お兄様。


 小さく。


「父上」


「はい」


「泣き声を」


「はい」


「控えてください」


「努力する」


「はい」


 家族。


 笑い。


 使用人たちも。


 小さく。


 笑います。


 秘密。


 ばれた。


 でも。


 壊れていない。


 皆で。


 守る。


 それも。


 できる。


 お父様。


 お母様。


 部屋を出る。


 お兄様も。


 続こうとする。


「お兄様」


「何だ」


「一つ」


「はい」


「冊子」


「はい」


「気になりますか?」


 お兄様。


 少し。


 止まる。


 冷静。


 だが。


「少し」


 正直。


 言いました。


「読みたいですか?」


「いいえ」


「本当に?」


「一度だけ聞く」


「はい」


「読まない」


「ありがとうございます」


「ただ」


「はい」


「アルフレッドが」


「はい」


「どの頁で」


「はい」


「最も泣くかは」


「はい」


「少し気になる」


「お兄様」


「読まずに予想するだけだ」


「はい」


「お父様と同じです」


「違う」


「何が?」


「私は厚みを測らない」


「比較が低すぎます」


 お兄様の口元。


 少し。


 笑う。


「アマリリス」


「はい」


「書くことは」


「はい」


「楽しいか」


「はい」


「とても」


「なら」


「はい」


「よい」


「はい」


「ただし」


「はい」


「眠る時間は」


「はい」


「守れ」


「はい」


「三十頁を一晩で?」


「書きません」


「父上なら」


「百枚作ります」


「はい」


 二人。


 笑う。


「お兄様」


「何だ」


「お手紙」


 言って。


 止まる。


 聞かない。


「……楽しんで書いてください」


 言い直します。


 お兄様。


 一瞬。


 目を大きく。


 それから。


 少し。


 柔らかく。


「はい」


「楽しみですか?」


 聞いてよい?


 一度。


 お兄様。


 自分から。


「少し」


 答える。


「先日より?」


「少し増えた」


 私の目。


 潤む。


「よかったです」


「はい」


「褒められた後も?」


「私は手紙を書く」


「はい」


 お兄様。


 出ていく。


 扉。


 閉まる。


 部屋。


 再び。


 一人。


 でも。


 先ほどとは。


 違う静けさ。


 冊子。


 秘密。


 家族。


 知った。


 読まない。


 守る。


 私は。


 引き出しを。


 開けます。


 鍵。


 胸元。


 使う。


 冊子。


 取り出す。


 六頁目。


 何を書く。


 お父様?


 違う。


 これは。


 アルの好きなところ。


 今日。


 家族へ。


 冊子を守ると。


 言えた。


 それは。


 アルが。


 俺たちだけのものもあると。


 教えてくださったから。


 六頁目。


『私たちだけの宝物を持っていてよいと、言葉ではなく毎日の態度で教えてくださるところ』


 書きます。


 読み返す。


 少し。


 長い。


 でも。


 今日の。


 気持ち。


 そのまま。


 夕方。


 学園からではなく。


 今日は。


 休養日。


 アルとは。


 会わない。


 書状。


 書く?


