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『公爵令嬢様、距離感が近すぎます! 〜伯爵子息は今日もツッコミが追いつかない〜』  作者: 伊佐波瑞樹


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82/86

番外編 第1話 公爵閣下、完結した翌日に札を百枚増やします


 皆さん、こんにちは!!


 アルフレッド・シェルザートです。


 物語が終わった翌日。


 ……という言い方は、少しおかしい。


 俺たちの人生は終わっていない。


 青い薔薇の温室で、両家の家族が笑い。


 ガロウ公爵が、


『これからも幸せになれ』


 という、とても素敵な札を掲げ。


 その裏側に、


『できれば明日にでも結婚してほしい』


 と書いていたことが判明し。


 全員から一斉にツッコミを受けた。


 あの夜から。


 一晩が明けた。


 ただ、それだけだ。


 俺は今日もシェルザート伯爵家の自室で目を覚ました。


 窓からは朝の光が差している。


 机の上には、昨夜着ていた制服の上着。


 胸元に青い刺繍はない。


 夜会の濃紺の礼装でもない。


 いつもの制服。


 だが。


 昨日の温室で交わした言葉は。


 きちんと胸の中に残っている。


 一日ずつ。


 半歩ずつ。


 近づきすぎたら話す。


 離れすぎたら呼ぶ。


 完璧にならなくても。


 失敗したら、また決める。


 そして。


 リリスと。


 今日も学園の正門で会う。


 それで十分だった。


 俺は寝台から起き上がる。


 足。


 痛みなし。


 違和感なし。


 眠気は少し。


 昨日は両家の夕食会が長引いた。


 主に。


 ガロウ公爵が、最後の札の裏面について弁明し続けたためだ。


『明日にでも結婚してほしいとは、今すぐ式を挙げろという意味ではない』


『では何の意味ですか』


『父の希望だ』


『希望でも早すぎます』


『書くだけなら』


『札に書けば全員へ見えます!!』


 その後。


 セレスティア夫人が新しい札を出した。


『父の希望も、本人たちの予定より先へ走らない』


 ガロウ公爵は。


 それを三回読み。


 最後に。


『分かった』


 と答えた。


 分かったはずだった。


 少なくとも。


 昨日の夜までは。


 扉が叩かれる。


「若様」


 ライズ。


「入ってくれ」


「失礼いたします」


 入室したライズは。


 いつも通り。


 整っていた。


 従者服。


 髪。


 記録帳。


 そして。


 右手に。


 妙に厚い封筒。


 嫌な予感がする。


「おはようございます」


「おはよう」


「睡眠はいかがでしたか?」


「途中で一度」


「時計は?」


「見なかった」


「夢は?」


「覚えていない」


「体調は?」


「痛みなし。違和感なし。少し眠い」


「食欲は?」


「ある」


「受け取りました」


 通常の確認。


 それから。


 俺は。


 ライズの手元を見る。


「その封筒は?」


「フルーラ公爵家より」


「三通?」


「本日は一通でございます」


「一通にしては厚い」


「はい」


「誰から?」


 ライズは。


 一拍。


「ガロウ公爵閣下より」


 やはり。


「開けても?」


「若様宛でございます」


 俺は受け取る。


 重い。


 紙の重さ。


 一通の書状ではない。


 中に。


 何か。


 かなり入っている。


 封を開く。


 最初に。


 折りたたまれた便箋。


『アルフレッド殿へ。


 昨日は、青い薔薇の温室にて、娘と共に歩むと答えてくれたことを感謝する。


 父として嬉しかった。


 同時に、今後さらに必要になると思われる札を作成した。


 百枚ある。


 一応、分類した。


 必要なものだけを使うつもりだ。


 不要なものがあれば意見を聞きたい。


 なお、セレスティアにはまだ全部見せていない。


 ガロウ』


 俺は。


 そこで。


 便箋を閉じた。


「ライズ」


「はい」


「まだ開けていないことにして返せるか?」


「若様が封を切られましたので」


「では、読まなかったことに」


「すでに冒頭を」


「はい」


 無理だ。


 百枚。


 完結した翌日。


 百枚。


 昨日。


 札を減らすどころか。


 百枚。


 増やした。


「分類とは?」


 ライズが。


 封筒の中を確認する。


「目録がございます」


「目録まで」


「全十分類」


「十?」


「各十枚」


「綺麗に百枚」


「はい」


 俺は。


 額へ手を当てる。


「読みますか?」


「読みたくない」


「しかし」


「はい」


「公爵閣下が『不要なものがあれば意見を』と」


「全部不要では?」


「内容を確認せず判断するのは」


「正しいですが」


 俺は。


 深く息を吸う。


「目録だけ」


「承知いたしました」


 ライズが。


 紙を開く。


「第一分類」


「はい」


「学園生活」


「嫌な予感」


「第二分類」


「はい」


「婚約者同士の会話」


「はい」


「第三分類」


「身体的距離」


「かなり嫌な予感」


「第四分類」


「手紙および贈り物」


「はい」


「第五分類」


「友人関係」


「はい」


「第六分類」


「家族関係」


「はい」


「第七分類」


「将来計画」


「危険」


「第八分類」


「式典および夜会」


「はい」


「第九分類」


「緊急時」


「必要なものもありそう」


「第十分類」


 ライズが。


 少しだけ。


 間を置く。


「孫」


「早すぎます!!」


 朝の自室へ。


 俺の声が響く。


 廊下の向こうで。


 誰かの足音が止まる。


 たぶん。


 使用人。


「まだ十五歳です!!」


「はい」


「結婚もしていません!!」


「はい」


「昨日、札の裏側で注意されたばかりです!!」


「はい」


「孫分類が十枚!?」


「はい」


「内容は?」


「確認いたしますか?」


「一枚だけ」


 ライズが。


 第十分類の束から。


 一番上を読む。


『孫が生まれても、毎朝確認へ行かない』


 俺は。


 黙る。


「必要になりそうなのが悔しい」


「左様でございます」


「次」


『孫が泣いたからと騎士団を呼ばない』


「呼ぶ可能性がありますね」


「はい」


「次」


『孫が初めて歩いた日を国民の祝日にしない』


「公爵権限では無理です」


「王へ相談する可能性が」


「相談もしないでください」


「次」


『孫の婚約者候補を誕生前から選ばない』


「最も早すぎます!!」


「あと六枚ございます」


「もういい」


 百枚。


 まだ朝。


 リリスへ会う前。


 すでに。


 ツッコミが追いつかない。


「ライズ」


「はい」


「セレスティア夫人は知らないと」


「書状には」


「はい」


「知らせるべきでは?」


「当然かと」


「でも」


 公爵から。


 意見を聞きたい。


 書状。


 本人。


 勝手に夫人へ送る?


