番外編 第2話 公爵令嬢様、誕生日を祝いたいだけなのに秘密が大きくなりすぎます
皆さん、こんにちは!!
アルフレッド・シェルザートです。
ガロウ公爵が。
完結した翌日に札を百枚増やし。
その百枚を両家総出で分類し。
一日に持ち歩く札を七枚までと定め。
一週間の新規札作成禁止令が出されてから。
六日が経った。
つまり。
明日で一週間。
ガロウ公爵の札作成禁止期間が終わる。
公爵は。
この六日間。
よく耐えている。
少なくとも、表向きは。
新しい札を一枚も作っていない。
既存の七枚だけを。
毎朝、自分で選び。
胸元へ入れ。
使った札は夜に家族へ報告する。
それ以外の札は。
セレスティア夫人が管理している保管箱へ。
鍵を二つ。
一つは夫人。
もう一つはレオナルド先輩。
ガロウ公爵本人は。
鍵を持っていない。
「父親の札なのに、なぜ父が開けられない」
と。
初日はかなり不満そうだったらしい。
だが。
セレスティア夫人から、
『一人で百枚作った者へ一人で百枚を返さない』
と言われ。
公爵は。
長く黙り。
「分かった」
と答えた。
その後。
紙を見つけるたび。
札へ使える大きさかどうか。
無意識に確認する癖が出たらしい。
執務用紙。
食事の献立。
騎士団の報告書。
庭師の作業表。
果ては。
パンの下へ敷かれていた薄紙まで。
「これは札ではない」
と。
自分へ言い聞かせていたそうだ。
かなり危ない。
しかし。
今日の中心は。
ガロウ公爵ではない。
たぶん。
いや。
そうであってほしい。
今日は。
俺の誕生日だった。
十五歳。
もう十五歳ではあった。
学年も。
年齢も。
物語が始まった頃から変わっていない。
だが。
正確には。
今日。
十五歳の誕生日を迎えた。
貴族の誕生日。
盛大な宴。
舞踏会。
大量の贈り物。
そういったものを想像する者もいるかもしれない。
だが。
シェルザート家では。
毎年。
家族で食事をする。
屋敷の者たちから祝われる。
父上と母上から、小さな贈り物をもらう。
それくらいだ。
派手ではない。
俺も。
それでいい。
夜会のような大きな場は。
もう十分。
友人たちと学園で過ごし。
家族と夕食を取り。
静かに一日を終える。
そのつもりだった。
つもりだったのだ。
朝。
目が覚めた時点では。
俺は。
今日が。
ここまで大きな騒ぎになるとは。
知らなかった。
自室。
朝の光。
窓。
机。
いつも通り。
ただし。
扉の外が。
少し。
騒がしい。
足音。
小声。
何かを運ぶ音。
そして。
「静かにしてください」
ライズの声。
「しかし」
リーマス。
「若様がお目覚めになられる、この記念すべき瞬間を」
「毎年お目覚めになります」
「今年の若様は」
「昨日の若様より一日年を重ねられただけです」
「それが尊いのです」
「声を落としてください」
「はい」
聞こえている。
完全に。
俺は。
寝台の上で。
目を閉じる。
もう少し眠っているふりをしようか。
だが。
リーマスが。
扉の向こうで。
すでに泣いている。
鼻をすする音。
誕生日。
起床前。
感動先行。
番外編第一話から。
何も変わっていない。
俺は。
起き上がる。
足。
痛みなし。
違和感なし。
寝不足。
少し。
昨日。
リリスの様子が。
妙だった。
正門で会った。
ご機嫌ようも言った。
体調確認も。
いつも通り。
だが。
俺が話しかけるたび。
リリスは。
何度も。
ミラを見る。
クラリス嬢を見る。
エレナ嬢を見る。
そして。
何かを言いかけ。
「いいえ」
と。
自分で止めた。
昼休み。
俺が食べられているか聞いた時も。
「はい。スープ、パン、野菜、それから……」
と言い。
急に口を閉じた。
「それから?」
「秘密です」
「食べたものが?」
「違います」
「では?」
「言えません」
秘密。
リリスが。
俺へ。
秘密。
悪いことではない。
全部を話す必要はない。
友人との話。
家族との話。
本人だけの時間。
それぞれ。
ある。
分かっている。
だが。
リリスが秘密と言うたび。
表情が。
あまりにも分かりやすい。
頬が赤くなり。
目が泳ぎ。
ミラを見る。
そして。
なぜか。
「アルは甘いものを、どのくらい召し上がれますか?」
と聞いた。
「普通に」
「一度に?」
「一度に?」
「大きなものでも?」
「何の話ですか」
「何でもありません」
怪しい。
かなり。
だが。
俺の誕生日。
リリスは。
何かを。
準備している。
おそらく。
ほぼ確実。
しかし。
本人が秘密にしている。
なら。
聞かない。
見つけようとしない。
その時を。
待つ。
昨日は。
そう決めた。
決めたのだが。
今朝。
屋敷全体が。
妙に騒がしい。
リリスだけではない。
母上。
父上。
ライズ。
リーマス。
使用人たち。
全員。
何かを。
知っているように見える。
俺だけ。
知らない。
誕生日。
サプライズ。
たぶん。
そういうことだ。
俺は。
水を一口。
扉。
叩かれる。
「若様」
ライズ。
「入ってくれ」
「失礼いたします」
扉が開く。
ライズ。
いつもの従者服。
落ち着いている。
その後ろ。
リーマス。
両手に。
花束。
いや。
花束ではない。
青い薔薇。
白い花。
淡い黄色。
かなり大きい。
俺の上半身ほどある。
「若様ぁぁぁ!!」
「朝から叫ばないでください!!」
「お誕生日」
「はい」
「誠に」
「はい」
「おめでとうございます!!」
リーマス。
完全に泣く。
花束。
揺れる。
花弁。
危ない。
「ありがとうございます」
「若様が」
「はい」
「この世へお生まれになり」
「はい」
「十五年」
「はい」
「私めは」
「あなたが仕え始めたのは途中からですよね」
「心では誕生時から」
「事実を変えないでください」