 冊子のこと。


 言わない。


 でも。


 今日の家族のこと。


 話したい。


 何を。


『アル。


 本日、お父様が私の秘密を知りそうになりました。


 ですが、私は秘密だと言えました。


 お父様は寂しそうでしたが、読まないと約束してくださいました。


 そして、屋敷の皆さまへ、私の言葉を守ってほしいとお願いしてくださいました。


 私には、家族にも見せない大切なものがあってよいのだと、改めて分かりました。


 アルにも。


 私へ見せない大切なものがあってよいです。


 少し寂しくなるかもしれません。


 ですが。


 その時は、寂しいと話します。


 内容を聞き出さないようにします。


 また明日、正門でお会いできることを楽しみにしています。


 リリス』


 冊子。


 書かない。


 嘘ではない。


 秘密。


 守る。


 書状。


 封。


 ミラへ。


 渡す。


「ミラ」


「はい」


「アルへ」


「承知いたしました」


「内容は」


「読みません」


「はい」


「ですが」


「はい」


「配送確認のため」


「はい」


「宛名だけ」


「もちろんです」


 ミラ。


 封筒。


 受け取る。


 少し。


 笑う。


「アマリリス様」


「何でしょう」


「本日」


「はい」


「ご自分の大切なものを」


「はい」


「ご自分で守られました」


「はい」


「嬉しゅうございます」


 目。


 潤む。


「評価では?」


「喜びです」


「受け取ります」


 ミラ。


 礼。


 部屋を出る。


 夜。


 夕食。


 家族。


 四人。


 お父様。


 お母様。


 お兄様。


 私。


 今日。


 冊子の話。


 誰も。


 しません。


 お父様。


 かなり。


 気にしている。


 視線。


 私の胸元。


 鍵。


 でも。


 聞かない。


 お兄様。


 書状。


 書き終えた?