 家族。


 安全。


 札百枚。


 緊急性。


「父上と母上へ」


「朝食の際に?」


「はい」


「その後」


「はい」


「セレスティア夫人へ連絡するか決める」


「承知いたしました」


 ライズは。


 封筒を。


 俺の机へ。


 置こうとする。


「待ってくれ」


「はい」


「自室に百枚置かないでくれ」


「では」


「朝食へ持っていく」


「承知いたしました」


「俺が?」


「若様宛でございますので」


「はい」


 俺は。


 制服へ着替える。


 鏡。


 いつもの俺。


 だが。


 左手には。


 札百枚入りの封筒。


 妙に。


 重い。


 未来。


 物理的にも。


 重い。


 朝食。


 食堂。


 父上。


 母上。


 二人とも。


 普通の朝。


 新聞。


 花茶。


 スープ。


 パン。


「おはようございます」


「おはよう、アル」


「おはよう」


「それは?」


 母上が。


 すぐに封筒へ気づく。


「ガロウ公爵から」


「今朝も?」


「はい」


「三通では?」


「一通です」


「厚いな」


 父上。


「百枚入っています」


 父上の新聞が。


 ゆっくり下がる。


 母上のカップも。


 止まる。


「何が?」


「札です」


 沈黙。


 食堂。


 朝。


 鳥の声。


 使用人たち。


 全員。


 聞こえている。


 母上が。


 小さく。


「昨日、あれほど」


「はい」


「札を増やしすぎないと」


「言ってはいません」


「そうだったわね」


「はい」


「内容を急がないと」


「はい」


「言いました」


「枚数は?」


「言っていません」


 父上が。


 少し考える。


「隙を突かれたな」


「公爵は戦いをしているのですか」


「本人の中では」


「何と?」


「未来への備え」


「はい」


 母上が。


 封筒を見る。


「全部、ガロウ公爵が?」


「十分類。各十枚」


「綺麗ね」


「褒めないでください」


「文字は?」


「たぶん公爵本人」


「見せて」


「はい」


 俺は。


 目録。


 便箋。


 孫分類を。


 母上へ。


 渡す。


 母上。


 一枚ずつ。


 読む。


『孫が生まれても、毎朝確認へ行かない』


「必要ね」


「母上」


『孫が泣いたからと騎士団を呼ばない』


「必要」


「はい」


『孫が初めて歩いた日を国民の祝日にしない』


「かなり必要」


「はい」


『孫の婚約者候補を誕生前から選ばない』


「絶対に必要」


「全部必要なのですか!?」


 母上が。


 口元へ手を当てる。


「内容は必要」


「はい」


「時期が早すぎる」


「ですよね」


「十年以上」


「もっとかもしれません」


 父上が。


 便箋を読む。


「セレスティア夫人には見せていない」


「はい」


「それは問題だ」


「やはり」


「家庭内で使う札を」


「はい」


「夫人が把握していない」


「はい」


「分類も」


「はい」


「将来計画も」


「はい」


「しかも孫」


「はい」


「見せるべきだ」


「俺から?」


「いや」


 父上が。


 少し考える。


「ガロウ殿へ返事を」


「はい」


「『意見を述べる前に、セレスティア夫人へ共有してください』」


「正しい」


「それから」


「はい」


「一枚だけ」


 父上が。


 便箋を取る。


 何かを書く。


 俺へ。


『札を百枚作ったことを、札で隠さない』


「公爵宛?」


「ああ」


「父上も札を?」


「一枚だけだ」


「増えました」


「必要な一枚だ」


「ガロウ公爵と同じことを言っています」


 母上が笑う。


「シェルザート家にも感染したわね」


「父上」


「一枚だけだ」


「はい」


 朝食。


 続く。


 だが。


 封筒。


 卓の端。


 存在感。


 大きい。


「ほかの分類は?」


 母上が聞く。


「見ますか?」


「朝食中に全部はやめましょう」


「はい」


「一分類だけ」


「どれを?」


「身体的距離」


 俺のパンが。


 止まる。


「母上」


「重要でしょう?」


「重要ですが」


「読んでみて」


「俺が?」


「あなた宛です」


「はい」


 俺は。


 第三分類。


 十枚。


 束。


 一枚目。


『娘が袖を掴んでも、すぐ引き離さない』


「以前の札ですね」


「はい」


 二枚目。


『娘が袖を掴んだ時、父も反対側の袖を掴まない』


 俺は。


 黙る。


「公爵閣下、やろうとしたことがありますよね」


 母上。


「温室で」


「はい」


「両側から引っ張られたら」


「俺の制服が壊れます」


 三枚目。


『娘とアルフレッド殿が半歩近づいても、間へ一歩入らない』


「必要」


 父上。


「はい」


 四枚目。


『二人が手をつないでも、父が上から手を重ねない』


「公爵閣下!!」


 俺の声。


 朝食。


 パン。


 止まる。


「考えたことが?」


 母上。


「回廊の報告を聞いた夜」


「はい」


「家族の絆として」


「はい」


「夫人に止められたのだと思います」


 五枚目。


『短い抱擁へ、父も参加しない』


「昨日必要でした」


「はい」


 六枚目。


『抱擁終了後に距離を測定しない』


「何を測るんですか」