ライズが。
花束を。
リーマスから。
静かに受け取る。
「花を揺らさないでください」
「はい」
「涙は?」
「止まりません」
「若様」
「何だ」
「本日のリーマス用ハンカチは」
「はい」
「二十四枚用意しております」
「俺より多いですね」
「誕生日でございますので」
「はい」
「若様用は?」
「十二枚」
「通常」
「サプライズ想定で、予備八枚」
「合計二十」
「はい」
「何があるんですか」
ライズ。
一瞬。
黙る。
「本日は」
「はい」
「お誕生日でございます」
「それは知っています」
「以上です」
「何か隠していますね」
「秘密でございます」
ライズまで。
秘密。
「俺の屋敷ですよね」
「はい」
「俺の誕生日ですよね」
「はい」
「俺以外が予定を把握していますね」
「必要な者のみ」
「俺は必要では?」
「主役でございますので」
「主役だけ知らない?」
「サプライズとは、そういうものかと」
「言いましたね」
ライズの目が。
ほんの少し。
動く。
「何をでしょう」
「サプライズと」
「一般論でございます」
「はい」
もう分かった。
だが。
何を。
どこまで。
誰が。
分からない。
俺は。
ライズを見る。
「体調確認を」
「はい」
「睡眠は?」
「途中で一度」
「時計は?」
「見なかった」
「体調は?」
「痛みなし。違和感なし。少し緊張」
「理由は?」
「屋敷全体が秘密を持っているから」
「受け取りました」
「食欲は?」
「ある」
「甘いものは?」
「なぜ聞くんですか」
「朝食量調整のため」
「いつもは聞きません」
「本日は誕生日でございますので」
「はい」
「昼または夕方に」
ライズ。
止まる。
「はい?」
「少し甘いものが出る可能性が」
「少し?」
「一般論です」
「もうやめてください」
朝食。
食堂。
父上。
母上。
二人とも。
普段通りに。
座っている。
だが。
母上の背後。
使用人たちが。
全員。
少し笑っている。
「おはようございます」
「おはよう、アル」
「おはよう」
「誕生日おめでとう」
父上。
「おめでとう、アル」
母上。
「ありがとうございます」
席へ。
朝食。
スープ。
パン。
卵。
果物。
普通。
誕生日用の特別な皿も。
大きな菓子もない。
少し。
安心。
だが。
母上が。
俺を。
見すぎている。
「何ですか」
「十五歳ね」
「昨日も十五歳です」
「年齢表記としては」
「はい」
「でも」
「はい」
「今日が、生まれて十五年」
「はい」
「育ったわね」
母上の目。
潤む。
「朝食は続きます」
「あなたから先に言われたわ」
「はい」
父上が。
小さな箱を。
卓へ。
「アル」
「はい」
「私たちから」
「ありがとうございます」
開ける。
中。
銀色の。
小さな懐中時計。
派手ではない。
蓋。
中央へ。
青い線。
細く。
一本。
「時計」
「はい」
「お前は」
「はい」
「時間を確認しすぎることも」
「はい」
「見ないことで不安になることも」
「はい」
「あった」
「はい」
「だから」
父上が言う。
「時間に追われるためではなく」
「はい」
「必要な時だけ、自分で確かめるためのものだ」
胸。
熱い。
時計。
蓋を開ける。
静かな音。
秒針。
動く。
「裏側を」
母上。
裏。
小さな文字。
『急がなくてよい』
強い。
俺の目元。
熱い。
「ありがとうございます」
「使えそう?」
「はい」
「毎回見る必要はない」
「はい」
「持つだけの日も」
「はい」
「忘れる日も」
「はい」
「それでいい」
「はい」
母上。
微笑む。
「褒められた後も?」
「朝食は続きます」
父上。
笑う。
俺も。
パンを食べる。
だが。
母上が。
少し。
落ち着かない。
父上も。
新聞を。
開かない。
何か。
この後。
ある。
「今日の予定は?」
俺が聞く。
「学園」
父上。
「はい」
「授業」
「はい」
「放課後」
「はい」
「屋敷へ戻る」
「それだけ?」
「それだけだ」
「母上」
「はい」
「それだけですか」
「ええ」
「目を逸らさないでください」
「少し」
「はい」
「夕食が特別かもしれない」
「それは毎年」
「そうね」
「ほかは?」
「ないわ」
即答。
早い。
怪しい。
「リリスは?」
俺が。
わざと。
聞く。
母上の目が。
一瞬。
大きくなる。
「なぜ?」
「昨日、様子が妙だったので」
「そう?」
「秘密と言っていました」
「秘密は」
父上。
「はい」
「本人が話すまで待て」
「正しいですが」
「はい」
「何か知っていますね」
「知っていても」
「はい」
「言わない」
「はい」
「受け取れ」
「分かりました」
待つ。
だが。
家族全員が。
ここまで。
分かりやすいとは。
サプライズ。
成功するのだろうか。
学園へ。
馬車。
ライズ。
向かい。
膝の上。
いつもの鞄。
だが。
鞄とは別に。
大きな布包み。
「それは?」
「学園へ届ける物でございます」
「何を?」
「秘密でございます」
「俺の馬車に積んでいます」
「輸送上の都合で」
「中は?」
「開けないようお願いいたします」
「開けません」
俺は。
布包みから。
視線を外す。
待つ。
尊重。
だが。
布包み。
甘い香り。
少し。
「菓子ですか」
ライズ。
黙る。
「香りがします」
「若様」
「何だ」
「嗅覚が鋭すぎます」
「普通です」
「はい」
「菓子?」
「学園へ着けば」
「分かりますか」
「一部は」
「一部」
大きい。
サプライズ。
俺の誕生日。
リリス。
友人。
学園。
たぶん。
昼。
放課後。
何か。
しかし。
未来へ走らない。
正門。
リリス。
いる。
制服。
青い薔薇。
いつもの位置。
だが。
今日は。
両手を。
背中へ。
隠している。
何かを。
持っている。
紙?