 聞かない。


 お母様。


 私へ。


 穏やか。


「アマリリス」


「はい」


「食べられていますか?」


「はい。スープ、パン、魚、野菜」


「菓子は?」


「食後に一つ」


「受け取りました」


「お父様は?」


 私が聞く。


「スープ、パン、肉、野菜」


「札は?」


「七枚」


「何を?」


 お父様。


 一枚ずつ。


『娘の秘密を父の不安だけで開けない』


『鍵の場所を探さない』


『婚約者へ渡す言葉を父が先に読まない』


『頁数を数えない』


『冊子の厚みを測らない』


『使用人へ詮索を命じない』


『娘が自分で守れたことを喜ぶ』


「今日だけで」


 私。


「冊子用が七枚」


「既存の札から」


「はい」


「組み合わせた」


「はい」


「新しく作っていませんね?」


「はい」


「本当に?」


「一度だけ聞く」


「はい」


「本当に」


 お父様。


 胸を。


 少し張ります。


「進歩です」


 お母様。


「褒められた後も?」


「夕食は続く」


 お父様。


 肉を。


 食べます。


 皆。


 笑う。


 食後。


 菓子。


 小さな。


 果実菓子。


 お兄様。


 少し。


 上の空。


「お兄様」


「何だ」


「お手紙は?」


 聞いた。


 内容ではない。


 書いたか。


 本人が話したいなら。


「書いた」


「はい」


「明日」


「はい」


「送る」


「楽しみですか?」


「一度だけ」


「はい」


「楽しみだ」


 私。


 涙。


 一粒。


「お兄様」


「泣くな」


「嬉しいです」


「はい」


「お父様」


 私。


 見る。


「聞きたいですか?」


 お父様。


 かなり。


 聞きたい顔。


 でも。


 札。


『息子の話も尋問しない』


「聞かない」


「はい」


「でも」


「はい」


「楽しいなら」


「はい」


「よい」


 お兄様。


 父を見る。


「はい」


「楽しい」


 お父様。


 涙。


 ハンカチ。


 二枚。


「二枚?」


 お兄様。


「息子が」


「はい」


「手紙を」


「はい」


「楽しいと」


「はい」


「父は」


「はい」


「嬉しい」


「はい」


 家族。


 温かい。


 秘密。


 それぞれ。


 でも。


 同じ食卓。


 それで。


 離れない。


 翌朝。


 学園。


 正門。


 アル。


 待っている。


 いつもの。


 濃紺ではない。


 制服。


 胸元。


 懐中時計。


 私。


 近づく。


 一歩。


 二歩。


 三歩。


「ご機嫌よう、アル」


「ご機嫌よう、リリス」


「足の状態を聞いても?」


「はい」


 いつもの。


 確認。


 痛み。


 なし。


 違和感。


 なし。


 睡眠。


 途中で一度。


 時計。


 見なかった。


 食欲。


 あり。


 アルも。


 同じ。


 それから。


 アル。


 私を見る。


「手紙」


「はい」


「読みました」


「はい」


「秘密を」


「はい」


「守れた?」


「はい」


「家族が」


「はい」


「守ってくれました」


「はい」


「よかったです」


「はい」


「少し」


 アル。


 言葉。


 選ぶ。


「何の秘密か」


「はい」


「気になりました」


 胸。


 鳴る。


「はい」


「でも」


「はい」


「聞きません」


「はい」


「リリスが」


「はい」


「話したい時に」


「はい」


「話してください」


 目。


 潤む。


「アル」


「はい」


「寂しくありませんか?」


「少し」


 正直。


「はい」


「でも」


「はい」


「リリスが」


「はい」


「自分で守りたいと思ったものです」


「はい」


「それを」


「はい」


「俺の不安で開けたくありません」


 強い。


 冊子。


 アル。


 知らない。


 でも。


 待つ。


「ありがとうございます」


「はい」


「俺にも」


 アル。


 少し。


 照れます。


「はい」


「リリスへ」


「はい」


「まだ見せないものがあります」