「腕の位置」


「はい」


「秒数」


「はい」


「顔の距離」


「やめてください!!」


 七枚目。


『手を離した後、二人の間へ父の手を置かない』


「壁ですか」


「はい」


 八枚目。


『娘が婚約者の肩へ寄りかかっても、騎士団長として姿勢を正さない』


「将来の可能性」


「はい」


 九枚目。


『二人が隣へ座っても、椅子の間へ父用の補助椅子を入れない』


「友人茶会で考えましたね」


「はい」


 十枚目。


『距離が近いと思っても、本人たちが確認済みなら父の基準で離さない』


 俺は。


 最後の一枚を。


 少し長く見る。


 冗談の札ばかり。


 だが。


 最後。


 大切。


 本人たちが。


 聞いた。


 確認した。


 それなら。


 父の不安だけで。


 離さない。


「この一枚は」


 俺が言う。


「はい」


「必要だと思います」


 母上が。


 静かに頷く。


「ええ」


 父上も。


「そうだな」


「でも」


「はい」


「九枚の暴走案があったから書かれた札です」


「はい」


「公爵閣下は」


「はい」


「自分が考えたことを、全部札にして止めようとしている」


「はい」


「それ自体は」


 一拍。


「悪くない?」


 母上が言う。


「悪くはないわ」


「百枚でも?」


「一度に作る必要はない」


「はい」


「でも」


「はい」


「自分の不安や衝動を」


「はい」


「言葉にして見えるようにする」


「はい」


「それは」


「はい」


「公爵なりの努力よ」


 胸。


 少し。


 温かくなる。


 札。


 笑い。


 暴走。


 だが。


 ガロウ公爵は。


 止まるために。


 作っている。


 見守るために。


 自分へ言い聞かせている。


 百枚。


 多すぎる。


 確実に。


 だが。


 全部を。


 ただ笑って終えるのも。


 違う。


「返事は」


 俺が言う。


「はい」


「まず、セレスティア夫人へ見せる」


「はい」


「百枚全部は持ち歩かない」


「はい」


「必要な時に」


「はい」


「必要な札を」


「はい」


「十枚以内」


「十?」


 父上。


「多いですか」


「ガロウ殿なら」


「はい」


「最初は二十」


「父上」


「段階的に」


「増やさないでください」


 母上が笑う。


「十五枚」


「間を取らないでください」


「では」


「はい」


「本人と夫人で決めてもらいましょう」


「正しいです」


 朝食後。


 返事。


 父上の一枚。


 俺の書状。


『ガロウ公爵閣下。


 百枚、受け取りました。


 内容には、必要だと思うものもありました。


 特に、本人たちが確認した距離を、父親の基準だけで離さない、という札は大切だと思います。


 ただし。


 まず、セレスティア夫人へ百枚すべてを見せてください。


 また、孫分類は早すぎます。


 十年以上保管してください。


 持ち歩く枚数は、ご家族で相談してください。


 そして。


 百枚作ったことを隠さないでください。


 アルフレッド』


 最後。


 父上の札。


『札を百枚作ったことを、札で隠さない』


 同封。


 送る。


 学園へ。


 正門。


 リリス。


 制服。


 いつもの。


 だが。


 今日は。


 少し。


 顔が疲れている。


 目元。


 薄く。


 眠そう。


「ご機嫌よう、リリス」


「ご機嫌よう、アル」


「足の状態を聞いても?」


「はい」


「痛みは?」


「ありません」


「違和感は?」


「ありません」


「疲れは?」


「少しあります」


「睡眠は?」


「途中で」


 一拍。


「五度起きました」


「五度?」


「はい」


「時計は?」


「二度見ました」


「何かあった?」


 リリスが。


 俺を見る。


 ミラを見る。


 レオナルド先輩は。


 少し離れた場所。


 かなり。


 疲れた顔。


「お父様が」


「はい」


「札を」


「はい」


「夜中に」


「はい」


「百枚」


 知っている。


 だが。


 本人から。


 聞く。


「作っていました」


「やはり」


「アルも?」


「今朝、届きました」


「百枚全部?」


「はい」


「分類表も」


「はい」


 リリスが。


 両手で顔を覆う。


「お父様」


「セレスティア夫人には?」


「今朝」


「はい」


「見つかりました」


「隠していましたか」


「温室の予備道具棚へ」


「なぜそこへ」


「青い薔薇の管理札に見せるため」


「札で隠しています!!」


 正門前。


 俺の声。


 周囲の生徒。


 振り返る。


 笑い。


「母上が」


 レオナルド先輩が言う。


「はい」


「温室の道具棚を確認した」


「なぜ?」


「父上が夜中に三度、温室へ行ったからだ」


「怪しすぎます」


「はい」


「百枚を」


「はい」


「花の管理用札の間へ」


「はい」


「混ぜていた」


「内容は?」


 レオナルド先輩。


 小さな紙束を出す。


「母上が、必要性を確認中」


「何枚通りました?」


「現時点で」


「はい」


「十四枚」


「百枚中?」


「ああ」


「少ない」


「保留が二十二」


「はい」


「時期尚早が十」


「孫」


「主に」


「はい」