箱?
分からない。
俺が近づく。
リリスの顔。
どんどん赤くなる。
「ご機嫌よう、リリス」
「ご、ご機嫌よう、アル」
「足の状態を聞いても?」
「はい」
「痛みは?」
「ありません」
「違和感は?」
「ありません」
「疲れは?」
「ありません」
「睡眠は?」
「途中で三度」
「三度?」
「はい」
「時計は?」
「一度」
「何かあった?」
「準備を」
言った。
リリスが。
口を押さえる。
「準備?」
「何でもありません」
「今、言いました」
「準備ではありません」
「では?」
「確認です」
「何の?」
「秘密です」
分かりやすい。
ミラが。
後ろで。
少し。
目を閉じる。
「リリス」
「はい」
「俺の誕生日の?」
聞いてしまう。
本人の秘密。
だが。
答えやすい範囲。
リリスは。
完全に固まる。
「一度だけ聞きます」
俺。
リリス。
目を潤ませる。
「はい」
「お誕生日の準備です」
「はい」
「何を?」
「秘密です」
「受け取ります」
リリスの肩が。
少し。
下がる。
「怒りませんか?」
「なぜ?」
「秘密にしたので」
「はい」
「アルへ」
「はい」
「お話ししないことが」
「はい」
「少し怖かったです」
「はい」
「でも」
「はい」
「驚いていただきたくて」
「はい」
「皆さまと」
「はい」
「準備しました」
「はい」
「嬉しいです」
リリスの目から。
涙。
一粒。
「まだ」
「はい」
「何も見ていません」
「はい」
「でも」
「はい」
「準備してくれたことが」
「はい」
「嬉しいです」
リリス。
完全に泣く。
「アル」
「はい」
「強いです」
「必要なので」
「はい」
「でも」
背中。
隠している物。
「今は?」
「はい」
「まだ渡しません」
「分かりました」
「待ってくださいますか?」
「はい」
「喜んで」
リリスの涙。
増える。
ミラ。
ハンカチ。
「アマリリス様」
「はい」
「まだ正門です」
「はい」
「本番前です」
「本番?」
俺。
ミラ。
止まる。
「一般的な意味でございます」
「皆、一般論で隠そうとしますね」
周囲の生徒たち。
少し。
笑う。
「アルフレッド様、お誕生日?」
「そうなの?」
「おめでとうございます」
声。
広がる。
「ありがとうございます」
礼。
いつも話す者。
知らない者。
祝われる。
少し。
照れる。
リリス。
俺の隣。
嬉しそう。
だが。
背中の物。
まだ。
隠す。
教室へ。
扉。
開ける。
通常。
机。
椅子。
黒板。
だが。
黒板の上。
小さな文字。
『アルフレッド様 お誕生日おめでとうございます』
飾り。
紙の花。
青。
銀。
派手ではない。
教室全体。
少しだけ。
誕生日。
生徒たち。
全員。
こちらを見る。
「お誕生日おめでとう!」
声。
重なる。
俺。
止まる。
知らなかった。
クラス全体。
準備。
大きな宴ではない。
でも。
教室。
友人。
皆。
笑っている。
「ありがとうございます」
声。
少し。
遅れる。
目元。
熱い。
「アル」
リリス。
後ろから。
「はい」
「第一の」
「はい」
「サプライズです」
「第一?」
皆。
笑う。
「まだあります」
ユリウス。
机の上。
青い紙帽子。
「被る?」
「被りません」
「一度だけ」
「嫌です」
「受け取られなかった」
「はい」
エレナ嬢。
小さな包み。
「こちらは、皆さまから」
「ありがとうございます」
「授業後に」
「はい」
「開けてくださいませ」
「秘密?」
「はい」
クラリス嬢。
嬉しそう。
ニール。
少し緊張。
皆。
何か。
隠している。
俺だけ。
知らない。
だが。
今。
怖くない。
以前なら。
情報がないこと。
自分だけ外にいること。
不安。
しかし。
今日は。
皆が。
俺を外へ置いているのではない。
俺のために。
少し。
隠している。
それが。
分かる。
「アルフレッド」
ベイル先生。
教室へ。
「はい」
「誕生日だそうですね」
「はい」
「おめでとう」
「ありがとうございます」
「ただし」
「はい」
「授業は通常通りです」
ユリウスが。
「誕生日休暇は?」
「ありません」
「本人でなくても?」
「ありません」
「はい」
笑い。
授業。
始まる。
黒板の飾り。
そのまま。
算術。
歴史。
魔法理論。
俺は。
集中する。
だが。
休み時間のたび。
誰かが。
おめでとうと言う。
小さな紙。
一言。
机の端へ。
『いつもありがとうございます』
『ツッコミ、お疲れさまです』
『また話してください』
『舞踏、格好よかったです』
『リリス様とお幸せに。ただし結婚はまだ』
最後。
誰だ。
公爵の札が。
学園へ感染している。
昼休み。
食堂。
いつもの席。
だが。
今日は。
リリス。
クラリス嬢。
エレナ嬢。
ユリウス。
ニール。
全員。
俺の食事を。
見すぎている。
「食べづらいです」
「何を?」
ユリウス。
「皆、見ています」
「見てない」
「見ています」
リリス。
視線を。
慌てて。
スープへ。
「アル」
「はい」
「食べられていますか?」
「はい。スープ、パン、肉、野菜」
「菓子は?」
「今日はまだ」
全員。
少し。
反応。
「何ですか」
「何でも」
エレナ嬢。
「甘いものは?」
クラリス嬢。
「朝も聞かれました」