「はい」


「三十日?」


 一度。


 聞いてしまいました。


 アル。


 目。


 少し。


 大きく。


「分かっていますね」


「はい」


「ですが」


「はい」


「聞きません」


「はい」


「待ちます」


「はい」


「少し」


「はい」


「寂しいですが」


「はい」


「楽しみです」


 アル。


 笑う。


「俺も」


「はい」


「リリスの秘密が」


「はい」


「いつか」


「はい」


「俺へ話されるものでも」


「はい」


「話されないものでも」


「はい」


「リリスが大切にできるなら」


「はい」


「よいと思います」


 涙。


 落ちます。


「アル」


「はい」


「今」


「はい」


「袖を」


「はい」


「掴んでも?」


 アル。


 少し。


 自分の袖を見る。


 私を見る。


「はい」


「少しだけ」


「はい」


 指。


 袖。


 そっと。


 つまむ。


 引かない。


 近づきすぎない。


 ただ。


 そこに。


「近いですか?」


「少し」


「はい」


「嫌ですか?」


「嫌ではありません」


「はい」


「でも」


「はい」


「校門です」


「はい」


「そろそろ」


「はい」


 離す。


 一回分。


「アル」


「はい」


「秘密を持っていても」


「はい」


「隣へいてよいですか?」


 アルの目。


 少し。


 柔らかく。


「もちろん」


「はい」


「全部を知らなくても」


「はい」


「隣へいられます」


 胸。


 温かい。


「受け取ります」


「はい」


 そこへ。


 お兄様。


 合流。


 手。


 封筒。


 持っている。


 今日。


 送る手紙。


 私。


 見る。


 すぐ。


 視線。


 戻す。


 聞かない。


 お兄様。


 少し。


 笑う。


「何だ」


「何も」


「はい」


「見すぎです」


「すみません」


 アル。


 少し。


 笑う。


「レオナルド先輩」


「何だ」


「手紙」


「はい」


「楽しく書けましたか?」


 お兄様。


 一拍。


「はい」


「よかったです」


「それ以上は?」


「聞きません」


「よい」


 私。


 嬉しい。


 でも。


 泣きすぎない。


 ハンカチ。


 一枚。


 ミラ。


 差し出す。


「本日一枚目」


「はい」


 教室。


 友人。


 クラリス様。


 エレナ様。


 ユリウス様。


 ニール様。


 皆。


 私を見る。


「何かあった?」


 ユリウス様。


「秘密です」


 言う。


 皆。


 少し。


 驚く。


 でも。


 クラリス様。


 笑う。


「受け取ります」


「はい」


 エレナ様も。


「お話ししたくなった時に」


「はい」


 ニール様。


「聞きます」


「はい」


 ユリウス様。


 少し。


 考える。


「僕も?」


「はい」


「聞かない」


「ありがとうございます」


「でも」


「はい」


「秘密って言われると」


「はい」


「かなり気になる」


「私もです」


 皆。


 笑う。


 秘密。


 気になる。


 でも。


 開けない。


 待つ。


 友人。


 家族。


 婚約者。


 全部。


 同じではない。


 でも。


 皆。


 守ってくれる。


 その夜。


 私は。


 冊子。


 七頁目を。


 開きました。


 今日のアル。


 秘密。


 少し寂しい。


 でも。


 聞かない。


 隣。


 いてよい。


 七頁目。


『私のすべてを知らなくても、隣にいたいと言ってくださるところ』


 書く。


 読み返す。


 涙。


 一粒。


 頁。


 濡らさないように。


 ハンカチ。


 拭く。


 冊子。


 閉じる。


 鍵。


 かける。


 首元。


 鍵。


 今日も。


 私と一緒。


 扉の外。


 お父様の声。


「リリス」


「はい」


「入ってよいか」


「はい」


 扉。


 開く。


 お父様。


 胸元。


 七枚。


 手。


 後ろへ。


 何か。


 隠している?