「重複が三十一」


「似た札が多い?」


「『父が入らない』『父が割り込まない』『父が間へ立たない』」


「全部同じです」


「父上は違うと」


「何が違うんですか」


「入るのは空間」


「はい」


「割り込むのは会話」


「はい」


「間へ立つのは物理」


「細かい!!」


 リリスが。


 泣きながら笑う。


 疲れている。


 でも。


 笑える。


「残りは?」


「危険が九枚」


「危険?」


「『娘の危機には騎士団長として判断する』」


「必要では?」


「裏面」


 レオナルド先輩。


 札を裏返す。


『危機かどうかは父が決める』


「危険です!!」


「はい」


「ほかは?」


「意味不明が十四枚」


「例えば?」


『娘が婚約者と同じ方向を見ていても、父は反対方向から見守る』


「何ですか」


「本人も説明できなかった」


「はい」


 リリスが。


 小さく息を吐く。


「お父様」


「はい」


「昨日」


「はい」


「とても幸せそうでした」


「はい」


「だから」


「はい」


「不安になったのでしょうか」


 俺は。


 少し考える。


 終わり。


 物語。


 節目。


 幸せ。


 その後。


 もっと。


 守りたい。


 備えたい。


 未来。


 全部。


「たぶん」


 俺は言う。


「はい」


「昨日、皆で」


「はい」


「これからも幸せになれと」


「はい」


「言いました」


「はい」


「これからが」


「はい」


「急に増えたように見えたのかもしれません」


 リリスが。


 静かに聞く。


「増えた?」


「はい」


「学園」


「はい」


「卒業」


「はい」


「式典」


「はい」


「結婚」


「はい」


「生活」


「はい」


「家族」


「はい」


「公爵閣下は」


「はい」


「全部を一晩で守ろうとした」


 百枚。


 未来。


 今。


 作る。


 リリスの目が。


 少し潤む。


「お父様らしいです」


「はい」


「多すぎますが」


「多すぎます」


「孫は?」


「早すぎます」


「はい」


「でも」


 リリスが。


 少し笑う。


「お父様も、未来を楽しみにしてくださっているのですか?」


 胸。


 温かい。


 暴走。


 不安。


 でも。


 未来を。


 想像する。


 娘が。


 幸せに。


 生きている未来。


「たぶん」


「はい」


「かなり」


「はい」


「楽しみにしています」


 リリスの涙。


 一粒。


「嬉しいです」


「はい」


「でも」


「はい」


「百枚は多いです」


「はい」


「一緒に減らしますか?」


「お母様が」


 レオナルド先輩。


「今夜、家族会議を開く」


「公爵家で?」


「ああ」


「俺は?」


「父上が、アルフレッドにも参加してほしいと」


 俺は。


 止まる。


「なぜ」


「札の対象だから」


「対象?」


「婚約者関連が三十枚以上」


「参加します」


 仕方ない。


 本人。


 影響。


 意見。


「シェルザート伯爵夫妻も」


「両家会議?」


「ああ」


「百枚の札で?」


「ああ」


「昨日も両家夕食会でした」


「今日は札削減会議だ」


 リリスが。


 泣きながら。


「二日連続です」


「はい」


「でも」


「はい」


「皆さまと会えます」


 少し。


 嬉しそう。


「会議です」


「はい」


「お茶もありますか?」


「母上が用意すると」


「菓子は?」


「少し」


「楽しみです」


「目的を忘れないでください」


「はい」


 学園。


 午前。


 教室。


 クラリス嬢たち。


 百枚の札。


 すでに。


 噂。


「本当に百枚?」


 ユリウス。


「はい」


「見たい」


「見世物ではありません」


「面白そう」


「家族の努力です」


 リリスが。


 言う。


 ユリウスが。


 少し止まる。


「そうだね」


「はい」


「でも」


「はい」


「少し面白い」


「否定できません」


 エレナ嬢。


「必要な札を選ぶのですか?」


「今夜」


 俺。


「両家で」


「大変ですわね」


「はい」


「分類は?」


「十」


「孫まで」


「早いです」


 ニールが。


 小さく。


「でも」


「はい」


「僕の父も」


「はい」


「姉の将来を」


「はい」


「かなり先まで考えます」


「はい」


「不安なのかもしれません」


 クラリス嬢も。


「言葉にできない不安を」


「はい」


「札にしているなら」


「はい」


「全部捨てるのは」


「はい」


「少し違う気もします」


 俺は。


 頷く。


「必要なもの」


「はい」


「今は早いもの」


「はい」


「同じ意味のもの」


「はい」


「危険なもの」


「はい」


「分けます」


「ガロウ公爵様も?」


「参加します」


「捨てられますか?」


 全員。


 少し。


 黙る。


「難しいと思います」


 俺。


 笑い。


 だが。


 クラリス嬢が。


 静かに言う。


「捨てなくても」


「はい」


「保管箱へ入れるものも」


「はい」


「あるのでは?」


「保管」


「はい」


「今は使わない」


「はい」


「でも」


「はい」


「書いた気持ちは、なかったことにしない」