「はい」
「食べられます」
「大きいものでも?」
リリス。
「昨日も聞かれました」
「はい」
「大きさによります」
「どのくらい?」
「何があるんですか」
「秘密です」
全員。
笑う。
ニールが。
少し。
心配そう。
「シェルザート君」
「はい」
「驚くのは」
「はい」
「苦手ですか?」
大切。
聞いてくれた。
「内容によります」
「はい」
「大勢に囲まれ」
「はい」
「突然何かをされるのは」
「はい」
「少し苦手です」
リリスの顔。
不安。
「でも」
「はい」
「今日は」
皆。
聞く。
「皆が準備してくれたことを知っています」
「はい」
「必要なら、先に教えてください」
「はい」
「どこで」
「はい」
「何人くらい」
「はい」
「俺が何をする必要があるか」
サプライズ。
全部。
隠す必要はない。
安心に必要なこと。
「放課後」
エレナ嬢が答える。
「はい」
「学園の小講堂です」
「はい」
「参加者は」
クラリス嬢。
「この教室の皆さまと」
「はい」
「先生方の一部」
「はい」
「ご家族」
「家族も?」
「はい」
「フルーラ公爵家の皆さまも」
大きい。
かなり。
「俺がすることは?」
「入場し」
「はい」
「席へ座り」
「はい」
「皆さまからのお祝いを受け取るだけです」
「はい」
「舞踏は?」
「ありません」
「挨拶は?」
「最後に一言だけ」
「分かりました」
「よいですか?」
リリス。
不安。
「はい」
「参加します」
「本当に?」
「一度だけ聞く」
「はい」
「本当に」
リリスの涙。
一粒。
「ありがとうございます」
「こちらこそ」
「秘密を」
「はい」
「全部守れませんでした」
「必要なことを教えてくれました」
「はい」
「驚く部分は?」
「残っていますか」
「はい」
「では」
「はい」
「楽しみにします」
リリス。
笑う。
安心。
午後。
授業。
小講堂。
放課後。
近づく。
俺の胸。
少し。
忙しい。
何が。
誰が。
どこまで。
だが。
場所。
人数。
役割。
分かる。
それだけで。
待てる。
終礼。
鐘。
教室の生徒たち。
先に。
小講堂へ。
俺は。
ベイル先生。
ライズ。
リリス。
残る。
「アル」
「はい」
「今」
「はい」
「少しだけ」
リリス。
背中に隠していたもの。
朝から。
ずっと。
ようやく。
前へ。
小さな封筒。
青い紐。
「これは?」
「私から」
「はい」
「でも」
「はい」
「講堂の後に」
「今は渡さない?」
「はい」
「分かりました」
「先に見せたかったのです」
「なぜ?」
「秘密を持ったまま」
「はい」
「アルの隣へ立つのが」
「はい」
「少し苦しくなったので」
「はい」
「中身はまだ」
「はい」
「秘密です」
「受け取ります」
リリス。
封筒を。
大切に。
胸元へ。
戻す。
全部を。
今。
開けない。
でも。
存在を。
共有。
小講堂。
廊下。
扉前。
中から。
声。
人。
気配。
ベイル先生が。
俺を見る。
「入れますか?」
「はい」
「緊張は?」
「あります」
「戻る合図は?」
胸元。
今日は。
制服。
刺繍なし。
でも。
懐中時計。
ポケット。
『急がなくてよい』
「時計を」
「はい」
「一度」
取り出す。
蓋。
裏。
文字。
見る。
閉じる。
「戻りました」
「では」
扉。
開く。
拍手。
小講堂。
机。
椅子。
花。
青。
銀。
教室の皆。
先生。
父上。
母上。
ガロウ公爵。
セレスティア夫人。
レオナルド先輩。
ミラ。
リーマス。
ライズ。
使用人たち。
皆。
いる。
大広間ほどではない。
でも。
俺にとっては。
十分。
多い。
拍手。
声。
「お誕生日おめでとう!」
俺。
足。
止まりそう。
リリスが。
隣。
「アル」
「はい」
「一緒に?」
「はい」
一歩。
二歩。
三歩。
席。
前。
主役用。
だが。
少し。
目立ちすぎない。
リリスの席。
隣ではない。
友人席。
全員。
近く。
俺。
座る。
拍手。
落ち着く。
司会。
なぜか。
ユリウス。
「本日は」
「はい」
「アルフレッド・シェルザート様の」
「はい」
「十五歳のお誕生日を」
「はい」
「勝手に大規模化して」
「ユリウス様」
エレナ嬢。
「はい」
「皆でお祝いする会です」
笑い。
空気。
柔らかい。
「まず」
「はい」
「友人代表」
クラリス嬢。
立つ。
「アルフレッド様」
「はい」
「お誕生日、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「私は」
「はい」
「以前」
「はい」
「皆さまの輪の外にいると感じることがありました」
「はい」
「ですが」
「はい」
「アルフレッド様は」
「はい」
「私が話したい時」
「はい」
「急がず、待ってくださいました」
「はい」
「今日」
クラリス嬢。
少し。
涙。
「はい」
「皆さまと一緒に、お祝いできることが」
「はい」
「とても嬉しいです」
胸。
熱い。
「ありがとうございます」
拍手。
次。
ニール。
「僕は」
「はい」
「シェルザート君に」
「はい」
「自分で書くことと」
「はい」
「頼ることの両方を」
「はい」
「教えてもらいました」
「はい」
「今、王城で会った方と」
「はい」