「お父様」


「はい」


「何を?」


「何でもない」


「見せてください」


「秘密」


 私は。


 止まりました。


 お父様。


 少し。


 得意そう。


「父にも」


「はい」


「秘密が」


「はい」


「ある」


「受け取ります」


 言いました。


 お父様。


 少し。


 驚きます。


「聞かない?」


「はい」


「気にならない?」


「かなり」


「はい」


「でも」


「はい」


「お父様が」


「はい」


「話したい時に」


「はい」


「聞きます」


 お父様の目。


 潤む。


「リリス」


「はい」


「では」


「はい」


「今、話す」


「早いです」


 後ろ。


 出す。


 小さな。


 冊子。


 表紙。


『娘の好きなところ』


 私。


 完全に。


 止まる。


「お父様」


「はい」


「作成禁止期間です」


「札ではない」


「冊子も同じです!!」


「好きなところだ」


「何頁?」


「百」


「多すぎます!!」


 お母様。


 廊下の向こう。


「あなた」


「はい」


「何を作りました?」


「冊子」


「いつ?」


「昼休み」


「公務は?」


「終えた」


「書記官を?」


「手伝ってもらった」


「騎士団の書記官に、娘の好きなところを書かせないでください!!」


 お兄様。


 さらに。


 廊下から。


「父上」


「はい」


「本人の字ではない頁が」


「清書」


「はい」


「没収です」


「なぜ」


「一人で百頁増やしたからです」


「札ではない」


「同じです」


 お父様。


 冊子。


 抱く。


「娘へ」


「はい」


「渡したい」


 私は。


 少し。


 考えます。


 お父様が。


 私を思って。


 書いた。


 百頁。


 多すぎる。


 確実に。


 でも。


 気持ち。


「お父様」


「はい」


「一日一頁ずつ」


「はい」


「読んでも?」


 お父様。


 目。


 大きく。


「全部では?」


「一日一頁です」


「百日」


「はい」


「長い」


「未来は一日ずつです」


 お父様。


 止まる。


 お母様。


 少し。


 笑う。


「よい案ね」


「はい」


 お兄様。


 冊子を。


 確認。


「内容に危険がないか」


「はい」


「母上と私が」


「はい」


「先に見ます」


「なぜ」


「『肩車で王城の屋根まで』などがある可能性」


「ない」


「本当に?」


「一度だけ聞く」


「はい」


「少しある」


「確認します」


「はい」


 私。


 笑う。


 お父様も。


 少し。


 しょんぼり。


 でも。


 嬉しそう。


「お父様」


「はい」


「ありがとうございます」


「はい」


「私も」


「はい」


「お父様の好きなところを」


「はい」


「百頁?」


「一つずつ」


「はい」


「言葉で」


「冊子は?」


「作りません」


「はい」


「でも」


「はい」


「今日の三つ目」


 お父様。


 待つ。


「私だけへ渡す冊子を」


「はい」


「一生懸命作ってくださったところです」


 お父様。


 完全に。


 泣きます。


 冊子。


 危ない。


 お兄様。


 すぐ。


 取り上げる。


「涙で濡れます」


「はい」


「預かります」


「はい」


「父上は?」


「はい」


「ハンカチを」


「はい」


 お父様。


 六枚。


 一気に。


「一枚ずつです!!」


 私のツッコミ。


 屋敷。


 大きな笑い。


 お母様。


 お兄様。


 使用人たち。


 皆。


 笑う。


 その夜。


 お父様の冊子は。


 お母様とお兄様による。


 内容確認へ。


 百頁中。


 正常。


 七十二頁。


 誇張。


 十八頁。


 危険。


 六頁。


 意味不明。


 四頁。


 だったそうです。


 危険頁の一つ。


『娘が望むなら王城の屋根へ肩車で連れていけるところ』


 私は。


 望みません。


 意味不明頁の一つ。


『リリスがリリスであるところ』


 これは。


 お母様が。


「意味不明ではなく、一番大切では?」


 と。


 保留へ。


 最終的に。


 九十四頁へ減らされ。


 一日一頁。


 私が。


 読むことになりました。


 私の二冊目は。


 家族全員に存在だけを知られました。


 ですが。


 内容は。


 誰も。


 知りません。


 そして。


 アルへ渡す日も。


 まだ。


 私だけの秘密です。


 だから。


 今日も。


 私は。


 心の中で。


 そっと叫びます。


 アル!!


 私には!!


 家族にも見せない!!


 アルだけへ渡したい言葉があります!!


 秘密を持っていても!!


 全部を話さなくても!!


 あなたの隣へいてよいと!!


 教えてくださって!!


 ありがとうございます!!


 いつか!!


 二冊目をお渡しする日まで!!


 一日一つずつ!!


 あなたの好きなところを!!


 私の言葉で!!


 大切に書いていきます!!


 そして!!


 お父様!!


 私の冊子を読まないと約束してくださったことは!!


 本当に!!


 嬉しかったです!!


 ですが!!


 対抗するように!!


『娘の好きなところ』を!!


 一晩どころか!!


 昼休みだけで!!


 百頁作らないでください!!


「対抗ではない」


「では何ですか?」


「父の愛だ」


「愛情を頁数で競わないでください!!」


「九十四頁へ減った」


「減ればよい話ではありません!!」


「一日一頁」


「はい」


「百日に満たない」


「そこを残念そうに言わないでください!!」


 お父様は。


 その横で。


 お兄様に没収された六頁を。


 取り戻そうと。


 少しだけ手を伸ばし。


『娘の秘密を父の不安だけで開けない』


 という札を見て。


 自分で。


 手を引っ込めました。


 それを見たお母様が。


 静かに笑い。


 お兄様が。


「父上、進歩です」


 と告げ。


 お父様は。


 また。


 ハンカチを一枚。


 使いました。


 私も。


 笑いました。


 家族全員へ知られても。


 守れる秘密がある。


 知らなくても。


 隣にいられる。


 それは。


 少し前の私には。


 知らなかった幸せでした。


 そして。


 机の引き出しの中。


『アルの好きなところ②』


 は。


 今日も誰にも開かれることなく。


 次の一頁を。


 静かに。


 待っているのでした。



最後まで『公爵令嬢様、距離感が近すぎます! 〜伯爵子息は今日もツッコミが追いつかない〜』を読んでいただき、本当にありがとうございました!


本編、そして番外編までお付き合いいただけたこと、心より感謝申し上げます。


アルフレッドとアマリリスの少し騒がしくて、少し甘くて、たくさん笑える日常を楽しんでいただけていたなら、作者としてこれ以上嬉しいことはありません。


皆さまからいただいた応援やブックマーク、評価、ご感想は、一つひとつが執筆の大きな励みになりました。本当にありがとうございました!


そして、お知らせです。


2日後より、新作

『王太子殿下、その恋は口から出す前に止めてください 〜好きな令嬢に嫌いと言ってしまう残念王子の恋愛相談役になりました〜』

の連載を開始予定です!


好きな令嬢を前にすると、なぜか悪態ばかりついてしまう残念な王太子と、その恋を何とか成就させようと奮闘する相談役が繰り広げる、笑いあり、じれったさありの異世界ラブコメです。


また、現在は

・『君の隣を目指して』(現代青春ラブコメ)

・『忘れられた六つ目の神器に選ばれました』(異世界学園ファンタジー)

も連載しております。


お好みに合いそうな作品がありましたら、ぜひそちらもお立ち寄りいただけると嬉しいです。


これからも、一つひとつの作品を大切に紡いでまいります。


改めまして、『公爵令嬢様、距離感が近すぎます!』を最後まで応援していただき、本当にありがとうございました!


また次の作品でお会いできることを、心より楽しみにしております。

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