 強い。


 リリスが。


 クラリス嬢を見る。


「お父様の気持ちも?」


「はい」


「早すぎるものも」


「はい」


「今、使わないだけです」


「はい」


「未来に使うかもしれません」


「孫の祝日札は?」


「それは」


 クラリス嬢が。


 少し考える。


「使わないと思います」


 教室。


 笑い。


 先生が。


 入ってくる。


「朝から、何の会議ですか」


「札百枚です」


 ユリウス。


 先生。


 止まる。


「誰の?」


「ガロウ公爵閣下」


 俺。


「昨日の今日で?」


「はい」


 先生が。


 長く。


 目を閉じる。


「授業後にしてください」


「はい」


「ただし」


「はい」


「一つだけ」


 先生は。


 黒板へ。


『不安を増やした数と、必要な支えの数は同じではない』


 書く。


 皆。


 見る。


「百個不安があっても」


「はい」


「百個の対策が必要とは限りません」


「はい」


「一つの言葉」


「はい」


「一人の相談相手」


「はい」


「一度の休息」


「はい」


「それで、複数の不安が落ち着くこともあります」


「はい」


「札を減らす際」


「はい」


「内容だけでなく」


「はい」


「公爵閣下が、何を怖がっているかを」


 先生が言う。


「聞いてください」


 胸へ。


 入る。


 百枚。


 一枚ずつ。


 笑える。


 だが。


 その下。


 怖い。


 娘。


 離れる。


 未来。


 自分の役目。


 不要になる。


 忘れられる。


 あるのかもしれない。


「はい」


 リリスが。


 答える。


「聞きます」


 授業。


 続く。


 昼。


 放課後。


 今日は。


 両家会議。


 馬車。


 フルーラ家。


 昨日と同じ。


 温室ではなく。


 小応接室。


 中央。


 大きな卓。


 その上に。


 札。


 百枚。


 並んでいる。


 壮観。


 いや。


 異常。


 学園生活。


 婚約者同士の会話。


 身体的距離。


 手紙。


 友人。


 家族。


 将来。


 式典。


 緊急時。


 孫。


 十の束。


 その向こう。


 ガロウ公爵。


 少し。


 気まずそう。


 セレスティア夫人。


 穏やか。


 だが。


 目が笑っていない。


 レオナルド先輩。


 疲れている。


 父上。


 母上。


 俺。


 リリス。


 ライズ。


 ミラ。


 家族会議。


「あなた」


 セレスティア夫人。


「はい」


「百枚」


「はい」


「作りましたね」


「はい」


「私へ」


「はい」


「相談せず」


「はい」


「温室の道具棚へ」


「はい」


「花の管理札に混ぜ」


「はい」


「隠しましたね」


 ガロウ公爵。


 一拍。


「隠したのではない」


 全員。


 見る。


「保管した」


「同じです」


 夫人。


「はい」


 公爵。


 受け取る。


「なぜ」


 セレスティア夫人が聞く。


「はい」


「百枚も?」


 ガロウ公爵は。


 札を見る。


 すぐ。


 答えない。


 手。


 膝。


 大きな体。


 だが。


 少し。


 小さく見える。


「昨日」


「はい」


「終わった」


「何が?」


「一つの物語が」


 俺たち。


 少し。


 黙る。


「リリスとアルフレッド殿が」


「はい」


「これから」


「はい」


「一日ずつ歩くと」


「はい」


「言った」


「はい」


「父も」


「はい」


「これからも幸せになれと」


「はい」


「言った」


「はい」


「その後」


 公爵の声。


 少し。


 低くなる。


「これからが」


「はい」


「急に」


「はい」


「長く見えた」


 リリスが。


 父を見る。


「学園」


「はい」


「卒業」


「はい」


「結婚」


「はい」


「家」


「はい」


「子」


「お父様」


「はい」


「早いです」


「分かっている」


「はい」


「だが」


「はい」


「父が知らない場所へ」


「はい」


「お前の人生が」


「はい」


「続いていく」


 静か。


 応接室。


 百枚。


「嬉しい」


「はい」


「だが」


「はい」


「怖い」


 リリスの目。


 潤む。


「父は」


「はい」


「どこまで」


「はい」


「見守ればよい」


「はい」


「どこから」


「はい」


「離れればよい」


「はい」


「分からない」


 札。


 百枚。


 答え。


 全部。


 作ろうとした。


 これを。


 してはいけない。


 あれを。


 しない。


 ここで。


 止まる。


 全部。


 未来の自分へ。


「だから」


 公爵。


「札を作った」


 短い。


 正直。


 セレスティア夫人の表情が。


 少し。


 柔らかくなる。


「なぜ」


「はい」


「私へ相談しなかったのですか?」


 ガロウ公爵。


 黙る。


「百枚も作ったと」


「はい」


「言えば」


「はい」


「笑われると思った」


 俺は。


 少し。


 胸が痛む。


 実際。


 笑った。


 ツッコミ。


 した。