「書状を続けています」
「はい」
「友人と呼べる日が」
「はい」
「来るかもしれません」
「はい」
「ありがとうございます」
拍手。
エレナ嬢。
「アルフレッド様」
「はい」
「いつも」
「はい」
「周囲をご覧になり」
「はい」
「誰か一人が置かれていないか」
「はい」
「気づいてくださいます」
「はい」
「ですが」
少し。
笑う。
「はい」
「ご自分が主役の時まで」
「はい」
「周囲ばかり見ないでくださいませ」
笑い。
「今日は」
「はい」
「皆さまのお祝いを」
「はい」
「受け取ってください」
「はい」
「努力します」
「受け取ります、ですわ」
「受け取ります」
拍手。
ユリウス。
「アルフレッド」
「はい」
「ツッコミを」
「はい」
「いつもありがとう」
会場。
笑い。
「主にあなたが原因です」
「はい」
「でも」
一拍。
ユリウス。
少し。
真面目。
「皆が苦しくなりすぎた時」
「はい」
「笑える方へ戻してくれる」
「はい」
「それは」
「はい」
「アルフレッドの大事なところだと思う」
胸。
強い。
「ありがとうございます」
「これからも」
「はい」
「よろしく」
「軽さを半歩」
「はい」
笑い。
先生。
短く。
「誕生日とは」
「はい」
「本人だけの記念日ではありません」
「はい」
「ここまで関わった者が」
「はい」
「共に時間を受け取る日でもあります」
「はい」
「ただし」
「はい」
「祝われる者は」
「はい」
「何かを返さなければならないと思わないこと」
胸。
入る。
「今日は」
「はい」
「受け取るだけでよい」
「はい」
次。
父上。
母上。
朝。
贈り物。
もう。
もらった。
だが。
母上が。
壇上へ。
「アル」
「はい」
「朝も言ったけれど」
「はい」
「生まれてきてくれて」
目。
潤む。
「ありがとう」
強い。
俺。
息。
止まりそう。
「こちらこそ」
言いかける。
先生の言葉。
返さなくてよい。
受け取る。
「はい」
「受け取ります」
母上の涙。
父上。
俺を見る。
「よく育った」
「はい」
「これからも」
「はい」
「急がなくてよい」
「はい」
「自分の時間で」
「はい」
「歩け」
「はい」
懐中時計。
胸元。
重み。
「ありがとうございます」
拍手。
次。
リーマス。
すでに。
壇上へ上がる前から。
泣いている。
「若様ぁぁぁ!!」
「はい」
「私めは」
「はい」
「若様が幼少の砌より」
「仕え始めは途中です」
「心では」
「事実を」
「はい」
会場。
笑い。
「若様が」
「はい」
「ご自身を信じ」
「はい」
「アマリリス様の隣へ」
「はい」
「立たれる姿を」
「はい」
「拝見できたこと」
「はい」
「生涯の」
「重すぎます」
「宝でございます」
「はい」
「ありがとうございます」
リーマス。
俺へ。
抱きつこうと。
一歩。
「触れても?」
「嫌です」
「受け取りました」
大笑い。
ライズが。
壇上の端から。
リーマスを。
下ろす。
「リーマス、使用ハンカチ九枚」
「もう九?」
俺。
「予定内でございます」
「はい」
ガロウ公爵。
来る。
胸元。
七枚。
一週間。
札を増やしていない。
今日。
選んだ札。
『誕生日会は婚約式ではない』
『十五歳の誕生日を成人式へ変えない』
『娘からの贈り物を父が先に確認しない』
『祝いの菓子を騎士団で毒味しない』
『アルフレッド殿の年齢を結婚可能時期へ換算しない』
『父も自分の席で祝う』
『これからも幸せになれ』
すでに。
危ない札。
必要。
公爵が。
壇上。
「アルフレッド殿」
「はい」
「誕生日」
「はい」
「おめでとう」
「ありがとうございます」
「十五歳」
「はい」
「娘と同じ」
「はい」
「婚約者として」
「はい」
「さらに」
札へ。
手。
『十五歳の誕生日を成人式へ変えない』
読む。
「さらに?」
俺。
「健康に」
「はい」
「学び」
「はい」
「友人と」
「はい」
「家族と」
「はい」
「娘と」
「はい」
「幸せを」
「はい」
「見つけてほしい」
まっすぐ。
「ありがとうございます」
公爵の目。
潤む。
「父として」
「はい」
「娘の婚約者が」
「はい」
「生まれた日を」
「はい」
「祝えることが」
「はい」
「嬉しい」
強い。
俺。
目元。
熱い。
「受け取ります」
「はい」
公爵。
抱きしめようと。
腕。
少し。
動く。
札。
『父も自分の席で祝う』
止まる。
礼。
戻る。
「進歩です」
セレスティア夫人。
拍手。
レオナルド先輩。
「アルフレッド」
「はい」
「誕生日、おめでとう」
「ありがとうございます」
「妹を」
一拍。
「よろしく頼む、とは」
「はい」
「今日は言わない」
「はい」
「今日は」
「はい」
「君の誕生日だ」
「はい」
「君自身が」
「はい」
「幸せであれ」
胸。
熱い。
「ありがとうございます」
短い。
拍手。
そして。
最後。
リリス。
立つ。
手。
少し震える。
朝。
背中へ隠していた。
青い紐の封筒。
持っている。
だが。
先に。
話す。
「アル」
友人。
家族。
皆。
いる。
「はい」
「お誕生日」
「はい」
「おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「私は」