 でも。


 気持ちまで。


 笑いたいわけではない。


「お父様」


 リリス。


「はい」


「少し」


「はい」


「面白いです」


「はい」


「百枚は」


「はい」


「多すぎます」


「はい」


「孫は」


「早すぎます」


「はい」


「国民の祝日は」


「しない」


「はい」


「でも」


 リリスが。


 父を見る。


「お父様が」


「はい」


「私の未来を」


「はい」


「怖いくらい」


「はい」


「大切に考えてくださったことは」


「はい」


「笑いません」


 公爵の目から。


 涙。


 一粒。


「リリス」


「はい」


「私は」


「はい」


「お父様が、見えなくなる場所へ行くかもしれません」


「はい」


「でも」


「はい」


「お父様が、私の父でなくなるわけではありません」


「はい」


「毎日会わなくても」


「はい」


「全部話さなくても」


「はい」


「大切です」


 公爵の涙。


 増える。


「札がなくても?」


「はい」


「百枚なくても?」


「はい」


「一枚も?」


 リリスが。


 少し考える。


「少しは」


 全員。


 笑う。


「お父様が」


「はい」


「止まるために必要なら」


「はい」


「使ってください」


「はい」


「でも」


「はい」


「一人で百枚作らないでください」


「はい」


「お母様と」


「はい」


「お兄様と」


「はい」


「私と」


「はい」


「必要ならアルとも」


「はい」


「話してください」


 俺の胸。


 温かい。


「公爵閣下」


「はい」


「俺も」


「はい」


「相談されれば」


「はい」


「答えます」


「はい」


「ただし」


「はい」


「孫の婚約者候補は答えません」


 笑い。


 公爵も。


 泣きながら。


 少し笑う。


「分かった」


「はい」


「まだ早い」


「はい」


「かなり」


「はい」


 セレスティア夫人が。


 札の束を見る。


「では」


「はい」


「分類します」


「はい」


「捨てるのではありません」


 クラリス嬢の案。


 リリスが伝えた。


「今使うもの」


「はい」


「家で保管するもの」


「はい」


「将来、必要になった時に考え直すもの」


「はい」


「重複」


「はい」


「廃棄」


「廃棄も?」


 公爵。


「国民の祝日」


「はい」


「廃棄です」


 公爵。


 少し。


 残念そう。


「王へ相談も」


「しない」


「はい」


 会議。


 始まる。


 第一分類。


 学園生活。


『娘の登校へ毎朝同行しない』


「今使う」


 全員。


『学園の木の陰へ隠れない』


「今使う」


『授業中の娘を窓の外から見守らない』


「今使う」


『昼食の量を毎日ミラへ確認しない』


 ミラが。


 少し。


 公爵を見る。


「すでに確認されています」


「今使う!!」


 俺。


 全員。


『アルフレッド殿と同じ授業を父が見学しない』


「今使う」


『学園行事へ騎士団を全員連れていかない』


「今使う」


「学園生活だけで六枚」


 レオナルド先輩。


「必要」


 俺。


 第二分類。


 婚約者同士の会話。


『二人の沈黙を、関係悪化と決めつけない』


「大切」


 母上。


『返事を待っている時、父が代わりに答えない』


「今使う」


 夫人。


『娘がアルフレッド殿へだけ話した内容を、父が聞き出さない』


「今使う」


 リリス。


『二人の手紙を開封しない』


 全員。


 公爵を見る。


「開けていない」


「これからも」


「はい」


「今使う」


 第三分類。


 身体的距離。


 十枚。


 重複。


 五枚へ。


『本人たちが確認した距離を、父の基準だけで離さない』


「残す」


 公爵。


 自分で。


 言う。


「大切だ」


「はい」


 第四。


 手紙。


 第五。


 友人。


 第六。


 家族。


 第七。


 将来。


 結婚。


 家。


 子。


 ほとんど。


 保管。


「今は使わない」


 リリス。


「はい」


「でも」


「はい」


「捨てません」


 公爵。


 少し。


 安心。


「将来」


「はい」


「その時」


「はい」


「私たちで」


「はい」


「新しく考えます」


「はい」


 第八。


 式典。


 夜会。


 十二枚ではなく。


 十枚。


 王城で使ったものと。


 重複。


 必要。


 五枚。


 第九。


 緊急時。


 ここは。


 真面目。


『本人の安全が最優先』


『王城係、教師、医師など、その場の担当者へ任せる』


『騎士団長として動く前に、父親として状況を聞く』


『緊急でない不安を、緊急事態へ変えない』


 全員。


 静か。


「残す」


 公爵。


「はい」


 第十。


 孫。


 封印箱。


「何年?」


 公爵。


「最低十五年」


 俺。


「十年」


 公爵。


「十五」


 リリス。


「はい」


 公爵。


 受け取る。


 最終。


 百枚。


 今使う。


 二十三枚。


 家で保管。


 十八枚。


 将来保管。


 二十枚。


 重複廃棄。


 二十五枚。


 意味不明・危険・不要。


 十四枚。