「はい」
「何を差し上げれば」
「はい」
「アルが喜んでくださるか」
「はい」
「分かりませんでした」
「はい」
「青い薔薇」
「はい」
「本」
「はい」
「文具」
「はい」
「お菓子」
「はい」
「たくさん」
「はい」
「考えました」
リリスの目。
潤む。
「でも」
「はい」
「私が選んだものを」
「はい」
「アルが喜ばなければ」
「はい」
「嫌われるような気がして」
胸。
痛む。
「それで」
「はい」
「皆さまへ聞きました」
「はい」
「アルが何を好きか」
「はい」
「何を必要としているか」
「はい」
「何なら」
「はい」
「正解か」
正解。
贈り物。
相手。
不正解。
関係。
「でも」
リリス。
クラリス嬢を見る。
母上を見る。
セレスティア夫人。
「皆さまが」
「はい」
「正解を選ぶのではなく」
「はい」
「私が、アルを思いながら」
「はい」
「選ぶことが大切だと」
「はい」
「教えてくださいました」
涙。
一粒。
「それで」
「はい」
「私が」
「はい」
「選びました」
封筒。
俺へ。
差し出す。
「受け取っていただけますか?」
「はい」
「喜んで」
俺。
立つ。
壇上。
リリスの前。
封筒。
両手。
受け取る。
「開けても?」
「はい」
「でも」
「はい」
「中身を見て」
「はい」
「好きでなくても」
声。
震える。
「はい」
「無理に喜ばなくてよいです」
大きな進歩。
贈り物。
評価。
正直。
「分かりました」
「はい」
「でも」
俺。
「はい」
「リリスが」
「はい」
「俺を思って選んでくれたことは」
「はい」
「もう嬉しいです」
リリス。
完全に泣く。
「アル」
「はい」
「開けてください」
封。
青い紐。
外す。
中。
紙。
厚い。
一枚ではない。
小さな冊子。
表紙。
青い紙。
銀の文字。
『アルフレッド様の好きなところ』
俺。
止まる。
会場。
静か。
リリス。
顔。
真っ赤。
「これは?」
「はい」
「私が」
「はい」
「アルの好きなところを」
「はい」
「一日一つ」
「はい」
「書きました」
「何日分?」
「三十日」
ページ。
三十。
開く。
一頁目。
『私が泣いていても、急いで泣き止ませず、待ってくださるところ』
二頁目。
『近すぎる時は、近いと言ってくださるところ』
三頁目。
『私が自分で選べた時、私以上に喜んでくださるところ』
四頁目。
『お父様へ、誰より早くツッコミを入れてくださるところ』
会場。
笑い。
五頁目。
『ご自分が不安な時、少しずつ言葉にしてくださるようになったところ』
六頁目。
『友人の皆さまを、私だけのために遠ざけないところ』
七頁目。
『私を幸せにすると言わず、一緒に幸せを見つけたいと言ってくださったところ』
目。
ぼやける。
ハンカチ。
ライズ。
差し出す。
一枚。
「若様、本日一枚目」
「今言わないでくれ」
笑い。
リリス。
泣きながら。
俺を見る。
「最後の頁を」
「はい」
三十頁目。
『生まれてきてくださったところ』
強い。
俺。
息。
止まる。
母上の言葉。
同じ。
生まれて。
ここに。
リリスと。
会った。
家族。
友人。
皆。
「リリス」
「はい」
「これは」
言葉。
足りない。
「はい」
「とても」
「はい」
「嬉しいです」
リリス。
両手。
胸元。
「本当に?」
「一度だけ聞く」
「はい」
「本当に」
涙。
笑顔。
「ありがとうございます」
「こちらこそ」
「はい」
「俺の好きなところを」
「はい」
「三十個も」
「はい」
「四つ目は公爵閣下へのツッコミですか」
「大切です」
会場。
笑い。
ガロウ公爵。
泣きながら。
「父も役に立った」
「ツッコミの原因です」
「はい」
そして。
リリス。
まだ。
何か。
ある。
視線。
小講堂の後ろ。
扉。
母上。
合図。
使用人たち。
大きな台。
運ぶ。
布。
被っている。
甘い香り。
馬車の布包み。
これ。
台。
中央。
布。
外す。
大きな。
菓子。
円形。
三段。
青い薔薇の飾り。
銀。
白。
果実。
かなり大きい。
教室全員分。
いや。
講堂全員分。
「大きすぎませんか!?」
俺のツッコミ。
小講堂。
笑い。
リリス。
泣きながら。
「アルが」
「はい」
「大きなものでも食べられるか」
「俺一人で食べる大きさではありません!!」
「皆さまと分けます」
「先に言ってください!!」
ユリウス。
「僕、三切れ」
「一人一切れです」
エレナ嬢。
「はい」
クラリス嬢。
笑う。
「アマリリス様が」
「はい」
「最初」
「はい」
「アルフレッド様お一人分として」
「はい」
「この大きさを」
「一人分!?」
リリスの顔。
赤い。
「お祝いの気持ちが」
「はい」
「大きくなりすぎました」
「菓子へ物理的に反映しないでください!!」
会場。
大爆笑。
母上。
目元を押さえながら笑う。
父上も。
セレスティア夫人。
肩を震わせる。
ガロウ公爵。
札。
『誕生日菓子を結婚式用へ増築しない』
「その札も必要だったんですか!?」
「三段から五段へ」
「増やそうとした?」
「父として」
「何の父としてですか!!」
レオナルド先輩。
「母上が止めた」
「よかった」
リーマス。
「若様の十五年を表す十五段も」