 合計。


 百。


「持ち歩くのは?」


 セレスティア夫人。


「二十三枚」


 公爵。


「多いです」


 俺。


「今使う札です」


「全部同時にはいりません」


「では」


 レオナルド先輩。


「その日の予定で」


「はい」


「五枚」


「少ない」


「十枚」


 公爵。


「七枚」


 リリス。


 皆。


 リリスを見る。


「七?」


「はい」


「理由は?」


 夫人。


「一週間」


「はい」


「一日一枚?」


「はい」


「違います」


 リリスが。


 少し笑う。


「七枚なら」


「はい」


「お父様が、必要なものを自分で選べます」


「はい」


「でも」


「はい」


「全部は持てません」


「はい」


「選ぶ練習です」


 公爵。


 娘を見る。


 長く。


「分かった」


「七枚」


「はい」


 ライズが。


 記録帳。


「新規規則」


「はい」


「ガロウ公爵閣下、一日の携行札上限七枚」


「例外は?」


 公爵。


「式典」


「十枚」


 夫人。


「夜会」


「十二枚」


 公爵。


「十枚」


 全員。


「はい」


 公爵。


 受け取る。


 会議。


 終わる。


 卓の上。


 百枚。


 減った。


 いや。


 分類された。


 今。


 必要。


 未来。


 保管。


 不要。


 公爵の不安も。


 全部。


 捨てなかった。


 だが。


 全部を。


 持ち歩かない。


「お父様」


 リリス。


「はい」


「今」


「はい」


「少し楽になりましたか?」


 公爵は。


 自分の胸元。


 札。


 今日は。


 何枚も。


 入っていた。


 全部。


 卓へ。


 今。


 七枚を。


 自分で選ぶ。


 一枚。


『本人たちが確認した距離を、父の基準だけで離さない』


 二枚。


『娘が話したい範囲を待つ』


 三枚。


『友人の時間へ父親席を作らない』


 四枚。


『息子の話も尋問しない』


 五枚。


『緊急でない不安を緊急事態へ変えない』


 六枚。


『父も自分の時間を過ごす』


 新しい。


 セレスティア夫人が。


 今日。


 作った。


 七枚目。


 公爵。


 長く。


 探す。


 そして。


 昨日。


 最後の札。


『これからも幸せになれ』


 胸元へ。


「これで」


「はい」


「七枚」


 リリスの涙。


 落ちる。


「よいと思います」


「はい」


「俺も」


 公爵が。


 俺を見る。


「意見は?」


「最後の一枚が」


「はい」


「一番大切だと思います」


 公爵の目。


 潤む。


「そうか」


「はい」


「裏側は?」


 俺が聞く。


 公爵が。


 一瞬。


 止まる。


「書いていない」


「本当に?」


「一度だけ聞く」


 俺。


 全員。


 笑う。


「本当に」


 公爵が。


 札を裏返す。


 白紙。


「進歩です」


 セレスティア夫人。


「褒められた後も?」


 リリス。


 公爵。


 少し考える。


「家族会議は終わる」


「はい」


「お茶は?」


「続きます」


 夫人。


 菓子。


 茶。


 皆。


 席へ。


 会議後。


 少し。


 穏やか。


 リリスが。


 俺の隣へ。


 座る。


 近い。


 だが。


 聞く。


「アル」


「はい」


「隣へ座っても?」


「はい」


「喜んで」


 公爵。


 見る。


 胸元。


 一枚。


『本人たちが確認した距離を、父の基準だけで離さない』


 読む。


 頷く。


 入らない。


 リリスが。


 父を見る。


 笑う。


「お父様」


「はい」


「ありがとうございます」


 公爵の目。


 潤む。


 ハンカチ。


 一枚。


「札は?」


 俺。


「増やさない」


「はい」


「ハンカチは?」


「使う」


「それは自由です」


 笑い。


 お茶。


 続く。


「アル」


 リリス。


「はい」


「今日の宝物名は」


「はい」


「お父様の札百枚を、皆で七枚へ減らした日の宝物です」


「百枚はなくなっていません」


「はい」


「持ち歩くのが七枚」


「はい」


「でも」


「はい」


「お父様の不安を」


「はい」


「皆で分けられた日の宝物です」


 胸。


 温かい。


「良い名前です」


「はい」


「あと」


「まだ?」


「お父様が、最後に『これからも幸せになれ』を選んでくださった日の宝物です」


「はい」


「あと」


「はい」


「裏側が白紙だった日の宝物です」


「かなり大切です」


 リリスが。


 泣きながら笑う。


 ガロウ公爵も。


 少し離れた場所で。


 聞いている。


 だが。


 会話へ入らない。


 札。


 使えている。


 帰り。


 玄関。


 両家。


「公爵閣下」


「はい」


「明日は?」


「札を」


 一拍。


「増やさない」


「本当に?」


「一度だけ聞く」


「はい」


「本当に」


 セレスティア夫人が。


 夫を見る。


「明日一日?」


 公爵。


 止まる。


「一週間」


 レオナルド先輩。


「一ヶ月」


 夫人。


 公爵。


 苦しい顔。


「三日」


 俺。


「交渉しないでください」


 リリス。


 全員。


 笑う。


「一週間」


 公爵。


 言う。


「一週間は」


「はい」


「増やさない」


「減らすのは?」


「相談する」


「はい」


「隠すのは?」


「しない」


「はい」


「温室の道具棚は?」


「花の管理札だけ」


「よろしい」


 セレスティア夫人。


 頷く。


「お父様」


 リリス。


「はい」


「また明日」


「はい」


「学園へは?」


「行かない」


「木の陰は?」


「隠れない」


「望遠鏡は?」


「使わない」


「ありがとうございます」


 公爵。


 涙。


 一枚。


 俺たち。


 馬車へ。


 リリス。


 今日は。


 フルーラ家に残る。


 玄関前。


 少し。


 二人。


「アル」


「はい」


「今日は」


「はい」


「お父様のことを」


「はい」


「笑わずに聞いてくださって」


「少し笑いました」


「はい」


「かなりツッコミました」


「はい」


「でも」


 リリス。


 目が。


 潤む。


「怖い気持ちも」


「はい」


「聞いてくださって」


「はい」


「ありがとうございました」


「こちらこそ」


「はい」


「公爵閣下が」


「はい」


「未来を怖がっていると」


「はい」


「分かりました」


「はい」


「俺も」


「はい」


「未来が」


「はい」


「楽しみなだけではありません」


「怖いですか?」


「はい」


「何が?」


「失敗すること」


「はい」


「リリスを傷つけること」


「はい」


「自分が離れすぎること」


「はい」


「でも」


「はい」


「百枚の札は作りません」


 リリスが。


 笑う。


「一枚なら?」


「何を書く?」


 リリスが。


 少し考える。


「失敗しても、また話す」


 胸。


 温かい。


「良い札です」


「はい」


「作りますか?」


「札ではなく」


「はい」


「覚えます」


「忘れたら?」


「リリスが言ってください」


「はい」


「一度ずつ」


「はい」


 短い沈黙。


 夕方。


「また明日、アル」


「また明日、リリス」


 馬車。


 動く。


 帰宅。


 夜。


 ライズ。


 記録。


「若様」


「何だ」


「本日のハンカチ使用数は」


「聞く」


「アマリリス様十一枚」


「公爵は?」


「三十六枚」


「会議」


「不安言語化涙」


「はい」


「娘御から家族で分けると告げられた共有涙」


「はい」


「携行札七枚決定涙」


「はい」


「最後に『これからも幸せになれ』を選んだ父親涙」


「はい」


「若様は?」


「二枚?」


「三枚」


「どこで?」


「公爵閣下が、知らない未来が怖いと話された際」


「はい」


「アマリリス様が、父の不安を皆で分けられたと名づけた際」


「はい」


「帰り際、『失敗してもまた話す』と告げられた際」


「見ていたのか」


「従者でございますので」


「札は?」


「公爵閣下、明日より七枚」


「はい」


「一週間、新規作成禁止」


「守れますか」


「セレスティア様が」


「はい」


「温室、執務室、自室、馬車内の紙を管理されると」


「徹底しています」


「筆記具は?」


「一本のみ」


「厳しい」


「ただし」


「はい」


「手紙や公務に必要なため、書記同席」


「公爵閣下」


「はい」


「一週間」


「はい」


「耐えられるでしょうか」


「分かりません」


 窓の外。


 夜。


 公爵家。


 ガロウ公爵。


 七枚。


 百枚。


 保管箱。


 未来。


 一度に全部。


 抱えない。


 必要なもの。


 今日。


 選ぶ。


 俺も。


 同じ。


 未来。


 結婚。


 家族。


 まだ。


 先。


 今。


 明日。


 正門。


 リリス。


 それで。


 いい。


 俺は。


 深く息を吸う。


 そして。


 今日も。


 心の底から叫んだ。


 公爵閣下!!


 完結した翌日に、札を百枚増やさないでください!!


 学園!!


 婚約!!


 結婚!!


 家族!!


 孫!!


 全部を一晩で心配していたら、未来へ着く前に眠れなくなります!!


 でも――


 怖い気持ちまで、一人で道具棚へ隠さないでください!!


 札も!!


 不安も!!


 家族みんなで分ければいいんです!!


 だから!!


 これからは!!


 一日七枚!!


 未来は一日ずつ!!


 そして最後の一枚は!!


『これからも幸せになれ』


 それだけで十分です!!


 あと、お父様!!


 その札の裏側が白紙だったことは、本当に大きな進歩です!!


 ですが!!


 白紙部分へ!!


 小さな文字で!!


『孫はできれば三人』


 と書き足そうとしているのを!!


 セレスティア夫人が!!


 後ろから!!


 見ています!!


「あなた」


「まだ書いていない」


「書こうとしましたね」


「少し」


「筆を置いてください」


「はい」


 きっと。


 その夜。


 フルーラ公爵家でも。


 大きな笑い声と。


 公爵の小さな返事が。


 青い薔薇の温室まで。


 響いていた。

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