「あなたも!?」
「ライズ殿に止められました」
「当然です!!」
ライズ。
記録帳。
「最終的に三段」
「それでも大きいです」
「参加人数へ適正化」
「はい」
菓子。
切る。
皆へ。
一切れずつ。
俺の前。
少し。
大きい。
「主役分です」
リリス。
「食べられますか?」
「はい」
「無理なら?」
「残します」
「はい」
「受け取ります」
乾杯。
何に。
皆。
考える。
ユリウス。
「アルフレッドが生まれたことに」
直球。
胸。
強い。
リリス。
笑う。
「はい」
カップ。
グラス。
「アルフレッドが生まれ」
「はい」
「今日、皆で祝えることに」
声。
重なる。
飲む。
菓子。
食べる。
甘い。
でも。
果実。
軽い。
「美味しいです」
リリスの目。
潤む。
「本当に?」
「一度だけ聞く」
「はい」
「美味しいです」
「よかったです」
「誰が作った?」
俺。
「学園の料理人と」
「はい」
「シェルザート家の料理人」
「はい」
「フルーラ家の菓子職人」
「三家合同?」
「はい」
「大規模すぎます」
「お祝いです」
「はい」
食べる。
話す。
笑う。
俺は。
祝われる。
返さなくてよい。
でも。
嬉しい。
受け取る。
講堂の会。
終盤。
俺。
一言。
立つ。
皆。
見る。
何を。
言う。
「今日は」
「はい」
「ありがとうございます」
短い。
だが。
続ける。
「俺は」
「はい」
「自分の誕生日を」
「はい」
「これまで」
「はい」
「家族と静かに過ごす日だと思っていました」
「はい」
「それも」
「はい」
「今も大切です」
「はい」
「でも」
皆を見る。
「今日」
「はい」
「友人」
「はい」
「先生」
「はい」
「家族」
「はい」
「支えてくださる皆さまに」
「はい」
「生まれたことを喜んでもらえる時間も」
「はい」
「大切だと知りました」
母上。
涙。
リリス。
泣く。
リーマス。
泣き声。
「祝われることは」
「はい」
「少し苦手です」
「はい」
「何かを返さなければと」
「はい」
「考えてしまうからです」
「はい」
「でも」
先生。
見る。
「今日は」
「はい」
「受け取ります」
「はい」
「皆さまの言葉を」
「はい」
「贈り物を」
「はい」
「この大きすぎる菓子も」
笑い。
「一切れずつ」
「はい」
「受け取ります」
拍手。
温かい。
「そして」
リリスを見る。
「リリス」
「はい」
「冊子を」
「はい」
「大切にします」
「はい」
「三十個」
「はい」
「何度も読みます」
「はい」
「でも」
「はい」
「俺が変わった時」
「はい」
「好きなところが変わっても」
「はい」
「構いません」
リリス。
少し。
驚く。
「好きでなくなる?」
「あるかもしれません」
正直。
「はい」
「でも」
「はい」
「その時」
「はい」
「新しく話しましょう」
「はい」
「俺も」
「はい」
「リリスの好きなところを」
「はい」
「今日から」
胸。
鳴る。
「書いてみます」
リリス。
完全に固まる。
次。
涙。
大量。
「アル」
「はい」
「本当に?」
「一度だけ聞く」
「はい」
「本当に」
会場。
拍手。
大きい。
リリス。
泣く。
ガロウ公爵。
泣く。
母上。
泣く。
リーマス。
もう。
泣きすぎ。
「ただし」
俺。
「はい」
「三十日で三百頁にはしません」
「お父様ではありません」
「はい」
笑い。
会。
終わる。
片づけ。
皆。
手伝う。
俺は。
主役だからと。
何もしない?
だが。
できること。
皿を。
運ぼうとする。
エレナ嬢。
「今日は座っていてください」
「でも」
「受け取る日です」
「はい」
座る。
少し。
落ち着かない。
だが。
皆が。
片づけている。
俺のために。
それも。
受け取る。
最後。
人。
少しずつ。
帰る。
教室の友人。
先生。
父上と母上は。
先に屋敷へ。
夕食の準備。
ガロウ公爵たちも。
今夜は。
シェルザート家で夕食。
小講堂。
残る。
俺。
リリス。
ライズ。
ミラ。
レオナルド先輩。
ユリウス。
エレナ嬢。
クラリス嬢。
ニール。
友人。
「第二の」
ユリウス。
「サプライズは?」
「まだ?」
俺。
「ない」
「はい」
「今のは冗談」
「やめてください」
笑い。
友人たち。
それぞれ。
小さな贈り物。
全員から。
一つ。
箱。
開ける。
中。
青い表紙の。
記録帳。
ただし。
白紙。
最初の頁。
『これからの幸せ記録』
全員。
署名。
「これは?」
クラリス嬢。
「アルフレッド様が」
「はい」
「幸せだったことを」
「はい」
「書きたい時に」
「はい」
「書く帳面です」
「毎日?」
「いいえ」
エレナ嬢。
「書きたい時だけ」
「忘れても?」
「はい」
ニール。
「皆さまと」
「はい」
「共有しなくても」
「はい」
「ご自分だけでも」
「はい」
「いっぱいになったら」
ユリウス。
「次を買う」
「はい」
「大きい菓子の記録も」
「それは書きます」
「よし」
俺。
帳面。
開く。
最初。
今日。
何を書く。
まだ。
決めない。
「ありがとうございます」
皆。
笑う。
正門。
夕方。
フルーラ家。
シェルザート家。
馬車。
だが。
夕食は。
俺の屋敷。
リリスも。
一緒に。
乗る?
両家の馬車。
別。
俺とリリス。
正門。
少し。
二人。
「アル」
「はい」
「今日は」
「はい」
「驚きましたか?」
「かなり」
「嫌でしたか?」
一度。
大切。
「嫌ではありませんでした」
「はい」
「緊張しました」
「はい」
「場所と人数を教えてもらえて」
「はい」
「助かりました」
「はい」
「次にサプライズをする時は」
「次も?」
リリス。
少し。
笑う。
「はい」
「また?」
「小さく」
「はい」
「今日より」
「はい」
「小さくします」
「かなり小さくしてください」
「はい」
「菓子は?」
「一段で」
「はい」
「参加者は?」
「相談します」
「はい」
「秘密は?」
「必要なことは話します」
「はい」
「残りだけ」
「はい」
「秘密にします」
「よいと思います」
リリスの目。
潤む。
「アル」
「はい」
「冊子」
「はい」
「本当に」
「はい」
「嬉しかったですか?」
「はい」
「三十頁目」
「はい」
「生まれてきてくださったところ」
「はい」
「それが」
「はい」
「一番」
一拍。
「強かったです」
リリス。
涙。
「私」
「はい」
「アルが生まれた日に」
「はい」
「そこへいませんでした」
「はい」
「出会ったのも」
「はい」
「ずっと後です」
「はい」
「でも」
「はい」
「生まれてくださらなければ」
「はい」
「会えませんでした」
「はい」
「だから」
「はい」
「今日は」
リリス。
笑う。
「私にとっても」
「はい」
「嬉しい日です」
胸。
熱い。
「俺も」
「はい」
「リリスの誕生日を」
「はい」
「同じように」
「はい」
「祝いたいです」
リリスは。
一瞬だけ。
言葉を失った。
それから。
ゆっくりと。
胸へ両手を重ねる。
「私も……ですか?」
「はい」
「一度だけ聞く」
「はい」
「本当に」
「本当です」
俺は頷いた。
「今日」
「はい」
「皆が俺を祝ってくれました」
「はい」
「嬉しかったです」
「はい」
「だから」
「はい」
「リリスにも」
「はい」
「同じように笑ってほしい」
リリスの瞳へ。
夕陽が映る。
金色に。
きらりと光る。
「私」
「はい」
「誕生日は」
「はい」
「毎年」
「はい」
「家族が祝ってくださいます」
「はい」
「でも」
「はい」
「アルに祝っていただくのは」
「はい」
「初めてです」
「そうですね」
「はい」
「楽しみです」
笑う。
涙を浮かべながら。
心の底から。
嬉しそうに。
「ですが」
リリスが。
少しだけ。
首を傾げた。
「アル」
「はい」
「私」
「はい」
「お祝いは」
「はい」
「大きくなりません」
「……」
「たぶん」
「たぶん?」
「努力します」
「努力が必要なんですね」
「はい」
「去年のお父様が」
「比較対象がおかしいです」
「私は」
「はい」
「五段にはしません」
「何の話ですか」
「お菓子です」
「三段でも十分大きかったです」
「二段なら」
「十分です」
「一段なら」
「もっと安心します」
「はい」
リリスは。
くすりと笑う。
「アル」
「はい」
「一段にします」
「約束ですよ」
「はい」
「ですが」
「はい」
「気持ちは」
「はい」
「三段分です」
「それは受け取ります」
「ありがとうございます」
風が吹く。
校門前の木々が。
さらさらと揺れた。
遠くでは。
友人たちが。
笑いながら馬車へ乗っている。
クラリス嬢。
エレナ嬢。
ユリウス。
ニール。
皆。
こちらを見ない。
二人の時間を。
ちゃんと残してくれている。
「アル」
「はい」
「今日は」
「はい」
「幸せでしたか?」
一番大切な質問。
俺は。
少しだけ考え。
胸元の懐中時計へ触れた。
父上と母上からもらった。
『急がなくてよい』
その言葉を思い出す。
「はい」
「とても」
「はい」
「幸せでした」
リリスは。
それを聞いただけで。
もう十分だったらしい。
小さく息を吐き。
安心したように微笑んだ。
「よかったです」
「はい」
「今日の冊子」
「はい」
「三十ページありました」
「はい」
「俺も」
「はい」
「書き始めます」
「はい」
「ですが」
「はい」
「勝負はしません」
「勝負?」
「三十ページを超えるとか」
「はい」
「百ページ書くとか」
「はい」
「そういうことは」
「はい」
「しません」
リリスは。
少し考え。
「安心しました」
「はい」
「お父様でしたら」
「はい」
「三百ページになります」
「なりますね」
「はい」
「札形式で」
「やめてください」
「一日十枚」
「増えてます」
「『娘の好きなところ』」
「想像できます」
「千枚」
「多すぎます」
二人で笑う。
その笑い声が。
夕暮れの校門へ。
優しく響いた。
そこへ。
少し離れた場所から。
「アマリリス様」
ミラの声。
「はい」
「馬車の準備が整いました」
「ありがとうございます」
続いて。
「若様」
ライズ。
「夕食会場も準備完了しております」
「分かった」
二人は。
少しだけ目を合わせる。
そして。
「では」
リリス。
「はい」
「続きは」
「はい」
「夕食で」
「はい」
「また」
「はい」
「お誕生日をお祝いします」
「ありがとうございます」
二人は。
それぞれの馬車へ向かって歩き始める。
だが。
三歩ほど進んだところで。
「アル」
リリスが振り返る。
「はい?」
「おめでとうございます」
一番自然な笑顔で。
一番優しい声で。
もう一度だけ。
祝ってくれた。
俺も振り返る。
「ありがとう」
その短い言葉だけで。
十分だった。
リリスは。
嬉しそうに頷き。
馬車へ乗り込む。
その姿を見送りながら。
俺は胸元の懐中時計を。
もう一度だけ握った。
今日という日は。
贈り物をたくさん受け取った日だった。
時計。
冊子。
記録帳。
友人たちの言葉。
家族の笑顔。
そして。
リリスの、
『生まれてきてくださったところ』
という一文。
きっと。
この先。
何年経っても。
何度読み返しても。
今日という誕生日を。
忘れることはないだろう。
……ただ一つ。
後日。
ガロウ公爵の札保管箱を整理していたセレスティア夫人が。
禁止期間中に作られていたらしい下書きを一枚だけ発見した。
そこには。
『アルフレッド殿十六歳誕生日計画(仮)』
と書かれていた。
もちろん。
その場で没収された。
「あなた」
「はい」
「まだ十五歳のお誕生日が終わったばかりです」
「準備は早い方が」
「早すぎます」
「下書きだけだ」
「禁止です」
「はい」
ガロウ公爵は。
しょんぼりとうなだれた。
それを見ていたレオナルド先輩が。
静かに一言。
「父上」
「はい」
「十六歳まで」
「はい」
「待ってください」
「……はい」
そして翌日。
ガロウ公爵は新しい札を一枚だけ作成した。
『誕生日計画は、誕生日が終わってから一年以内に少しずつ考える』
セレスティア夫人は。
その札だけは。
少し笑いながら。
「これは……まあ、良いでしょう」
と言って。
保管箱へ戻したのだった。
――番外編 第2話・完――




